第9話 テレビを買いに行く (約10,000文字)
「13万ゾルスか……」
初任務の次の日の日曜日、界斗は同じく休みだったルイバンと共に家電量販店に来ていた。テレビコーナーには午前10時過ぎだがすでに客が結構な人数いる。
見渡す限り並んだテレビの内、23型のテレビの一つを見ながら迷っていた。
見栄えをよくするために画面には女性アイドル5人組ユニットのライブ映像が映され、それに見入っている客もいた。
「色々な機能が付いていますからね。基本的な機能のテレビならもっと安いですよ」
ルイバンの説明を聞きながら界斗はさらに思案する。
(貯金と給料を考えると別に15万ぐらい出しても良いか……けどそもそもTVが見れればいいからな……無駄遣いしないで安い基本的なテレビにするか……)
孤児院育ちの界斗はせっかく稼いだ給料を重要とは思えない物に無駄に浪費する気にはなれなかった。
「ルイ君、あっちの安いテレビを見に行こう」
少し離れた所に置いてある録画機能すらない基本機能だけのテレビを置いてあるコーナーへと歩いて行く。
そこには23型は3種類しか置いていなかった。
「どれも2万前後か……」
「僕は最低でも録画機能がついている方が良いと思いますよ。レコーダーを後から買うと面倒ですし……」
「けどそこまで見たい番組とかないし……」
「買ったらきっと色々見たくなりますよ」
「そういうもの?」
「例えば今流れているアイドルの番組とか……」
「ルイ君は好きなアイドルとかいるの?」
「僕はあまり興味ありませんけど、フィアリスは興味あるアイドルがいるんですよね」
アイドルのライブ映像を見ながら界斗とルイバンの話はテレビから脱線してアイドルの話題へと移っていく。
「レイノールさんが好きなアイドルって?」
「ひとつは20人位の女子グループで光の雫っていう名前です。もうひとつは今映っているセフィリスリリスですね」
「セフィリスリリスってよく聞くけどこの人たちなんだ……」
「最近売れてますよね。ドラマも視聴率がいいらしいですし」
「ドラマ?」
「ハンターをテーマにしたドラマで犯罪組織と戦うんです。その犯罪組織ですが名前は違うんですが紋章がゾルタリウスに似てて、協賛に国際治安維持協会やゾルタリウス殲滅局設立推進派の国々の名前が入っているので、実質殲滅局設立の為の大衆の支持取りドラマとか言われています。アクションがハイレベルで特殊効果も凄いから人気がありますけど」
「へぇ~」
界斗はこんな可愛らしい同年代の女子がハンターのドラマに出演していると知って興味を引かれ画面に見入り始めた。
「界斗?」
しばらく見入っていると不意に横から声を掛けられた。
界斗が横を振り向くとそこには孤児院で一緒だったセリアが立っていた。
「やっぱ界斗だ。髪切ったんだ。髪の毛短い界斗を見るの1年ぶりな気がする!」
「セリア? なんでいるの?」
「え? いちゃいけない。私もテレビを買いに来たんだけど……」
「あ、そうか。けど凄い偶然だね……」
「そうかも知れないけど……けど孤児院育ちの私たちが給料でテレビを買うとなると今ぐらいの時期になるでしょ。きっとアスランも今頃向こうでテレビを買ってるかもよ?」
「ははは、確かにそうだね」
セリアはふとルイバンに気付いた。
ルイバンが会釈をするとセリアも会釈を返す。
「お友達?」
「うん。同じ解放者でルームメイトのルイバン君。俺たちの1歳下だよ。ルイ君、彼女は同じ孤児院出身のセリア」
「初めまして、アバカロビア・セリアです」
「どうも、デルクード・ルイバンです」
ルイバンとセリアが挨拶を交わすと3人はテレビの事を話し始めた。
「界斗は23型にするの?」
「一応ね、セリアは?」
「私は悩み中。部屋がそんな広くないからね20型でもいいかなって」
「そういえばルイ君のテレビはどれくらいの大きさ?」
「僕は32型ですね」
「32型……あれ? さっき2人はルームメイトって言わなかった? それなのにテレビを買うの、界斗?」
界斗はセリアに解放者の寮は個人部屋な事を説明をした。
「ほんと!! いいな~、広い部屋にキッチンリビング付き……私なんて5畳ぐらいのワンルームだよ。だから23型はちょっと大きいかなって思っちゃうんだよね」
「そうなんだ」
「見てみたいな、界斗の部屋」
「え~」
「なによ、見せてくれないの? ケチ……そんなんじゃモテないわよ」
「な! モ、モテないとか、セリアに部屋を見せる事と関係ないじゃん」
「いやいや、普段からのそういう行いで人生とは決まっていくものよ。知らない所で人に評価されて噂が広がって、選べる選択肢ってのが決められてくのよ」
「なんだよそれ。それに男子寮なんだよ。女子が部屋に上がっていいわけないだろ。だよね、ルイ君?」
「え? 別に構いませんよ。フィアリスも時々遊びに来るし」
「はい?」
(そういえば蔵林さんが言ってたっけ……恋愛に干渉しないとか、別に制限しないとか)
「じゃあ、決定ね」
ルイバンの一言で界斗はセリアを部屋へと招くことになった。
その後、あれこれ話しながら界斗とセリアは悩んだ末、揃って8万ゾルスする録画機能付きの23型テレビを買った。
界斗は本日配送で午後の配達、セリアは次の日の配達を手続し3人は解放者の寮へと向かった。
「ここが解放者……なんなの、あの宮殿みたいな建物……」
「そう思うよね。俺も最初来た時思った。元迎賓館なんだって」
「は~」
セリアは解放者本部に見惚れて立ち尽くした。
「寮の入り口は横にあるんだ。正面からでも入れるけど今日は回っていこう」
3人は壁伝い歩き寮へと到着した。
「寮はあの建物と比べるとなんだか普通ね。大きめのちょっとお洒落なアパートといった所かしら?」
「それは寮だからね……」
ルイバンが鍵を開けると3人は室内へと入っていく。
ルイバンは自室に戻り、セリアは界斗の部屋へと入っていく。
「……みごとなまでに殺風景ね。なにも飾っていない。あるのは机とベッドと本棚だけ」
「そ、それはそうだろ。そんな飾る趣味ないし」
「まぁ、界斗らしいと言ったら界斗らしいのかしら……けど、せめて観葉植物ぐらい置いたら?」
「それはセリアの趣味だろ」
「部屋の中に植物が有るのと無いのとではストレスの感じ方が違うらしいわよ?」
「いや、ストレスって……俺、ハンターだし。そんな事、気にするようじゃダメだろ」
「何言ってるの界斗? 日々のコンディションを管理するのも重要なのよ。ストレスはコンディションに影響するんだから……」
界斗とセリアが話しているとルイバンが部屋にやってきた。開いているドアから声をかける。
「お2人はお昼ご飯どうしますか?」
「お昼の時間か、どうしようかな? セリアもいるし食堂を利用するのも……」
「別に外部の人でも利用できますよ。ただし定価になりますけど」
「解放者の食堂……私、行ってみたいな」
セリアが興味を示したため3人は食堂へ行くことにした。
「うわ~、広いね。それに同年代の子も沢山いる。やっぱり高校生ハンターって結構いるんだ」
現在時刻は12時半過ぎ、それなりに混雑している食堂をセリアはきょろきょろと見回していた。
「セリア、はずかしい……こっちにメニューがあるから来て、注文決めて」
「あはは、ごめん。ちょっと興奮しちゃった」
セリアが日替わり上定食のチキンソテーデミグラスソース掛けに決めると界斗とルイバンも同じものに決めた。
「セリアの分は俺が出すよ」
「え? 界斗の奢り……いいよ、悪いから」
「いいって、気にしないで」
(先程ケチって言われたばかりだからな)
「そっか……じゃあ、御馳走になろうかな」
3人はプレートを受け取ると2階へ向かう。そして階段を上ろうとして声をかけられた。
「真田君、それにルイ……」
「ル~イ君、これからご飯?」
奈美恵が界斗に声を掛けるのとフィアリスの甘えた声が重なった。
「だれ? この人……解放者の人じゃないよね」
フィアリスはセリアに気付くとジロジロと舐め回すように見つめた。
どうやらルイバンが連れてきたと勘違いしているようだ。
「え? え? な、なに?」
セリアはフィアリスにジロジロと見つめられて引いた。
「彼女は俺が孤児院いた時、一緒にいた子だよ」
界斗が慌ててフィアリスに説明する。
「あ、なるほど。真田さんの彼女さんですか!」
「はぁ?」
界斗が素っ頓狂な声を上げた。
「いや、違うし……」
そしてセリアが真顔で否定した。
「テレビを買いに行ったらたまたま会っただけだよ。それで寮を見せていたんだ」
「寮……あ! そういえば今月まだルイ君の部屋に遊びに行ってないよね?」
「そうだね……」
ルイバンはこの後の展開を予想してため息をついた。
「じゃあ、これから行っていい?」
「ちょっとフィアリス、午後から18時まで4人で訓練するって決めたでしょ。だから休みなのにわざわざ訓練場を予約して来たんだから」
約束をすっぽらかそうとしたフィアリスに奈美恵が怒り始める。
「じゃあ、みんなで行きましょうよ」
「え?」
「はい?」
「嫌……」
「……はぁ」
フィアリスの提案に界斗と奈美恵と依琳の声が重なった。藍香は何も言わずため息をつく。
「……16時まで訓練」
奈美恵は仕方なく折れ、訓練を早めに切り上げることにしたが、フィアリスはそれでも不服そうに文句をいった。
「え~、16時ですか……」
「フィアリ~、訓練は大事だよ」
「そうだよね、大事だよね。じゃあ、16時に行くね」
ルイバンが言うとフィアリスはころりと考えを変え、すぐさま了承した。
「あの子なんか凄いね。それにデルクード君と熱愛中なんだ」
「あははは……」
ルイバンは苦笑いしながらチキンソテーを一口齧る。
「セリア、さっきからきょろきょろしすぎ」
セリアは席に着くと食べずに周りを見回していた。
「ちょっとね……どこかにアウルフィード団長様が居ないかなって」
「あれ? そういえば食堂で団長を見たことがないな……」
セリアの一言で界斗は今まで一度も食堂でクラリティーナを見たことが無いことに気付いた。
「で、居たらどうするわけ?」
「もちろん握手してサイン貰うに決まってるでしょ!」
「セリアって……」
(本部棟には連れてけないな……騒がれたら面倒だ)
セリアにミーハー的にわかファンの遠慮が無い所がある事を知り、界斗は連れてきた事を少し後悔しはじめた。
「本部に出勤していても団長は食堂に来ませんよ」
ルイバンがセリアに教えた。
「え? そうなの……」
「はい、いつも自室で食べられているそうです」
「そっか~、残念。これから食堂に来ても結局サイン貰えないのか……」
「あれ? 今、これからって言った?」
界斗はセリアの一言を聞いて嫌な顔をした。
「言ったけど、私が来ちゃ界斗はいやなわけ?」
「そんな気軽に遊びに来られても……いいのかな?」
界斗はルイバンを見る。
「流石に僕も外部の友達を毎週どころか毎月招いたことは無いので……」
「そうだよね。流石に頻繁に遊びに来られてもね」
「遊び? 違うわよ、仕事よ、仕事」
セリアが界斗を見つめた。
「セリアが仕事? ハンターになるの?」
「話がかみ合わない……あれ? まさか知らない?」
「何を?」
「グラールガルエが9月から来ること」
「グラールガルエってセリアが働いているレストランだろ。それがどこに?」
「だから解放者の食堂に」
「はぁ? 聞いてないけど」
ルイバンは少し考える。
「そういえば……食堂のテナントが変わるとか聞いたことがあるような」
「ルイ君、グラールガルエって大聖堂前の高級レストランだよ」
「僕もそれぐらいは知ってますよ」
「流石にそんな高級店が来るのはおかしいでしょ」
「私の話が嘘だと言いたいの? 店内ではバイトの増員とかシフト決めとか始まってるんだから!」
セリアの声が荒ぶり始める。周りで食事をしていた職員たちが何事かと注目し始めた。
「そこまで言ってないけど……」
「人の言った事否定するってことはそう言うことでしょ!」
セリアが席を立ち界斗を睨む。
「アバカロビアさん、落ち着いてください。みんな見てます」
ルイバンがセリアを宥める。
「なんの騒ぎかしら?」
そこにアミリエがやってきた。フィビリアやサディアも一緒だ。
昼食が乗ったトレーを持っている。どうやらこれから昼ご飯のようだ。
「あ……すみません、蔵林さん」
(え? 蔵林ってまさかあの有名な事務長さん……)
界斗の一言を聞いてセリアは慌てて会釈をする。
「あら、見ない子ね……」
アミリエはセリアを見て首を傾げた。
「彼女は僕の友人で……」
「真田君も意外と隅に置けないのね」
「ち、ちがいます。そういう関係ではなく本当にただの孤児院の時の友人です」
セリアも大きく頷く。
「では、痴話喧嘩でないなら、なぜ食堂で騒いでいるのかしら?」
アミリエは界斗達の横のテーブルに着席しながら聞いてくる
「すみません。何でもないです……」
「私、グラールガルエで働いているんですけど、9月からうちのレストランがここの食堂に入るんですよね」
界斗は、はぐらかそうとしたが、セリアが身を乗り出しながらアミリエに尋ねた。
「セリア! 蔵林さん、すみません」
界斗は慌ててセリアに席に着くよう手振りで促す。
「なんだ、そんな事」
「そうですよね。グラールガルエみたいな高級店がいくら何でもテナントに来たりしませんよね」
「え? だから来るわよ、9月から」
「ほら、だから来るって言ったでしょ」
セリアが勝ち誇って界斗を見る。
「本当ですか?」
「本当よ。7月末に告知する予定なんだけどね」
「けど高級店ですよね。値段は……値上げするんですか?」
「確かにそう思うのも無理は無いわね。いきさつから説明してあげる。まず、今のテナントさんから撤退させてほしいと言われたの。新規レストランの開店の為の人員を確保できないからですって。頭下げられてそう言われれば、仕方ないけどこちらは了承するしかないでしょ。それでグラールガルエで団長たちと食事をしながら次のテナントをどうするか話していたのよ。それをお店の偉い人に聞かれて話を持ち掛けられたの。なんでも中層向けの新規店を出すための試作段階のメーニューを試させて欲しいって。あのグラールガルエの味を気軽にクランのみんなに味わって貰うのも悪くないと思って了承したのよ」
「そんないきさつがあったんですね……」
「けど、まさか真田君と同じ孤児院の子がグラールガルエで働いているなんて、すごい偶然ね。あなた、お名前は?」
「挨拶が遅れました。アバカロビア・セリアです。真田君と同い年です」
「そう、高校生?」
「いえ、見習いですがグラールガルエに正社員として入社しました」
「あら? そういう事でしたら9月からよろしくお願いします」
アミリエは言葉遣いを正してセリアに微笑みながら会釈する。
「あ、はい。店長にも伝えておきます。私がこちらの担当に配属されるかはまだ分かりませんけど……」
「そうですね。店長さんによろしくお伝えください」
その後、セリアは食べ終わると席を移動しアミリエ達と色々話していた。
「いいところね、解放者! 建物は綺麗だし、それに部外者の私に色々と親切に教えてくれるなんて。週に何度かこっちにこれるようにお願いしてみようかな!」
セリアは上機嫌で寮へと続く廊下を歩いている。3人は食べ終わり寮へと戻っていた。
「もし来ることになっても気軽に寮にはこないでくれよ……」
「界斗、つまらない……」
「変な噂が立ったらお互いこまるだろ」
「それもそうね。時々食堂で話すぐらいがちょうどいいかもね」
「……」
ルイバンは苦笑いをしながら2人の会話を聞いていた。
3人は寮に着くとセリアだけでなくルイバンも界斗の部屋に入る。界斗とセリアは孤児院を出た後のお互いの事を報告し合い、時折ルイバンが解放者について話しているとテレビが来た。
夕方の配送のはずだったがまだ15時過ぎだ。随分と早く配達してくれた事に界斗はうれしく思いながらセッティングを始めた。
組み立て式のテレビ台を組み終わると次はテレビを開封した。
「セリア、このプラグみたいなのどうするの?」
「それを私に聞く? 孤児院では私たち機械類には全然触ってきてないのよね……」
孤児院では新しい家電が来ることはめったになく、機械類は子供たちにあまり触らせることはなかった。
「仕方ないですね。僕がやりますよ」
それは壁にあるTVコンセントに差し込むだけだったのだが、ルイバンが界斗の代わりにTVコンセントを探し始めた。
「アンテナプラグはセットしました。テレビはどこに置くんですか?」
界斗はテレビ台をルイバンの部屋とは反対側の壁際に置いた。
「ここの壁、結構厚くて防音もしっかりしていますから、どこに置いても大丈夫ですよ。界斗さんの部屋に僕のテレビの音って聞こえた事あります?」
「そういえば聞こえたことないね。けど、机の横じゃなくていいや」
「無線式なので移動は簡単ですからね」
「ル~イ君! 来たよ!」
突然チャイムが鳴り、フィアリスの甘えた声が聞こえてきた
「はぁ……廊下で大声出して……」
ルイバンがため息をついた。
界斗は時計を見る。時間は16時を過ぎていた。
「お邪魔します」
フィアリスを先頭に奈美恵たち4人はぞろぞろと室内へ上がっていく。
「ここが幹部寮……」
藍香は室内を見回している
「思ったほど広くはない……こんなものなの……」
依琳にはどうやらそこまで広くないらしい
「そう? 十分だと思うけど……まあ、依琳のお家に比べるとね」
奈美恵は依琳の呟きを聞いて苦笑する。
「テレビはどう?」
「今セッティングが終わった所だよ」
界斗の部屋に入るとフィアリスが噴き出した。
「ルイ君の部屋と比べると、何にもないですね」
「わ、わるかったな」
「フィアリ~、あまり人のプライベートをどうこう言うのは良くないよ」
「ごめんなさい」
ルイバンに諭され謝るフィアリス。
「……」
あまり親しくもないフィアリスから、再度セリアと同じような事を言われ、むくれて黙る界斗。
「ま、まあ、真田君はまだ来てから2か月しか経ってないんだし、こんなものよ。それよりも部屋を片付けない? お菓子や飲み物を色々と買ってきたのよ」
奈美恵が気まずくなった空気を和ませようと慌てて話題を変えた。
梱包されていた段ボールなどを片付けると、紙コップを用意しお菓子を広げていく。
「テレビはもう見れるんですか?」
藍香がどこか遠慮がちに聞いてくる
「まだ確認してないや。電源を入れてみよう」
界斗が電源を入れるとチャンネル設定中と画面に映った。
少し待つと画面に女子高生ぐらいの少女が映った。右手に剣を持ち仮面を被った男と斬り合っている。
「ああ、これがセフィリスリリス主演のドラマですよ」
「人気あるよね。結構迫力あるし。けど現実の戦闘とはちょっと違う気がするけど……」
画面ではリーダーらしき少女が男と対峙し斬り合い、残りの4人が魔獣と戦っている。カメラワークも良く、本当にゼファレス法術を使用しているのだか特殊効果だか分からないが派手な演出もありアクション映画を見ているようだ。
「この時間の放送という事は、これは先週の再放送ですね」
「そうなんだ」
「他のチャンネルも映るか確認した方が良いですよ」
界斗はリモコンのボタンを押していく。
料理番組だったり、トークショーだったり次々と切り替わっていく。
「問題なさそうだね。ちゃんと映る」
色々チャンネルを変えていると燃え燻った後の様な大きな建物が映った。
界斗は反射的にチャンネルを変えるのを止めてしまう
その場の全員の視線がテレビに集まる。画面にテロップが流れた。
【イドラオース首都べスタールから生中継、ゾルタリウスによるテロか?】
建物の正面で多くの報道陣やら軍やら救急やら警察やらがあわただしく動き回っているようすが遠目で映されている。
「な、なに? これ……」
セリアが生唾を飲み込みながらその光景に絶句した。
他の者達も画面にくぎ付けになっている。
画面が切り替わりスタジオが映され、キャスターが話し始めた。
「昨日起きたイドラオースの首都べスタールの郊外にある大型ショッピングモール破壊事件ですが、行方不明者の捜索救助は建物の安全性を確認しながら進められているため大変遅れているとの事です。無事生存者が見つかればいいのですが……ここで改めて事件を振り返ってみましょう。解説のオルヴォーンさんお願いします」
「はい。では、こちらの画面をご覧ください」
画面に壮年の男性が映った。
周りには同じく年配の男性や女性が映っている。
「昨日、現地時間午後3時近く、べスタールにあるショッピングモールで演説中だったイドラオース大統領、軍務大臣、内務大臣、経済産業大臣、司法大臣並びに官僚各位がテロに襲われるという事件がおきました。軍事大国イドラオースはゾルタリウス殲滅局設立の急先鋒の一角を担っていました。いま映像に映っている方々ですね。それでは映像を進めてください」
大統領が演説を始める。
「我々は戦わなければならない。人々の生命と安全を守るために! 近年まれに見る過激なテロ活動を行うゾルタリウスはその他のテロ組織とは一線を画しているため早急に手を打ち組織を壊滅させる必要があり……」
「このように多くの人で賑わう大型ショッピングモールの2階にあるホールで演説をされており、この光景は生中継で配信され、ホールには多くの聴講者がいました。それでは映像を進めてみましょう」
映像が進み大統領の演説が終了すると10歳ぐらいの子供達5人が花束を抱えて群衆の最前列から出てきた。
「映像を止めてください。この子供たちは地元の小学生で政府によりますと当初から予定されていた贈花だそうです。では映像を進めてください」
4人の子供たちが大臣達に花束を送ると、最後に少女が大統領に花束を渡す。
そして一歩下がると5人の子供たちが深々とお辞儀をした。
そして顔を上げると大統領に花束を渡した少女が突然厳かに語り始めた。
「聞くがよい! 天救神ベクシュトスの選徒たる我らがゾルタリウスは貴様ら愚昧なる者どもの思いあがった行いに裁きを下す。愚者は聖なる神の光に焼かれその魂は未来永劫闇の深淵を漂うだろう!」
その言葉にぎょっとして少女を見つめる官僚各位。護衛はすぐさま子供たちと官僚たちとの間に割って入ろうと動き始める。
「選徒たる我らがゾルタリウスは不滅である!」
5人の子供の唱和が響き渡った。
その瞬間、2人の子供たちの手足が溶け液体になり始める。そして他の2人の子供たちの手足が大気中に掻き消えるかのように消えていく。そして少女が右腕をめくり高々と天に向けた。その腕には何らかの装置が装着されている様に見えた。
溶け、消えた子供たちに驚きのあまり動きが止まる官僚と護衛達。
「神裁の光を受けるがよい!」
少女の声が高々と響き渡り少女の右掌が消えた瞬間まばゆい光が走った。
映像はそこで途切れている。
解説者が画面に映った。
「この事件によって居合わせた大統領、大臣、官僚は安否不明となっております。また、当時ショッピングモール内には混み具合から5000人以上の客がいたとの見方がされており、この人達の安否も不明との事です。すでに2000人近い遺体を収容したと発表されています。イドラオース政府は推定死者数はスタッフ来場者合わせて6000人を超えるだろうと予測しております。被害はショッピングモールの敷地内に限定されており周辺に被害はないとの事です。また、この事件を受けゾルタリウス殲滅局の設立にかかわる国々から共同声明が発表されました。こちらをご覧ください」
壮年の男性が画面に映った。
どうやらどこかの国の国家元首なようだ。
「我々はこのような無辜の民衆を巻き込む卑劣なテロを容認することは無く、脅しに屈することも無い。むしろ我々の結束をより強固とした。一丸となり必ずやゾルタリウスを殲滅することであろう!」
再び解説者に画面が切り替わる。
「このように関係各国はテロに屈することなく戦うと宣言を行いました。またテロ直後からイドラオース外務大臣の行方が分からなくなっており、関係筋によりますと当初演説は大統領府から配信される予定でしたが、急遽外務大臣の強い推薦によりこのショッピングモールに変更されたとの事で外務大臣が何らかの関わりを持っていたのではないかと緊急手配したとのことです。また、議導会最高議長ボイデフステード氏は国際治安維持協会並び各国首脳とゾルタリウスの指導者に対し、話し合いのテーブルに着くよう声明を発表しました。これに対し国際治安維持協会会長ソポリシカ氏は議導会に抗議文を提出したとの発表がありました。以上になります」
解説者からアナウンサーにカメラが切り替わった
「いや~、殲滅局設立の話はこの後どうなってしまうのでしょう? ところで解説のオルヴォーンさん、あなたはゾルタリウスではないでしょうね?」
「ちょと、生放送中ですよ。ふざけないでください」
「いや、申し訳ない。不適切な発言でした」
アナウンサーが一礼したところでCMが入った。
界斗は拳を握りしめ歯ぎしりしながら画面を睨んでいた。
ルイバンも普段クールな表情を崩しその瞳には激情が浮かんでいる。
そんなルイバンの左手をフィアリスは両手で握りしめている。
その他の4人はただ茫然とテレビを眺めていた。
同じころゾルタリウスの仮面を被った白髪の初老の男性は、モニター越しに同じくゾルタリウスの仮面を被った男と向き合っていた。
「先程、各国から声明が発表されましたが、卑劣なテロと言っておりましたな。そして屈することは無いと……」
声からするに、この男は先日この件の主導を任された者の様だ。
「ふむ……そうか……では、次の手を考えねばな……」
「そうですな。我らの力を知らしめねばなりません」
「そうだ、骨の髄まで愚者どもに我々の力を知らしめる必要がある。それが彼らの為でもある」
「まったくその通りですな。では、次の作戦が決まり次第ご連絡ください。それでは私はこれで失礼いたします。救世のために彼の者の力と共に我らがゾルタリウスへと」
「うむ。救世のために彼の者の力と共に我らがゾルタリウスへと」
白髪の初老の男性は通信を切った。
その後、夜空に輝く月を見上げながらワイングラスを傾けはじめた。




