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キョウシュウキ(郷愁鬼、凶集鬼) L 世界を保全せし意思と約束の果て  作者: 新宿ソナタ
第二章:新しき出会い、シスダール学院1学期編
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第5話 理由 (約12,000文字)

(これからあのチームでやっていけるのかな……)


 翌日、界斗は依琳の事で憂鬱な気持ちになりながら1人シスダールへ登校していると肩を叩かれた。ここ最近ルイバンは界斗よりも早くに登校していたため1人登校の時が多い。


「おはよう、真田君」


 界斗が振り向くとそこにはダニエルが友達2人と一緒に居た。

 1人は界斗と同じく6組のダニエルと仲の良いセディウスだったがもう1人は知らない生徒だった。


「おはよう、佐伯君、ガザエ君、それと……」


 界斗は知らない生徒を見る。


「やあ、君が噂の真田君か。僕はアフマリス・ボーラン、よろしく」


 右手が差し出された。どうやら握手をしたいらしい。


「こちらこそよろしく」


 界斗は握手をしながら挨拶を交わした。


「浮かない顔をしてるけど何かあったのかい?」


 ダニエルが右手を顎に当てながら界斗の顔を見る。


「実はさ、昨日解放者でチームメンバーとの顔合わせがあったんだけど、なんか初対面で嫌われているみたいなんだよね……はぁ」


 界斗はダニエルに話した途端、昨日の事を思い出しため息をついた。


「そいつは男? 女?」


 ダニエルが聞いてくる。


「女の子。1歳下の中学3年生……」

「女の子か……。男なら真田君の創成術で黙らせればいいけど……ちょと面倒だね」


 ダニエルは意外と過激な思考をしていた。


「へぇ、解放者って女子中学生もいるんだ」


 ボーランが興味を示した。


「小さいころから戦闘訓練を積んでいるみたいだから、そこら辺の男の人より強いと思うよ。それにヴァイゼフさんも中学の時から解放者に居るんでしょ?」

「そういえば一時話題になりましたね、ヴァイゼフさんが解放者に所属した事」


 セディウスが思い出すように腕を組みながら空を見上げた。


「そうそう、確かヴァイゼフさんが解放者に所属したって噂が流れた後、告白して玉砕した奴がいて……そこら辺の一般人じゃ相手にされないって話になってあきらめた奴が何人もいたんだよな」


 ボーランも腕を組みながら頷いた。


「まあ、元気だしなよ。これから仲良くできるかも知れないじゃん」


 ダニエルが界斗の肩を叩きながら励ます。


「ところでその子、可愛いの?」


 ボーランがひとなつっこそうな笑みを浮かべながら界斗にすり寄り聞いてくる。先ほど知り合ったばかりなのに、彼の中では界斗はもう友達になっているようだ。

 界斗は初対面のボーランがそんな事を気安く話しかけてくるとは思っていなかったからちょっと引き気味なった。


「まあ、可愛いかな……」

「他にチームは誰がいるの? その子と2人っきりってわけでは無いでしょ?」


 ダニエルがニヤニヤと何か知った顔をしながら聞いてくる。


「まあね。というか佐伯君、なにその顔?」

「実はさ、先週ヴァイゼフさんがここ最近の真田君の事を聞いてきたんだよね。だからさピーンと来ちゃったんだよね」

「そうなんだ。佐伯君の言う通りヴァイゼフさんも同じチームになったよ」

「な! う、うらやましい……あのヴァイゼフさんと一緒に活動できるなんて。危険を共に潜り抜けることで生まれる恋心……羨ましい……羨ましすぎるぞ!」


 ボーランは界斗の両肩を掴んで激しく揺すぶった。


「ちょっ!」


 界斗が軽く睨むとボーランは慌てて手を離した。


「ご、ごめん。つい……」


 その後、ボーランは遠くを見ながら「あぁ……神様、早く俺にも青春を……」とか、なにかぶつぶつと呟いている。


「佐伯君……彼、大丈夫?」

「いやはや、こいつさ、高等部に入った途端盛ちゃって、もう5人ぐらいに告ってるんだけどさ……」

「本当に?」

「そうそう、この前なんか中等部の新入生に凄い美少女がいるとかいう噂を聞いたら確認しに行って、その2日後に告ってきたらしい」

「まじですか……で、結果はどうなったの?」

「『いやぁ~』って言いながら走って逃げられたらしい。中学入学早々に知らない先輩からいきなり告られたら、それは逃げるよな。まじでウケるだろ~」

「おいおい佐伯君、その言い方はないだろ! それに告れるチャンスなんてそうそう無いんだぞ!」


 ボーランが怒りダニエルを睨む。ダニエルは肩を竦め苦笑する。界斗やセディウスも釣られて苦笑いした。




 校舎に入り4階に上がると3組のボーランと別れ、界斗、ダニエル、セディウスは教室に入る。席に鞄を置きベランダに出て3人で話していた。教室内も次々と生徒達が登校してきて騒がしくなる。

 ダニエルは背中を手すりに寄りかからせ、界斗とセディウスはベランダから登校してくる生徒達を眺めながら先ほどのボーランの恋愛話をしていると、急にセディウスが声を上げた。


「あの子ですよ、アフマリス君が告白した例の中学1年生」


 高等部棟の斜め向かいにある中等部棟に向かう10人ぐらいの女子生徒の集団を指さした。


「あの集団? どの子?」

「中央のポニーテルの子ですよ」


 界斗はセディウスの言うポニーテールの子を探した。

 少し遠目だから顔ははっきりと見えなかったが、何とか姿だけは確認できた


「10人という集団で登校しているのも何か凄いね」


 界斗は手すりにもたれ掛かりながら一団を眺める。


「アフマリス君が声をかけていきなり告白したからかも知れませんよ。二度とアフマリス君みたいな男を近づけないよう守っているのかも知れません。それに噂によると芸能事務所に所属していてモデルをしているそうですよ。だから余計にガードが固くなっているのかも知れません」


 セディウスは恋愛騒動に興味があるのかどこか愉快そうに眼下の一団を見下ろしていた。


「ふ~ん、そうなんだ。そういえば中等部の教室には行っちゃいけないんだよね? アフマリス君はどうやって告白したんだろう? それとも教室まで行ったのかな?」

「そういえば聞いてなかったな。昇降口で待ち伏せでもしたんじゃないかな。お互い2階以上に出入りしない様に強く言われているから、彼奴が教室まで行ったら全教員に周知されて、その後全校集会で注意になったと思うんだよね。けどそんな事にはならなかったし、この事知ってるの彼奴の友達ぐらいだからさ……」


 ダニエルは興味ないのか眼下の一団には見向きもせずに答えた。


「佐伯君はアフマリス君がどんな女の子に告白したのか興味なさそうだね……」

「いや、俺は彼女いるし。それに勉強、部活、休みの日はバイトで忙しいから。別に彼奴の好きな女子の顔をわざわざ確認しようとは思わないかな」

「あ、そっか、流石学年上位。そうだよね」

「真田君、ちょっと違いますね。それは彼女持ちの余裕という物です」

「あぁ、成程……」


 界斗は一団を眺めているセディウスを見ると再び視線を戻す。女子中学生達はちょうど昇降口に入っていくところだった。


「登校時にあのように友達がガードしている事を考えると昇降口で声を掛けたのかも知れませんね」


 セディウスが一団を眺めながら呟いた。

 その後もベランダで話していると鐘が鳴った。

 生徒達が席に着き始める。


「おはよう」


 界斗とダニエルは席に戻るとオルテシアや琴絵、マリアーネに挨拶をする。


「おはよう」

「おはようございます」


 琴絵と、マリアーネが振り返り界斗とダニエルに挨拶をする。


「おはようございます。真田君、今日から法術授業の実技が始まりますね。よろしくお願いします」


 オルテシアが微笑みながら声を掛けてきた。


「あんまり期待しないでね……」


界斗は苦笑いを浮かべた。




 担任であるレディエスと副担任のロランスがやってきてホームルームが始まった。

 挨拶をすませるとレディエスが連絡事項を話し始めた。


「来週火曜日の午前中に避難訓練があります。国都ウクテルは周辺に都市があり比較的安全とはいえ、いざという時の為に備えておかなくてはなりません。あなたたちは高等部にあがったため今年から役割が与えられます。役割については明後日のホームルームで説明します。各自そのつもりでいてください。避難訓練の日の午前は全て訓練に使われますので午前の授業はありません。私からの連絡事項は以上です。李先生からなにかありますか?」

「いえ、特にありません」

「では、これでホームルームを終了します」


 レディエスとロランスが教室から出ていく。




「さて、1時間目はゼファレス法術の実技だ。着替えて訓練場に行こう」

「そうだね、いこう」


 界斗はシスダールに入学して初のゼファレス法術実技授業ということでどれほどの物かと期待していた。

 4月はゼファレスの原則など復習だった。始めの授業で告知された年間予定によると1学期は火炎渦の創成と射撃訓練、2学期は気体や液体の圧縮とそれを利用したエアーカッターや水流カッターの訓練、3学期はポリエチレンなどのプラスチックの創成だった。

 ちなみに界斗はポリエチレンと聞いて思わず「もうできるんですけど……」と声に出してしまったら見せて見ろと言われ、創成したら界斗には別の課題を与えるとか言われたのである。

 界斗はこれから自分の攻撃手段が増えると思うと一刻も早くゼファレス訓練場に行きたかった。

 更衣室でジャージに着替え昇降口で動きやすいランニングシューズに履き替える。

 界斗とダニエルは第1グランドの端にあるゼファレス訓練場に向かった。




 途中歩きながらグランドの方を見ると他の生徒達がいた。


「あれは中等部だな。人形姫がいる」

「人形姫?」

「何か人形みたいなの見えない?」


 界斗は立ち止まって中学生の一団を見回した。

 少し離れているが確かに校庭の砂で作ったのか猫だか犬の人形らしき物を女子生徒3人がしゃがんで囲んでいるのが見えた。


「確かに何かの動物っぽい人形があるね。その周りには3人いるけど……」

「ツインテールっぽい子が人形姫」

「へぇ……人形っていうのは分かったけど、姫っていうのはお姫様っぽいてこと?」

「ある意味、お姫様だからかな。あの子は総会長の妹なんだよ」

「え? 総会長に妹が居るんだ……ってことは、国主様の娘さんてことか。兄妹そろってシスダールか……あの総会長の妹だから色々と凄そうだね」

「う~ん、どうだろう? 人形姫ってあだ名は休み時間によく友達とお人形遊びするからつけられたらしいんだけど……凄くおとなしくて、総会長とは性格的に全然違うらしい」

「へぇ、そうなんだ」

「入学してから半年ぐらい昼休みは総会長と生徒会役員室でご飯を食べていたらしいしな」

「人見知りなのかな?」

「多分ね。おっと、そろそろ行こうか。遅れてしまう」


 界斗とダニエルは訓練場へ少し駆け足で向かった。




 界斗とダニエルが訓練場に着くと法術担当講師であるオトマール・アルメドスがすでに来ていた。生徒達は仲の良い者同士で雑談をしている。


「ギリギリセーフだよな。確かまだ鐘鳴ってないよな?」


 ダニエルが界斗に確認するように聞くと、界斗は頷く。


「サイラス、まだ始まってないよな?」


 ダニエルが6組の男6人で固まって話している所へ声をかける。


「まだだよ。鐘鳴ってないでしょ?」


 そのままダニエルは輪に入って話し始める。

 界斗は辺りを見回した。

 6組の女子は班員同士で話しているが、オルテシアは5組の女子に囲まれていた。


「ソフィスティードさんは5組の女子とも仲が良いんだね」


 界斗がダニエル達の方に誰にともなく声を掛ける。


「ソフィスティードさんは学年首位だし、大企業のお嬢様なのに気さくで話しやすいからね。こんな合同の実技授業じゃないと話す機会なんて他クラスにはそうそう無いから、この機会に5組の女子達が話しかけているんだよ。で、うちのクラスの女子は遠慮して話さないわけ」


 マレハール班のフォグラス・ジェードがオルテシアの方を見ながら答えた。

 鐘がなった。


「お前たち授業を開始するぞ」


 アルメドスが声を上げると生徒達は各班ごとに固まって集合した。

 アルメドスが横にあるホワイトボードに書き始めた。


「先週告知したように今日から火炎渦の訓練をする。さて、これは火炎渦を習得するのは勿論の事だが目的は他にもある。火炎渦の習得を通して火球よりも複雑な同時ゼファレス操作を習得することにある。まずは中学で習得したメタノールの火球に必要な工程は……そうだな5組のお前答えて見ろ」


 5組の男子生徒が指さされた。


「はい。メタノールの液体を創成する工程と創成した液体を重力に逆らって物体操作する工程、そして発火の3操作です」

「おおむね正解だが少し違う。重力に逆らう操作は常に必要だが創成と発火は同時にする必要はない。熱量をかけ発火する時は創成を止めても問題ない」


 そういうとアルメドスは右手人差し指の先端に小さなメタノールの球体を創成し始めた。


「つまり、ここにあるメタノール球では、現在ゼファレスは創成と物体操作の2通り働いている。これの創成を止め、発火させる」


 メタノールの球体が発火した。直径5cmぐらいの大きさの為、離れている生徒達には熱くもない。


「さて、この発火した状態でさらにこの様に火球を大きくしても結局は創成と物体操作の2通りでしかない」


 アルメドスの右手の火球が10cmぐらいに膨らんだ。


「このように中学で習うメタノール火球の創成だが、中学最後に行われるメタノール火球の評価には成績をつけること以外にも意味がある。人によってその創成速度に差があるが、それは原子の創成速度の差でもある。ゼファレスの原則により原子番号が大きくなるほど創成は難しくなる。水だと酸素と水素だけだが、メタノールはそこに炭素も入る。つまり水素よりも原子番号が大きい酸素と炭素を同時に創成しなくてはならないから、水よりもメタノールの方が難しい。酸素原子の創成は一般的な才能があるかどうかの分かれ目と言われている。才能無い者は酸素の創成ですでに苦労する。そこに炭素が加われば才能が無い者にとってはもう極端に難しくなるわけだ。ちなみに鉄の創成が素早く出来るかどうかは創成術の天才の分かれ目と言われている。さて、一分間に一発しか当てられなかったF判定の者は正直言って才能が無い。2発のE判定の者も微妙だ。そのような者にはゼファレスを同時に火球以上の操作をしなくてはならない火炎渦は難しい。我が校では全員がD判定以上なはずだが、この場にE、F判定の者はいないはずだ。大丈夫だよな?」


 アルメドスが5組、6組生徒一同を見回す。

 だれも反応しなかった。


「よろしい。では、火炎渦を見せよう」


 アルメドスは火球を創成している右手を上にあげた。


「いくぞ、全員よく見る様に」


 右手人差し指の先端から炎が渦をまいて1mぐらい上空に吹き上がった。


「おおっ」


 生徒達からどよめきが生まれる。

 炎の渦は5秒ぐらいで霧散した。


「これが火炎渦だ。この創成術の特色は何だと思う?」


 アルメドスが生徒達を見渡す。


(何が特色何だろう? 火球と違って継続的に対象を焼けるとか?)


 界斗は腕を組んで地面を見つめながら考える。

 側にいる琴絵とマリアーネが2人で相談している声が聞こえた。


「派手な所ですか?」


 5組の男子生徒から声があがる。


「おしい! と言いたいところだが、そんな理由で授業をするわけないだろ。もっと理論的に意味があるし、我が校の生徒にそのようなおちゃらけは必要ないぞ」


「……すみません」

「分かればいい。さて、お前たちにはこれより練習してもらう。期限は3週間。この創成術の特色や利点を班ごとにレポートでまとめ提出するように。3週間後に実践テストをする」


 アルメドスは火炎渦の詳しい説明をせず早々に話を終えた。


「え? これだけ? もっとちゃんと教えてくれないの?」


 界斗は早々に説明を切り上げたアルメドスにびっくりして声を出してしまった。

 他の生徒が一斉に界斗を見る。

 何か生暖かい目を向けられた。

 オルテシアが界斗の肘をつっつく。


「?」


 界斗がオルテシアの方を向くと、囁いてきた。


「実践系の授業は良くあります。音楽では譜面を渡されて各自練習するようにとか、美術ではテーマだけ与えられて絵を描くなんてこともありました。実践で皆で考え意見を出し合うための班でもあるのです。シスダールでは先生によって思考力や創造性を鍛える様に授業が行われているのも特色です。技術の先生は始めは丁寧に教えてくださいましたが、工作になったらきちんと説明せずに作るようにとおっしゃる事でしょうね」

「成程、そうなんですね……」


 界斗は納得がいった。


「では、班ごとに行動するように。火炎渦の練習に訓練場の的を使いたい場合は、先生に一言声をかけるように」


 そういうとアルメドスは椅子に座って腕を組み生徒達を見回し始めた。


「俺たちは向こうで話そうよ」


 ダニエルが訓練場の壁の方を指した。6人掛けの大理石のベンチやテーブルが置いてある。

 ダニエルと界斗が並んで座ると向かいに、オルテシア、琴絵、マリアーネが並んで座った。それを見た他の生徒達もやってくる。がテーブルは3つしかないため、あぶれた他の班は別の場所に散って行った。


「さて、始めようか」


 ダニエルが言うとオルテシアがノートと筆記具を取り出した。


「流石ソフィスティードさん、ノートを持ってくるなんて……」


 界斗は感心した様に言う。ソフィスティード班でノートを持ってきたのはオルテシアだけだった。


「そうでもありません。これは班長としてごく当たり前の事です。他の班でも班長は筆記具は必ず持ち歩いています」


 オルテシアがノートをテーブルの上に置こうとした。


「あ、待って」


 オルテシアがノートを置こうとすると琴絵がテーブルの土埃をさっと手で払った。


「河峯さん、ありがとうございます」


 ノートを広げオルテシアの準備が整うと話し合いが始まった。


「特色や利点って何だろうね?」


 ダニエルが言うと皆考え始める。


(皆、俺より勉強できるんだからここは傍観してた方が良いのかな・・・・)


 界斗は先ほど思った事を言おうか躊躇ったがとりあえず皆の意見を聞くことにした。

 しかし誰も口を開かない。


「真田君はどうですか?」


 しばらく皆黙っていたが、オルテシアが不意に界斗に声をかけた。


「う~ん、先ほど思ったんだけど火球に比べたら継続的に焼ける分、攻撃力は高いんじゃないかな?」

「確かにそうだな……」


 界斗の考えにダニエルも同意する。


「けど、ゼファレスの消費効率はどうなんだろう? 継続的ってことはその間ずっと創成してるってことでしょ?」


 琴絵が疑問を口にする。


「確かにそうですね。火球と比べて攻撃力に見合ったゼファレスの消費効率でないと使うメリットは少ないと思います。メリットが無い物質の創成をわざわざ授業で教えないと思います」


 オルテシアも界斗の考えに疑問を抱いた。


「けど、時間効率はいいでしょ? 十分メリットじゃない?」

「確かに真田君ぐらいゼファレスに恵まれていれば時間を優先することを考えられますけど、一般的な人はゼファレスの消費効率を優先しないとなりませんよ」


 界斗の反論にオルテシアが答えた。

 皆、再び黙って考え始めた。


(そういえば去年の授業で酸素と燃焼温度の関係を表したグラフがありましたね……)


 オルテシアはふと脳裏にグラフが浮かんだ。それは去年の授業で教師の一言で1回だけ見た事があったグラフだった。


「佐伯君、去年の授業で酸素と燃焼温度の関係を表したグラフを見たことがありませんでしたか?」

「あ、あれか~、確かに……成程、そういう事か……」


 オルテシアに言われてダニエルも気付いたようだ。


「なにか分かったんですか?」


 マリアーネがオルテシアの顔を見る。


「私たちは去年この様なグラフを学びましたよね。真田君が中学の時こういうグラフを見たことがあるかどうかは分かりませんが……」


 オルテシアが界斗の方をほんの一瞬見るとノートにグラフを書き始めた。


「このように燃焼物質に供給される酸素量が増えると燃焼温度が上がるそうです。火球の場合は目標に着弾し周辺酸素を消費しながら燃焼するため酸素濃度が低下していきます。火炎渦の場合は滴状の燃焼物質が渦によって供給される空気があるため酸素濃度が低下せず燃焼していると考えられます。つまり滴状のため燃焼効率が良く、酸素が多いため燃焼時の温度が低下しません。風があれば酸素濃度の低下は防げますが常に風が吹いているわけではないので炎を風と共に当てるのは有効的なのでしょう。そして先程の先生の実演を見るに一点に継続的に集中できるため、ぶつかると衝撃で散ってしまう液体火球よりも攻撃地点に対する温度効率が高いといえます」


(凄い……これがシスダールの学年1位……)


 界斗は感心してオルテシアを見る。


「うん、そうだね」


 ダニエルも頷く。


「さすがソフィスティードさん!」


 琴絵が感激したように声を上げた。

 マリアーネも頷いている。


「ソフィスティードさん……ほんと頭いい……」


 周り居た生徒達も聞き耳を立てていたのかオルテシアの言った事をメモしていた。


「つまりまとめると燃焼効率や熱量、攻撃性能において火球よりもゼファレス効率に優れているという事ですね」


オルテシアが呟きながらノートに書き込んでいる。


「さて、では実際に出来るように皆で練習しましょうか……」


 ノートを閉じながらオルテシアが立ち上がった。


「ここには屋根がありますし狭いので向こうに行きましょう」


 オルテシアの一言で界斗達は立ち上がると移動した。




 界斗達は空いている場所に移動する。他の場所ではすでに練習を開始している班もあった。


「そう簡単には出来ないみたいだね」


 琴絵がすでに練習を開始していた生徒達を見ながら呟く。

 生徒達はアルメドスが実演した様に火球を創成した後、火球に風を送り込んでいるみたいで火球から炎が噴き出している。


「あれでは火球を風で煽っているだけですね。風の回転が難しいのでしょうか?」


 オルテシアはその様子を見ながら首を傾げた。


「とりあえずやってみましょう」


 オルテシアはノートと筆箱を左腕に抱えながら、右手人差し指の先端に小さな火球を創成する。


「この火球に風を送りそして回転する力を与えるんですね……」


 そういうとオルテシアの火球から炎が噴き出した。


「やはり彼らと同じ様になってしまいますね……」


 オルテシアは火球の消えた人差し指の先を見つめながら考え始めた。


(ソフィスティードさんは何でも出来るのかと思ったけどそうでも無いんだ……)


 界斗は完全無欠なオルテシアを想像していたが、自分の方が出来ることがあってどこかほっとした。

 ダニエルや琴絵、マリアーネも同じように炎を吹き上げている。


(ところで、みんな何故炎を吹き上げているんだろう?)


 界斗は気付いた事を言うかどうか迷った。


「真田君はどうですか?」


 オルテシアが練習を開始しない界斗を見て声を掛けた。


「う~ん……みんなは何故炎を吹き上げているの?」


 界斗は結局聞くことにした。


「それは火球に直進方向の風と回転する力を与えるためにまずは直進する風を送っているからだけど……その後の回転する風がうまく操作できないんだよね」


 ダニエルが界斗を見ながら答えた。

 マリアーネが頷く。


「真田君は出来るの……?」


 琴絵が腕組みをしながら界斗を見た。


「こういう風でしょ……」


 界斗は右掌を琴絵に向けた。目をつぶり集中する。

 先程のアルメドスが火炎渦を作り出したときに炎の流れを思い出す。


(あの時、炎は螺旋を描きながら押し出されていた……)


 界斗はゆっくりとゼファレスを螺旋状に放出し空気を絡め纏わせた。

 界斗のゼファレスの動きに合わせて空気が押し出されていく。

 琴絵のアップで結んでいる髪が風で靡いた。


「風が渦を巻いてる……こんな簡単にできちゃうなんて……」


 琴絵が驚いた表情で界斗を見た。


「川峯さん、これが風で良かったですね……。炎なら髪の毛チリチリ、顔面火傷になってましたよ……」


 マリアーネがぼそりと言った。

「あーーーー! 私危うく丸焦げにされるところだった?」


 琴絵が界斗を軽く睨む。


「えぇ? 俺はそんなことしないよ」


 界斗はあわてて首を振りながら否定する。


「いや、単なるツッコミだから真田君が気にする事はないよ」


 ダニエルは苦笑していた。

 

「真田君、私たちにアドバイスをお願いしたいのですが……」


 オルテシアがまじまじと界斗を見つめた。

 どうやら界斗の才能に関心したようだ。


「あ……うん」


 オルテシアに見つめられ界斗は少し顔が赤くなった。


「皆は火球を創成した後、風を送ってさらに回転させて渦を作ろうとしてるけどそれだと難しいと思うんだよね。メタノールの創成と球体維持、そして風の送風操作と回転で4重のゼファレス操作になっちゃう。急がば回れじゃないけど、まずは螺旋状の風を操作できるように練習した方が結果的に早く習得できると思うよ」


 界斗はそういうと右手人差し指に小さな火球を創成する。そして螺旋状の風を吹き込んだ。

 風が炎を纏って竜巻の様に若干広がりながら渦を巻いた。


「おぉ……」


 それを見ていた周りの生徒達からどよめきが上がる。


「……流石ゼファレスで解放者の幹部になれるだけあるよ」


 ダニエルが呟く。オルテシアも頷いた。


「それに火球を創成してから風を吹き込むんじゃなくて、風を吹かせてからそこにメタノールを創成した方が球体維持の為の物体操作を必要としない分楽だよ」


 界斗は火炎渦をいったん消すと、今度は火球を創成しないで瞬間的に火炎渦を作って見せた。


「先生は説明するために火球から創成したけど本来は前もって火球を創成しておく必要はないはずだよ」

「確かに真田君の言う通りですね。先生が見せてくれた手順が正解とは限りませんし……」


 オルテシアが言うとダニエルも頷いた。


「いきなり出来ちゃう真田君は凄いけど、何か先生の火炎渦と違くない? 先生のはもっときれいな柱になっていたような……」


 界斗の火炎渦を見て首を傾けた琴絵がマリアーネに同意を求める様に見る。


「確かに川峯さんの言う通り、真田君の火炎渦は拡がりながら散っている感じがします……」


 マリアーネも考えながら答える。


「確かにそうですね。真田君の言う通りの手順ならゼファレスの操作多重度は火球と変わらない事になってしまいます……」


 オルテシアも琴絵とマリアーネの意見を聞き考え始める。


「皆がそう言うなら先生に聞きに行こうぜ」


 ダニエルが椅子に座りながら生徒達を見回しているアルメドスを見ながら言う。


「そうだね」


 界斗とダニエルはアルメドスに聞きに行くため歩き始めた。その後をオルテシア達が付いていく。


「皆は練習しないの?」


 界斗は振り返って後ろをついてくるオルテシア達3人に聞いた。


「気になるじゃない……それに私そんなゼファレス多くないから……」


 琴絵がおどおどとした感じで答えてきた。


(溌剌な河峯さんにしては珍しい態度だな……)


 界斗は琴絵のしおらしさに少々驚きながらも、ゼファレスの少なさはコンプレックスなのかと思った。


「真田君からしたらダサいだろうけど……私はこぶし大の火球を20個も創成したら疲れちゃうんだよね……」

「私も川峯さん程ではないけど30個も創成できればいい方です」


 マリアーネが琴絵に共感をしめす。


「ソフィスティードさんは?」

「私も似たような物です。ですからできれば色々と試すのを真田君にお願いしたいのです」


 オルテシアは界斗を見ながら申し訳なさそうに答えてきた。


「うん、わかった。普段勉強を教えて貰っている分、ゼファレスを使う事は俺に任せてよ」

「期待してるぜ、真田君」


 ダニエルが界斗の肩に手を置く。そしてアルメドスに向かって歩いて行った。





「先生、ちょっといいですか?」


 ダニエルが腕を組みながら椅子にどっかりと座っているアルメドスに声をかけた。


「何だ? 6組の佐伯か……どうした?」


 アルメドスはゆっくりと顔を上げながらダニエルをみた。


「火炎渦がこれで良いか確認して欲しいのですが……真田君」


 ダニエルが後ろにいる界斗を呼ぶ。

 界斗はアルメドスの前に進み立つ。


「確認をお願いします……」

「いいだろう、見せてみろ」


 界斗はゆっくりと一呼吸する。教師の前かつ周りから注目されたため、少々緊張していた。

 右手人差し指を上空へ向けると小さな火球を創成する。次の瞬間、風が渦巻、火炎渦が創成された。

 小さな炎の渦が60cmぐらいの高さまで渦巻いている。


「そのまま維持するように……」


 アルメドスは椅子から立ち上がり、まじまじと界斗が創成している火炎渦を見始めた。


「やはり1手足りんな……もう消していいぞ」


 そういうとアルメドスは椅子に座った。


「さて、お前は6組の転入生の真田だな?」


 アルメドスは眼光鋭く界斗を見る。


「はい」


 界斗は火炎渦を消すとアルメドスの鋭い視線に緊張し直立不動となった。


「お前はもともとこれを使えたのか?」

「違います。今日、初めて練習しました」


 鋭い眼光でじろりと見つめられ界斗は緊張のあまり冷汗をかいた。


「初日で風の渦を操作して炎と合わせてくる……成程、普段学園に居ない理事長がわざわざ学園までごり押しに来るだけの事はあるのか……」

「え?」

「実はな、校長が言うには『当校に転入するには学力が少々心許なかったのだが、ゼファレスは凄いから今後の試金石として入学させるように』と、理事長が言ってきたのだそうだ」


(ここに転入できたのってそういう事だったのか……)


「ははははははは……何かスミマセン」


 界斗は何故学力が劣っていたのにシスダールへの転入が出来たのか疑問に思っていたが、理由を知り思わず乾いた笑い声をあげた。

 そしてその事を聞いた周りのオルテシア達班員やその他の生徒達も納得したのか「なるほど」といった表情をしている。それを口に出す者はいなかったが……


「あ、すまん。本人に言うべきことではなかったな。俺はどうも余計な事まで話してしまう癖があってな……ところで火炎渦の件だが、残念ながら合格ではない」

「ほら、違ったじゃん」


 琴絵が腰に手を当てダニエルを見る。

 ダニエルは肩をすくめた。


「あのう……何が違うんでしょうか?」


 界斗はアルメドスを見る。


「真田、お前は今、何重のゼファレス操作をした?」

「火球の創成と維持、風の操作で3重です……」


 界斗が答えるとアルメドスは首を振る。


「ヒントをやろう。火球を創成して火炎渦を創成する場合は4重だ。そして火球を創成しない場合は3重だ。発火を入れると結局4重だがな……」

「4重ですか?」


 ダニエルが横から口をはさんできた。

 アルメドスの答えがダニエルにとっても以外だった様だ。


「本当は来週の進捗具合でヒントを与えるつもりだったのだが……そうだなぁ……今日は物理の知識とゼファレスによる物体操作のそれなりの経験が無いと、この様にきれいな柱は出来ないと言っておこう。物理についてはもっと詳しく言うと流体工学の知識だ」


 アルメドスは左手人差し指を上げ火球を創成した後、火炎渦を創成した。

 1mぐらいの高さまできれいに炎が渦を巻いて柱になっている。界斗の散るように広がっていく炎の渦とは明らかに違った。

 界斗はまじまじと目の前で渦巻く炎の柱を見る。


「あ……」


 アルメドスが火炎渦を消すと界斗は非難がましい目でアルメドスを見た。


「もういいだろ……さて、よく考え、悩みたまえ。それが君たち若者の成長の糧となり、思考力を鍛えてくれる事になるだろう」


 そういうとアルメドスは腕を組み他の生徒達を見回し始めた。


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