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キョウシュウキ(郷愁鬼、凶集鬼) L 世界を保全せし意思と約束の果て  作者: 新宿ソナタ
第二章:新しき出会い、シスダール学院1学期編
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第10話 サイクリング (約17,000文字)

「6組は全員合格だ。一部まだ火炎渦の出来が拙い者がいるが良しとしよう。レポートも申し分ない。特にソフィスティード班の出来は大変すばらしかった」


 アルメドスに褒められ界斗達6組の生徒は喜びの声を上げる。


「対して5組はまだまだだな。ではヒントを与える」


 アルメドスは界斗やダニエル達が図書館で調べた内容と同じような事を話し始めた。

 それを聞きながら自分たちが調べた事が正しかったと思うダニエル。少しどこかバツの悪そうなアメリ達。実は図書館に行った後ダニエル達とアメリ達は琴絵の呼びかけでお互い調べた内容を見せあっていた。そして確認した結果ダニエル達の方が正しそうという事になり、それに基づいてレポートを書いていた。


「さて、6組は全員合格したとはいえ、授業中である。各自もっとうまくできる様に練習する事。では、練習開始!」




 午前の授業が終わり食堂で昼食を食べながら界斗達6組の男子生徒は6月の第2月曜日にある建都記念日に何をするか話していた。


「3連休だもんな。折角だからどこかに遊びに行きたいよな。最近、勉強部活づくめだしな。学校も部活も無いんだから、たまには1日勉強を休んで遊びたいよ」


 浩然の提案に相打ちをするダニエルやサイラス、セディウス。

 しかしホセルやジェード達他の男子は黙っている。どうやら乗り気ではないみたいだ。


「真田君はどうするんだい?」


 界斗が黙っていると向かいのダニエルが声をかけた。


「毎週土曜日は巡視任務だし、日曜は訓練する予定だし。月曜に学校が休みでも訓練するかな……ちょっと今の自分ではダメだと分かったから。もっと自主的に色々と訓練しないとって思って……」

「やっぱりハンターって大変なんだな。けどさ、息抜きも必要だぜ。どこか遊びに行かないか?」

「う~ん、そうだね……たまには皆と遊びに行くのもいいかな?」

「よし、そうこなくちゃ」


 界斗はここ最近の日曜日は訓練を休んでいたため、そろそろ訓練を本格的にしないとまずいと考えていたが、せっかくダニエル達が誘ってくれたのを断るのも悪いと思い了承した。


「で、どうするんですか? 具体的に」


 セディウスがダニエルや浩然に尋ねた。


「ゲーセンとか? 確かVRオンライン格闘ゲームの新しいの出たらしいじゃん。それともなにかスポーツ系アクティビティとかしに行く? 近くにあったっけ?」


 浩然は近くで遊びたいらしい。


「それよりもハバリスに行かないか?」


 ダニエルの提案を聞いてサイラスが首を傾げる。


「海水浴には少し早くない?」


 確かに建都記念日があるのは6月だ。5月の時点で少し暑い日がやってくるようになってきているが海水浴にはまだ早いだろう。


「そうじゃなくて、ハバリスの水族館がリニューアルしたんだってよ。行ってみたくないか?」

「佐伯君が水族館に興味あるとは、3年間友達をやっていて知りませんでしたよ」


 入学以来の友であるセディウスでもダニエルから水族館という単語を聞いたのは初めてだった。


「なにか結構話題になっているらしくてさ。俺は郊外学習ではハバリスが良かったんだけど、結局薬草園になったじゃん。だからちょっと行きたくてさ。ついでにバーベキューとかしようぜ。真田君もこの前ハバリスに行ってみたいって言ってたし」

「男だけで?」


 サイラスがダニエルに聞いた。


「そこは女子も誘ってさ」

「来るかな?」


 ダニエルとサイラスがクラスの女子達をどう誘うか話していると急に声を掛けられた。


「やあ君たち、楽しそうだね」


 そこにはラファエフがいた。どうやらクラスの男子たちと来たらしい。背後に3年生らしき男子生徒が5名ほどいた。


 周りの女子達が何か騒がしいと感じていたダニエルは原因はこれかと思った。

 ラファエフの彼女であり女優であるアルビラがいなかったため前回の騒ぎより小さく、疑問に思わなかったため騒ぎを気にしなかった。だからラファエフの接近にダニエルは気付けなかった。


「げ、総会長……」


 ダニエルは嫌そうに眉をしかめる。

 ラファエフはダニエルの態度に気付かないのか気にしないのか、ダニエルには見向きもせず空いていた界斗の隣に座ると話し始めた。


「こんにちは、真田君」

「あ、はい、どうも……」


 親しく握手を交わしたとはいえあまり面識のない上級生、しかも学生の長である総会長のラファエフにいきなり横に座られて緊張してしまう界斗。対してラファエフは先日の挨拶した時からもう友達感覚でいた。


「あのう……総会長、何か用でしょうか?」

「前にも言ったけどラファエフと呼んでくれていいよ。周りの親しい友人すべてに名前で呼び捨てにしてもらってるからね」

「え? そんな……先輩なんですし。呼び捨てなんて……」

「僕はこれから真田君の事を名前で呼ばせてもらうよ?」

「はぁ……わかりました。ではラファエフ先輩で……」

「そうか……そうだね。さすがに後輩から呼び捨てされるのはまずいか……ところで何を楽しそうに話していたんだい?」


 界斗が来月の建都記念日に遊びに行くことを説明する。


「確かに楽しそうだね。ハバリスの水族館か……佐伯君、僕とルリエラも行って良いかな?」


 ラファエフは先程まで話を仕切っていたダニエルに尋ねた。


「え? 総会長が、ですか……?」


 ダニエルはあからさまに嫌そうに返事をする。ラファエフが空気を読んであきらめてくれることを期待して……

 しかしラファエフはその様な空気を察しても気にはしなかった。


「ダメかい?」

「はぁ……わかりました」


 ダニエルは来てほしくなかったが総会長であるラファエフのお願いを断れるはずもなく仕方なく了承した


「え? 総会長も来るのかよ……」


 それを聞いてサイラスと浩然はこそこそと話していた。




 界斗は食堂を出て渡り廊下を歩きながらため息をついた。食べ終わり席を立とうとした瞬間呼び止められ、ラファエフから中等部女子がルリエラだけだと可哀そうだからフィアリスも誘ってほしいと頼まれたことをどうしようか考えていた。

 ダニエルは少し不機嫌になり黙りながら歩いている。対照的に浩然やサイラスは総会長と仲良くなるのも悪くないと話しながらどう仲良くなるか話していた。セディウスはその光景を一番後ろで面白そうに眺めている。

 食堂で話しながら食べていると予定が追加され、帰りは列車だが行きはセデュー川サイクリングコース沿いにあるレンタサイクル店でレンタサイクルをして、サイクリングをしながらハバリスに行くことに決まった。集合はレンタサイクル店前である。

 そして教室に戻りダニエルがクラスの女子を誘った結果、琴絵、そして琴絵と仲の良いフェネル班のイルマス・フィセナが参加することとなった。

 その後、界斗が寮に戻ってルイバンに話をするとルイバンからフィアリスへ話してくれることとなったが、フィアリスがルイバンも来るようにだだをこねた為、ルイバンも参加することとなった。

 そしてフィアリスがさらに奈美恵も誘い、当日の人数は10人を超える大所帯で行くこととなった。




「真田君、動画ありがとう。見たよ、あの連射速度はさすがだな」

「そうかな……結局団長に負けちゃったからね」

「それは仕方ない。相手がアウルフィード様だもんな」

「そうです。ダニエル君の言う通り、いくらなんでもアウルフィード様に勝とうというのが無謀な考えというものです」


 6月になり建都記念日の祝日が来た。界斗は集合場所であるレンタサイクル店前に来ていた。目の前に見える大河セデュー川を先に来ていたダニエルやセディウスと一緒に眺めながらベンチに座っていた。そして一昨日の土曜日の任務の後、メールでダニエルに送った決闘の動画について話していると声を掛けられた。


「君たち、おはよう」


 爽やかな声で挨拶をされ界斗達が振り返ると、そこにはラファエフとルリエラが立っていた。


「あ、おはようございます」


 界斗が挨拶し、ダニエルとセディウスは会釈をする。ルリエラも恥ずかしそうに会釈をしてきた。


「みんな集まってるよ。さあ、自転車を借りて出発しよう」




 風光明媚な大河セデュー川はウクテル、ハバリスの両都市の観光として利用されていた。 

 サイクリングロードを政庁が敷設し、レンタサイクル店も公営で運営されていた。

 ラファエフが代表して全員の自転車を借りてくる。

 国主の息子だからなのか政庁の職員割引きを適用され格安で借りることが出来た。

 そして揃って自転車に乗りハバリスの河口まで約30kmの道のりを走り始めた。

 自動車が2台並んで走れるほど広い川岸のサイクリングロードを朝のすがすがしい空気の中走っていく。

 セデュー川のゆったりとした流れを見ながら界斗は最後尾を走っていた。そして遊覧船や貨物船のような大型の船が時折見える度に横を向きまじまじと眺める。

 先頭はラファエフでその後ろをルリエラが一生懸命付いて行っている。

 さらにその後ろをフィアリスはルイバンと並走しながら楽しそうに話している。

 ダニエル、セディウス、サイラス、浩然は4人で固まり、琴絵とフィセナは2人で話しながら、奈美恵は1人で界斗の少し前を走っている


「総会長が来るなんて、佐伯君言ってなかったよね~」

「そうだよね。けど、そんな事聞くなんて、もしかしてフィセナは総会長のハーレムに入りたいの?」

「え? どうかな……そういう琴絵はどうなの?」

「それは無いよ。私がメディエルさん達の中に入ったらおかしいよ」

「ほんとあの人たち美人ぞろいだもんね~」


 琴絵とフィセナはラファエフの事を本人に聞こえないような絶妙の声量で楽しそうに話している。


「ダニエル君、なんだか増えましたね」

「ははは、そうだな。俺も来てびっくりしたよ。中等部の子やヴァイゼフさんが来るなんて聞いてなかった」


 ダニエルは前を走るルイバンとフィアリスを見た。


「別にいいんじゃない? 大勢の方が楽しいだろうし」


 浩然は一気に増えた参加者たちにも好意的だ。


「そうだな、折角だしな」


 サイラスも面識のないルイバン達が居ても気にしなかった。




 時折同じく自転車を漕いでる人、マラソンをしている人やペットを連れて散歩している人などとすれ違いながら、一同はルリエラのペースに合わせて少しゆっくりとしたスピードで自転車を漕いでいた。

 水面が日の光を反射してキラキラと輝くのを見ながら界斗はたまにこういった遠出をするのもいいなと思った。


「気持ちのいい朝ね。こんどチームのみんなで来てもいいかも」


 奈美恵が速度を落とし界斗と並びながら話しかけてきた。


「そうだね。けど、鈴原さんはともかく劉さんはサイクリングなんてするの? お金持ちのお嬢様なんでしょ?」

「いくらんでもそれは偏見よ。依琳だって自転車ぐらい乗るわ。一緒に街中で遊んだことあるもの」

「そっか……そうなるとディンクさんやロペーツさんだね。大人が自転車でサイクリングなんてするかな?」

「最近大人でも流行ってるらしいわよ。健康ブームとかで自分の足をつかいましょうみたいな。ほら、走っている人たちほとんど大人でしょ」

「確かに……」


 界斗は周囲を見回すと頷いた。


「そういえば昨日の実践訓練はどうだったの?」

「まあまあかな……皆みたいにうまく倒せないけど……」

「そうね……そう簡単に戦えるようになるものでもないわね」


 界斗は一昨日の土曜日の巡視任務でも、結局犬もどきと拙劣な戦いを繰り広げたため、毎週日曜日はハミルトの監督の下、例の林の前に陣取り出てきた犬もどき相手に実践訓練をすることとなった。毎週日曜日は自主訓練をするつもりでいたが、それが強制的な実戦訓練となった。


「しばらく訓練すればうまく戦えるようになるわよ」

「そうだね。頑張るよ」


 界斗は1日も早く奈美恵たちの戦いぶりに負けない様になろうと思った。




 1時間ちょっと走ると広場が見えてきた。

 サッカー場程もある芝生の広場が整備され、その向こう側には売店も見える。


「休憩にしよう」


 ラファエフの一言で一同は広場の入り口付近にある駐輪スペースに自転車を止めた。

 1番年下で小柄なルリエラには体力的にハードだったのだろう。頬は上気し、少し呼吸が荒かった。


「ルリエラ大丈夫かい?」

「はい、お兄様……」


 ラファエフは一同を見回す


「界斗君とルイバン君は僕について来てくれ。他の人たちは休んでいてくれたまえ。飲み物を買ってこよう」


 ラファエフは皆の希望を聞き、界斗、ルイバンを連れて売店へ向かう。奈美恵達女子4人やダニエル、セディウス、浩然、サイラスの4人はその場に残った。


 界斗達は売店に入り飲み物を買うと3人で手分けして袋に入れて貰ったペットボトルを持ちながら売店を出る。そして出た瞬間、騒がしいことに気付いた。

 駐輪スペースの近くで男3人が女子達に絡み、奈美恵がルリエラと琴絵とフィセナを庇っている。フィアリスは敵意剥き出しで睨みつけていた。そして近くではダニエル達が他の男2人と揉めていた。


「何事だろうね? 急ごう」


 ラファエフを先頭に界斗とルイバンは駆け出した。




「おい、いいだろ少しぐらい付き合ってくれたってよ」


 人相が悪くガタイのいい男が奈美恵の肩を掴む。


「離してください」


 奈美恵が男の手を振り払う。フィアリスは男を殴ろうと拳を固める。


「いや!」


 琴絵の腕を別の男が掴んでいた。


「お前ら、ふざけんなよ!」


 サイラスが怒鳴りながら琴絵の腕を掴んでいる男に近寄るとその腕を掴んだ。


「うるせぇ!」


 そこにさらに別の男がサイラスを突き飛ばす。


「あ! 大丈夫? ロンドセーク君・・・・・・」


 サイラスが倒れると琴絵が心配そうに見た。


「お前ら……」


 サイラスは立ち上がりながら突き飛ばした男を睨み拳を握りしめる。


「私はこれでもハンターですよ。いい加減にしないと、どうなるか分かりませんよ」


 奈美恵も目の前の男を睨みつけた。


「へ~、奇遇だな。どこのクランよ? 実は俺もハンターなんだぜ。黒滅のイビルセトスって知ってるか?」


 奈美恵はその名前を聞いて眉をしかめた。実力はあるが粗暴な団員が多いことで有名だった。そしてウクテル近郊の治安上昇に伴う依頼数低下のあおりを受けて真っ先に協会依頼を減らされ認定取り消しも時間の問題と言われているクランだった。


「ハンター同士の誼じゃないか。ちょっとぐらい付き合ってくれてもいいじゃないか」


 男が奈美恵に詰め寄る。奈美恵はそんなクランと揉め事は起こしたくなかったが、だからといって言いなりになるつもりもない。


(どうやってこの人をあしらえばいいのかしら……)


 勉強とハンター活動一筋で生活してきた15歳の奈美恵にこのような男をあしらう知識はなかった。

 男の瞳を睨みつけながら、奈美恵が実力で排除するしか対処する方法が無いのか悩み始めた時、声がした。


「君たち、何をしているのかな?」


 ラファエフ達が駆け寄ってきた。


「何だ、お前たちは?」


 男がラファエフを見る。


「お、お兄様……」


 ルリエラがホッとして呟いた。


「お兄様? チッ、めんどくせえな」


 男はルリエラの呟きを聞くと舌打ちした。


(あれ? あいつ、どこかで……)


 界斗は男の顔を見てどこかで見たことがあると必死に思い出そうとしていた。


(げ、あのときの不良じゃないか……)


 奈美恵たちに絡んだのは解放者に誘われた日の学校の帰り道で界斗に絡んだダンドンと呼ばれていた男とその取り巻きたちだった。


(なんでこんな所に居るんだよ……)


 界斗がダンドンを思い出したように、界斗の顔を見た取り巻きの1人も界斗を思い出した。


「ダンドンさん、あいつ、以前の奴ですよ」

「以前?」


 だがダンドンは忘れていた。


「ほら、ダンドンさんがクランの先輩に言われたとかで……忘れちゃったんですか?」

「ああ、あの時ウザイ教師が来てやり損ねたガキか……」


 思い出したダンドンは奈美恵から離れ、界斗達と向き合う。


(はぁ、仕方ない……やるか……)


 界斗はダンドンに睨まれると、臨戦態勢に入った。飲み物が入った袋を地面に置く。昨日の犬もどきを相手にした実践訓練を思い出し、左手に障壁を、右手に火球を創成するためにゼファレスを集中させ始める。

 しかし界斗が火球を創成しようとすると、ラファエフが界斗の肩に手を置いて前に出た。

 どうやらラファエフが相手をするようだ。界斗がラファエフの顔を横目で見るとラファエフは任せてくれと言わんばかりに頷いた。


「君たちが絡んでいるのは僕の妹だけでなく、後輩たちでもある。いますぐ去るなら見逃してあげるけど、どうする?」


 ラファエフがダンドンを始め取り巻き5人を見渡す。


「はぁ? こいつ、何言ってやがる。お前がダンドンさんに勝てるわけないだろ!」


 取り巻きの1人が吠える。


(なんだ、こいつは?)


 だがダンドンはラファエフを見て少々怖気づいた。それなりに鍛え訓練し場数も踏んでいた。だからラファエフの自信満々の態度と隙の無さを見て、確実に勝てる自信を持てなかった。しかし子分の手前ということもあり、性格上引く事は出来なかった。


「おもしれえじゃないか! テメエの妹の前で無様な面にしてやるよ!」


 己を鼓舞するように吠えるダンドン。

 ダンドンの右足からオーラが立ち込めゆっくりと上げられてゆく。そしてアスファルトの地面をすさまじい勢いで踏みつけた。アスファルトに亀裂が入り破片がわずかに飛び散る。


「ダンドンさんの身体強化だ! 骨ごと砕かれろ!」

 

 取り巻きたちが騒ぎ立てる。

 今まではこれでそこら辺の一般人は恐怖し、すぐさま許しを乞うてきた。ダンドンは隙の無いラファエフがこれに怖気づいて引いてくれればいいと思ったがそうはならなかった。

 しかも相対するラファエフだけでなくその他のダニエル達男子はおろか、女子達も平然としている。1人界斗だけはそれを見て、ラファエフに手助けするべく再びゼファレスを集中し始める。


「界斗さん、必要ないです」

「ルイ君?」


 界斗がルイバンの方を向くとルイバンは首を振った。

 ラファエフはダンドンに語り始めた。


「君がいま壊した道路、だれの物だと思ってるのかな?」

「はぁ? 何を言ってやがる!」

「知らないようだから教えてあげよう。このサイクリングロードはアラミード交通局が管理し、政庁が観光目的で敷設した物だ。つまりは国の所有物という事になる。残念ながら僕の立場上、君を見逃してあげるという選択肢は取れなくなった」

「テメェ、なに訳の分からねぇ事言ってやがる!」


 ダンドンは吠えるとラファエフに突進する。筋肉質で体格がいいダンドンが突進するとそれなりの迫力があった。界斗は思わず飛びのいた。

 ラファエフから袋を受け取っていたルイバンはダンドンが突進する前にラファエフの邪魔にならないようすでに下がっていた。

 ダンドンはラファエフに肉薄すると右ストレートを頬めがけて放つが、ラファエフは躱しながら1歩踏み込み距離を詰めると至近距離でダンドンの腹に膝蹴りを入れた。


「ぐぇ……」


 腹を抱えてうずくまるダンドン。目の前で蹲るダンドンを冷ややかに見下ろすラファエフ。

 その瞬間、不意を突くようにダンドンが丸太のような足で足払いを繰り出す。

 しかしラファエフは驚きもせずふわりと後方に跳び躱した。


「先程アスファルトを踏み抜いた事からみるに、その靴は金属が仕込んであるね」

「そうだ! テメエの骨も粉砕してやらあ!」


 ダンドンはゼファレスを活性化すると両足を身体強化する。

 強化された筋力によりスピードが上がり、そのスピードを生かして一気にラファエフに詰め寄ると蹴りを繰り出した。唸りを上げて繰り出された蹴りを危なげなく躱すラファエフ。


「クソが!」


 ダンドンは次々と蹴りを繰り出していくがラファエフは軽々と躱していく。


「ば、ばかな……ダンドンさんのあの暴風のような連脚が当たらないなんて……」


 取り巻きの一人が驚きのあまり呟く。


「お兄様……遊んでいるのですか……」


 そしてルリエラの呟きにぎょっとする取り巻きたち。


「ちょこまかと、ふざけんな!」


 ダンドンは動きを一瞬止めると、体を捻り力を溜める。そして大ぶりの蹴りを繰り出した。

 だが、ラファエフは姿勢を低くしてかわすと、ダンドンの軸足を蹴りぬいた。


「くっ」


 ダンドンは足を払われ体勢を崩したが、前のめりになりながらも地面に両手をついて転ぶの防いだ。しかしその背中にいつの間にか立ち上がっていたラファエフの高々と上げられた足が打ち下ろされた。


「ぐわぁぁぁぁぁ!」


 痛みに絶叫するダンドン。またしても冷ややかに見下ろすラファエフ。

 咳き込みながらゆっくりと苦しそうに立ち上がり、弱弱しいパンチを左手で撃ち出す。

 それをラファエフは掌で受け止める。


「実力差がわかったかい?」


 ラファエフが語り掛けた瞬間、ダンドンはラファエフにもたれ掛かった


「そのような体格の割に打たれ弱いのか……ふう、仕方ない」


 ラファエフが呟いて、受け止めた拳を離した瞬間、ダンドンは左腕をラファエフの首に回しながらすばやく背中に回り込んだ。

 ダンドンはうまく不意を突けた事を喜び笑みを浮かべた。


「降参しろ! 首の骨を押しつぶすぞ!」


 ダンドンの左腕からゼファレスのオーラが立ち上がり、ラファエフの首を圧迫していく。


「はやく降参しないと本当に潰すぞ!」


 だが、ラファエフは無言で顔色一つ変えない。


「くっ、なめやがって……出来やしないと思っているのか!」


 ダンドンは腕に思いっきり力を込めた。


「な、なんだこいつの首? だったら捻ってやる!」


 ダンドンは1ミリも圧迫できないラファエフの首に驚いたが、すぐに方針を変更した。

 そして右腕をラファエフの顔に掛け捻ろうとする。しかしラファエフの顔が動くことは無い。それどころか顔にかけたと思われたダンドンの右手はラファエフの顔の皮膚に触れてはいなかった。右手が肌の感触を感じていないことに気付いたダンドンは首に回している左腕でも同じく肌の感触を感じていないことに気付く。


「障壁か! うぉぉぉぉぉ!」


 ダンドンは吠えるとさらにゼファレスを活性化する。そしてラファエフの障壁を消し飛ばそうとした。しかし無駄だった。


「気持ち悪いからむさ苦しい手を離してくれるかな?」


 ラファエフの手が首に回されたダンドンの左腕に添えられた。


「う、うぅぅぅぅ」


 ダンドンは己とあまりにも違うゼファレスの差に気付き、狼狽えながらラファエフから離れた。


「そんな……ダンドンさんが……おい!」


取り巻きの1人がもう1人に声をかけると、2人は売店の方へ走り始めた。


「ぷ、逃げてやんの」


 サイラスが噴き出す。

 ダンドンは絶望の表情でラファエフを見ていた。


「ダンドンさん!」


 逃げたと思われた取り巻きの2人が何か大きな箱を抱えながら戻ってきた。

 どうやら売店の前にある駐車場に止めてある車から取って来たらしい。

 中には武器が入っていた。


「お前ら、でかした! いいぞ!」


 喜色を浮かべすぐさま走り寄るダンドン


「とりあえず鉄貫を寄越せ!」


 ダンドンは大きな鉄貫を右手に装着する


「テメエの障壁がいくら丈夫だろうと、これで全力で殴れば打ち砕けるだろう!」

「……まだ実力差が分からないのか。ならば僕も体術を披露しよう」


 ダンドンは肉薄するとラファエフのあばらめがけてボディブローを放った。ラファエフは向かってくるダンドンの右手の拳に左手の掌を乗せるとそれを支点にふわりと空中で横になる。

 ダンドンは自身の目の前で横になりながら空中に浮いているラファエフの姿に拳を振りぬいた姿勢のままギョッとして動きが止まった。

 そこにラファエフは逆立ちになると跳びあがる。宙返りをしてダンドンの頂頭部めがけてかかと落としを繰り出した。


「ぐわぁぁぁぁ」


 痛みに頭を抱え叫ぶダンドン。

 そして蹴りの反動で再度空中に飛び上がったラファエフは回転しながら落下しダンドンの頬を腕ごと蹴り飛ばした。

 吹き飛び転がるダンドン。


「ぐぅぅぅ」


 頭を振り払い起き上がった所にラファエフが低い姿勢で肉薄した。


「僕でも身体強化をすれば、君みたいな巨漢を飛ばせるんだよ」


 ラファエフの全身からオーラが迸り、ダンドンの顎目掛けて掌底が放たれた。

 のけ反り宙に浮かんだダンドンのみぞおちに追撃の蹴りが放たれた。ダンドンはその衝撃で腹を抑え蹲まりながらさらに空中に飛ばされた。

 ラファエフも瞬時に宙返りをしながら空中に飛び上がりダンドンの顔を両手で掴む。ダンドンの顔を中心としてラファエフは自身を物体操作して回転を始めた。

 そのまま落下しダンドンの額はコンクリートに激突した。そして回転は止まらずダンドンの額はコンクリートで擦られた。血しぶきが舞った。

 ゆっくりと回転を止めラファエフは着地する。


「こ、殺してやる……殺してやる!」


 ダンドンは額から血をだらだらと流しながら立ち上がる。

 その目は殺意がみなぎっていた。

 鉄貫を投げ捨てると俯きながらフラフラと武器箱へと歩いて行く。


「ふむ、その気概だけはすごいな」


 ラファエフは腕組みをしてダンドンを見ていた。


「ダンドンさん……血を……」


 取り巻きの一人がタオルを取り出しダンドンの額へと当てる。黒いタオルが血を吸い赤黒く変色した。

 その取り巻きの男はラファエフが動かず様子を見ているのを確認するとタオルをダンドンの額に回し縛った。


「た、大剣だ……寄越せ」


取り巻きの2人が協力してダンドンの背丈と同じぐらいの長さの肉厚の剣を箱から取り出そうとする。


「重……」


 何とか柄を持ちダンドンへと差し出そうしたとき、ダンドンがゼファレスを活性化し大剣を宙に浮かべた。そして手を伸ばし大剣を掴む。

 ゆっくりと両手で持ち上げ構える。


「はぁはぁ……胴体ごと……切断してやる……」

「大剣か……なかなか重そうだけど物体操作と身体強化の両方で振っているのか……」


 ラファエフはダンドンの大剣を見るとゆっくりと芝生まで歩いて行く。

 乱れた呼吸のままダンドンはラファエフめがけて走り出した。


「舞操流、旋周陣……」


 ラファエフの呟きとダンドンが大剣を振り上げるのは同時だった。

 そしてダンドンの大剣は空を切り芝生へとめり込んだ。その瞬間、ダンドンの右肩に激痛が走る。直ぐに背中に、左腹に痛みを次々と感じたら鼻から鼻血が飛んだ。そして後頭部の衝撃でダンドンは大剣を手放した。


「なにあれ……」


 界斗はラファエフがダンドンの周囲半球状を流麗に舞う様に高速で飛び回りながら両手両足で攻撃しているのが見えた。


「界斗君、火球の創成術が得意だったね。火球はこういう使い方もできる」


 ラファエフは打撃から火球の攻撃へ変更する。背中を丸め両手で頭と顔を防御しながらなんとかラファエフの打撃を耐えていたダンドンの周囲を旋回しながら小さな火球を撃ちこみ始めた。ありとあらゆる方向からダンドンのシャツを腕を頭髪を焼き火傷を負わせていく。

 何とか打撃に耐えていたダンドンだが火傷には耐えられなかった。


「うぅぅ……ここに来ればいい女をゲットできるんじゃなかったのかよ……」


 意識が朦朧とし腕の防御が緩んだ。


「これで君は沈む」

 ラファエフは呟くと防御が緩んだダンドンの頂頭部へ先程よりも痛烈な蹴りを見舞った。

 無数の打撲と小さな火傷を負いながらダンドンは倒れた。


「流石にあれはえげつないですね……」


 セディウスの呟きに頷くダニエル。


(あそこまで半殺しにするなんて……本当にヤバいじゃないか、総会長……)


 ダニエルはやはり総会長とお近づきにならない方が良いと思った。


「他の奴らは?」


 界斗はダンドンが倒れたのを見ると辺りを見回した。

 しかしそれらしい者たちは見当たらない。

 目についたのは倒れたダンドンを見つめているダニエル達男子と、奈美恵達女子だけだった。


(あれ? いつのまにか逃げたのかな?)


「うぅぅぅ」


 うめき声が聞こえてきた。

 良く見ると地面に男が転がっている。

 辺りをもう一度見渡すと取り巻きの男全員が地面に伸びていた。


「ラファエフさん、取り巻きは全員無力化しておきました」

「ありがとう、ルイバン君」


 ルイバンだった。ルイバンは袋を地面に置き冷静に2人の戦いを見ていたが、ラファエフとダンドンの決着がつく瞬間、次々と取り巻きの男たちの意識を一撃で刈り取った。一瞬の早業だった。


(ルイ君……いつのまに)


 界斗はルイバンの強さの一端を垣間見た気がした。

 そしてラファエフは彼だけに聞こえたダンドンの呟きが気になっていた


(いい女が手に入る? 僕は今日の事は誰にも言ってないけど、誰かが言いふらして人づてにこのダンドンとか呼ばれてた男に伝わったのかな?)


 サイレンの音が聞こえてきた。

 どうやら通行人が警察に通報したらしい。

 数人の警官がやってきた。


「これは? 君はラファエフ君か……いったい何事かな?」


 どうやらラファエフの知り合いなようだ。

 ラファエフは警官に説明を始めた。


「これはやりすぎだよ……」


 警官が苦笑しながらラファエフの話を聞いている。

 ラファエフが警官に説明している間、界斗達はジュースを飲んでいた。

 シスダールで夏に行われる実技大会での決闘部門ではゼファレスの使用が禁止されているため、ラファエフのゼファレスを使用した体術を始めて目のあたりにした浩然やサイラスは興奮気味に語り合っている。

 ダニエルやセディウスはラファエフから距離を取り黙々とジュースを飲んでいる。

 琴絵とフィセナも2人で盛り上がっている。

 ルイバンや奈美恵、フィアリスそして妹であるルリエラはラファエフのゼファレスを使用した強さをもともと知っていたため落ち着いてジュースを飲んでいる。

 実は以前、解放者でラファエフは何度か模擬戦をしたことがありルイバン、フィアリスや奈美恵は見ていたのだった。

 ちなみにラファエフの目的はクラリティーナと模擬戦をすることだったのだが、残念ながらそれは叶わなかった。


 警官への説明が終わりラファエフが戻ってきた。

 ペットボトルの蓋を開け一気に飲み始める。


「さあ、出発しよう! だいぶ時間を無駄にしてしまったね」


 一気に半分ほど飲むと全員に声をかけ自転車に乗り出発した。

 界斗達もそれに続く。


(バーベキューの予約時間に間に合いそうもないな)


 ラファエフは時間を確認した。


「佐伯君、バーベキューの予約は12時ぐらいだったよね」

「あ、はい。間に合いそうもないですね」

「僕から連絡しよう」


 ラファエフは携帯を取り出し店に連絡する。

 その後、間に合わないと聞いたルリエラは一生懸命漕いだ。それは息切れするほど懸命に……

 しかしルリエラの努力虚しくハバリスの河口にある海浜公園に着いたのは、13時近くになっていた。

 海浜公園に着くと公園入り口にあるレンタルサイクリング店に自転車を返却する。店はハバリスの河口、ウクテルとハバリスの境、ウクテルの天救教会大聖堂前広場の近くと3ヶ所あった。このどこでも借りれ、どこでも返却できるシステムだった。




「海だ……」


 界斗は目の前に広がる広大な海の景色に見入っていた。


「あれ? 真田君、海に来たことない?」

「うん、初めてかな」

「遠足とかは?」

「山と湖とか内陸の方の観光しかなかった……」

「じゃあ、今日来れてよかったじゃん。ちなみに俺も久々かな」


 界斗はダニエル、サイラス、セディウス、浩然と海に見入っていた。


「先輩方、海はバーベキューしながらいくらでも見れますよ」


 ルイバンが界斗達を呼ぶ。一同は海浜公園の隣にあるレストランへと向かった。




「海を見ながら食べる肉は一段と美味いな……」


 界斗は海を見ながら牛肉を味わっていた。

 ダニエルやセディウスは界斗の呟きを聞いて苦笑した。

 レストランのバーベキューが出来るテラス席から遥水平線まで見える。少し離れた所に港があるためか船が通っていくこともある。

 界斗は景色と肉を堪能していると、ふと浜辺に人が少ないことに気付いた。


「結構暖かいから泳いでる人や釣り人がいても良くない?」


 近くにいるダニエルに声をかけた。


「確か河口周辺と海浜公園周辺は釣りや遊泳禁止だったな。海水浴場は河口挟んで少し向こうにある。釣りはさらにそれ以外の場所で岩場とかになるかな。砂浜があるのは河口周辺だけだし」

「へ~、そうなんだ」

「ちなみに昔話をすると、港はここにあったらしい」

「そうなの?」

「セデュー川を輸送で頻繁に利用していたころだな。河口に港があった方が便利だろ。けど鉄道輸送の比率があがって、セデュー川を観光に利用するために港を移転して海浜公園に整備しなおしたらしい」


 界斗とダニエルが話している横で、浩然やサイラスがラファエフの事を讃えていた。


「総会長、先ほどはありがとうございました」

「気にしなくていいよ。総会長として先輩として同学、まして後輩を守るのは当然だからね」

「いや、さすが総会長ですね」


 浩然やサイラスは先ほどのラファエフの戦いぶりをみてすっかり虜になったらしい。


「総会長はどうやってあの強さを身に着けたんですか?」

「ああ僕はね、小さいころから舞操流という武術を習っていてね、いまでは免許皆伝なんだけど」

「舞操流ってどんな流派なんですか」

「舞操流はね、主にゼファレスを使った体捌に重点を置くんだ。今の自分の勢い、打撃時の反動、そして自分自身の体を物体操作する事、勢いを殺さずこれらを生かして足を使った移動にこだわらず常に相手の死角を攻めていく事を主軸とするんだ。そして真髄は空中での全球状的な全方位攻撃にあるんだ。地上では半球状でしか攻撃できないけどね」

「おお、頭上や後背、足元から攻撃されたら対応しづらいですね。無敵じゃないですか」

「はは、そんなことは無いよ。闘いに流派なんて関係なく、結局勝敗は相手と自分との総合的な実力によるものさ」

「けど、ほんと総会長が居てくれて助かりましたよ」

「そんなことないよ。例えばルイバン君なら僕と同じように、ダンドンとかいったあの男ぐらい軽く倒せるよ」

「ルイバン君って確か真田君とルームメイトと言う、あの小柄な中等部の子ですよね……」


浩然は驚いてフィアリスにいちゃつかれているルイバンを見た。


「アバカード君、見なかったのかい? 彼、俺を突き飛ばした奴の目の前にいきなり現れたと思ったら一撃で昏倒させたんだぜ。俺の目の前でさ」

「総会長の戦いを見てたから気付かなかった」

「いや、まじで彼にはびっくりしたよ」


 サイラスはルイバンを眺めながら「すげえよ、あの中学生……」とか呟いている。


「確かにルイバン君は強い。けど、ダンドンではヴァイゼフさんやレイノールさんにも勝てないよ」

「え? 彼女たちにですか……確かに去年の実技大会でヴァイゼフさんの剣技は凄かったですけど……レイノールさんて、あのルイバン君ですか、彼と仲良さそうな可愛い子ですよね」


 浩然が首を傾げた。


「確かに実技大会でのヴァイゼフさんの剣技凄かったよな……」


サイラスも思い出したように頷いた。


「あ! 思い出した。あの女の子は確か去年の予選でヴァイゼフさんと勝負してた子だ。確かに彼女もヴァイゼフさんと中々いい勝負をしていたような……」


 浩然がフィアリスを見つめた。


「けどあの不良は体格は結構良かったじゃないですか……女子だと分が悪くないですか?」


 サイラスは疑問に思った。


「そうだね。確かに彼女たちは体の線が細く見た目通り筋肉が少ないから力勝負では分が悪い。けど別に体格のいい男とそんな力勝負をする必要はないからね。まして女性である彼女たちはなおさらだ。あの男の技術は拙い。筋肉に任せた攻撃しかできないみたいだった。それに対して彼女たちの戦闘技術は高い水準にあるからね。喧嘩ならまだしも、相手を倒す、さらにゼファレスを使い武器ありとなったら、もうあの男では勝ち目はないよ」

「マジですか……よかった、俺……ヴァイゼフさんを怒らせなくて……」

「アバカード君はヴァイゼフさんとなにかあったのかい?」

「去年はヴァイゼフ班だったんだよ、俺」

「本当か!? その割に今日初めましてみたいな感じゃなかった?」

「休み時間に何度か勉強を教えてもらったことはあるけど、ヴァイゼフさん、あまり男子と話さないからね。俺はそんなに親しくないよ」

「そうなんだ。けどヴァイゼフさんて可愛いだろ。同じ班なら仲良くなろうと思わなかったのかよ」

「ほらヴァイゼフさんて解放者に所属しているって中3の頃には知れ渡っていただろ。それに例の玉砕君の噂があったからクラスの男子で仲良くなろうとする勇者はいなかったよ」

「確かに解放者ぐらいのクランの男と比べると俺たちなんかでは勝ち目無いよな」

「そうそう。きっと解放者に相手がいるんだぜ」


 浩然とサイラスは勝手な妄想を膨らませながら、奈美恵に彼氏がいるかどうかで盛り上がっていく。


(人の事、適当にでっち上げて!!!!)


 バーべーキューではなんとなく女子と男子に別れ2か所で鉄板を利用していたが、隣同士で別に声が聞こえないほど離れているわけでは無い。


 奈美恵は肉や野菜を焼きながらトングをきつく握りしめた。


「奈美恵さん大丈夫?」

「フィセナさん、ありがとう。大丈夫だから……」


 中等部1、2年生の時、同じクラスになり名前で呼び合うぐらいには親しくなっていた奈美恵とフィセナである。お互い面識のない奈美恵と琴絵だったがサイクリング中にフィセナを介して話すうちになんとなく仲良くなっていた。


「ごめんね、ヴァイゼフさん。うちのクラスの男子が……私が言ってこようか?」

「ううん、川峯さんが気にする事じゃないよ」


 奈美恵は作り笑いをして苛立ちをごまかした。


「それよりもどんどん食べよ。ほら、ルリエラちゃんも食べて」


 奈美恵は遠慮がちにちょこんと座っているルリエラの皿に焼けた肉や野菜を入れていく。


「あ、ありがとうございます……あの……先輩方の年齢になると……男の子ってあんな風に騒ぐんですか?」


 ルリエラは必死に勇気を振り絞って碌に話した事も無い奈美恵たちに話しかけた。


「え? 中等部でも休み時間とか騒がしくない?」

「時々遠くから騒ぎが聞こえることはありますけど……私の周りではそんな……」


 知らぬが仏、国主の娘であるルリエラが内気で物凄くおとなしいから周りが気を遣っている事は知らない。さらに怒らすと半殺しにされるという噂が流れているためだが……


「そっか……まぁ、クラスによるかな」


 奈美恵たちは一瞬で察してしまい苦笑いを浮かべた。




 バーベキューで満足するまで食べた一同は水族館にやってきた。

 何故か入場口から界斗の隣にいるルリエラ。その後ろをラファエフが微笑ましそうに見ながら付いて行っている。


「頑張れ!」


 ダニエルはそんな界斗の肩を叩くとセディウス、サイラス、浩然と先へ行ってしまう。


「真田先輩、お魚が沢山キラキラしていて綺麗ですね」

「うん、そうだね」

「あの……この魚はなんていうんでしょうか?」


 瓢箪みたいな体格に小さなヒレがついている魚を見てルリエラは興味を惹かれた。


「ごめん、魚はあんまり詳しくないんだ。説明文を見てみよう」


(アスランが居てくれたならな……)


 界斗はルリエラと話しながらアスランなら詳しいからこういった場所で女の子を喜ばせることが出来るんだろうなと思った。その場合、その子は界斗ではなくアスランを好きになるかもしれないとはまったく考えない男が界斗である。

 当のルリエラは兄であるラファエフ以外の男と碌に話した事が無いため界斗と話すことで精一杯であり、別に知識の有り無しなど気にしていなかったが……

 初々しい2人を後ろで見守りながら、さりげなく周囲を警戒しているラファエフ。広い館内とはいえ大勢が行きかう水族館では不意に襲われるかもしれない。国主の子息である自分たちが今日この水族館に来ることは誰にも言ってはいないが、先ほどのダンドンの件でラファエフは警戒していた。


「カデナルボースだって……」

「不思議な名前ですね……」


 界斗とルリエラは2人で並んで説明文を読み始めた。

 さらにその後ろを奈美恵と琴絵とフィセナ3人の女子が付いていた。


「やっぱりあの2人はそうなんですかね……」

「食堂の噂?」

「はい、なにか熱く見つめ合っていい感じだったって話じゃないですか」

「そうね、確かにいい雰囲気よね」

「真田君ってヴァイゼフさんからみてどうなんですか」

「え!? 私から? なんで?」


 奈美恵は琴絵に急にカイトの事を聞かれたから、一瞬驚いた。


「解放者で同じチームなんですよね?」

「ああ、そういう事……そうね、真田君はこれから頑張ればきっと凄くなるんじゃない?」

「つまりヴァイゼフさんから見たら、その程度の男でしかないと……」

「あっ? もしかして異性として? う~ん……それはないかな。単なるチームメイトよ」


 奈美恵の答えに琴絵は苦笑しただけである。


「けどあの2人が恋人になれるんですかね?」


 琴絵が界斗とルリエラを見ながら首を傾げた。


「琴絵、なんで?」

「フィセナ、ルリエラちゃんは国主さんの娘だよ」

「別に選挙で選ばれてウクテル都長になったから国主になったんでしょ? 任期が終われば一般人じゃん」

「フィセナ……実は世間知らず?」

「琴絵、酷い……」

「フィセナさん、ルリエラちゃんはザンターク家の御令嬢でもあるのよ」

「ザンターク家……あれ? 聞いたことがあるような? なんだっけ?」

「はぁ……ウクテル発展とアラミード共和国に多大な貢献をしたアラミード5家と言われる名家じゃん。アラミード貿易商事の創業家で筆頭株主、さらにウクテル都議には必ず1人は居るし、アラミードの歴史の教科書にも出てくるでしょ」


 琴絵はため息をつくとフィセナに説明した。


「あ! 思い出した……」

「そんなお家の人が真田君の様などこの馬の骨ともわからない男との交際を認めるかな」

「けど、総会長は応援してる感じじゃん」

「いくら総会長だからって、あのザンターク家のお家の意向に逆らえるとは思えないけど……」

「そっか……じゃあ、悲恋に終わるんだ……可哀そう」


 あれこれ恋愛話で盛り上がる3人のさらに後ろをルイバンとフィアリスは歩いていた。

 実はルイバンはラファエフから頼まれて最後尾で警戒しているのだが、ファイアリスはそんなことは知らずにルイバンの腕にしがみ付いている。


「ルイ君と水族館でデートできるなんて嬉しいな!」


 最高潮に浮かれた気分で魚を見ているフィアリス。

 ルイバンはフィアリスと歩きながら、少し先を2人で並んで歩く界斗とルリエラの背後に一瞬闇が蠢いているような幻覚を見て、胸中に得体の知れない不安が広がるのを感じた。

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