第6話 其れは湧き出づる感情 (約12,000文字)
「佐伯君、オトマール先生の言っていた流体工学だっけ? どう火炎渦に利用するんだろうね?」
界斗は食堂でポークソテーの香味ソース掛けを食べながら横でかつ丼を食べているダニエルに話しかけた。
結局、ゼファレスの授業時間内では答えを出せなかった。その後、家庭科、地理の授業を受けたが界斗は火炎渦が気になって授業を碌に聞かず横に居るオルテシアから何度も注意をされた。
そして昼休みになると6組の男子8人は揃って食堂に向かった。
鐘が鳴ってすぐに行ったためか2階席はかなり空いており、10人掛けのテーブルに皆で揃って座れた。
界斗は皆の中で一番奥に座ったが、その後周りの席はどんどん埋まり、今界斗の隣には先輩らしき女子生徒2人組が向かい合って座っていた。
「流体工学は大学の内容だからな」
ダニエルはカツを箸でつつきながら考える。
「何それ?」
ダニエルの向かいに座っていたカバエラ・アルナンドが不思議そうにダニエルを見た。
「真田君が実演した火炎渦をオトマール先生に見せたら違うって言われたんだよね。その後、先生がくれたヒントが流体工学……」
「流体工学かぁ……けど、真田君のあの火炎渦では合格できなかったのか。僕なんか火球に単純に風を送り込むだけで精一杯なのに……合格できるのかな?」
アバカード・浩然がため息をついた。
「佐伯君でもわからないなら、俺たちにはどうしようも無いよね……他クラスの人に聞いてみるってのはどうかな?」
界斗が提案するとダニエル達は微妙な顔つきになった。
「どうでしょうね。他クラスの進捗も大差ないはずですし……それに真田君は転入してきたばっかりだから知らないでしょうが、この学校では他クラスはライバルです。そうそう勉強とかについて教えてくれませんよ」
(そういえば始業式の時にヴァイゼフさんの友達がうちのクラスに佐伯君とソフィスティードさんの2人が居てずるいとか言ってたっけ……)
界斗はシスダールの当校初日に集会堂で聞いた話を思い出していた。
「もしかして始業式の時、ヴァイゼフさんが『6組はずるい』とか言ってたことと関係ある?」
「うん?……あぁ、そういえばそんなこと言われたな」
ダニエルが思い出したように苦笑した。
「そうだな、この機会に説明しておくか……」
ダニエルが箸を置いて界斗を見る。
「実はシスダールにはテストの結果や行事の結果に応じてクラスポイントが与えられるんだ。正確にはテスト結果の3学期分合計得点、授業態度の内申評価、夏の実技大会、秋の文化大会、冬の弁論大会の3つの行事評価、これらはクラス単位で評価されて順位に応じてポイントが付与される。各学年の年間最優秀クラスは3月の終業式で表彰されて記念品がもらえるんだけど……なんと学院最高ポイントのクラスには3月の下旬にクラスで海外旅行がプレゼントされるんだ」
「すごい、海外旅行か……いいな……俺、まだ海外行ったことないよ」
界斗はリゾート地の島でのヴァカンスを思い浮かべた。高級ホテルで豪華な食事、海でのアクティビティ……例えベリアンフィルドの事件が起きず、孤児院に行くことが無かったとしても、庶民の子供には縁のないものだと、テレビの旅行番組を見ながら思っていた光景だ。
「俺も無いよ……まぁ、シスダールはそれなりの金持ちの生徒が結構いるから、海外旅行でそこまで喜ぶ奴は少ないと思うけど」
ダニエルが界斗に同意する。
「いやいや、佐伯君、僕はうれしいですよ……」
「俺も皆で海外旅行に行きたい」
一同が海外旅行で盛り上がる。
「けど凄いね。海外旅行をプレゼントしてくれるなんて」
「ほら、この学院の創立家であるシスダール家はリゾート地にいくつかホテルをもってるじゃん」
「え? そうなの?」
「あれ? 真田君、知らなかった?」
「ごめん。全然そういう事疎くて……」
「まあ、いいよ。つまりシスダール家が保有するホテルに無料で泊めてもらえて、そこまでの飛空艇も手配してくれるってわけ。けど実際は高3の最優秀クラスの為にあるようなものだけどな」
「何で?」
「テストとか内申とかは学年関係ないけどさ、行事は経験積んでる分、上級生の方が有利じゃん。だから高3のクラスが獲得していく事が多いんだよな……」
「なんだ、残念……テンション下がるね」
「確かにね。けど、個人的な表彰もあるし、年間テスト総合得点トップ5には記念品とかもらえるし、実技大会でも記念品もらえるし。別に頑張っても損という事にはならないかな」
「成程……やっぱりやる気出てきた。行事も頑張ろう!」
「お~、真田君がやる気になったぞ! では、まずは皆で実技大会頑張るか!」
浩然は気合が入ったのか皆に発破をかけた。
「クスクス……」
界斗の隣に居た女子生徒が界斗達の盛り上がりを見て笑った。
「五月蠅くしてすみません……」
「あ、いえ、こちらこそ笑ってごめんなさい」
界斗が慌てて謝るとその女子生徒もすまなそうに謝った。
ダニエル達は女子生徒の事は気にせず会話を続ける。
「そうだね、今年は真田君がいるから実技大会は優勝いけるんじゃない。そしたらみんなで海外旅行だよ!」
フォグラス・ジェードが界斗を見た。
「どうだろうな……総会長がいるし……」
ダニエルが食べかけのカツを睨む。
「総会長は凄いの?」
カイトがダニエルに聞く。
「ああ……凄いな」
(凄いってどれくらいだろう? アウルフィード団長よりも凄いのかな……)
界斗は先月のクラリティーナとの決闘を思い出していた。
「真田……真田界斗君?」
「はい?」
横に居た女子生徒にいきなり名前を呼ばれて、先月の決闘を思い出していた界斗はびっくりした。
「え~と、先輩? でしょうか……」
「そ、そんなに引かないでよ。それはいきなり名前を呼んじゃって悪いけど……」
界斗がダニエルの方に身を寄せながら女子生徒の方を向くと女子生徒は慌ててサラダを食べていたフォークを置き界斗に両手を伸ばした。
「先輩が……な、何でしょうか?」
界斗は訝しそうに女子生徒を見る。界斗は自分がモテるとは思っていない。女子の先輩に名前を知られているという事実に界斗は警戒した。
「真田君に青春が来た?」
「ち、違うわ。そんな事じゃないから!」
ダニエルが呟くと聞こえていたのかその女子生徒は大声で否定して立ち上がった。
「落ち着いて、ルネリ……みんな見てる。席に座って」
向かいに居た女子生徒が立ち上がった女子生徒を落ち着かせる。
ルネリと呼ばれた女子生徒は周りを見回すと顔を赤らめ慌てて座った。
「それでうちのクラスの真田君になにか御用ですか? 先輩……」
フェネル・ホセルが少し離れた位置から女子生徒に声を掛ける。
「いえ、別に用があるわけじゃ……」
「用が無い? なのに名前を呼んだ?」
「別に呼んだわけじゃないわよ」
女子生徒が否定すると男子全員で女子生徒を怪しそうに見つめた。
「う……はぁ……ただ私達は総会長と同じクラスなんだけど、総会長が1年生に真田界斗君という凄いゼファレスを持った生徒が来たって話していたから、苗字を聞いて思わず呟いただけよ」
「本当ですか?」
セディウスが女子生徒を追求する。
「本当よ!」
ルネリがムキになって答えた。
「何故、総会長が真田君の事を知っているんですかね? 演習場の件が噂になって総会長の耳に入ったのでしょうか?」
「演習場? なんの事か知らないけど、総会長は動画で見たとか言っていたわ。確かお父さん、国主様から見せてもらったとかで……」
「演習場で撮影でもしていたんですかね?」
セディウスが界斗を見る。残りの男子も界斗を見た。
「何でも決闘の……アウルフィード様との決闘の動画とか言っていたような……」
「決闘? だれが?」
「だからアウルフィード様と真田君のよ」
ルネリのさらなる説明に界斗は俯いてしまう。
(なんでだ~! 撮影されてるなんて聞いてない!)
「総会長はアウルフィード様に結局勝て無かったでしょ。だからアウルフィード様と良い勝負をした真田君と対戦するのが楽しみだとか話していたのよ」
「成程……先輩が真田君の名前を呼んだ理由はわかりました」
「で、決闘とはなんだ?」
ダニエルが界斗に聞いた。
皆、ルネリの言い分ついては納得したようだが、決闘について聞きたそうに界斗を見た。
「あ~、それは先月アウルフィード団長と決闘したんだけど、たしか国主様も来ていたような……」
「なにそれ! 俺、聞いてないよ!」
浩然が身を乗り出した。
他の男子も頷き界斗を見る。
「私たちは、これで失礼するわね。ごゆっくりどうぞ……」
そういうと女子生徒2人は立ち上がった。オムライスセットを食べていたルネリはオムライスは食べ終わっていたが付け合わせの野菜は半分近く残り、デザートのプリン2つは全く食べていなかった。どうやら居辛くなったため早々に退散したいらしい。
その時、食堂が騒めいた。
「きゃ~、総会長よ」
中等部の1年女子生徒だろうか、小柄な女子生徒達が1階を見下ろしながら黄色い声を上げている。
「メディエル副会長もいらっしゃるわ。本当にお美しいわ。サインくれないかしら?」
始めは一部の女子生徒が騒いだだけだったが、それにつられて他の生徒達も席を立ちあがり、1階入り口を見下ろせる吹き抜けの手すりに群がり始める。
「総会長が女連れで食堂にでも来たのかな?」
サイラスが興味なさそうにご飯を頬張った。
「まったく総会長が女連れで食堂に来ただけでこの騒ぎかよ……はぁ」
ダニエルがため息をついた。
それを見て界斗は苦笑した。
が、次の瞬間6組の男子たちはお互い顔を見合わせた。
「ソフィスティードさんもいらっしゃるわ!」
騒ぎに混じって女子生徒がオルテシアの苗字を呼ぶのが聞こえた。
「まさか……ソフィスティードさんが総会長ハーレムの一員に?」
ジェードがビックリしたように皆を見回す。
「俺、見てくる」
アルナンドが立ち上がる。
「俺も行く」
それにつられて他の男子も立ち上がる。
界斗も普段から横で勉強を教えてくれるオルテシアが、ラファエフの彼女になったのか気になったが見に行くのを躊躇った。
「俺たちも行こうぜ」
ダニエルは界斗が躊躇っているのを見ると面倒そうに立ち上がりながら声を掛けた。
界斗とダニエルは何とか手すりの端からは1階を見下ろすことが出来た。
総会長一行は入り口のモニターのメーニューを見ていた。総会長の両脇にはそれぞれ先輩らしい美しい女生徒がいる。その後ろには隠れる様に小柄な女生徒が居て総会長の制服の袖をつかんでいる。さらにその後ろには男子生徒や女子生徒がいてオルテシアは最後尾に居た。
「なんだ、高等部生徒会御一行か。まったく迷惑な……。昼休みに会議するときは普段生徒会役員室で昼飯を食べてるのに揃って来るなよ。食堂が大騒ぎじゃないか。だいたいメディエル先輩が総会長と一緒に来れば大騒ぎになるのは分かり切った事じゃないか。あの人普段食堂にすら来ないんだから」
ダニエルが嫌そうに顔をゆがめた。
「佐伯君、やっぱり総会長の事、嫌いだよね?」
「ははは。まあ、嫌いと言っても少しだけだけど。けど嫌ってる奴は結構いるよ。ハーレム作って校内であんな風に両脇に彼女を連れて見せびらかしていたらね。それ以上に女子生徒だけでなく男子生徒からも人望あるから問題は起こってないけど」
「確かにね。嫉妬しちゃう生徒もいるよね。ところで後ろに居るのは妹さん?」
「多分、そうだろうね。今日はお兄様の所でご飯を食べるつもりなんだろう。最近は総会長に引っ付いているなんて噂聞かなかったけど……今日はなんでだろうな?」
「たまにはお兄さんと一緒に食べたくなるんじゃない?」
「家に帰れば一緒に食べれるだろ?」
「お昼ご飯を学校で一緒に食べるというシチュエーションが良いんじゃない?」
「ははは! 真田君も面白いこと言うね」
「所で先程騒がれていたメディエルさんて有名なの? サインが欲しいとか聞こえたけど」
「え? 真田君知らないの? もしかしてテレビ見ない?」
「孤児院に居た3月までは見てたけど、解放者の寮に来てからはまだ買ってないから見てないかな。一応、解放者の食堂にもテレビはあるけど、いつもニュースしかつけてないから気にすることは無いし……」
「3月まで……それで知らないとなるとドラマを見ない?」
「見たことはあるよ。けど、興味は無いかな……もしかして俺が気にしてなかっただけかも」
「だろうね。ほら去年の秋から今年の3月まで流行った学園恋愛ドラマがあったじゃん」
「それなら何度か見た事あるかも……ん? もしかして芸能人?」
「そう、それも主役をやっていた女優があのメディエル先輩」
界斗は総会長と話しながら他の生徒会役員がメニューを決めるの待っているメディエルと呼ばれた女子生徒をまじまじと見る。
「う~ん、そのドラマなら何度か見たけど、主役の女の子とあまり似てないような気もする」
「多分髪型と化粧の仕方が違うからじゃない? ほら、あのドラマだと可愛い系だったけど、今は大人っぽいというか……」
「言われてみると本人かも……けど、総会長は凄いね。怖くないのかな? そんな女優さんをハーレムの一員にして。その……襲われたりしないのかな? ファンの人とかに……」
「そうか、真田君は転入してきたばかりだものな。総会長もゼファレス法術が凄いと聞いたことはあるだろ?」
「うん、何度か聞いた」
「世間ではアウルフィード様の強さが伝説的に語られてるから、それに比べると総会長は霞む。けど、実は総会長も凄ぐ強い。なにせ、噂によると5歳のころから体術を相当仕込まれているらしいしからね」
「5歳のころから? さすが国主の息子さん……あれ? けど、今の国主さんが国主に成ったのって8年前だよね……そうなるとそういう教育の家って事なのかな? 国主さんは昔は国際調停士って聞いたけど?」
「まあ、そうじゃないの? ザンターク家だし……でさ、総会長は高等部1年の頃から学院内でハーレムを作り出してさ。それを面白く思わない上級生たちが居たんだよね。実技大会でアウルフィード様と対戦してるから総会長の凄さは周知の事実だったんだけど……それでも総会長は気に食わない。いくら国主の息子だからってね。その上級生達はどうしたと思う?」
「悪口を流したとか?」
「ははは、真田君は平和だね。校内で闇討ちだよ。総会長が1人で体育館の裏を通ろうとしたとき5人で不意打ちをしようとしたらしい。そして5人とも体術でのめされたってわけ」
「うわ~、すごい。総会長」
「けど、妹の方がもっとヤバい噂がある……」
「え? あの子、おとなしいんじゃないの?」
「そう、普段はおとなしい。けど実は……なんて話はあるだろ」
「た、確かに……」
界斗は自分が演習場でやらかした事を思い出した。
「去年、総会長の妹が入学してきたとき、以前から総会長の事を良く思っていなかった最上級生、つまり当時の高3生だな、3人が妹に放課後絡んだらしい。そこには出来たばっかの友達も居たらしいんだけど、その3人が友達に怪我をさせちゃって……」
「うわ~、それでどうなったの?」
「どうやったのか知らないけど、3人とものめされたらしい……しかも1人は両足粉砕骨折……」
「あの子、そんなにヤバいんだ……」
「まあ、妹の方はあくまで噂だけどね。総会長は学力テスト学年1位だし、ゼファレス法術も体術も凄いというのは実技大会で見ている俺たち在校生には周知の事実だけど、妹の方は中学1年生の時は体育の授業で体術が無いから強いかわからないし、実技大会の体技部門には出なかったし、出場した法術部門では凄いようなゼファレスを見せつけて凄くない結果で終わったらしい。さらに体育授業の陸上とかの運動はダメダメだったらしい」
「そうだよね……あんなおとなしそうな子が凶悪にはとても見えない。ところで何か話を聞いているとシスダールって意外とヤバい人が多い様に聞こえるけど……なんか世間の評判と違うような?」
界斗とダニエルは眼下で食券を購入している生徒会一行を見ながら会話を続けた。
「……今はそんな事は無いけど一昔はちょっと荒れた時期があったらしいんだよな。シスダールが法術授業に力を入れ始めた時期だな。それ以前は単なる進学校だったんだけど、急な変革で当時の在校生は反発したらしい。もともと勉強のストレスで陰では素行の悪い生徒はいたらしいしな。それにシスダールは私立だし設備もいいからお金持ちの学校なんて言われてるけど最上流の金持ちの家の子供が多いわけじゃない。この国の最上流の金持ちはマリクト学院に行く子供が多いから、シスダールはウクテルにある金持ちの学校としては2番手なんだよな。だから金持ちだけど上がいるというどこか劣等感を抱えた真に品行が良いとはいえない生徒が少なからずいたらしい。そういった生徒達はアウルフィード様が来てその才能に嫉妬したらしい。けどアウルフィード様は強いだろ。それにハンターだし。だからそんな生徒達はただ腐るしかなかった。そしてアウルフィード様は学校には授業を受けに来るだけで部活も生徒会も所属しなかった。ハンター活動で忙しかったしな。アウルフィード様が校内の腐った生徒を気にかける事は無かったらしい。それから後に来たのが総会長さ。国主の息子という事で皆注目していたし、総会長も入学したての頃は単なる優秀な生徒だから、影で腐って不良と化した生徒達は別に絡んだりしなかったんだけど、高1になってハーレムを作り出したら目をつけたらしい。そして暴力にうったえた。でも返り討ちにあった。そして総会長は秋の生徒会長選挙で高等部一年にして高等部生徒会長を通り越して総会長になった。そこで全校の秩序を強化しわずかに居た不良生徒達を徹底的に教育したんだよね。悪い上級生の影響を受けていた総会長の同級生や下級生は更生したらしい。でも上級生には総会長も強くは出れなかった。だから総会長の妹が入学した時いた当時の3年の不良が絡んだというわけさ」
生徒会一行が食券を購入し終わったのかぞろぞろと受け取りコーナーに向かって行く。
受け取りコーナーは2階からは見えない。視界から生徒会一行が消えると界斗はダニエルの方を向いた。
「じゃあ、今はこの学校はまともなんだ?」
「そうだね。それに俺たちの1歳上の世代からはアウルフィードの世代と言われて、それまでの世代とは違って品行方正な生徒が多いと言われているから今は平穏さ」
「アウルフィードの世代? なにそれ」
「アウルフィード様が有名になった翌年、アウルフィード様にあこがれて色々な所から生徒が集まってきた。外国からも結構きてるね。だからシスダールの倍率は上がり学力だけでなく品行方正な生徒を選抜することが出来たというわけさ」
「成程……ところでマリクト学院ってよく聞くけどやっぱり金持ちの学校なんだ」
「そうらしい。詳しくは知らないけど学力はうち程ではないけどそれなりに高いし、なにより入学テストを受けるためには、著名人の紹介状や親の仕事や家柄、年収で許可されるらしい。つまり家のステータスによっては入学テストさえ受けられず、実際入学してるのは最上流の金持ちの子供たちだけだからな。だから金持ち学校っていうのはあながち本当らしい。後、マリクト学院はどこかシスダールの生徒をライバル視している所があるから気を付けた方がいいよ」
「そうなんだ……けど、今のところ知り合いにマリクト学院の子はいないと思うから大丈夫かな?」
「そうか……ん?」
話していると階段の方がざわついてきた。
界斗やダニエルが階段の方を向くと総会長一行が2階にやってくるところだった。
階段付近に群れていた生徒達が割れる。
(初めて見た。通るだけで人の群れが割れるなんて……)
ラファエフが名実ともにシスダールの頂点に君臨しているという事を界斗は目の当たりにした。
「2階に来るのかよ……早く食べ終えて戻ろうぜ」
ダニエルと界斗は席に戻ろうと歩き始めると、ラファエフは界斗達に向かってきた。
「なんかこっちに来るんだけど?」
界斗とダニエルは急いで席に戻った。
ラファエフ達は空いている席へ向かわずそのまま界斗達の席に来た。
「教室に戻ろう」
先に席に戻って食べ終えていたサイラスが声を掛けると界斗とダニエル以外は立ち上がった。
ダニエルと界斗はまだ食べ終えていなかったが一緒に戻ろうと席を立とうとした。
「真田君、その……総会長がご挨拶をしたいそうなんですが、よろしいでしょうか?」
オルテシアがトレーを持ったまま申し訳なさそうに界斗に声をかける。
さすがに嫌だとは言えない。
界斗が頷くとオルテシアは横に避け、ラファエフはトレーを近くに居た生徒会のメンバーらしき生徒にあずけると界斗の前に進み出た。その後ろには妹であるルリエラが隠れる様に立っている。
ダニエルは席に座り直し、残りを食べ始める。どうやら界斗を待つようだ。
残りのクラスの男子6人も教室に戻らず遠巻きに他の生徒たちと見ている。
「やあ、食事中にすまないね。本当は以前会った時に挨拶出来れば良かったんだけど。あの時は君が解放者の幹部だとは知らなくてね。改めて僕はザンターク・ラファエフ。そんな目で見ないでくれ。僕たちは国主の子として解放者の幹部である君みたいな身分の人と挨拶をしておく責務があるんだ。もちろん副団長のご子息であるルイバン君にも入学時に挨拶したよ。彼とは何度か遊んだこともあるし、妹のルリエラは中等部で良くしてもらっているよ」
界斗はラファエフが何故挨拶をしてきたのか、最初はかなり怪しんだが納得した。
(あぁ、そういえば国主さんも挨拶に来ていたしな……それは挨拶しに来るのは分かるけど、わざわざ食堂じゃなくてもいいじゃないか。迷惑な人だな……)
界斗がラファエフの顔を見るとラファエフの右手が差し出された。
界斗はその手を見ると再度ラファエフの顔をみる。
ラファエフは国主譲りの爽やかな笑顔を浮かべた。
(え? 握手しろって事か? 相手は総会長……握手したらなんか派閥の争いとかに巻き込まれそうなんだけど……それに佐伯君は総会長の事嫌いそうだし……この握手が切っ掛けで総会長の事が嫌いな人から俺も嫌われたりしたくないんだけど……)
「握手してくれないんだ……ちょっと悲しいかな……もしかして僕嫌われているのかな?」
「あ、いえ……」
界斗はラファエフの悲しそうな顔を見ると、焦って横にいるオルテシアを見た。
「真田君は総会長の前で緊張しているだけです。真田君、大丈夫です」
オルテシアが界斗を見ながら頷いて握手を促した。
(ソフィスティードさんが言うなら取り合えず握手はしておこう……せっかくフォローしてくれたんだし……ここで握手をしなければソフィスティードさんにも迷惑がかかるかもしれない……)
「すみません……僕なんかが総会長と握手していいのかと思ったので……」
界斗は言葉を丁寧にして慌てて取り繕うとラファエフの手を握りしめた。
(え!……な、なに? この感覚……)
界斗はラファエフの手を握った瞬間、引かれるような親近感を感じた。
(これがもしかして一部の上位にいる人たちが持つと言われているカリスマなのか?)
界斗が驚いてラファエフの顔見るとラファエフは微笑んだ。
「何か真田君とは仲良くなれそうな気がするな。これからは気軽にラファエフと名前で呼んでくれて構わないよ。宜しく」
ラファエフは後ろに隠れていたルリエラの手からトレーを受け取って界斗の前に立たせた。
「さぁ、ルリエラも真田君にご挨拶をするんだよ」
「……はい……お兄様……」
ルリエラは可愛らしく消入りそうな声を発すると、可愛らしい顔を俯けながら少女らしいほっそりとした華奢な手をゆっくりと伸ばして……伸ばして……すぐに引っ込めた。
「ルリエラ、真田君は大丈夫だよ。頑張って」
「はい……」
ルリエラは口を結びながらぎゅっと目を瞑り右手を差し出した。
(ははははは……この子、凄い人見知りだ)
界斗は自分以上のルリエラの人見知り具合にどこか安心した。
「よろしくね。ルリエラちゃ……さん」
界斗はちゃんずけで呼ぼうとしたが、相手は中学生とはいえ国主の娘にちゃん付けはまずいかと思い慌てて言い直した。
界斗は懸命に差し出されたルリエラの手を優しく握った。
(な!)
又も引かれるような親近感を感じてルリエラの顔をみる界斗。
ルリエラも顔を上げびっくりしたような顔で界斗を見ていた。
見つめ合う2人……
「なにあの2人、あんなに熱く見つめ合って……」
お互い手を握りしめたまましばらく見つめ合っていると周りに居た生徒達が騒ぎ始めた。
「あ! ごめん」
「ご、ごめんなさい……」
界斗とルリエラは慌てて手を離した。
そしてルリエラはラファエフの後ろに隠れようとした。
「ルリエラ、挨拶は最後までしっかりとしないと」
「はい、お兄様……」
ラファエフに促されて慌てて自己紹介を始めた。
「ア、……アラミード共和国国主ザンターク・ネディフが娘ザンターク・ルリエラです。今日という良き日にお会いできたことを大変喜ばしく存じます。こ……これから仲良くしてくださいませ。真田先輩……」
そう言うとルリエラはスカートをつまんでゆっくりとお辞儀をする。
そしてどこか潤んだ瞳で界斗を見つめた。
「え……と」
界斗はそのような丁寧な挨拶をされるとは思っていなく反応に困ってしまった。
横に居るオルテシアも驚いたようにルリエラを見つめているし、周りの生徒達も驚いていた。
「あれがお嬢様流のあいさつ……」
どこからか男子生徒の呟きが聞こえてきた。
「あっ……」
ルリエラは小さく悲鳴をあげると顔を赤らめて俯いてしまう。
「ごめん。僕の方こそこれからよろしく」
界斗は慌ててルリエラに挨拶すると、ルリエラはラファエフの背後に隠れてしまった。
「真田君、ごめんね。あの挨拶は社交の為みたいなものなんだ。その様な挨拶してしまうとはルリエラは大変緊張してしまったみたいだね。ちょっとこの場には似つかわしくない挨拶だったね。気にしないでくれると有難いかな」
「いえ、そんな……こちらこそ慣れていなくて申し訳ないと言いますか……」
界斗は高校生の自分が中学生であるルリエラ相手にちゃんとした対応が出来なかった事を申し訳なく思った。
「とにかく、今日は挨拶が出来て良かったよ。今度ゆっくりと話がしたいね。皆も騒がせてしまったね。席について昼食を楽しんでくれたまえ。それでは僕たちも空いてる席でお昼ご飯にしよう」
ラファエフは振り返り生徒会一行を見渡す。
「総会長、ではあちらの奥が空いていますのでそちらに行きましょう」
生徒会役員らしき男子生徒が奥の方を指すとラファエフ一行は空いている奥の方へと歩いていく。
「真田君、ありがとうございます」
オルテシアも界斗にお辞儀をするとラファエフ達の後に続いた。
界斗は席に着くと残りを急いでかき込む様に食べ終えた。
「真田君も大変だね……」
横でダニエルが苦笑いをしていた。
教室に戻ると界斗は男子全員に囲まれた。
「で、さっきの決闘って何の事?」
「あっ、あれね。実は先月アウルフィード団長と火球を当てて板を倒すっていう勝負をしたんだけどさ……」
界斗は先月の決闘の内容を詳しく話した。
「まじかよ……目に見えないほど速い火球を撃てるとか、もうそれ反則だろ」
ダニエルはクラリティーナの凄さに呆れた。
「流石アウルフィード様としか言いようが無いですね」
セディウスも苦笑いだ。他の男子全員も頷いている。
「所で真田君はその動画持ってないの?」
「え? 持ってないどころか撮影されていたなんてさっき知った所だよ」
「そっか残念。俺も見てみたかったな」
「真田君、それ手に入らない?」
「は? 総会長に頼むって事?」
「いや、解放者の人でも持ってるんじゃない?」
「あっ、そっか。けど聞いてみないと分からないよ。それに俺、携帯とか持ってないから皆にどうやって見せればいいか……」
「おいおい、解放者の幹部が携帯持ってないとかありえないだろ……」
ダニエルは呆れた顔をした。
「あれ? 持ってないとまずかった?」
「真田君……外出時に緊急の連絡があった場合はどうするんですか? 解放者の人は困ってしまいますね……」
セディウスの一言に皆頷いた。
昼休みが終わり午後の授業も終わった。今日は界斗の補修は休みの日だった。レディエスとロランスがやってきて帰りのホームルームが済むと界斗はダニエルやオルテシア達、班員に挨拶をして早々に教室を出ようとした。
「みんな、また明日」
「はい、また明日」
オルテシアは管弦楽部があるようでバイオリンをロッカーから取り出していた。
前に座る琴絵とマリアーネも振り返り界斗に挨拶をする。
「真田君、また明日な。あ、そうだ、今度の土曜か日曜予定を空けられる?」
ダニエルが界斗に思い出したように声をかけた。
「今度の土曜か日曜? 聞いてみないと分からないけど、何で?」
「国立図書館に皆で調べに行こうかと思っているだよね。例の流体工学について」
「そっか、分かった。訓練があるんだけど休めるか聞いてみるよ」
「頼んだ。じゃ、また明日」
「また明日」
(図書館か……勉強しに行くって言えば休めるかな?)
界斗はどのように言ったら訓練を休めるか考えながら寮に戻った。




