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トリップ系ヒロインを推しの側から見た話

作者: 下菊みこと

敵を殺した後、家路につく。


今日は下手を打って返り血を浴びたのではやく帰ろうと急ぎ足で歩いていたら…空から女の子が降ってきた。


…は?


意味のわからない状況に、とりあえず落っことさないよう両手でキャッチする。


彼女は落ちてくる際も悲鳴をあげていたが、オレを見てまた悲鳴をあげた。


…血まみれなので、さもありなん。


「ちょっと、あんまり大声出さないで…」


「ぎゃー!本物のイツカくんだー!!?」


「は?なに君、オレの事知ってるの?敵組織の人?」


いや、それはないのはわかってる。


殺気もないし、そもそも戦闘能力のない子なのは一目でわかる。


けれど何故オレのことを知っているのか。


「ち、ちがっ…イツカくんのファンです!」


「ファンって…」


「漫画で惚れてアニメでガチ恋しました!」


「はぁ?」


マンガとかアニメとかなにそれ?


「愛してるってことです!推しです!」


「え、推しって何」


「貴方がいないと生きていけない、逆に言えば貴方がいればいくらでも生きていけるってことです!」


なにそれ。バカじゃないの。


「ええ…君なんなの…お家どこ?送っていく」


「お家この世界にはないです…」


お家どこと聞けばしょぼんとしてこの世界にはないですと答える。さっきまでテンションマックスだったくせに。


「なに?君もしかして誰にも愛されてないの?」


「え」


「居場所がないんでしょ。あーあ、可哀想」


「いや」


「しょうがないから飼ってあげるよ」


キャッチしたままのお姫様抱っこで、そのまま家に連れて帰る。


いくあてのない子だ。


空から落ちてきたのはつまりそういうことなんだろう。


なにがオレがいればいくらでも生きていけるだよ、自殺しようとしてたくせに。


まあでも…こんなバカで可哀想な子を放置するほど、オレもそこまで冷酷じゃない。


「ほら、ここがオレの家。今日からここが君のお家」


「〜っ…!」


嬉しそうに目をキラキラさせる。


本当に可哀想な子、こんなことで喜ぶなんて。


「な、なにか私、イツカくんのため出来ることないかな!」


「じゃあ、とりあえずオレはシャワー浴びてくるからご飯でも作って」


「あいあいさー!」


…はっ、イツカくんの入浴シーン!とかなんとか変態チックなことを言って顔を真っ赤にして目をキラキラさせる。


バカだなぁ、普通相手の前でそれ言う?


「…変な子」


でも、不思議と不快じゃない。












シャワーから上がると、あの子はちょうど美味しそうなご飯をテーブルに並べているところだった。


「ふんふんふーん。あ、イツカくんおかえり…ぎゃー!水も滴るいい男ー!!!」


バカなのかな。


バカだった。


「…へえ。美味しそうじゃん」


「あ、うん。お母さん直伝のハンバーグ!」


お母さん。


なんだ家族いるの?


でも家ないとか言ってなかった?


「そのお母さんは今どこに?」


「えー、天国」


お父さんもだよー、なんて呑気な顔で言う。


「でもなんとか生きてたんだけどねー、まあ身体壊してブラック企業すらとうとうクビになって自暴自棄でお酒飲んだら酔っ払って、いつのまにかこうなってたやー」


…本当に、バカじゃないの。


なんでそんな顔でそんなこと言うの。


こんな…身体も小さいし顔も幼いし、絶対成人済みじゃないくせにお酒とか。


身体壊してとか自暴自棄とか…本当にもう。


「わかった。わかったよ」


「ん?」


「わかったから…泣いてもいいよ」


「んー…もう泣き疲れちゃった」


それでもイツカくんが大好きで、推し活するのが楽しくて頑張れたけどねー。


そんなバカなことを言ってへらりと笑う。


推し活ってなにとか、色々言いたいことがあるけど。


「わっ…イツカくん?」


「よく頑張ったね…」


抱きしめてやる。


今は、安心してここにいればいいよ。














「イツカくん、おはよー!」


「おはよう。オレ、今日も仕事夜だから」


「うん!昼間は一緒にいようねー」


ぐふふ、なんて変な笑い方をする。


バカだなぁ、ほんと。


こいつが来てから早半年。


すっかり慣れたくせにオレに対しては…限界オタク?って奴のまんま。


オレに推し活?しまくるし。お金はない奴だけどオレの生活を支えてくれるし…オレのあげるお小遣いもオレのためにばっかり使うし。


「イツカくんのおかげで毎日幸せー」


「ふふ、本当に仕方のない子」


「えへへー」


オレたちは、口約束こそしてないけどもう実質付き合ってる感じだと思う。


実は、内緒で結婚の準備だって進めてる。


能天気なこいつは気づいてないけど。


未だに、違う世界から来たとかバカみたいな言い訳をして隠し事はされるけど…基本素直な奴だし。


言えないことがあるのはしょうがない。ただとっくに成人済みだとかオレより年上とか、無理のある年齢詐称をしようとするのは笑っちゃうけど。


「…でもね、そろそろ限界だと思うんだ」


「ん?なにが?」


脈絡のないことを言うこの子にどうしたのかなと思って優しく聞いた。


まさか、裏切りの言葉がその口から出ると思わなくて。


「いい加減、イツカくんの負んぶに抱っこじゃダメだよね」


「え…」


「私、そろそろ出て行くよ!それで、もうイツカくんには会わない!」


…何言ってるの?


オレたちは、恋人でしょ?


「今までお世話になりました!夜には出て行くから、それまでは一緒にいてよ」


「…誰に何吹き込まれた?」


「え」


バレた、という顔を見て確信する。他の奴になにか唆されたのだと。


「誰になんて言われたの?」


「いやその…」


「言わなきゃその細いクビへし折るけど」


げ、という顔をしてしぶしぶ…といった感じで話し出す。


「イツカくんの大事な幼馴染ちゃんが…」


「あいつが?」


「迷惑だ、出て行けって…あ、信じなくてもいいよ!私が嘘ついてるって詰って追い出しても全然恨まないから!」


それは意外な話で。


天真爛漫なあいつらしくない。


けれど、この子がわざわざそんな嘘をつくとは思えない。


「いや、信じる」


「え」


「あいつにはオレから言っておくから…」


だから、出て行くなよ。


「で、でも二人の恋路を邪魔できないよ!」


「…は?」


「たしかに私はガチ恋勢の限界オタクだけど、イツカくんを幸せにしたいし…」


でも、私なんかよりあの子の方がイツカくんを幸せにできるって知ってる。


その言葉に頭が沸騰しそうになった。


「…オレ、お前と付き合ってるつもりだったんだけど」


「!??」


「お前は違ったんだな」


ムカつく。


ムカつく!


「なあ、お前オレの限界オタクならさ。オレの異能は知ってるよな?」


「…洗脳?」


「そう。…なあ、『自分の気持ちに素直になって』『オレへの気持ちを言ってみな?』」


「え、あ…」


とろんとした目で見つめてくる。


そして、言った。


「イツカくんが好き。大好き。たとえイツカくんにはあの子がお似合いだとしても、それでも…好きなの」


「じゃあなんでオレから離れていこうとするの」


「イツカくんの幸せのため…」


ぼーっとしたあの子にキスをする。


「オレは君と付き合いたい。だめ?」


「だめじゃないけど…でも…」


「ねえ、君は成人済みなんだよね?」


ぼーっとした目のままこくりと頷く。


こんな時でも年齢詐称は忘れないのか。


案外、本当に成人済みだったりして。


「じゃあ、既成事実を作っても問題ないね?付き合おう。結婚しよう?ちょっと順番前後するけど、今から子供も作ろう」


「え、あ、でも」


「大丈夫、『オレに任せて』」


簡単に押し倒せる。


こんな子、出て行かせるわけないだろ。


すぐに他人に穢されそうだもの。


「愛してるよ」


「うん…私も…」


そのまま、夢見心地のままで幸せであり続ければいいよ。


オレがずっと守ってあげるからさ。


もう絶対離さない。

宗教系の家庭に引き取られて特別視されてる義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました


という連載小説を始めました。よろしければご覧ください!

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