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キョウシュウキ(郷愁鬼、凶集鬼) L 世界を保全せし意思と約束の果て  作者: 新宿ソナタ
第二章:新しき出会い、シスダール学院1学期編
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第13話 パーティー  (約24,000文字)

「界斗さん、傷は大丈夫ですか?」


 薬草園での闘いの翌日、界斗はルイバンと共に食堂で朝ごはんを食べていた。


「一応斬られた所は医務室の先生に治癒術で塞いで貰ったからね。ちょっとむず痒くて疼くぐらいかな。もともとそんなに重傷じゃないし」

「では今日は学校に行くんですね」

「そうだね」

「僕は今日も少し早めに行きます。もし足が痛むのなら、父に言えば車ぐらい手配してくれると思いますよ」

「いいよ。流石に学校まで15分ぐらいだし。それぐらい歩いても問題ないかな」


 2人は食べ終わると自室に戻り登校準備を済ませる。ルイバンは用事があるのか界斗よりも早い時間に寮を出た。

 界斗も準備を済ませると、少し傷跡が疼く足を気にしながらゆっくりと学校へと向かった。




「真田君、おはよう」


 界斗はバス停に差し掛かると、ちょうどバスから降りてきたダニエルに声をかけられた。


「おはよう、佐伯君、ガザエ君」


 界斗は振り返り挨拶をする。

 3人は並んで歩き始めたが、界斗の歩く速度が遅く若干足の運びがおかしい事に気付いたダニエルが心配そうに界斗の足を見た。


「俺たちが逃げた後、足も斬られたんだよね。腕や足の怪我は大丈夫?」


 ルイバンに続いてダニエルにも怪我の心配をされた界斗はなんだか可笑しくなった。


「全然問題ないよ。ちょっと意識しちゃってるだけかな。昨日なんて斬られ後、すぐにも走ったからね。なんか寮に着いてほっとしたら急に思い出したかのように痛みだしてさ。念のために解放者の医療担当の人に傷を塞いでもらったよ」

「そっか、よかった。けど、本当にありがとう。俺たちを守ってくれて」

「佐伯君、昨日もバスの中でお礼言われたし、もういいよ」

「命の恩人には、お礼は何度でも言いたくなったら言うから」

「いやいや、それはやめて欲しいよ。気恥ずかしいから」


 界斗が真面目な顔をしてダニエルを見ると、ダニエルは考える素振りを見せた。


「そっか……う~ん……じゃあ、とりあえず今度飯でも奢らせてくれ」

「そうだね。また皆でご飯食べに行こうか」

「そうだな」


 界斗とダニエルの話が一段落するとセディウスが昨日の事を聞いてきた。


「ダニエル君から真祖ヴォフヌトスと遭遇した話は聞きましたが、その後どうなったんですか? 真田君さえよっかたら、是非聞かせて欲しいです」

「うん、いいよ」


 界斗は返事をすると教室に着くまで、ヴォフヌトスとの闘いの様子を2人に聞かせた。




 界斗達3人が教室に入るとすでにほとんどのクラスメートたちは来ていた。界斗とダニエルが鞄を置くと、後ろからオルテシアが声をかけた。


「真田君、おはようございます。傷は大丈夫でしょうか? もし痛むようでしたら教えてください。よい治癒術を使える病院を紹介しますので」


 オルテシアが心配そうに界斗の腕を見た。

 本日3度目の心配をされ、もはや苦笑いしか出てこない。

 苦笑しながら界斗は半袖をめくって斬られた箇所を見せた。


「おはようございます。この通り傷は塞いで貰ったから、もう大丈夫です」

「確かにきれいに塞がってますね。良かったです。安心しました」


 オルテシアはちょっと残念そうに界斗の傷を見た後、界斗を見据えた。


「真田君、あらためてお礼を言わせてください。そして何か困ったことがあったらいつでも言ってください。私は出来る限りの力になります」

「え……」


 大企業のお嬢様であるオルテシアにそのように言われ界斗は困ってしまう。


(いやいや、ソフィスティードさんの助けを借りなくてはいけない事態って、なんだか社会的に大事になった時だと思うんだけど……)


 界斗はどこか意気込んでいるオルテシアを落ち着かせるために慌てて言葉を探した。


「そんな、いつも勉強を教えて貰っているのは俺の方なのに。来るときも佐伯君にもお礼を言われたけど、勉強を教えてくれたみんなに感謝してるのは俺の方だから……昨日の事はあまり気にしないでよ」

「そうですか……」


(命を救ってくれた恩と、勉強を教えていたでは釣り合わないと思うのですが……真田君は謙虚なのでしょうか?)


 オルテシアは界斗の性格について考え始めた。

 するとフィセナと話していた琴絵がやってきた。


「真田君、おはよう。私は昨日の事でお礼をまだ言ってなかったから言わせてね。本当にありがとう」


 琴絵は朗らかに笑いかける。


「どういたしまして。けど、そんなに気にしないでね」

「勉強の件でしょ。聞こえてた。真田君がそう言うなら私は構わないけど」


 琴絵は本を読んでいるマリアーネを見た。


「ザンダールさんもお礼を言った?」


 琴絵が尋ねるとマリアーネが本を置き振り返った。


「え? 私が何故でしょうか……」

「はい? もしかしてザンダールさん気付いていなかった?」


 ダニエルがビックリしてマリアーネを見ると不思議そうに首を傾げた。


「そっか気付いていなかったか……ザンダールさんが走り始めた時、あの魔獣ヴォフヌトスの1匹が追おうとしたんだけど、真田君が攻撃して阻止したんだぜ」


 マリアーネは初めて知ったらしく驚いて界斗を見つめた。


「うん、まあ、そうだけど。ザンダールさんもそんな気にしないでいいよ」


 界斗はこれ以上皆からお礼を言われるのも恥ずかしかったため、遠慮したかった。


「ごめんなさい。気付いていませんでした。真田君、ありがとうございます」


 マリアーネは軽く頭を下げた。

 その時チャイムが鳴り、レディエスとロランスが入ってきた。

 界斗達の様子を見ていた6組の生徒達は慌てて席についた。


「皆さん、おはようございます」


 レディエスが挨拶をし、ホームルームが始まった。


「昨日はお疲れ様でした。特にソフィスティード班にとっては大変な1日となってしまいました」


 レディエスは界斗を見据える。


「皆さんも知っての通り、昨日、薬草園でソフィスティード班が魔獣に襲われれるという事件が起きました。幸いにも真田君や8組のヴァイゼフさんが討伐してくれたため人的被害はありませんでしたが……はぁ……」


 レディエスはため息をつくと首を振った。そして改めて界斗を見据える


「真田君、あなたは何という無茶をしたのか分かっているのでしょうか。昨日はあなた達が傷だらけだったので、あれこれ言うのを控えましたが、本日朝一番に薬草園から報告を受けて、あらためて何という無茶をしたのかわかりましたので言わせていただきます。真田君が解放者に所属している現役のハンターであると連絡は受けていますが、あなたはまだ高校生になったばかりです。子供とはいえ真祖の魔獣、それを新人ハンターでしかないあなたが1人で相手にしようとするなど、どれだけ危険な行為だったか分かっているのでしょうか?」


 界斗は俯いた。昨日、戦いながら身に染みたことだったからだ。


「先生は真田君の判断が間違いだったと言いたいのでしょうか?」


 だが奨学生として教師にどこか従順なダニエルが珍しくレディエスに喰ってかかった。

 レディエスはダニエルを見つめるとゆっくりと首を振った。


「分かりません。あなた達が揃って逃げた方が良かったのかなどという事も。あなた達がそのまま魔獣を警備の者たちが居るとはいえ、人が沢山いる広場の方へ誘導したほうが良かったのかなどという事も。ただ先生が言いたいのは、真田君はまだ高校生になったばかりです。ハンターとして働いているとはいえ、人を助けるために自分を犠牲にするには早すぎるという事です。もしあなた達が揃って広場の方へ逃げて大混乱に陥り死者が出たとしても仕方のないことです。真田君、あなたはハンターである前に高校生である1人の少年なのですから他人の命を背負う事など必要無いという事を覚えておいてください」


 そしてレディエスは界斗を見据えて微笑む。


「そしてありがとう。真田君やヴァイゼフさんのおかげで誰1人死なずに済みました。薬草園からあまりの惨状に苦情が来ていますが、その点については叱るつもりはありません。薬草園の対応については先生の方でしておきますので、あなた達が気にする必要はありません」


 レディエスは生徒達を見渡した。


「今の言葉はあなた達にも言える事です。授業でゼファレスや剣、武術の訓練をしているとはいえ、決して調子に乗ってはいけません。若い内は何かと正義感に駆られ突っ走りやすいですが、決して状況を見誤ってはいけません。議導会によりゼファレスの授業が必修とされているのも、あなた達が自身を守るためなのです。自ら進んで戦うためではありません。みんなも知っての通り、真田君のゼファレスは飛びぬけています。だから勝てたのです。決して彼の真似をして魔獣と戦う様な危険を冒してはいけませんよ」


 殆どの生徒達は静かに神妙に頷いた。特にダニエルは昨日の自分の行動を見透かされたようで思わず目が泳いだ。

 そして女子生徒達は真剣に受け止めたが、一部の男子はどこか自分もと考えているような表情をしている者がいた。


「さて、昨日の話はここまでにして1時限目は来週行われる実技大会の出場種目決めについて話し合いを行います」

 レディエスが話を終えると生徒達は実技大会の出場種目決めを行うために話し合いを始めた。


「真田君、昼に行こうぜ」

「そうそう、昨日の話を俺たちにも聞かせてよ」


 ダニエルはお昼の鐘と共に授業が終わると界斗を食堂に誘う。そこに便乗するように浩然とサイラスもやってきた。


「先に行ってて。ちょっとヴァイゼフさんの所に行くから」


 界斗は昨日借りた短剣をカバンから取り出した。


「わかった。じゃあ、食堂で待ってるよ」


 ダニエルを先頭に男子一同は揃って教室を出ていった。

 界斗も鞄をキャビネットの上に戻すと席を立つ。


「真田君、私もご一緒していいですか?」


 オルテシアが手に何か持ちながら席を立った。


「ソフィスティードさんもヴァイゼフさんに用事ですか?」


「はい、昨日の事で些細な物ですが傷跡が残らない軟膏をと思いまして……」


 オルテシアは手に持った軟膏を界斗に見せる。


「分かりました。じゃあ、行きますか」


 界斗とオルテシアは教室を出る。


「もし真田君も必要なら言ってください」

「傷跡用の軟膏ですか……流石にそこまでは……」

「男性の方はそういうと思って用意してこなかったのですが、やはりそうでしたね」

「顔とか目立つところなら気にする人もいるでしょうが、そうでは無い所を気にする人はあまり居ないと思いますよ」


 2人は8組の教室の入り口に立つ。丁度授業が終わり教室から生徒達が次々と出てくる。 

 その中に奈美恵が居ないか2人は眺める。


「ソフィスティードさん? どうしたのですか?」

「あ、バーリーソンさん。ヴァイゼフさんはいますか?」

「奈美恵? 今日は休みですよ。昨日の帰り凄いぐったりしていたし、きっと筋肉痛がひどくなるだろうから、今日は休むって昨日から言ってました」


 アミーカは界斗とオルテシアを交互に見る。


「何か伝えておく事あります?」

「う~ん……俺はまた明日来るよ。昨日借りた短剣を返しに来たんだけどね」

「そうですね。私ももう一度直接お礼を言いたいので、また後日来ます」

「そっか、じゃあ私行きますね」


 アミーカは待っていた友達と食堂に向かった。


「真田君、私は生徒会室に行きますので失礼します」

「会議ですか。大変ですね」

「来週の実技大会に向けての確認事がありますので。これから連日でお昼は会議なんです。では」


 界斗は食堂に行き、オルテシアは生徒会室に向かった。




 そして放課後になり界斗は学校から解放者の寮に帰るとゼファレスの訓練をするために訓練場に向かう。


「もっといろいろと創成できるようにならないと……」


 界斗は昨日の戦いで色々と思い知らされていた。

 そして夜までゼファレスの訓練すると食堂に行き夕飯を食べる。訓練場から直接向かったためルイバンを誘わずに1人で食べた。

 食後、平日の夜だからか空いている食堂で1人で次はどんな物質を創成出来るようになるべきか考えていると声をかけられた。


「真田君、ちょっといいかしら」

「蔵林さん、どうぞ」


 界斗は顔を上げアミリエを見上げる。


「次の日曜日の夕方からパーティーがあるのだけど出てくれるかしら?」

「え? パーティー? ですか……」


 界斗は突然の話に戸惑いを隠せなかった。今までの人生で1度もその様な催しに出たことなどなかった。





 天井から吊るされた壮麗なシャンデリアに照らされ、大理石に幾何学模様が施されたタイルが並ぶ床が淡く光る。

 3千人以上が入れるホールの壁には絵画や彫刻が飾られ、中央には一際大きい天救神ベクシュトスとベクシュトスの命を受け人類を救うために命を費やした4人の聖徒像が置かれている。

 その像の周りは数々の色どり鮮やかな花々で彩られていた。

 天救教は全ての国々で国教として制定されている。迎賓館の内装に天救神ベクシュトスとその聖徒像が置かれるのは当然であった。

 ちなみに民間のリサーチ会社の調べでは信仰率は30%に届いておらず旧時代からの宗教がまだ大多数の人々に信仰されていた。


「すごい人数ですね……」


 1000人近いパーティーの出席者達を眺めながら界斗は隣にいるアミリエに声をかけた。


「そうね。西側諸国の首相や大臣、世界の主要企業の社長さん達が来ているからね」


 界斗は初めてきたパーティーの雰囲気に呑まれていた。

 前方にある壇上で楽団が優雅な音色を奏でている。

 界斗は解放者のテーブルとして割り当てられた所に空の皿を置いたまま会場を見渡し、楽団が目に留まると、呆然と彼らの演奏を眺めた。


「真田、料理取って来いよ。折角来たのに食べないなんて損だぞ」


 デュセリオが皿にローストビーフやテリーヌ、魚介類のソテーが盛られた皿を両手に抱えながらやって来た。


 界斗は料理が盛られた大皿が置いてあるテーブルを見渡した。ベクシュトスと聖徒像の周囲には様々なデザートが並べられ、ホール両サイドの壁際にはシェフがその場で調理しながらオードブルやメイン料理を給士をしていた。


 このパーティーの為にウクテル市内にある有名レストラン10店舗が料理を提供するために来ていた。セリアが所属するグラールガルエはメイン料理を出品していた。流石に見習いであるセリアはこの場にはいなかったが……


「お飲み物はいかがですか?」


 界斗は声をかけられ、振り向く。そこにはトレーに飲み物が注がれたグラスを乗せて歩いていたバンケットスタッフが立っていた。


「これはジュースですか?」

「はい、柑橘系の爽やかなミックスジュースです」


 界斗はジュースが注がれたグラスを受け取ると、一口飲む。

 場の雰囲気も相まってなんだかとても上品な味に感じ、界斗はジュースが入ったグラスをまじまじと見つめた。


 界斗が周囲を見渡しながらジュースを飲んでいると、ルイバンも料理が盛られた皿を片手に持ちながらテーブルに戻ってきた。

 その服装はシスダールの制服だ。界斗もシスダールの制服を着ていた。

 デュセリオは解放者のエンブレムが入った軍服風の正装だった。

 アミリエもスカートだが同じような正装をしている。

 この場で解放者の正装を着ていないのは界斗とルイバン、絵美菜の3人だけだった。

 界斗とルイバンは正装がなく、絵美菜は何故か赤いドレスを着ていた。


「東宝院さんはなんで解放者の正装を着てないの?」


 界斗は会場を見回している絵美菜を見ながら疑問に思ったため、当の本人に聞こえない様にルイバンにこっそり聞いた。


「東宝院さんは東宝院精密機器のお嬢様ですからね。このパーティーは西側諸国の経済を担っている世界的大企業のパーティーでもあるんです。というか例年西側主要国でこの時期に経済会議があり、その後パーティーが開かれているんです。開催地は毎年持ち回りで今年はアラミードが開催地だったわけです。解放者はお呼ばれしている感じですね。呼ばれた理由は解放者の授賞式も兼ねて行われるためだそうです。東宝院家のご当主さんがその内挨拶に来ますよ」


 界斗はすぐ近くで各国の首脳や大臣、大企業の経営者達から挨拶を受けているクラリティーナとガリウスをみた。

 クラリティーナがにこやかな笑顔を振りまき優雅に挨拶をしている所を見てると本当にお姫様なんだなと界斗はしみじみと思った。


「団長もパーティとか出席するんだね。対外対応はあまりしないとか聞いていたんだけど……」

「この受賞の理由は先日行われた作戦の結果、ゾルタリウスに打撃を与えた事に対する評価ですからね。流石に団長が出ないわけにはいかないと、蔵林さんに強制されたのですよ」


 界斗はクラリティーナやガリウスから視線を外し再び周囲を見渡す。

 しばらく料理やホールの内装などパーティーの様子を観察していると絵美菜の若干上気した声がした。


「お父様、お母様!」

「絵美菜、元気そうでなによりだ」


 界斗は声がした絵美菜の方を見る。

 絵美菜が中年の夫婦と話していた。どうやら絵美菜の両親が来たみたいだ。


「これは、道茂様、静菜様。ご健勝でなによりです」


 アミリエが絵美菜の両親と挨拶を交わし始めた。


「これは蔵林さん。いつも娘が迷惑をかけて申し訳ない」

「とんでもございません。絵美菜さんは大変優秀です。助けられているのはこちらですわ」

「そういっていただけると私も安心できるというものです。今年も娘をよろしくお願いします」

「いえいえ、そんなご丁寧に。こちらこそ東宝院家のご支援には感謝してもしきれませんわ」

「来年度も今年と同じように支援させていただくつもりです」

「それはそれは大変ありがたい話です」

「それでは私たちは他にも挨拶に伺いますので、また後程ゆっくりと話しましょう。絵美菜、では挨拶周りに行くぞ」

「はい、お父様、お母様」


 絵美菜がアミリエに優雅に会釈をし、両親の後に付いていく。界斗は今まで見てきた絵美菜とのギャップにおどろいて目を見開きながら絵美菜を見つめた。

 絵美菜と東宝院夫妻が去っていく姿を見ていると界斗は声をかけられた。


「真田君、今よろしいでしょうか?」


 聞きなれた声に振り向くと、そこには清楚な水色のドレスを来たオルテシアが佇んでいた。普段はストレートに降ろしている髪型が多いがこの日は編んで花の髪留めで止められていた。オルテシアの淡い金髪に髪留めが良く映えていた。


(え? この綺麗な人はだれだろう……声はソフィスティードさんに似ている感じがするけど……)


 界斗はオルテシアもこのパーティーに出席しているとは思はず、見慣れたシスダールの制服姿とはあまりにも違ったためすぐに誰だか分からなかった。

 界斗が首を傾げ見つめる事数秒、見つめられてオルテシアの頬がわずかに色づいた。


「いやですわ、真田君。もしかして私の事分かりませんか?」

「あ! ソフィスティードさん……すみません。まさかここで会うとは思わなかったので……」

「真田君らしいですね……私の両親が挨拶をしたいそうなのですがよろしいでしょうか?」


 オルテシアは背後に立っていた2人に振り向くと脇に退いた。

 そして中年の夫婦2人が界斗の前へ進み出る。男性は知的で人が良さそうな笑みを浮かべているが、その目は鋭かった。女性は柔和でどこかオルテシアににて美人だった。


「君が真田界斗君だね。私はオルテシアの父親であるソフィスティード・レオフォルドです。娘が君に救われた話を聞いてね。親である私たちからもあらためてお礼を言わせてもらいたい。その身を顧みず娘を救ってくれたことに感謝する。ありがとう……」


 オルテシアの両親が深々と頭を下げた。

 事情を知らない周囲の出席者たちがこの状況を何事かと見つめている。

 界斗もいきなり大勢が集まるパーティーで大人にしかも大企業の社長に頭を下げられ焦った。


「あ、頭を上げてください……周りの人たちが見てますよ……」


 界斗が思わず手を伸ばすと両親はゆっくりと頭を上げていく。


「娘の命を救ってくれた事に比べれば、別にパーティーで頭を下げる事など、どうってことないのだがね」


 オルテシアの父親は朗らかに笑う。


「さて、私たちはまだあいさつ回りをしていなくてね。まずは娘の恩人への挨拶を一番にさせてもらったのだよ。つぎはクラリティーナ様に挨拶をしたいのだが……」


 クラリティーナの周りにはまだ人だかりが出来ていたが、ふとクラリティーナがこちらを向いた。


「お父様、お母様、サニオス、参りましょう」


 クラリティーナの視線を受けてオルテシアが声をかけた。

 良く見ると両親の後ろに小学生らしき少年が佇んでいた。その少年も界斗に会釈をすると両親に続いてクラリティーナに挨拶に向かった。




「これは、クラリティーナ様。此度のご活躍、まことにおめでとうございます」

「これはソフィスティードの皆さま、ありがとうございます。これもソフィスティードの方々が優れた家具を作ってくれたおかげです。日々の疲れを癒せなければ、このような成果は上げられませんでした」

「そのようにいっていただけるとわが社の誉というものです」


 界斗はオルテシアの両親とクラリティーナが挨拶をしている所を見ていると世間は広いようで狭いと言うけどそうなんだなと感じていた。

 隣で自分に勉強を教えてくれていたオルテシアがクラリティーナと面識があったとは思いもしなかったのである。


「不思議そうな顔をしているわね、真田君。確かに繋がりを知らないとびっくりするでしょうけど、ソフィスティード社との取引は解放者が出来る前、つまり団長がお姫様として王宮にいた頃からなのよ」


 アミリエが界斗にこっそりと教えてくれた。


「クラリティーナ様、オルテシア様、お写真よろしいでしょうか?」


 パーティーの担当カメラマンが挨拶が一段落したしたところでクラリティーナたちに声をかけた。

 2人は了承すると並んだ。そこをカメラマンが写真を撮っていく。

 解放者の正装に身をつつんだ凛々しいクラリティーナと、清楚なドレスに身を包んだオルテシアの2人が並ぶととても絵になった。

 周囲の出席者達もその姿をみて感嘆の声をあげている。


「あのカメラマン、2人をどれだけ撮影するんですか……」


 界斗は角度を変え何回も写真を撮り続けているカメラマンを不思議に思った。


「それは当然というか仕方ないというか。あのお2人は華があり絵になりますからね」


 ルイバンがホワイトソースが掛かったグリルされた魚を食べながら界斗に教えた。


「え? 他にも綺麗な人は沢山いると思うけど……」


 界斗は辺りを見渡した。確かに2人は美しい。しかし絵美菜やアミリエは勿論の事、それ以外にも出席している令嬢達に見目麗しい女性たちは何人もいる。


「知名度の問題ですね。団長もソフィスティード先輩も世界的有名人ですから……確か2年ぐらい前にお2人が並んでいる写真が記事に乗って話題になったのが始まりだったような気がします。それ以降、お2人が一緒にいる機会があると必ず撮影されますね」

「そうなんだ……そんな2人からあれこれ教えて貰ってる俺って……」


 実は世界的な有名人の2人の世話になっていたと分かった界斗は、自分の置かれている状況が孤児院時代とはあまりにも違っている事にパーティーの雰囲気も相まって、なんだか狐につままれた気分になった。




 撮影が終わり、オルテシアも両親や弟と共に挨拶回りに行き、来場者からのクラリティーナへの挨拶もひと段落した。

 場違いな世界に迷い込んだ気分になっていた界斗は何とか気を取り直すと、お替りを取りにいくルイバンの後に続いて料理を取りに行き食べ始める。

 なんとなくマナーが気になったが気にしたところで分かるわけもなく、界斗は周りの目を気にしながらなるべく丁寧に食べ始めた。


(疲れる……なんだか味わえないよな……)


 界斗は時折ソースなどを飛ばしているにもかかわらず、テーブルが汚れるのを気にしないで頬張るように食べているデュセリオを凄いと感心してしまった。




 しばらく料理を食べているとアナウンスが入った。


「これより解放者の受賞を行います。解放者団長、アウルフィード・クラリティーナ様、同副団長、デルクード・ガリウス様、壇上へお越しください」


 呼ばれたクラリティーナとガリウスは楽団が一時退場し片づけられた壇上へと上がる。

 そこには国際治安維持協会アラミード本部の本部長と副本部長の姿があった。

 クラリティーナとガリウスが壇上に上がると後ろのスクリーンに先日クラリティーナが倒した魔獣と鹵獲した兵器の画像が映し出された。


「先日、解放者の方々は遠く離れたエトプティのルワカ近海にあるゾルタリウスの新兵器の実験施設を攻撃し、このような大型の狂暴な魔獣とそれに搭載されていた兵器を鹵獲することに成功されました。現在、国際治安維持協会はゾルタリウス殲滅局設立に向けて動いています。今回の事は殲滅局設立に向けて追い風となるであろうと、国際治安維持協会は解放者に深く感謝し、この功績を讃え国際治安維持協会最高の大勲平和尽身賞を授与する事となりました」


 出席者一同から会場が割れんばかりの拍手が沸き起こる。


「うわ……凄い」


 界斗は盛大な拍手を送る出席者達に驚いて側にいたアミリエに声をかけた。


「みなさん凄い盛り上がりですね……」

「それはそうよ。ゾルタリウスは企業の輸送船を襲ったり、親族を攫って身代金を要求したりしているからね。ここにいる社長さんたちの中には被害にあった事がある人が何人かいるでしょうし、そうでなくても明日は我が身かもしれないから。だからよ」


 授賞式前にあいさつ回りから戻ってきて解放者のテーブルについていた絵美菜がアミリエに同意をしめした。


「そうよ。ゾルタリウスによる被害総額は軽く見積もっても50兆を超えると言われているわ。そもそも殲滅局設立の話は昨年、被害にあった事のある企業や、それとつながりが深い企業が大国や国際治安維持協会にゾルタリウスに対応するように依願書を提出した事が始まりなんだから」

「東宝院さん詳しいんですね」

「別にそうでも無いわ。ただ単に去年出席したパーティーでお父様も懇意にしている企業から同意を求められてね、署名したの。私もその場にいたから知ることが出来たというわけ」


 界斗がアミリエや絵美菜の話を聞いていると、拍手が段々と鳴りやみ静かになっていった。

 拍手が完全に鳴りやむとクラリティーナとガリウスが並んで本部長と副本部長と向き合う。

 今度は取材陣から一斉にフラッシュがたかれた。

 クラリティーナは勲章と花束を本部長から、ガリウスは装飾が施された盾と花束を受け取る。 

 再び拍手が巻き起こった。




 クラリティーナとガリウスの挨拶が終わり、解放者の受賞式が終わると、再び至る所で歓談が再開された。

 何品かオードブルとメイン料理を食べた界斗がデザートを食べていると、再びオルテシアが解放者のテーブルにやってきた。


「これはオルテシアさん、ごきげんよう」

「これは、絵美菜さん。ごきげんいかがですか?」


 界斗は授賞式が終わり軽く食事をしていた絵美菜と再びやってきたオルテシアが挨拶をしているところ見て、上流階級のつながりの広さをあらためて感じた。

 オルテシアと絵美菜が挨拶をしていると、オルテシアの両親や弟もやってきた。

 両親がやってくるとオルテシアは界斗に声をかけた。


「真田君、お聞きしたいのですが、夏休みのご予定はいかがでしょうか?」

「夏休みの予定? ……ごめんなさい、まだ把握できてないです。蔵林さん、すみません。僕の夏休みの予定ってどうなってますか?」


 界斗は近くでクラリティーナやガリウスと共に食事をしていたアミリエに声をかけた。


「真田君の予定? 巡視任務以外はまだ決まって無いけど、前もって言ってくれれば融通するわよ。折角の夏休みだもの」

「だそうです。ソフィスティードさん」

「実は先ほど両親と話したのですが、お礼を兼ねて当家の別荘にておもてなしをしたいと考えております。時期は8月の上旬で3泊か4泊ぐらいを考えています。ヴァイゼフさんもお招きしたいのですがよろしいでしょうか?」


 オルテシアはアミリエと界斗を順に見つめた。


「ヴァイゼフですね……ええ、わかりました。彼とヴァイゼフの予定はこちらでは空けておきます」

「ありがとうございます、アミリエ様。真田君のご都合はいかがでしょうか?」

「え~と……」


 界斗はお金持ちの別荘に招待されるなんて露ほども思わなかった。

 普段学校や任務で接しているオルテシアや奈美恵だが、実は個人的な話など一度もしたことが無かった。

 大した趣味があるわけでもなく、界斗は3泊と聞いてその間どう間を持たせるのかと考えると不安になってきた。界斗の内向的な部分が出ていた。


「もちろん、佐伯君や川峯さん、ザンダールさんもお招きします」


(これは、断れないよな……俺だけ行かなかったら気まずいだろうし……)


「真田君、せっかくだから楽しんでらっしゃい」

「団長……」


 界斗が悩んでいるとクラリティーナがやんわりと背中を押した。


「わかりました。ソフィスティードさん、ぜひ行かせていただきます」

「真田君、ありがとうございます。お父様、ではフェルティフォングの別荘をその時期にお借りしますね」


 オルテシアは後ろに佇むレオフォルドに振り向いた。


「わかった。手配や準備はオルテシアがするという事でいいかい?」

「ええ、もちろんです。私がお招きするんですもの」

「真田君、ぜひ当家の別荘での滞在を楽しんでほしい」


 レオフォルドが朗らかに界斗に微笑んだ。


「ありがとうございます」


界斗は会釈をした。


「あのう……僕もご一緒してよろしいでしょうか?」


 おずおずと後ろからオルテシアの弟が進み出てきた。


「サニオス、そのような不躾なお願いは失礼ですよ」


 オルテシアの母親が肩を掴んで下がらせようとした。


「僕も大切な姉上を救ってくださった真田先輩と交友を持ちたいのです……」

「真田先輩ってあなた……まだシスダールへの入学は決まったわけではないでしょうに……ごめんなさいね。この子ったら……今年シスダールを受験する予定なんですけど、もう合格した気になってるんです」


 オルテシアの母親が界斗に申し訳なさそうに微笑んだ。


「いえ、僕は気にしませんので……」


 界斗は無難に受け流した。


「サニオス、君はオルテシアの学友と交流があるのかい? ないだろう。君が夏休みの交流に顔を出して学友の皆さんが君に気をつかいながら楽しめると思うかい?」


 レオフォルドが真剣なまなざしでサニオスを見つめるとうなだれた。


「あっ……申し訳ございません……」


 サニオスはお辞儀をすると母親の後ろに下がった。


「気にしないで。シスダールに来たら仲良くしようよ」


 界斗は何となく可哀そうになり声をかけた。


「真田君、弟が無理を言って申し訳ありません」


 オルテシアも弟に代わって謝った。


(あぁ……ルリエラちゃんと同類なような気がする……類は友を呼ぶのかな?)


 ルイバンは界斗の側てジュースが入ったグラスを傾けながらサニオスを見てふと思ったが、それを口にすることはなかった。

 界斗達が話している横で側で聞き耳を立てていた上級職員3人が、うらやましそうに界斗を見ながら話していた。


「まじかよ……フェルティフォングって北東の国アスファーリカにある湖畔の避暑地だよな?」

「そうそう、確か選ばれた金持ちしか土地を買えない、世界の上流階級専用の別荘地だよな……」


 そして周囲ではパーティーに出席していた大企業の子息たちが、オルテシアと親しそうに話している界斗を羨ましそうに見ていた。




 別荘への招待の話がまとまると、見計らったように絵美菜の両親がオルテシアの両親に声をかけた。


「レオフォルド殿、お話してもよろしいですかな?」

「これは道茂殿、どうぞ。こちらの話もひと段落しましたので」

「実は当社の支社をバイミンウームに建てることになりまして、応接室をソフィスティード社に頼みたいのです」

「これはこれは当社にお声がけくださり、ありがとうございます。応接室ですね。どのような家具をお求めですか?」

「いや、家具だけではなく、応接室そのものをコーディネートして頂きたいのです」

「成程、つまり内装から家具まですべてという事でよろしいでしょうか?」

「ええ、それで頼みたいのです」

「確かに承りました。後日デザイナーを御社の本社へと伺わせていただきます」

「よろしくお願いします。予算や格などの細かいことはその時に打ち合わせをしたいと思います」


 レオフォルドと道茂が握手をする。


「パーティーで商談?」


 目の前で行われた商談に驚いて界斗が呟くとアミリエが声をかけた。


「そうよ、よくあることよ。きっと他でも幾つも話が纏められているでしょうね」


 側にいたオルテシアや絵美菜も同意するように頷いた。

 アミリエがパーティー会場を見回す。界斗もつられて見回した。


「真田君は初めてのパーティーでしょうから色々と驚く事があるでしょうけど、組織のトップ同士が顔を会わせるこの機会に、大口の契約の話を前もってするというのはよくある事なのよ」

「大口の契約ですか……」

「そうよ。何千万、時には何億、何十億も動くかしら……それ以上もあるかもね」

「えええええ! そんなにですか!」


 カイトは驚いて思わず叫んでしまった。


「蔵林さんの言う通りよ、真田君。君は知らないでしょうけど今回だってわが社の支社の応接室ですもの。お父様がどれくらいの費用をかけるのかは知らないけど、少なくとも5千万以上は掛かるわ。もしかしたら1億以上かけるかもしれない。ソフィスティード社にコーディネートを頼むというのはそういう事なのよ」


 絵美菜の一言で界斗は面食らった。


「そうですね、絵美菜さんの言う通りです。壁紙、カーテン、窓ガラス、照明、敷物、ソファーやテーブル、収納家具類、置物や絵画等の美術品、さらに扉や柱、天井に模様をあしらえば金額はどんどん膨らみます。支社とはいえ東宝院精密機器様の応接室としてふさわしいものに仕上げなければ訪問された方に面目が立ちません」


 オルテシアが界斗に家具や内装について細かく教えていく。界斗にとっては今まで縁も興味もなかった話でそのような事を聞かされても耳を通り抜けていくだけだった。

 界斗はなんとなくオルテシアの話を聞いていたが視線の先に見知った人物が映るとすぐさま後ろを向いた。


「真田君? 急にどうしたのですか?」


 急に振り返った界斗にオルテシアが驚いて声をかける。


「君ね……人が話している最中にそれはないでしょ」


 絵美菜も呆れて界斗を見る。


「すみません。ちょっと顔を合わせたくない人がいて……」


 界斗はその場を離れようと一歩踏み出した。


「おお、真田君。やはりいたか」


 界斗に声をかけながら体格の良い壮年の男がやってきた。


「どうも、校長先生……」


 界斗は仕方なく振り返り会釈をする。


「いやはや、解放者が受賞されていたから解放者の方々がいらっしゃっているのはわかったが、まさかと思って来てみればやはり君もいたか」

「あ、はい……」

「いや、元気そうにやっているみたいだね」


 校長は絵美菜を押しのける様に彼女の横からなれなれしく界斗の肩を掴み全身を見渡す。


「誰、あなた?」


 いきなり自分たちが話している所に割り込んできた校長に、絵美菜が鋭い視線をむける。

 周囲に居たオルテシアやアミリエ、ルイバンも校長を見つめた。

 校長は孫みたいな年頃の絵美菜に、「誰」呼ばわりされて気分を害したのか、絵美菜を見つめると苦言を吐いた。


「最近の若いもんは礼儀がなってない。どこの家の娘さんかな?」


 校長はすぐそばで絵美菜の両親がオルテシアの両親と話している事など露知らず、説教をしようとした。

 校長の言葉が聞こえたのか、道茂の眉がピクリと動く。そして目が細められ校長へと振り向いた。

 そして校長は絵美菜の気の強さを知らなかった。礼儀を失せたのも自分の方からだとは思わなかった。

 校長の次の言葉が発せられるよりも早く絵美菜の反論が始まった。


「あなたこそ、どちらさま? 真田君と話していたのは私達ですよ。断りも無く割り込んできて礼儀を知らないのはどちらでしょう。そのお年になっても礼儀を知らない凡俗な方が、まさか西側経済の主要な人物があつまるこのパーティーに出席できるなど驚きましたわ」

「ぼ、凡俗……」


 孫みたいな年齢の絵美菜に「凡俗」呼ばわりされて顔を赤らめる校長。


「絵美菜さん、さすがに言い過ぎでは……」


 オルテシアが絵美菜を止めようと声をかける。


「なんだこの娘は! 私はアラミード教育委員会の理事の一人だぞ。アラミードの未来を担う学生の為にこの場に招待されている。まさか君はアラミードの学生ではあるまいな!」

校長が声を荒げた。

「げ……」


 それを聞いて今度は絵美菜がバツが悪そうに視線を巡らせた。高校生である以上、さすがの絵美菜も教育委員会という言葉にはちょっと弱かった。


「ほほう……成程、君の学校を調べて今日の事は連絡しておくとしよう」

「お待ちください。私は東宝院道茂、あなたのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


 流石に見かねて道茂が出てきた。


「東宝院……まさか東宝院精密機器の東宝院家ですか?」

「左様ですが、あなたは?」

「これは失礼いたしました。私はウクテル第5中学校長、ソームポフ・グラエームです」

「ソームポフさま、この娘は私の娘で東宝院絵美菜です。現在このウクテルのマリクト学院に在籍しております」

「マ、マリクト学院……東宝院家の御令嬢……」


 上流階級御用達の学校である。校長は自分の権威が通じるか考え始めた。


「確かに娘は言いすぎましたが、最初に礼を失せたのは申し訳ないがあなたの方です。もしあなたがご自分の立場を利用して娘が通う学校に何かしようものなら、こちらも考えがあるというものです」

「な……」


 校長は押し黙った。どう考えても自分の方が分が悪いと思い始めていた。


(ま、まずい、東宝院家の娘とは知らなかった)


 しばらく目線を動かしながら考えていた。


「ソフィスティードさん、この場はいったいどうすれば?」


 界斗は事態が急速にエスカレートしていくのを眺めていたが、母校の校長とクランの先輩である絵美菜や彼女の父親が揉めているという気まずさにオルテシアに助言を求めた。


「えっと……」


 だが、流石のオルテシアも大人同士の問題へと発展したこの展開に口をはさめなかった。


(どうすれば良いのでしょうか……ソフィスティードの従業員同士の諍いであれば止めることはできますが、相手は他校の校長先生ですし……)


 オルテシアはなんとか界斗の期待に応えられないかと考え始めた。

 そして校長は界斗がオルテシアに声をかけた一言を聞き逃さなかった。


「お美しいお嬢さん、ソフィスティード家の御令嬢でありましたか。見れば東宝院家の御令嬢と仲が良い様子。ここはひとつ彼女に謝るように言って頂けないでしょうか。確かあなたもシスダールに通う学生の1人でしたよね」

「えっ? ちょっ、ちょっと……」


 校長はいきなりオルテシアの手を取ると、オルテシアを遠回しに脅しながら手を貸せと言ってきた。

 いきなり手を握られる事態に驚き固まるオルテシア。


「ちょっと、校長先生!」


 さすがにオルテシアの手を取った校長の行いはおかしいと思ったため、界斗は校長の腕を掴む。


「真田君……」


 他校とはいえ目上たる校長から手を取られ困っていたオルテシアは、ほっとして界斗を見つめた。

 レオフォルドは愛娘を利用しようと手を握った不埒者を退かすために声をかけようとしたが、界斗が先に動いたために様子を見る事にした。


「真田君、君は関係ない」

「な……」


 だが校長はそれだけ言うとこの場で利用できそうもない界斗には見向きもしない。

 界斗は流石に校長の手を無理やり払うのは憚られ、だからといって自分が手を離すのも何か違うと思い、校長の腕を掴んだまま固まる。

 その光景を見ながらリファールや、ガリウスと共に食事をしていたクラリティーナはため息をついた


「あの校長先生はどうしてああなのでしょうか」

「団長、あの校長先生を知ってるの?」


 クラリティーナは界斗を勧誘しに行った時の事をリファールに話した。


「なんだかまれにみる残念な校長先生ね。あのような校長先生がいらっしゃるとは驚きだわ」


 リファールも苦笑してる。


「ええ、あのような方が校長先生になれるとは驚くべき事です。さらに驚きなのが校長先生になる前は体育の教師をしていたそうなんですが、さらにその前が魔甲士団の部隊長だったという事です」

「えー? そ、それは……もう、とんでもない人事ね」

「はぁ、仕方ない。私が仲裁してこよう」


 ガリウスが見かねたのか、皿を置くと界斗達へと歩み寄る。

 だがその時、校長の肩を叩く音がした。

 ガリウスよりも先にアミリエが校長に近寄っていた。


「校長先生、よろしいでしょうか?」

「これは蔵林さん、なんでしょうか……」


 界斗が解放者へ正式に所属することが決まった後、アミリエは界斗の成績や内申を受け取りに第5中学へ赴き、校長や担任と話した事があったためすでに顔見知りであった。


「現在、東宝院絵美菜は解放者で預からせていただいている、当クランの一員であり幹部の1人です。せっかくのパーティです。この場はいったん保留とし、後日当クランよりご連絡を差し上げたいと思います。それで了承していただけないでしょうか」


 仲裁するようで仲裁せずにさらなる圧力をかけるアミリエ。


「なに……」


(謝罪の言葉も聞かず、私から手を引けと言うのか?)


 校長はオルテシアの手を取ったまま考えを巡らせる。


「いやはや、なにやら楽しそうですね」


 ネディフが爽やかな笑顔を浮かべながらやってきた。周囲には他国の首脳らしき者たちが居る。


「これはザンターク国主、それに各国首脳。どうやら私はおじゃまらしいのでこの場は首脳の皆様にお譲りいたします」


 天の助けとばかり登場した首脳達を言い訳にして、校長はオルテシアの手を離すと界斗の手を振りほどきすぐさま退散した。


「小物臭がするわ」


 絵美菜の痛烈な一言が校長の背に刺さった。


「生意気な東宝院家の小娘め……」


 校長は捨て台詞を残してそくさくと退散していく。


「絵美菜、言い過ぎだよ」


 道茂がおかしそうに笑いながらも娘を諫める。


「ごめんなさい……」


 相手が親だからか、絵美菜は殊勝にも素直に謝った。

 その時、各国首脳の集まりから1人の少し厳めしい壮年の男性が界斗に近づいた。


「お嬢様方、彼とお話させて貰っても良いでしょうか?」


 界斗の近くにいたオルテシアと絵美菜に男性は丁寧に声をかける。


「ええ、もちろんですわ」


 オルテシアと絵美菜は優雅に会釈をすると界斗から一歩離れた。

 アミリエは男性の姿を確認するとわずかに界斗に身を寄せた。


「君が真田界斗君だね。始めまして、私はオスファールの首相クームリアス・ランドルトといいます」


 男性が界斗に手を伸ばす。界斗は慌てて手を差し出すと握手をした。


「初めまして。あのう……僕に何か用でしょうか?」


 界斗には隣国の首相に声をかけられる理由に心当たりがなかった。


「ははは、これはまいったね。君にはスカウト書類を送ったはずなのだが、もう忘れられちゃったかな?」

「書類?」


 界斗は必死に思い出す。


「あ、首都防衛部隊の……」

「どうやら思い出してくれたみたいだね。実は君の獲得は私が決めた事なんだけどね。解放者に取られてしまったみたいで残念だよ」

「はぁ……」

「実は今日こうして挨拶したのは、私の口からもう一度直接君を誘おうと思ったからなんだ。どうだろう、わが国の軍に来てくれないかな?」

「えっと……」


 界斗はまさかの隣国の首相から直接引き抜きの声をかけられるとは思ってもいなかった。

 だが解放者に入ってまだ3か月、ようやく慣れてきたところだ。それに隣国に行ったらシスダールでの学校生活はどうなるのだろうか。界斗は瞬時に考える。


(いやいや、この時期に引き抜かれても困るだけなんだけど……)


 相手は一国しかも軍事大国のトップだ。界斗はどのように断れば失礼が無いのか分からず返答に困って黙ってしまう。


「そうだね。確かに新しい場所での生活に、ようやく慣れ始めたこの時期に誘われても困るよね。だからどうだろう、シスダールを卒業したら我が国の軍に来てくれないかな。もちろん色々と優遇させてもらうよ」


 ランドルトは界斗の困惑を見透かしたかのように話を続けた。


(えっと……つまり3年後って事? けど、それって「はい」って言ったら3年後に解放者を辞めますって言ってるようなものじゃん)


「……」


 界斗はどのように返事をすればよいかさらに困ってしまった。


「嫌ですわ、クームリアス様」


 界斗の後ろで事態を見守っていたアミリエが界斗の前に進み出て口を挟んだ。


「これは蔵林さん。今日も凛々しくお綺麗ですな」

「ありがとうございます。ですがお世辞を言われても真田君はお渡しできません。3年後という事は真田君が成長して我がクランの主力となっている頃ではありませんか。まさか成長したところを攫っていくような真似を、オスファールの首相ともあろう方がなさるとは……」

「いやはや手厳しい。ですがそちらにはクラリティーナ様がいらっしゃるではありませんか。まさか優れたゼファレスの持ち主を1組織で2人も抱えようとは欲張りというものです」

「そのお言葉、そっくりそのままお返しいたしますわ。なんでも摂氏8000度を超える金属蒸気を射出する超熱兵器を開発したとか。しかもこの兵器を1人で扱えるすさまじいゼファレスの持ち主がいるという噂も届いております。兵器の開発には議導会の承諾が必要なはずです。そのような兵器の開発を議導会が許可したのでしょうか?」

「その様な噂は初耳です。驚きです。そのような噂がいったいどちらから……」


 ランドルトは大げさに驚いて見せた。だが目は笑っておらず、探るようにアミリエを見る。


「当クランにもいろいろと情報は入ってきます。それに当クランにも知れたことです。すでにご存じの方たちもこの場にいらっしゃるのではないでしょうか?」


 アミリエはその場にいた各国の首脳たちを見渡す。何人か頷く者もいる。


「クームリアス首相、まさかその超熱兵器の2台目を製造して、彼を第2の砲手にするつもりなのですか? そういう抜け駆けはよろしくありませんわ」


 1人の女性が声をかける。


「これはアトニアム首相、ですからいったい何の話やら……」


 ランドルトは背後にいた各国首脳の集団の中にいる1人の知的な中年女性に声をかけた。


「ソフィスティードさん、あの人誰ですか?」


 界斗はオルテシアに近寄るとこっそりと教えて貰う。


「アラミード北の隣国、酪農畜産で有名なサイエルバームの首相、アトニアム・フィネット様です」

「アスランが行った国の首相さんか……」


 界斗はアスランも今頃は学校や牧場の仕事に慣れて楽しくやっているのか等と色々と想像した。

 界斗がアスランについてあれこれ想像している間も各国首脳からランドルトへの質問は絶えない。

 タジタジになり始めるランドルト。

 そこへ追い打ちの様に声をかけられた。


「アトニアム首相、そのような兵器の話は我々議導会も初耳です」


 そこにはパーティーにも関わらず議導会の儀礼的な服装をした一団がいた。


「これは議導会特使アンブロプント殿……いつからいらしていたのですか?」


 各国首相が会釈をすると特使の一団はアミリエの所に向かってきた。


「いや、今しがた到着したばかりです。このパーティーに解放者の方々も参加すると聞いて参りました。少々お時間をよろしいでしょうか、蔵林様?」

「ええ、なんでしょうか。アンブロプント様」

「解放者が先日鹵獲したゾルタリウスの兵器についてなのですが」


 議導会特使が話を切り出すと周囲の者達が一斉に黙った。そして各国首脳達は話を聞き洩らさまいと聞き耳を立てる。


「それについて、いかがしましたか?」


 アミリエは緊張の面持ちで議導会特使アンブロプント・バウデフソットの目を見据えた。


「単刀直入に言いましょう。鹵獲した兵器を議導会へ渡して頂けないでしょうか?」


 周囲が騒めき始めた。


「……」


 アミリエは押し黙りながら特使であるバウデフソットを眼光鋭く見つめる。バウデフソットはクラリティーナを1度見て再度アミリエを見つめる。


「直接対峙したアウルフィード・クラリティーナ様ならお分かりになるかと思いますが、あのような兵器を1組織が接収して再利用しては軍事バランスが崩れるというものです。我々は2度と世界大戦が起きぬように各国の軍事バランスを保たなくてはなりません。ですのでこちらに引き渡していただけないでしょうか?」


 近くにいたクラリティーナに話しかける様に提案するバウデフソット。


「それは出来ないご相談ですわ」


 アミリエは即答した。


「理由をお伺いしても?」

「あれらの売買契約が成立しているからです」

「成程、金銭の問題ですか。では、おいくらでしょうか? 議導会が買い取りましょう」

「そのようなお話はお受けできません」

「どうしてもですか」

「ええ、なぜ議導会がそのような申し出をされるのか、困惑してしまいます」

「ふむ、困りましたな」


 バウデフソットは少し考え始めた。

 各国首脳達は黙って事の成り行きを見守っていたが、ネディフが咳ばらいをした。

 バウデフソットはネディフを目に止めると声をかけた。


「おぉ、これはザンターク・ネディフ様もいらしたのですね。あなたのご意見を伺ってもよろしいでしょうか?」

「それはどういった解釈をすればよろしいのでしょうか? アラミード共和国の国主として解放者に命令するという事でしょうか? それとも私の前職である国際調停士としての意見でしょうか?」

「国主としての命令などではありません。もちろん、国際調停士としての意見です。千を超える国家間や大企業の取引契約案件を成立させてきた、世界的に有名なその手腕を見込んでご意見を頂戴したいと思います」

「承知しました。では調停仲介を行う前に蔵林さんには確認させてください。今回の兵器売却に当たり契約には調停士が立ち会っていますか?」

「もちろんです、国主様」

「だとすれば、私は何も仲介できませんな。調停士立ち合いのもと成立した契約に法的強制力をもたせ、契約履行能力があるかぎり何が何でも契約を守らなくてはならないと決めたのはあなた方議導会ですぞ。それを破るような行いは出来ますまい」

「言われてみれば確かにそうですな……仕方ありません。では売却先の企業を教えていただけますでしょうか? その方とお話をさせて頂きましょう」

「トフステック工業のインゴーム・オルーノ社長です。このパーティにもいらしているはずです」

「トフステック工業ですね。ではその方に交渉いたします。我々はこれで失礼します」


 バウデフソットや議導会の一団は会釈をすると大勢の来訪者がいる会場の中からオルーノを探すために立ち去った。


「アミリエ、ありがとう」


 クラリティーナが議導会の対応をしたアミリエに礼を言う。


「いえ、構わないわ。私の仕事の範疇ですもの」

「真田君、今度改めて話をしよう」


 議導会の登場で界斗を誘う気が失せたのか、ランドルトは料理を取りにこの場を秘書と共に去っていく。

 それにつられ各国の首相も界斗や解放者をチラッと一瞥すると去っていった。


「蔵林さん、お話よろしいですか」


 各国の首相達が去って一段落したところに30歳ぐらいの若い青年がアミリエに声をかけた。


「これはスホルツ健美社のビュンテリ様」


 アミリエは丁寧に応対を始める。


「実は新しく発売する栄養ドリンクの広告塔に、貴法人のデルクード・ルイバン君を起用したいのです。今度ご相談のお時間頂けますでしょうか?」

「ルイバンですね。そうですね、彼も幹部に昇格したので新たにスポンサー契約を増やしても良いかと思っていたところです。ぜひお願いします。お待ちしておりますわ」

「ありがとうございます」


 男は手短に用件を伝えると去っていった。

 界斗は次々と目の前で起こる会話になんだか疲れてきた。


(なんなんだ、パーティーってこんなに忙しいのか。折角豪華な料理が並んで居るのに落ち着いて食べる余裕が無いじゃないか……)


「椅子に座ってゆっくりと食べたい……」


 パーティーは立食形式だったが、界斗は次々と現れる人に疲れて思わず愚痴ってしまった。


「真田君、大丈夫ですか?」


 横に居たオルテシアが界斗を気遣う。


「パーティーって華やかで楽しそうなイメージがあったんですけど、なんだか実際は色々と大変なんだなと……」

「そうですね。確かに今日は色々と尋ねてくる方が多い方ですが、本当に忙しい時は食事をする時間もなくパーティーが終了するときもあります」

「それは……本当に大変ですね」


 界斗は苦笑した。来る前は初めてのパーティーだからどこか楽しみにしていたが、一気にテンションが下がっていた。

 界斗はすぐそばでプロモーション契約について話しているアミリエとルイバンを見る。


「ルイ君が幹部になってプロモーション契約するという事は、俺もそのうちしないといけないのかな……」

「そうですね……ルイバン君はハンター活動が長いし、ガリウス様の御子息ということもあって知名度がそれなりにあります。真田君にすぐにそういったお話が来るかどうかは分かりませんが、1年もしくは2年ぐらい経てばそういったお話がきても不思議ではありませんよ」


 オルテシアが界斗の呟きに答えた。


「いい機会だから、真田君に説明するわね」


 話が聞こえていたのだろう、アミリエが振り返り界斗に声をかけた。


「真田君はうちの予算は知ってる?」

「すみません……まだそういう所までは……」

「真田君は幹部だからできれば色々と知っておいて欲しいのよね。うちの予算は年間500億近く計上してるのよ」

「そんなにですか!」

「さて、ここで協会からのクラン支援や依頼の報酬、たまに討伐される上位の魔獣の素材の売却益だけでそのような額を稼げると思う?」

「よくわかりませんが、無理なような……」

「その通り、無理なのよ。実は半分近くが各企業からのスポンサー料金や、支援金で成り立っているの。各企業は有名クランに出資して社会的貢献をしているとしてイメージアップをしている。それに優先的に依頼をこなして貰ったりするわけ。クランと企業はお互い持ちつ持たれつなのよ」

「結局お金ですか……」

「そう言ってしまうと身も蓋も無いけど、ハンター人口が縮小して魔獣の活動が活発化すると経済に打撃が走るでしょ。だから仕方の無いことなのよ。軍を常に臨機応変に広範囲に展開するわけにもいかないしね。それにハンター業界の市場規模は10兆を超えるわ。毎年世界中でそれだけのお金が治安維持や安全確保に使われているの。それだけでも結構な経済効果でしょ。だからこれも経済を回すうえでは必要な事なのよ」

「知りませんでした。けど以上規模の10兆のうち解放者が500億だと……200分の1じゃないですか? クランは他にも沢山ありますよね……」

「そうね。世界全体で1万社を超えるらしいわね。けど、うちは最大手だし支部も沢山あるから所属人数は1000人を超えるわ。そしてうちの給料水準は他よりもちょっといいからね。真田君のお給料だって同年代の高校生がアルバイトで稼げる額の2倍近くあるはずよ。うちの幹部ってのはそういうことなの」

「はぁ……」


 今までそういった社会システムについては何一つ考えてこなかった界斗には難しい話だった。何となく相槌をうっただけである。

 そして界斗がデザートとして取ってきた一口ケーキの最後の一切れを口にした時、声がした。


「やあ皆、遅れてすまないね」


 界斗が声をした方を見るとオサミラウが解放者の正装に身を包んで立っていた。


「オサミラウさん、遅かったですね。受賞は終わってしまいましたよ」


 アミリエがちょっと咎める様にオサミラウを見る。


「あれ? もしかして幹部で来てないのは僕だけ? あの不精なワーグも、もしかして来た?」

「いえ、ワーグさんは事前に欠席すると連絡を受けているので来てませんけど」

「そっか……じゃあ、僕の方がましだね。ちゃんと来たんだから」


 オサミラウは爽やかな笑顔でアミリエに微笑む。


「はぁ……いつもそうやって笑顔でごまかすんだから」


 アミリエが仕方なさそうにため息をついたその時、


「オサミラウさん、お待ちしてました。今日も一段と凛々しく素敵ですわ!」


 絵美菜が弾んだ声を上げながらオサミラウに近寄った。


「やあ絵美菜ちゃん、ありがとう。君も素敵だよ」


 オサミラウが絵美菜に微笑む。

 絵美菜は破顔して頬を赤らめるとオサミラウの手を取った。


「色々と美味しい料理があるんです。参りましょ」


 絵美菜はオサミラウを引っ張っていき、あれこれ話しながらオサミラウの為に料理を皿に盛り始めた。

 その光景を絵美菜の両親はどこかあきらめたようにため息をついて見守る。


「絵美菜さん、相も変わらずグラスロード様に熱心なのですね……」


オルテシアはどこか羨ましそうに絵美菜を見つめた。


「ルイ君、グラスロードさんと東宝院さんってそのあれなの?」


 流石にその様な事を側にいるオルテシアに聞くわけにいかない為、界斗はルイバンに歩み寄った。


「う~ん……どうでしょう? 僕は恋人同士では無いと思うんですよね」

「え? そうなの?


「まずクラン内で恋愛は自由ですが、1つだけ決まりがあります」


 ルイバンは界斗を見る。


「決まりって?」

「付き合う事になったら報告しなくてはいけないという事です」

「わざわざ報告するの?」

「さすがに痴情のもつれは任務や戦闘に影響を与える可能性がありますからね。ちゃんと把握しておく必要があるわけです。僕とフィアリスだって蔵林さんに報告してますから」

「そうなんだ……」

「で、あの2人の報告は上がって来てないわけです」

「けど、どう見たって……」

「僕の予想なんですが、東宝院さんに言わないと言うならば話します」

「もちろん言わないよ」

「何度も言いますがあくまで僕の予想です。あれは東宝院さんが熱を上げているだけでオサミラウさんはうまく受け止めつつも流している感じですね」

「そ、そうなの? 何で?」

「理由は分かりません。オサミラウさんに彼女がいるという話は聞いたことが無いんですが、あの人自由人だしモテますからね。どこかに何人か女の人がいてもおかしくないですよ」

「自由人?」

「そうです。カイトさんはオサミラウさんがクランに居たことがある所って何度くらい見たことがありますか?」

「えっと、確か新年度の集まりの時だけかな……」

「そうですね。あの人、勝手に依頼を受けて勝手に出かけてくんです。ちゃんとクランにお金を納めてるから文句は言われていませんけど……うちの最高自由人と言われていますよ。人当たりが良いのであれこれ言う人はいませんけど」

「そうなんだ。けど東宝院さん美人だし、その……大企業のお嬢様なんでしょ?」

「逆玉と言いたいのですか。僕はオサミラウさんでは無いので東宝院さんを選ばない理由は分かりませんが、年の差も結構ありますからね。オサミラウさんの方が気にしているのかも」

「え? グラスロードさんて幾つなの? まだ30歳ぐらいにしか見えないけど」

「若く見えますよね。けど父とは古くからの付き合いで、年は父の少し下ぐらいなので確かまもなく40歳になると思いますよ」

「確かにそれだと気にするかもね」


 2人は食事をしているオサミラウに楽しそうに話しかけている絵美菜を見て苦笑した。

 その周りではパーティーに参加した令嬢たちの何人かが絵美菜を苦々しく見ていた。


「くっ、悔しいですわ。グラスロード様にあんなに馴れ馴れしくするなんて……東宝院家の淑やかさの欠片も無いはねっ返り娘が……」


 その呟きが界斗に聞こえてしまい、界斗は近くのテーブルに居たその令嬢を見る。

 悔しそうに絵美菜を眺めている令嬢からそっと視線を外した。

 界斗は空になった皿を手に取ると、気を取り直し料理を取りに行く。


(俺も気を付けないと……あまりソフィスティードさんと仲良くしているとまずいかな……)


 界斗は既に自分がオルテシアと仲良く話している所を嫉妬交じりの羨望の視線で見られていた事に気が付かなかった。

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