第11話 明けの急襲 (約21,000文字)
界斗達がハバリスへサイクリングへ行っている頃、クラリティーナはガリウスやワーグ、その他解放者上級職員、中級職員、総勢25名を連れて、解放者の飛空艇でアラミード共和国から遠く離れたエトプティ国の港町ルワカに来ていた。
解放者はルワカで一番大きなホテルの大広間を貸し切りにし、臨時の作戦本部としていた。
クラリティーナはホテルに着き支部の職員達が待ち受けていた大広間に入ると、休息を取らず報告を求めた。
「状況の説明をしてください」
クラリティーナやガリウス、ワーグ、さらに上級、中級職員達が席に着くと、支部の職員たちがコーヒーとサンドイッチ等の軽食を配り始める。
「では報告をはじめます。結論から言いますとテロ組織とほぼ断定されました」
ルワカの北西100km付近には大小様々な島からなる群島が存在している。昨年このエリアの島全てをある企業が水産業拠点の名目で国から買収した。それからルワカの漁師達の間では様々な噂が飛び交う。獣の咆哮を聞いた、島から光が走った、島が消えている等……。
漁師たちは危険だと判断しこの付近の海域に立ち入らぬようになった。その後、漁師たちは役所へ通報、役所からの連絡を受けて国際治安維持協会は企業を調査、存在しないダミー会社であることが判明する。さらにその出資元となった企業もダミー会社であり大本は判明しなかった。
この結果を受け、国際治安維持協会は解放者に現地調査を依頼。この大陸の支部職員たちが調査に向かったところ、群島の中でも1番大きな島に建物が建てられ、複数の武装した人影が確認された。
確認後、支部の職員たちは本部に連絡。情報から危険度を推察したクラリティーナは、自ら幹部であるガリウスやワーグを含む解放者上級、中級職員を連れて、この港町にやってきた。
「ふ~ん。で、どれくらいよ、敵の規模は?」
ワーグはサンドイッチを頬張りながら説明をしている職員をその鋭いまなざしで見つめた。
支部職員はワーグに睨みつけるような視線で見られ緊張のあまり生唾を飲み込む。
「せ、正確な数は把握できていませんが、奴らはこのルワカで定期的に食料を調達しています。探りを入れた昨日の購入量から推察するに、50人以上いると見積もられています」
ガリウスは人数を聞いて唸った。
「50人? 連絡時より増えてないか? こちらの人数の方が少ないな……。敵の強さが分からん以上、慎重にならざる負えないか……」
「そうですね、ガリウス」
クラリティーナもガリウスの意見に賛成し壁に貼られた島の地図を見ながら考え始める。
「俺たちが負けるかよ。正面から乗り込んで蹴散らして終わりだろ」
ワーグは自分たちに敵うものがそうそういるとは思えず、今すぐにでも攻め込みたいと考えていた。しかしクラリティーナは慎重派だった。
「いえ、できれば職員の誰一人として怪我人を出したくありません。正直、エトプティの医療設備はあまり良いものとは思えませんので、万が一を考えると慎重に臨むべきです」
エトプティはかなり寂れた国だった。主な産業は漁業や農業のみ、輸出もほとんどなくいわば貧困国だった。
クラリティーナはコーヒーカップを軽く傾け1口飲むと立ち上がった。
「作戦を伝えます。明朝、幹部、上級職員、総出で飛空艇に乗船し空より急襲をかけます。中級職員の半分は飛空艇に乗船しバックアップとして待機、残りは支部職員と共にこの作戦本部で待機してください。それから探知を警戒してGPSは使いませんので、上空からでも地理を確認できる支部職員2名を飛空艇に乗船させてください。ランデブーポイントは島から10km離れた高度5000m地点とします。当日の風向きを考えて候補地点をいくつかピックアップしてください。以上です」
クラリティーナは作戦本部を退出し自室としてあてがわれた部屋へと向かう。
作戦本部では職員たちがあわただしく動き始め、ガリウスも席を立つと、その場を仕切り始める。ワーグは残りのサンドイッチを食べながら椅子にふんぞり返り、その光景を眺めていた。
翌日明朝、クラリティーナたちは飛空艇で上空を飛んでいた。
まだ朝日が顔を出しておらず、ようやく空が薄っすらと明るくなってきていた。
「団長、そろそろポイントに到着します」
現在位置を確認している支部職員から連絡が入った。
クラリティーナは紅茶が入ったティーカップを置くと席を立ちあがった。
ガリウスも続いて立ち上がる。ワーグは眠そうに伸びをすると気合を入れた。
3人が後部ハッチへと向かうと上級職員15名もそれに続く。
後部ハッチに着くとクラリティーナを除く一同は、解放者のジャケットを脱ぎシャツの上にスーツを着始めた。スーツにはコンピューター制御された推力石とゼファレス供給源である充填された魔骨石が内蔵されている。このスーツを物体操作するとコンピュータが方向を検知してその方向に推力石を利用して物体操作するという、飛行時にゼファレスの消費を格段に抑え温存するために着用するスーツだった。スーツを装着し、各々の武器も装着し準備を終えた。
「クラリティーナ様、私の大楯はいかがいたしますか?」
「念のため持っていきましょう」
後部ハッチの片隅に大きな盾が立て掛けてあった。1辺は2mぐらいあるだろう。クラリティーナからゼファレスが滾ると空中に穴があいた。盾が入るほどの大きさに広がるとクラリティーナは大楯を物体操作で操り穴の中へゆっくりと入れていく。
「俺、初めて見た……団長の空間収納……」
「ああ、俺も使える様になりたいな……」
「馬鹿か……世界で今までに確認された空間収納の使い手は、数人しかいないって話なんだぞ……」
「けど議導会の話だと空間は自我のある者ならだれでも持ってるそうじゃないか」
「ああ、俺も確か高校でそう習った」
「けど、その空間の扉を開けられるかどうかが難しいんだろ」
「ああ、議導会の人たちでも、現在使えるのは2人ぐらいしかいないって話だしな」
「扉を開けし者か……」
上級職員たちがひそひそと話しながらクラリティーナに羨望のまなざしを向ける。
クラリティーナは大楯を収納し空間を閉じるとその場の全員を見渡した。
「さて、これより上空を飛行しテロ組織と思わしき者達に奇襲をかけます。私が先行し現地に到着確認後、指示を出します」
「了解しました!」
上級職員たちは声をそろえて返事をする。
「ガリウスは状況に応じて私のフォローを。ワーグは上級職員を指揮して攻撃してもらいます」
ガリウスは頷き、ワーグは「ああ」と返事をしながら頷いた。
「ランデブーポイントに着きました」
後部ハッチに連絡が入った。
「開けてください」
クラリティーナの指示で後部ハッチが開いていく。
風が吹き込みクラリティーナの長く美しい金髪をなびかせた。
そして開いたハッチより飛び出した。
飛空艇の下部で空中に浮き、次々と隊員達が飛び出してくるのを待つ。
声が聞こえないほどの強風が吹く大空に、全員が浮きながら待機を終えた。
「無線チェックをします。皆、聞こえますか?」
その場にいる全員からサインが返ってくる。
「ちょっと寒いな……」
ワーグの声が無線に入った。
上級職員が苦笑した。
「ここは赤道に近いとはいえ、日の出前で高度5000mですからね。地上に降りて戦えば体はあったまるでしょう。では、私は先行します」
クラリティーナから再びオーラが滾る。その豊富なゼファレスを生かして自身を物体操作して飛び出し加速度的に速度を上げていく。強風の助けも借りてクラリティーナは凄まじい速度で空を飛行した。
「さすが団長……」
職員たちはあっという間に小さな点となったクラリティーナを見送った。
まもなく朝日が顔を出すのかビーナスベルトが現れ、ゆっくりと空が明るくなっていく。
クラリティーナは雲1つ無い薄暗い晴天の中、音速に近い程の亜音速で飛行し、瞬く間のうちに目標の島上空へと到達した。
宙に浮き眼下に島を望みながらクラリティーナは空間収納から双眼鏡を取り出す。
直径3kmはある島は深い緑に覆われていたが肉眼でも森が一部剥げているのがわずかに見て取れた。クラリティーナはそこに双眼鏡を向ける。
「あれは何でしょう? 何かの実験場でしょうか? そして大型の魔獣でしょうか? 何かしらの兵器があるのかと思っていましたが……」
敷地の周囲は壁で囲われ、魔獣の周囲には大きな機材が散乱している。さらに周りには研究棟らしき建物があった。魔獣の周囲には数人の怪しい者達が居る。
クラリティーナは双眼鏡を調整しさらに観察していく。
「全長15mぐらいの細長く黒い半透明の胴体に前後に頭? でしょうか……。両頭の魔獣なのかしら……。あのような魔獣は資料でも見たことありませんが……」
クラリティーナは見知らぬ魔獣をさらに観察する。
「両頭に装着されているのは砲身でしょうか? 成程、魔獣に兵器を搭載しているのですね。体の中央についている物は何でしょうか?」
クラリティーナは見ただけでは分からない魔獣の中央についてる装置についてそれ以上考える事はやめ、他の場所を観察する。
「少し離れた所に宿舎でしょうか? 建物が幾つもありますね。北には飛空艇が下りられそうな開けた場所と港でしょうか。ボートらしき物と潜水艇らしき物がありますね……」
クラリティーナは呟きながら思考する。
そして双眼鏡を空間収納にしまうと無線で連絡を取った。
「こちらクラリティーナ、目標を確認しました。ガリウス、現地点はどちらですか?」
「島まで後2kmといった所でしょうか」
「了解しました。施設の配置を伝えます。中央に実験設備があり大型魔獣と思わしきものあり。南東1km地点に宿舎関連と思われる建物が集合しています。ワーグは12名を率いて宿舎を制圧、ガリウスは残り3名を率いて宿舎から中央へと伸びる道を偵察してください。以上」
すぐにガリウスとワーグから「了解」と返事が来る。
クラリティーナは無線を切ると降下を始めた。そして左手の先に鈍く光る金属の杭を創成しはじめた。風を切り落下しながら杭はみるみる大きくなり大木の様に太く長くなっていく。
杭と共に落下していくクラリティーナは視界の先に魔獣の頭についている装置をとらえると、自身と杭を物体操作して落下する速度をさらに増した。
クラリティーナはそのまま勢いよく魔獣に降下した。そして間近に迫った瞬間、物体操作をしながら杭を放った。
上空より落下した杭の先端が装置と衝突し激しい衝撃音が鳴り響いた。
(硬い……)
一瞬、物体操作した杭に抵抗を感じたが、押しつぶすように装置を破砕し、杭は魔獣の頭らしき物へと突き刺さった。
その後、骨格を砕き、下あごを貫き、そして地面へ突き刺さる。衝撃で地面がひび割れ揺れた。
「うわ! なんだぁ?」
驚きの声を上げながら、その衝撃で周囲にいた者達が姿勢を崩し倒れる。
そして杭によって地面に縫い留められた魔獣が、痛みからか体を振り乱して暴れる。
クラリティーナは落下を制動すると、そのまま宙に浮きながら杭に大量の高電圧の電流を流した。杭から大量の電流が魔獣に流れ込んだ。
魔獣は電流を流されたショックからか、さらに激しく体を振り乱した。
電流の余波は地面にも及び周囲にいた杭の激突の衝撃で体勢を崩していた者達にも流れ込んだ
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!」
辺りに絶叫が重なり響いた。
周囲にいた者達が感電し崩れ落ちていく。
そして魔獣の体を振り乱す動きが徐々に緩くなる。魔獣は痙攣しながら煙を上げ沈黙した。クラリティーナは燻り煙をあげる魔獣の頭の上にゆっくりと降り立つと周囲を見回した。
「どこのテロ組織の者達かと思えばゾルタリウスでしたか……」
倒れている者達が被っている仮面をみてクラリティーナは剣を抜いた。
「ア、アウルフィード・クラリティーナ……」
電流を凌いだのだろうか、1人のなかなか体格のいい男が立ち上がる。そして太身の剣を抜くがその手は震えていた。
「何事ですか?」
そこに周囲の建物からゾルタリウスが誰何の声を上げながら数人駆けつけてくる。
彼らは魔獣の上に立つクラリティーナを見て息を飲んだ。
「あれは? アウルフィード・クラリティーナ……て、敵襲? ……解放者が来たのか!?」
クラリティーナは悠然と地面に降り立ち怯える男たちの前へと進み出る。
クラリティーナが1歩進み出ると男たちは1歩後退していく。彼らは馬鹿ではない。自身の力量と空より飛来し魔獣にあのような杭の一撃を入れたクラリティーナとの実力の差を明確に感じ取っていた。
「ば、馬鹿者下がるな。我らは誇り高き救世騎士団ゾルタリウスだ」
先程電流を凌いだ男は指揮官なのだろうか、周囲の者達に激を飛ばす。
「その名乗り、以前から疑問に思っているのです。テロリストが救世騎士団などと……」
「だ、黙れ! 貴様に我らの理念など知る由もない!」
「そうですね。別に知りたいとも思いませんし……」
「だぁ!」
クラリティーナと指揮官の男が会話が途切れた瞬間、部下の1人が横からクラリティーナに突き込んだ。
なかなか鋭い一撃だったがクラリティーナは身をひるがえして避けると、突き込んできた男を一撃で切り伏せた。
仲間の男があっさりと倒され血を流し地面に横たわるのを見た他の者達がさらに怯んだ。
その時、魔獣の体がびくりと痙攣した。
そして何度か痙攣すると突如はねる様に再び身じろぎを始めた。
片側を地面に縫い付けられた状態にもかかわらず、大型の体躯が身じろぎし地面が揺れ砂ぼこりが立ち込める。
そしてもう片方の砲身から極太の光が空に向けて走った。
「あの光は? レーザー光線の様ですが……」
クラリティーナは魔獣とゾルタリウスの戦闘員両方に注意を払いながらのた打ち回る魔獣から距離を取り始める。
今度は魔獣が首を振り水平に光線が放たれる。壁を穿ちその先の木々を消し飛ばした。
「なんて威力ですか……」
森の向こうまで木々が消し飛び、遠くの海岸線が見えた。
「何をしている! あれを落ち着かせろ!」
指揮官らしき男が研究棟らしき建物に向かって怒鳴る。
「成程、あの建物は重要施設みたいですね」
クラリティーナが建物に目を向けた瞬間、指揮官の男は好機と言わんばかりに切り込んできた。
クラリティーナはその苛烈な上段切りを難なく受け止めながら体を捻り力を逃す。
その時、遠くから騒音が聞こえ始めた。
「な、なんだ?」
男たちは騒音のする宿舎の方を顧みた。
悲鳴や絶叫それに混じり怒号が聞こえてくる。
「寝込みを襲うとは……」
指揮官らしき男が悔しそうに唇を結びクラリティーナを見つめた。
「あなた達の様な者達と正々堂々と戦う必要はありません」
指揮官らしき男は歯ぎしりをしながらクラリティーナを睨みつける。
「卑怯な!」
部下らしき者の罵声と共に鋭い音が鳴り響きクラリティーナに銃弾が迫った。
しかし銃弾は甲高い音と共に弾かれた。クラリティーナは昂った殺気を感じた瞬間、本能に従い障壁を張っていた。
「馬鹿者! あの女の障壁にどんな銃だろうと効くはずないだろう! 全員で一斉にゼファレス全開で攻撃し、障壁を消し飛ばして斬り倒すんだ!」
指揮官の男の指示を聞き次々と仮面の男たちはクラリティーナに斬りかかっていく。
しかし切り伏せられたのは男たちの方だった。
血飛沫が飛び、男たちが次々と地面に血を流しながら倒れた。
ほんの10数秒で5人の仲間が切り捨てられたのを見て、恐怖に駆られたのか1人が逃げようと背を向けた。
「逃げるな! 敵前逃亡は重罪だぞ!」
逃亡しようとした男は指揮官の怒声に踏みとどまるが、その足は震えていた。いや逃げようとしたものだけではない。その場にいる男たちの大半が震えていた。
それを見てすぐに攻撃してくることは無いと判断したクラリティーナはのたうつ魔獣を見つめる。
(あのレーザーらしきものは厄介です。周囲を破壊される前に、この者たちよりも先に何とかするべきでしょう)
クラリティーナは魔獣のもう片方の頭に近い方の腹に素早い速度で近寄ると、今度は金属のドリルを創成し始める。
僅か10秒足らずで2m近い長さのドリルが創成されると回転を始めた。
そしてドリルは魔獣の腹へと突き刺さっていく。魔獣の血が噴き出し辺りを血に染めていく。しかし血飛沫はクラリティーナを汚すことは無かった。クラリティーナへ飛んだ血飛沫は障壁を伝って流れ落ちていく。
「グギャァァァァッァ!」
魔獣から苦悶の叫びが上がった。
ドリルが殆ど根本近くまで埋め込まれるとクラリティーナはドリルの根元に手を添える。
「さて、可燃性ガスの創成は久方ぶりですが上手くいくでしょうか……」
ドリルの中心は管になっていた。さらに周囲には無数の小さな穴があいていた。
クラリティーナはアセチレンガスと酸素を体積比約1:3で創成し管の中へ物体操作で力強く送り込んでいく。ガスは管を走り無数の穴から噴き出した。
そしてクラリティーナは発火させる。魔獣の体内に埋め込まれたドリルから高温の炎が噴き出した。
魔獣が体内を焼かれ、天を仰ぎながら声にならない叫びを上げる。肉が焼け焦げる匂いが充満すると、魔獣は地面に倒れ伏し沈黙した。
「問題なく創成出来ましたね」
クラリティーナはドリルから手を離すと、呟き息を吐きだす。
指揮官の男は魔獣が焼かれ沈黙するのを呆然と眺めていたが、気を取り直すと叫んだ。
「おのれ、何たることを! お前達、私に続け!」
完全に意気消沈した部下たちを叱咤すると、指揮官の男はゼファレスを滾らせ、1人クラリティーナに突撃した。
指揮官の男は怒りに身をまかせ次々と鋭い斬撃をクラリティーナに放つ。クラリティーナはそれを1つ1つ丁寧にさばいていく。
怒りによってか普段よりも数段鋭い斬撃を放ちクラリティーナと切り結ぶ指揮官の男を見て、怯えていた部下たちは奮い立った。
「隊長……すげぇ、頑張ってる。勝てっこないのに……クソォォォ! 俺もやってやるぞ!」
1人の男が雄たけびを上げるとクラリティーナ目掛けて走り出す。
「こうなれば自棄だ! あいつに続け! 隊長を援護するんだ!」
残りの男たちも走り始めた。
「お前達!」
自分史上最高といえる斬撃を次々と打ち込んでいるのにクラリティーナに簡単にあしらわれてしまい、その実力差に絶望を感じていた指揮官の男だったが、部下たちのいきり立つ姿に勇気を貰った。
「うぉぉぉぉ!」
裂ぱくの気合を上げるとさらにゼファレスが活性化し身体強化の度合いが上がる。そのまま指揮官の男は渾身の力を込めて剣を振り下ろす。
しかしそれは虚しく宙を切り地面に食い込んだ。
クラリティーナは指揮官の男の気迫のこもった上段切りを何事も無い様に軽々と躱すと、跳んで距離を取った。
そして剣先を指揮官の男とその後ろから向かってくる者達に向ける。
剣先が一瞬光った。
「い、いかん! お前達!」
指揮官の男が叫んだ瞬間、クラリティーナの剣がスパークを起こし剣先から凄まじい放電が起きた。
電撃は指揮官の男やそのすぐ後ろにまで接近していた部下たちを飲み込んだ。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
高電高圧の電撃を受けて次々と倒れ伏す男たち。
「く、おのれぇぇぇぇ」
指揮官の男は雄たけびを再び上げるとクラリティーナに迫った。
「あなたはこの電撃を凌ぎますか……それなりに障壁が強固なようですね。さすがは隊長といった所でしょうか」
クラリティーナは一呼吸すると電撃の放出を止め、剣を振り上げながら接近してきた指揮官の男に、瞬時に詰め寄ると剣にゼファレスを込めて目にもとまらぬ鋭い剣さばきで幾度も切り裂いた。
あっさりと障壁の上から切られ、手足腹の至る所に細かい傷を受けて出血する指揮官の男。
「ぐっ……私はこれしきの傷では倒れんぞ……」
目の前にあるクラリティーナの美しい瞳を射殺さんばかりに睨む指揮官の男。
だらりと下げられていた剣を握る腕に力を籠め横なぎに振るおうと動かした瞬間、クラリティーナの蹴りが指揮官の男の鳩尾に突き刺さった。
「ぐぇ……」
咳き込む指揮官の男。そしてクラリティーナのすらりとした細身の足を見たのち顔をあげクラリティーナを見つめる。
「はぁはぁ……何を……した? なんだ、この痛みは? ……ゲホゲホ……はぁはぁ……い、いくら何でも……お、お前のその筋肉では……身体強化……したからと……いって……こ、このような蹴りは……ふ……不可能だろう……」
クラリティーナは血を吐き咳き込む指揮官の男の瞳を静かに見つめ返す。
「あなたは先ほど電撃を障壁で防ぎましたが、このように障壁を破壊し直接体内に電流を流し込めばいいだけの話です」
「で、電流……? おかしいだろ……こ、このような痛みを……感じるほどの電流なら、と、とっくに感電死しているはずだ……」
「正確には電子に指向性を与え、あなたの胃の周辺で散乱させただけです。胃を著しく損傷したのでしょう」
「電子そのものを、操るのか……アウルフィード・クラリティーナ、お前は……」
指揮官の男は苦しそうに呼吸しながら立ち上がる。苦悶の表情を浮かべながらクラリティーナの目の前に立ち、自身よりも小柄なクラリティーナを見下ろした。
「聞きたいことがあります。降参しなさい。あなたでは私に勝てません。治癒すれば助かるでしょう」
「はぁはぁ……我らを見くびるな……誇り高き救世騎士団ゾルタリウスに投降などありはしない!」
指揮官の男は気合を振り絞り剣を振り上げる。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
雄たけびを上げて目の前にいるクラリティーナの頭めがけて剣を振り下ろした。
その瞬間、指揮官の男の背からクラリティーナの剣が突き出た。
瞬時に男の心臓を貫くとクラリティーナは身をひるがえす。
指揮官の男は剣を半ば振り下ろした姿勢のまま地面へと倒れていく。
「ゾルタリウス……その誇り高い精神は賞賛に値します。人々の安寧を脅かすテロ組織であることが残念なくらいです……」
クラリティーナは地面に倒れている指揮官の男を一瞥すると、周囲を見渡し動くものがいないか確認した。
「さて、宿舎の方はどうなっていいるのでしょうか。ワーグ達はもう制圧したのかしら?」
クラリティーナは呟きながら研究棟を見つめる。窓越しに動くものが見当たらない事を確認すると、閉まっている敷地の門を飛び越え宿舎へ向けて走り出した。
クラリティーナが降下した頃、ガリウスやワーグその他上級職員たちは宿舎の上空で滞空しながら下の様子を観察していた。
木々に囲われた空き地に2階建ての建物があり、その周りに宿舎らしき小さなコンテナハウスのような物が幾つも並んで居る。2階建ての建物正面には広場があり、そこに宿舎から戦闘員らしき者達が続々と出てきて集合しつつあった。
「団長が派手にやっているみたいだな」
島の中央から聞こえてくる喧騒にワーグはニヤリとした。
その時、光が明けの空へと走った。
「あの光は……光線兵器か?」
ガリウスは騒ぎが聞こえてくる中央付近を注視する。
「クラリティーナ様の下へ急いだほうが良さそうか……では各員攻撃開始だ。下方の敵を制圧する」
ガリウスの号令で解放者による急襲が始まった。
ワーグは真っ逆さまに群れている者達の所へと下降していく。
下降しながら背中に挿している2本のショーテルの様な剣を取り出す。ショーテルよりも反りが小さいが、反対側にも同じような反りの刃が付いていた。
着地と同時に身体を回転させると2刀の反りの刃で周囲の者達を瞬時に撫で切りにした。
何が起きたのか分からずに3人の仮面の男が地面に倒れ伏す。
それを見て周囲の者達が色めきだった。
「敵襲だ!」
叫び声をあげた男の上空からガリウスが落下しながら顔面に回し蹴りを放つ。ガリウスの丸太の様な太い足で蹴られた男は吹き飛びコンテナハウスへと派手な衝突音あげ激突して動かなくなった。
ガリウスは着地すると後ろに降り立った3人の職員に目配せする。
肉厚の剣を背中から抜くと襲い掛かって来たゾルタリウスを、ガリウスの体格からは想像できないほどの速度で剣を横に振るって腹を切り裂いた。
倒れた男が動かないことを確認する。
「行くぞ、ついてこい」
ガリウスは上級職員3人と実験場めがけて走り出した。
ワーグや解放者の上級職員たちが次々と広場に降り立ちゾルタリウス達を切り伏せていると、付近のコンテナハウスからさらに男たちが次々と出てきた。慌てて出てきたのか半袖シャツ一枚、それどころか暑かったため半身剥き出しで寝ていたのか、シャツすら着ていない男たちもいる。さらに仮面をつけていない物が何人もいた。
「おいおい、素顔が見えてるぞ。いくら奇襲されたとはいえ仮面を被って出てこいよ。その仮面はお前たちのシンボルだろ?」
ワーグは面白そうに笑うと指摘され顔を赤くしながら自らの顔を撫でた男へと斬りかかる。男は1度ワーグの剣を防御したが、もう片方の剣で簡単に切り伏せられた。
シャツを血で染めながら男は倒れる。
ワーグは周囲に視線をめぐらすと、次の獲物めがけてコンテナハウスが立ち並ぶ奥へと走り出した。
同じく上級職員たちは散開し走りながらコンテナハウスから出てくるゾルタリウスを切り伏せ始めた。
それは一方的な戦いになった。出てきたところを次々と切り伏せられていくゾルタリウス達。
「くそ、解放者が! 死ねぇぇぇぇぇ!」
雄たけびを上げながら突撃してきた男をワーグは瞬時に切り伏せると視界の隅にコンテナハウスの扉が開くのが映った。そして瞬時に走り寄る。
「もう、何の騒ぎよ!」
そのコンテナハウスから苛立ちの声を上げながら出てきた仮面の者を切り伏せようと剣を振り上げた。
「女? ちっ!」
ワーグは髪の長さとネグリジェにローブ姿の胸が盛り上がっているの確認すると、切り伏せる方針を変える。振り上げた剣の柄を振り下ろし女の頭を殴って気絶させた。
「それは女だっているよな……」
地面に倒れた女を一瞥すると、近くにいた職員を呼びつけた。
「おい! ここにいる女を拘束しておけ」
その時、室内から若い女の声が聞こえた。
「どう? 外の喧騒はなんなの?」
「チ、まだいるのか・・・・」
ワーグは舌打ちすると室内に入る。
「な、なんですか、あなたは!?」
左手から女性の誰何の叫びが上がった。
ワーグが声がした方を向くとベッドが3つあり、2人のネグリジェ姿の女性がベッドの上でシーツを手繰り寄せて体を隠しながらワーグを睨んでいた。1人は30代、もう1人は20代前半といった所だろうか。
2人の女性はワーグの血濡れた2本の剣を見ると、怯えた様にベッドの上から壁際まで下がった。
「その怯えよう、お前ら明らかに戦闘員じゃないな……抵抗しなければ何もしねえよ。おとなしくしてろ」
ワーグはため息をつくと外に出て女性を拘束していた職員に声をかけた。
「おい、中にも女がいる。拘束しておけ」
「了解です」
職員が頷いたのを見るとワーグはさらに奥へと走り出した。
クラリティーナは宿舎へと続く道を走っていた。ある程度走ると前方から複数の足音が聞こえてきた。
音が聞こえてくる前方を睨みながら剣を抜き構えるクラリティーナ。しかし近寄ってくる者達を見て剣を収めた。
「クラリティーナ様」
ガリウス達だった。
「魔獣は鎮圧しました。そちらの状況は?」
「私が離れる時は交戦中でしたが、状況から推測するにもうすぐ制圧が完了するでしょう」
「そうですか。後ろのあなた達はこのまま進むと実験場があります。中に倒れているゾルタリウスの確認をお願いします。電撃で倒したものもいます。中には生きている者もいるはずですので、その者達は拘束しておいてください。宿舎でまとめて尋問します。宿舎の制圧が完了次第、運ばせる者をそちらに回しますので宿舎の方まで運んでくださいね」
「畏まりました」
3人の職員は一礼すると中央の実験場へと走っていく。
クラリティーナとガリウスが走り去る職員の背を見つめていたところにワーグから無線が入った。
「こちらワーグ、制圧は完了したぜ」
「ご苦労様です。私も向かいます」
クラリティーナは返答するとガリウスと共に宿舎へと向かった。
宿舎前の広場には総勢40人近くが縛られ地面に転がされていた。中には腕などの体の一部を失ったり呼吸をしているのもどうかと思うほど出血して倒れている者もいる。
仮面は剥がされ全員素顔をさらしていた。
そしてワーグは広場にあった椅子の1つに座りながらあくびをしていた。周囲にいる上級職員たちが油断の無い視線を転がっているゾルタリウス達に向けている。
クラリティーナは到着し転がされているゾルタリウス達を見て苦笑した。
「これ程の数のゾルタリウスの方々の素顔を見るのは初めてですね」
クラリティーナの姿を確認した上級職員の1人が報告を始めた。
「宿舎は完全に制圧いたしました。ゾルタリウスは全て無力化し、通信機器も操作不能としてあります」
「ご苦労様です。あなたたちの中から4人程中央へ向かわせて」
「了解しました」
4人の職員が中央へ走り始める。
「どうですか、ワーグ? 体は温まったのでしょうか?」
声を掛けられたワーグはちらりとクラリティーナを見るとため息をついた。
「多少はな……けど、不意を突いたとはいえ、こいつら弱すぎだな。眠気ざましにもならね」
クラリティーナは苦笑すると転がっているゾルタリウス達を見渡した。
「さて、あなた達にはこの場で聞きたいことがあります」
クラリティーナの言葉を聞いたゾルタリウス達に緊張と脅えが走った。
戦闘員らしき男たちは唇をきつく結び、何も話すまいとの意思を示す。
最初に捕らえられた3人とその後に捕らえられた計6人程いる女性や余り鍛えていないような体格の男たちは怯えた瞳でクラリティーナを見上げた。
「団長、こいつらを尋問するのか。俺が選ぼう」
ワーグは椅子から立ち上がるとゾルタリウス達の間を見聞するようにじっくりと観察しながら歩いて行く。
「こいつは喋らなそうだな……お、まずはこいつにしよう」
ワーグはまだ新米らしき肩口から血を流している若い男をクラリティーナの前に引きずりだす。
その男はクラリティーナの顔を見て一瞬見惚れるがすぐに目をそらした。
「お、俺は何も知らない」
男が答えた瞬間ワーグは足をナイフで刺した。
「ぐぁ!」
痛みに顔をゆがめる男。
「聞く前に何勝手にしゃべってるんだよ!」
ワーグはさらにもう1度刺そうとナイフを振り上げたがクラリティーナが制した。
「ワーグ、戦闘は終了したのです。捕虜への暴行はよくありません」
「チッ……団長はお優しいなぁ」
ワーグは舌打ちすると1歩下がった。
クラリティーナはしゃがみ込み苦悶の表所を浮かべる男を見つめる。
「ここはいったい何の施設何でしょう。あなたの知っている事を教えてくれるかしら? もちろんタダではありません。情報の有用性に応じてそれ相応の報酬はあります。例えば減刑への口添えをしてあげるとかですね」
「減刑……」
「ええ、あなた達も存じているように、今、国際治安維持協会ではゾルタリウス殲滅局が設立されようとしています。あなたの罪に応じてですがゾルタリウスの構成員という事だけでも重い罪に問われることになる可能性があります。死刑か無期懲役か……」
男はそれを聞いて生唾を飲み込む。
「馬鹿者、惑わされるな。何もしゃべるんじゃない!」
若い男の上役なのかベテランらしき壮年の男が顔を上げ叫んだ。
「お前に聞いてねえよ!」
ワーグはその男の顔を踏みつけた。
「ワーグ、手荒な真似はダメですよ」
「分かってるよ……」
クラリティーナに注意され、ワーグは足をどけた。
「さて、どうかしら?」
「いや……俺は本当になにも知らない。ただ、新兵器の警備をしろと言われただけで……」
男は視線をそらしながらそれだけ答えた。
「そう、新兵器……あの魔獣に装着してあった兵器の事かしら……」
クラリティーナは呟くと上級職員の1人に目配せする。職員がクラリティーナの前から男を引きずり下がらせた。
「おい、そこの女。おまえ何か知ってそうだな!」
ワーグは女性たちを鋭い視線で見つめた。
「わっ、私は何も知らないわ。私は医者よ! 医官としてこの場にいるわ!」
30代の女性が声をあげる。そして近くにいた女性も必死に否定した。
「私は看護師よ。そんな兵器の事なんて知らないわ!」
「私も看護師です。信じてください!」
20代の女性2人は怯え、涙にぬれた瞳でワーグを見つめる。
「お前達じゃねえよ。そこの三つ編みの女。お前だよ」
指さされた三つ編みの若い女性は地面を見つめたまま震えはじめた。
「わ、私は何も知りません!」
「そこの女たちが医療系だというなら、残りの女3人とそこら辺に固まっている明らかに戦闘員じゃない男たちは技術者だろ?」
「い、いえ違います。私たちは食堂の料理人です! それに私はアルバイトで来た単なる学生です!」
「ば、馬鹿者……余計な事言うな……」
近くにいた中年の小太りな男が呟きながらその女性を睨んだ。
「学生?」
ワーグはその女性に近寄ると髪の毛を掴む。無理やり顔を上げさせると確認した。
「いっ、痛い」
その女性は髪の毛を引っ張られた痛みにぎゅっと目を閉じながら震えた。
「確かに若いな……まだ大学生って感じだな。20前後か……つまりお前らあれか。どこかの大学の研究室の一団か?」
その言葉を聞いて残りの2人の女性が明らかに動揺して身震いした。
「つまりゾルタリウスに協力している大学もしくは研究室があるという事ですか」
クラリティーナもゆっくりと女性たちに近寄っていく。
「団長、拷問して吐かせようぜ。そこの職業意識が高そうな男達は話さなくても、怯えているこの女たちならすぐにしゃべってくれそうだぜ」
「ワーグ……お前、いい加減にしないか。いくらテロ組織が相手でも女性に対してそのような非道な事は見過ごせんぞ」
ガリウスがワーグを止めようと動こうとしたとき壮年の男から罵声が飛んだ。
「貴様! この悪魔め! 我らがゾルタリウスの純粋な娘に傷一つ付けてみろ! 必ず殺してやる!」
つられるように口々にワーグを罵り始めたゾルタリウス達を見て、クラリティーナはあきれ返った。
「あなたたちによる先日のイドラーオースのショッピングモールでのテロや今まで行ってきたテロで巻き添えになった市民の中にもちろん女性もいたと思うのですが、それについてはどう思っているんですか?」
クラリティーナが目を細めてゾルタリウスを見回すとバツが悪そうに口つぐんだ。
しかし壮年の男はクラリティーナを睨みつけ唾を吐いた。
「貴様らと我々では命の価値が違うわ!」
それを聞いた解放者の職員たちは眉をひそめた。
「おいおい……」
「選民思想かよ……」
「お前さっきからうるせえな!」
ワーグは再び壮年の男に近づき頭を踏みつけ顔面を地面に押し付けた。
踏みつけられた壮年の男は息が出来ないのか激しく身じろぎする。
クラリティーナは壮年の男の言った事が気になり考えこみ始めた。
(純粋な娘?……本当にそのままの意味かしら……)
その時、閃光が空に走った。
「クラリティーナ様!」
ガリウスが咄嗟に気付き注意を促す。
クラリティーナは思考を中断すると空を見上げた。
光線が広場めがけて振り下ろされてくる。クラリティーナの顔に焦りがうかんだ。
「ガリウス、防いで!」
クラリティーナは叫ぶと空間収納からガリウスの盾を瞬時に出す。
ガリウスは盾を受け取るとボタンを押した。左右に広がり幅4m近い盾となる。その場にいる全員の前に出ると、振り下ろされるレーザーに対して両手で盾を構えた。
そして全身から凄まじいゼファレスのオーラが迸ると筋肉が肥大化した。
「全員レーザーの余波をガリウスの盾から逃さない様に盾の左右に障壁を展開! ワーグ、あなたは私に続いて。魔獣を止めに行きます!」
「了解!」
解放者の職員たちはすぐさま動き、クラリティーナとワーグは中央の実験場へと走り出した。
そして光線は広場へと振り下ろされた。
「うぉぉぉぉぉ」
ガリウスの盾が極光のレーザーを受け止める。
ガリウスはゼファレスを滾らせ全力の身体強化と盾の物体操作でレーザーを受け止めた。
だが、イリジウムを含有し特殊な方法で生成されたナノファーイバーをベースにし、それに数種類の金属原子を特殊な方法で結合させた、大変頑丈で様々な耐性がある素材で作られたガリウスの盾だったが、レーザーの直撃によって亀裂が入った。
ガリウスはそれを確認すると一瞬驚愕に目を見開いたが、瞬時に障壁を展開する。
「何があろうと必ず止める!」
ガリウスが歯を食いしばると、ゼファレスはさらに滾り凄まじいオーラが迸る。
盾に重ねる様に展開したガリウスの障壁だが、その障壁にも亀裂が入る。ひび割れた隙間からレーザーが盾を穿つがガリウスは瞬時に障壁を修復する。それが幾度も繰り返された。
さらに周りでは上級職員達も必死でガリウスの盾の周りに障壁を張り、ガリウスの盾や障壁とレーザーの衝突の余波を防いでいた。
余波と言っても破滅的な威力のレーザーだ。余波ですら上級職員数人によって重ねられた障壁を破壊していく。そのたびに障壁を修復する。
ガリウスの盾や障壁と上級職員達による障壁がレーザーを必死に凌いでいる様子を、ゾルタリウスの壮年の男は機会をうかがう様にじっと見つめていた。
クラリティーナとワーグが実験場に着くと、先に来ていた職員たちが魔獣を止めようと剣を突き立てていた。魔獣は出血しながら先程とは打って変わって痛みなど感じていないかの様に暴れることなくひたすら宿舎に向けて光線を放っている。
「おとなしくしやがれ!」
ワーグは雄たけびを上げると同じように魔獣を切りつけ始めた。
クラリティーナは周囲を見渡し研究棟らしき建物の窓から男が1人この様子を眺めている事に気が付いたが、男を捕らえるよりも魔獣を止める方を優先した。
「あなた達、下がりなさい!」
クラリティーナは光線を放っている砲身が装着された頭の付け根あたりに飛び乗ると剣を突き刺した。
そして再び電流を流し始める。
電流を流されたためか魔獣が暴れ始めた。
それにつられ光線も暴れ、研究棟を吹き飛ばした。
研究棟が吹き飛ばされる寸前、視界の隅にこちらの様子を眺めていた男が逃げようとしたのが見えたが、あの様子では光線に消し飛ばされただろう。
クラリティーナは電流の威力を上げる。魔獣の体から先程よりも激しい放電が起きる程の電流を流し込む。
「いい加減に沈みなさい!」
クラリティーナはさらに威力を上げた。
すると光線の放出が止まり魔獣が沈黙した。
魔獣が沈黙するとワーグがすぐさま腕を身体強化し、剣にゼファレスをまとわした。
そして一瞬で詰め寄ると魔獣の首元から頭目掛けて深々と切り裂いた。
魔獣の首から大量に血が流れだす。魔獣は失血し完全に息絶えた。
クラリティーナは息絶えた魔獣から飛び降りると一呼吸つき、周囲を見渡す。
上級職員たちは周囲に縛られ転がされていたゾルタリウスの男たちを確認していた。
どうやら先程まで生きていた者も、再度の電流の余波で感電し完全に息絶えたようで動くものは居なかった。
最後の1人の生死の確認が終わり上級職員がクラリティーナに報告しようとした時、宿舎の方から激しい爆発音が聞こえた。
「次から次へと今度はなんなのでしょう……。ワーグ、急いで戻ります。他の者達はこの場のゾルタリウスの死体を宿舎まで運んでください」
クラリティーナは命令を下すとワーグと共に宿舎へと再度走り始めた。
クラリティーナとワーグが広場へ戻るとガリウスや残っていた職員たちがゾルタリウスの傷んだ死体を並べていた。一部の解放者の上級職員は怪我をしたのか地面に座り込んでいる。
「何があったのですか?」
クラリティーナはガリウスに問う。
「申し訳ございません。光線が止まった瞬間の気が緩んだ隙を狙われました。戦闘員たちが組み付いてきて、対処している間に女性や技術者と思われる男たちに逃げられました。その後、戦闘員を制圧したのですが、1人の男の体が溶けたと思ったら、上役らしき壮年の男が火球を創成しました。止める暇もなく火球を撃たれ、その瞬間爆発が起きました。瞬時に障壁を張り大半の者は事なきことを得ましたが、一部の者が障壁を破壊され火傷を負いました。しかしご安心ください。怪我をした者達は皆軽傷です。そして逃亡した者達は海上へと逃れたかと思われます。追跡しますか?」
クラリティーナは少し考えた。
「いえ、やめておきましょう。もしボートではなく潜水艇で逃げられたのなら追跡は難しいでしょう。それよりもこの場の回収作業を優先してください。魔獣や兵器、資料の確認をして搬送準備をしましょう。支部に連絡を入れて国際治安維持協会から調査員の派遣の要請をするようにお願いしてください。さらに搬送の為の船舶確保や手続き、運搬の人員を派遣するようにお願いしてください。ですがその前にまず飛空艇を呼び寄せましょう」
「了解しました」
ガリウスは無線で飛空艇に連絡を入れた。
クラリティーナはガリウスが無線で連絡を入れている間、焼け焦げ肉片となった者達を見渡していた。
「やはりゾルタリウスの生存者はいませんか?」
「あの威力の爆発でしたので付近にいたゾルタリウスが生きているとは思えません」
「そうですか……結局生きてとらえることは出来なかったのですね」
「はい……大量に生きてとらえることが出来た快挙かと思ったのですが、残念です」
世界中でテロ活動をしているゾルタリウスだが、未だかつて捕らえて情報を引き出せた事が無かった。
「仕方ありません。せめてこの者達がどのように自爆したのか、飛空艇が来るまで私は残渣分析を済ませます」
クラリティーナはガリウスに告げると空間収納から掌に乗せられる大きさの装置とタブレットを取り出した。
「団長、それは?」
物珍しそうに上級職員の1人が装置をみるとクラリティーナに聞いてきた。
「これはゼファレス励起波長分散型元素分析機です。通常はX線を物質の励起源とするのですが、ゼファレスによる励起をすることでX線照射装置を付けなくてよいので、その分小型に出来たのです。これはうちの研究部門が設計図を書いて、東宝院精密機器に依頼して作ってもらった特注品です」
クラリティーナは装置とタブレットの電源を入れながら説明をした。
「特注品という事は販売していないのですか?」
「使えるのが私だけという、欠陥品です」
「団長だけ? 何故ですか?」
「ゼファレスで励起するという事は単に物質にエネルギーを与えれば良いというわけではありません。電子を認識し電子にエネルギーを与える必要があるのです。世界に私以外にも電子を操れる人がいればもちろん使えますが……」
「世界広しといえど、電子を操れるのは団長ぐらいなものですよ……」
その上級職員は苦笑するとコンテナハウスの確認へと向かった。
「ガリウス、溶けた者がいた所の土を取ってきてくれるかしら。土には決して素手で触れず、このシャーレに匙で採取するようにお願いします」
「畏まりました」
クラリティーナからシャーレと匙を受け取るとガリウスは爆発の後にある土を採取した。
「この様な土から爆発物が検出できるのですか?」
「この装置の検出限界は1ppmです。爆発時に物質全てが完全に化学反応を起こし、構成元素が遠方まで拡散してしまえば、もちろん検出できません。けど、通常はそんなことはありえず、液体ならば土に染みこんだはずなのです。爆発である程度土が散ってしまったとはいえ、残っている可能性は高いでしょう」
クラリティーナはガリウスから土を受け取るとサンプルホルダーに土をセットし始めた。
「ガリウス、今度は遠く離れたところから、これと同じような土を取ってきてくれるかしら」
ガリウスは新たにシャーレと匙を受け取ると土を採取しにいく。
クラリティーナが装置にサンプルをセットする。タブレットを操作すると装置から真空排気の音が鳴り始めた。しばらくするとタブレットに真空排気完了と表示される。
クラリティーナは装置に手をかざすと、装置の中にある土に左手でゼファレスを流し始めた。
右手でタブレットを操作する。
すぐに画面にスペクトルが表示され始めた。
「炭素、窒素、酸素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、カリウム、カルシウム……色々出てきますね」
しばらくすると分析完了と表示された。
装置から土を取り出し、今度はガリウスが別の場所から採取してきた土をセットする。
同じように真空排気が完了すると分析を開始した。
すぐにスペクトルが表示され全く同じ元素が検出される。
「これで分かるのですか?」
ガリウスはタブレットを見ながらクラリティーナに聞いた。
「ええ、見ててください」
クラリティーナはタブレットを操作する。
「見ての通り、最初に測定した土は後から測定した土よりも炭素と窒素と酸素の比率が若干多いです。つまりこれが爆発物の組成と考えられます。最初に測定した土のこれらの元素比率から後から測定した土の分を引くと、多い分が出ます。これは質量比率なのでそれぞれを原子量で割り整数比に直して数値を丸めると組成がでます」
タブレットにはC7N3O6と表示された。
クラリティーナはさらにタブレットに爆発物で液体と入力する。
タブレットにインストールされている化学物質のライブラリから検索が始まる。
すると、すぐにニトログリセリンと表示された。
「ニトログリセリンですか。一般的な爆発物ですね。確か薬としても使われるとか……」
「成程……つまりニトログリセリンの爆発を防げるだけの障壁を張れる者でないならばゾルタリウスとの戦闘は避けるべきという事ですか」
ガリウスは考えを呟くように言う。
「一概にそうとは言い切れないかも知れませんよ。この者は溶けたと言いましたね。創成したのではなく……」
「はい、先日のイドラオースの事件で体が溶けた子供と同じように見えました」
「そうなると変質創成でしょうか……」
「クラリティーナ様、変質創成は大変難しく、一種類の物質をある一種類の物質に変質するだけでも大変な年月の修練が必要と聞きましたが……」
「ええ、そうです。ですが、その分メリットはあります。存在する原子をベースにするためゼファレスを温存でき、自分のゼファレスの力量では創成しにくい物質を創成できるというメリットです。しかし自分の体を媒体とするとは……変質時に体が失われるという事は激痛が発生するはずですが、良くそれで創成に集中できるものです……」
「確かに、驚くべき精神力です」
「何人溶けたのでしょうか?」
「1人だけでした」
「つまり、さすがに誰でも使えるというわけでは無いのでしょう。無暗に自爆攻撃を恐れる必要は無いかもしれませんね」
「そうであって欲しいというのが私の正直な意見です」
「そうですね。全員が習得しているならば1人だけよりももっと多くの人数が溶けたでしょうし」
「そういえば、クラリティーナ様は出来るのですか?」
「私ですか……子供の頃、面白半分に髪の毛を変質させようとしました。2か月ぐらい練習しましたが、結局出来なかったのであきらめてしまいました」
「クラリティーナ様でも難しいのですか? その……電子を創成することに比べたら簡単なようにも思えますが……」
「電子の創成も簡単に出来るようになったわけではありませんよ。私は11歳の時から毎日のように取り組んで、戦闘でも使える様にスムーズに創成出来るようになったのは13歳になるころです。つまりウクテルに来て解放者を立ち上げた頃ですね」
「そのような努力をされていたのですか……初任務の時、クラリティーナ様が発電石や道具を使わず電撃をさも当たり前のように放っていたので、てっきりウクテルに来てから習得されたのかとばかり思っていましたが……」
「まさか、私を買いかぶりすぎですよ」
装置を片付けていたクラリティーナはガリウスを見ながら苦笑する。
ワーグの監督の下、上級職員たちがコンテナハウスを調査する中、クラリティーナとガリウスは今後の対応について話し合いを続けていた。
その後、飛空艇が到着するとクラリティーナは一部の上級職員達にこの場を任せ、ガリウスやワーグその他の職員達とホテルへと戻った。そしてガリウスと支部職員が搬送のために役所や業者と話をつけると、翌日には飛空艇でウクテルへの帰路に就いた。
界斗は火曜日、学校から戻り体力トレーニングなどの訓練を終え、夕食を食べに食堂に行くとやけに騒がしいことに気付いた。
「蔵林さん、何か騒がしいようですが、何かあったんですか?」
界斗は1人で食後のコーヒを飲んでいたアミリエに声を掛けた。
「あら真田君、席は空いているわ。座って」
「すみません、失礼します」
界斗は夕食のチキンカツ香味ソース掛け定食を食べ始める。
アミリエは界斗が食べ始めるのを見ると話し始めた。
「実はね、団長たちが遠征に行っていたんだけど、そこでゾルタリウスの実験拠点を制圧して大物を仕留めて兵器を鹵獲したのよ」
「ゾルタリウスの兵器ですか?」
「そうよ。詳しいことはこちらに搬送して専門の研究所で解析してから分かるのだけど、クランの功績としては久々の大功なのよ。それでみんな興奮してるわけ」
「あのゾルタリウスに大打撃を与えられたんですね……」
「そうね……そうだといいわ」
界斗は自分も参加したかっと残念に思いながらも気持ちが昂っていくのを抑えられなかった。
そのころゾルタリウスの仮面をつけた白髪の初老の男性は画面越しに部下から報告を受けていた。画面には最高指導者と呼ばれた男性も映っている。
「申し訳ございません。解放者にエトプティの実験拠点を制圧され兵器を鹵獲されました」
「解放者……アウルフィード・クラリティーナか……それで我らが同胞は?」
「殆どの技術者たちと医官達は無事に保護しました。しかし技術責任者と警備指揮官は捕虜もしくは死亡したものと思われます……さらに中級士官2名が亡くなりました。大変無念です……」
「ふ~む、そうか……我らが同胞に戦死者が出たか……もうよい、下がってよい」
画面から報告をしていた男が消えた。
初老の老人は目をつぶると深いため息をつく。そして席を立ちあがると窓から外を見つめる。
「お前たちの魂は我らと共に必ずゾルタリウスへと……」
呟くと天を仰ぎ見て祈りを捧げた。
「老よ、どうする? あれはグルバニオルから無償提供されたゼファレス人工生命体であろう?」
最高指導者から画面越しに声をかけられ振り返った。
「グルバニオルか、格下の分際で厚かましいものよ。無償などとぬかして戦闘データーを寄越せと言っておったのだかなら。下でに出て我らゾルタリウスをデーター収集の使い走りにしようなどとは魂胆が見え見えよ。そもそも600年以上も経つ話だ。今更データーもなにも必要あるまい。それに当時の者達が生きているとは思えぬ。我らの様な特別な事情でもない限り、眠りにつくことはないであろう?」
「確かにそうだな。では兵器の方はどうする? 今頃はエトプティあたりの倉庫に保管されていよう」
「ふむ……確かにあれは解析されるとまずいな……彼女は力の一端が発覚しようものなら怒り狂うかもしれん。ただでさえ情緒が不安定だからな」
初老の男性は再び席に着くと腕を組み考え始めた。
「私は殲滅局への対応を優先し、この件は保留として機を伺う方が良いかと思うが?」
「そうであるな。最高指導者であるお主が決めたのならそれでよい。他に良い案も浮かばぬしな」
「ふむ……では、次はクラリティーナの対処だな」
「そうだな。あれは放置しすぎだ。正直、お主には悪いが、あの若造は馬鹿者と呼びたくなる」
「老が苦言を呈するのはわかるが、あれは私の腹心の息子。血筋的には優秀なはずなのだから幹部にした。だが相手を計る目が無いのであれば仕方あるまい。クラリティーナに対処するよう私から命令しておこう」
「そうだな。ただでさえ色々と予定が狂っている。彼女が我々に愛想をつかすやもしれぬぞ」
「私はいくらゾルタリスへの道を示したとはいえ、平凡な血筋の彼女が我々と肩を並べるがごとく振舞うのは好かぬのだがな」
「仕方あるまい。功績には正しく報いなくてはな。それに彼女は特別。なにせ天救神ベクシュトスのお呼びがかかる程だったのだからな」
「その話は真なのか? 彼女の妄想ではなく?」
「当時、神僚であったグリスフェーム殿から聞いたのだから間違いない」
「……」
最高指導者は沈黙した。どうやら彼女とやらが気に入らないらしい。
「まあ、お主の感情は置いておいて、終焉は彼女が握っているということだけは忘れるでないぞ」
「分かっている。私の望みをかなえるためにも彼女の機嫌を損ねるような事はしまい」
「そうだな。では、本日はこれまでとしよう。救世のために彼の者の力と共に我らがゾルタリウスへと」
「老よ。彼女への報告は任せたぞ。では失礼する。救世のために彼の者の力と共に我らがゾルタリウスへと」
初老の男性は通信を切ると仮面を外す。そして席を立ち室内を後にした。




