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キョウシュウキ(郷愁鬼、凶集鬼) L 世界を保全せし意思と約束の果て  作者: 新宿ソナタ
第二章:新しき出会い、シスダール学院1学期編
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第4話 界斗のチーム (約15,000文字)

 5月に入った最初の土曜日、界斗は訓練場でガリウスと向き合っていた。

 界斗は左腕に盾を装備し支給されたばかりの特殊加工が施された防刃、衝撃吸収に優れた解放者のベストとパンツを着ている。対するガリウスはTシャツ姿だった。


「今日はテストを行う。このテストに合格すればハンター登録を許可し任務への参加を認める」

「はい!」


 界斗にとっては待ちに待ったハンター登録である。気合を込めて返事をした。


「気合は十分の様だな。これから私と模擬戦を行い1発でもゼファレスによる法術攻撃を当てられれば合格とする。どんな手を使ってもいい。蹴りだろうと体当たりだろうとなんでもありだ。ただし有効となるのは法術攻撃だけだからな。では、準備は良いか?」


 ガリウスは右手に持っている界斗が鉄の棒に柔らかいポリエチレンを纏わせて作った剣を構えた。


「そうだな……強さは中位の成体魔獣ぐらいにしておくか」


 次の瞬間、ガリウスのゼファレスが活性化し纏う空気が変わった。界斗はその迫力に押され1歩2歩と下る。


「では、いくぞ」


 掛け声を発した次の瞬間にガリウスは界斗に詰め寄っていた。


「な!」


 身長2m近い筋骨隆々とした体格からは想像できない程の速度で5mの距離を突撃してきたガリウスに界斗は驚き身を引いてしまう。そこにガリウスが横なぎの一閃を放った。


「うわぁ!」


 界斗は左腕の盾で防御したがこらえきれず吹き飛ばされ地面に背中をたたきつけられた。


「ぐはぁ!」


 叩きつけられた衝撃で息が詰まりせき込む。


「反応が遅いぞ!集中しろ!」


 ガリウスの叱責が飛ぶ。周りにいた何人かの職員は何事かと2人を見学し始めた。


「痛ててて……」


 背中の痛みを我慢しながら界斗は立ち上がる。


「今までの訓練とは段違いに速いですよ。俺には対処できませんよ……」

「では今日はあきらめるか?」


 ガリウスが界斗に歩み近寄る。


「おいおい、一度吹き飛ばされただけで泣き言いうなよ。根性見せろよ」


 周りからヤジが飛ぶ。クラリティーナとの決闘でゼファレスの違いを見せつけられ、カイトに恐れを抱いた職員達だったが、中級、上級の職員達は日々訓練場で訓練する界斗を見て戦闘の素人だとわかると徐々に恐怖心が和らいできたのか遠慮がなくなってきていた。流石に陰口を叩かれることは無くなっていたが……

「くっ……や、やります!」


 界斗は顔を赤くして怒鳴った。


「そう来なくてはな。では構えろ、いくぞ」


 ガリウスが上段から剣を打ち下ろす。


「ぐぅ……」


 界斗は盾で受ける。反撃するつもりだったが予想以上の衝撃に足がぐらついた。


「まっ、待ってください。本当に中位の魔獣はこんな力で攻撃してくるんですか? 衝撃が凄くて耐えきれないんですけど……」


 界斗は腕をさすりながらガリウスに待ったをかけた。


「一か月間の訓練で何をやってた?」

「盾で防御したり、回避したりですが……」

「防御するときの衝撃相殺訓練はしてこなかったのか?」

「何ですか? それ……」

「は? ……何を言っている。防御に慣れてきたら訓練で教えるように伝えておいたぞ?」

「はい? ……そもそも今までの人たちの攻撃はこんなに重くなかったですし……」

「あいつら教えなかったのか? 途中で予定道り訓練がされているか確認するべきだったか。だが過ぎたものは仕方ない……」


 ガリウスは首を横に振ると界斗を見る。


「では、いま教える。簡単だしな。物体操作で相手の力に抗うだけだ。攻撃を受けた瞬間に盾を相手方向へと押し出すように物体操作するだけだ。残念ながら界斗君の体格では力の強い魔獣の攻撃を筋力や体重だけで受け止めるのは厳しいだろう」

「はい……」

「だが界斗君のゼファレスがあればかなりの力で盾を操作し対抗できるはずだ。試してみよう。まずは左手の盾を正面に構える」

「はい」


 界斗は言われた通り盾を正面に構えた。


「私が剣で盾を押し込めるから、盾を物体操作して抗うんだ。何だったら私の剣をはじき飛ばしてくれてもいいぞ」


 ガリウスは界斗の盾に剣を当てると力を籠め始めた。


「ぐぅ」


 界斗は左腕に感じるガリウスの力に唸る。


「盾を操作するんだ」


 ガリウスの掛け声に応じて盾にゼファレスを流して抗う様に力を加えていく。


「成程……」


 界斗は左腕に感じていた圧力がふとした瞬間喪失したのを感じた。


「左腕が楽になったか?」

「はい……」

「ではもっとゼファレスを込めて私の剣を押し返すんだ。ただしこの時、気を付けないといけないのは盾に合わせて腕や体も動かすこと。盾の動きに体がもってかれて態勢を崩すぞ」

「分かりました」


 界斗は注ぎ込むゼファレスを高め、盾でガリウスの剣を押し始めた。


「いったん止めよう」


 ガリウスの掛け声で界斗はゼファレスを止める。ガリウスも剣を引いた。


「これで注意するのは体を操作して抗おうとしないことだ。衝撃によっては骨が耐えきれずに粉砕することもある。最初の訓練で言ったが相手の攻撃によっては避ける選択をするべきだ。それが難しいなら受け流す。たとえ吹き飛ばされたとしても体を操作してうまく着地すればよいだけだからな。宙に浮かんで態勢を整える訓練もしておくといい。界斗君のゼファレスならそれなりの時間浮かんでいられるだろう。倉庫にはマットもある。落下や受け身の訓練に使うといいだろう」

「分かりました。練習しておきます」

「では、界斗君が良いと思うまで練習してから試験を再開しよう」


 界斗が盾を構えガリウスが剣で押し込む。界斗はそれを押しのける。

それを午前中に何百回と繰り返していた。




 午後になった。まだ訓練を続けていた。


「午後からはゆっくりと攻撃するからそれに合わせて押し返すように。では、いくぞ」


 午前はその場で動かず盾と剣を合わせての訓練をしたが、午後はゆっくりとした実戦形式での訓練に入った。

 ゆっくりとガリウスが剣を振るい、界斗が盾で受け止める。ガリウスはそこに力を籠め界斗の盾を押し込んでいく。界斗は盾を操作してそれに抗う。それを何度か繰り返した。


「あのう、聞いてもいいですか?」


 界斗がガリウスに声を掛けた。


「何だ?」

「思ったんですが盾を操作して宙に浮かべておけばいいんじゃないですか? そうすれば体勢を気にしなくて済みますし……」

「そう思うならやってみるといい」


 界斗は左腕の盾を外し宙に浮かべた。


「準備はよさそうだな。ではいくぞ」


 界斗が身構えた。そこにガリウスが殺到する。


 界斗は正面に盾を配置する。次の瞬間ガリウスは右にステップを踏み盾の横から剣を界斗の首筋目掛けて振るった。

 慌てて盾を動かそうとするものの間に合わず剣が首筋に当てられた。


「……」


 押し黙る界斗。


「今はそんなに早く攻撃していないぞ。それは分かったかな?」

「はい……」

「では、何がダメだったのか、分かったかな?」

「動かそうと思った時には遅かったです……」

「そうだな。それが宙に浮かべて使わない理由だ。人間の反射は神経伝達で行われるから素早く反応できる。しかし物体操作は認識した後、考え、ゼファレスを使うという工程をとるからどうしても反応が遅れる。だから物を物体操作で飛ばして遠距離攻撃に使っても、どこからくるか分からない攻撃を咄嗟に防ぐために盾を操作して防御に使うことはしない。それでも宙に浮かべて使いたいのならそのための訓練を長い時間して、すばやく動かせるようにするしかない。だが確実に防御できるようになるまで数年はかかると言われている。しかしそんな訓練をするならば攻撃訓練をする方が重要だ。攻撃は最大の防御というしな。今の界斗君には他に優先して鍛えるべき項目が沢山ある。プライベートな時間をどう使おうと君の自由だが、どうせ訓練するならできれば優先順位をしっかりと考えて訓練してほしい」

「わかりました」


 界斗は返事をすると盾を手に取り装着した。


「では、スピードを徐々に上げていくからな」


 夕方まで界斗はガリウスに扱かれ、疲れ果てて寮に戻った。




「界斗さん、おかえりなさい……って、凄い疲れた顔をしてますね」

「うん、ちょっとね……」


 リビングに行くとルイバンは界斗が見たことのないシスダールの学生2人と話していた。


「すいません。お邪魔してます」


 1人の生徒が声を出して挨拶し、もう1人が会釈で界斗に挨拶をする。


「ルイ君の友達? ゆっくりしていってね」

「ありがとうございます。先輩」


 2人の生徒は界斗に頭を下げた。


「今日は父と訓練場で訓練していたみたいですね」

「そうだよ……結構しごかれた」

「父の訓練は厳しいですからね。僕も昔はさんざんしごかれました。」

「ははは……実の子供にも厳しいんだね」

「界斗さん、夜ご飯はどうしますか? 食堂行きます?」

「ごめん。疲れたからとりあえず寝るかな……起きた時にどうするか考えるよ」

「分かりました。お疲れ様です」


 界斗はルイバンとその友達に手を振ると自室に入りベッドに倒れ込んだ。

 そしてすぐに寝息を立てて寝始めた。




 次の日、訓練場で界斗はガリウスから再度の試験を受けていた。


「反応が遅いぞ!」


 ガリウスの怒声と同時に界斗は腹に本日初の一撃を受け、蹲る。


「げほげほ……はぁはぁ」


 顔を上げると立ち上がった。


「もう一度お願いします!」

「良い目だ。やるきはあるな。では行くぞ!」


 ガリウスが界斗に殺到し下段から切り上げる。

 界斗は右足を引いて躱すと盾を腕に装着した左手でポリエチレン球を創成して至近距離でガリウスの脇腹に当てようとした。ガリウスはそんな界斗の左腕を瞬時に蹴り上げた。

 ポリエチレン球が宙に打ち上げられる。


「く!」


 界斗は左手の痛みに顔をしかめるが、そのまま右手にゼファレスを集中しポリエチレン球を創成して放つ。それをガリウスは剣で受け止めた。

 ガリウスは剣をそのまま横なぎに界斗へと振りぬく。界斗は盾で受け止めた。

 ゆっくりとガリウスの剣に界斗の盾は押し込まていく。

 界斗の盾が押し込まれガリウスとカイトの視線が至近距離で交差する。

 さらに押し込まれ界斗がのけぞり始めた。


「おおおおおぁぁぁぁ!」


 界斗は気合を込めるとゼファレスで一瞬、盾をおもいっきり物体操作した。

 瞬間的に強い力で押されガリウスの剣は腕ごとはじかれた。

 そして今度はガリウスがのけぞった。

 その瞬間、界斗はガリウスの頭上に飛び上がる。ガリウスはそれを視界の隅に捕らえるとすぐさまのけぞったまま態勢のまま剣を上空へと振るった。

 界斗はそれを盾で受け止めるとそのまま体を操作してガリウスの後ろに回り込み着地する。

 てっきり界斗は衝撃の勢いを利用して距離を取ると思ったいたガリウスは驚いて反応が遅れた。


「なに?」


 ガリウスは驚きながらも回し蹴りを放ち、後ろを向く。ガリウスの丸太のような太い足が呻りを上げるが、蹴りは宙を空振り、振り返ったガリウスは咄嗟に視界の先に界斗を認めることが出来なかった。

 その瞬間、ガリウスは顎に衝撃を感じてのけ反った。


「見事だ……」


1歩、2歩と後ろによろめきガリウスが下を向くと地面に寝ころび右掌を上に向けている界斗がいた。


「や、やった……」


界斗は土を払いながら立ち上がる。


「うむ……見事と言ったが、その体制だと一撃で仕留められなかったら後がないぞ。同じ相手に2度は通用しない。気を付けるように。1本は1本だから試験は合格とするが……」

「……ありがとうございます!」


 界斗はガリウスに礼をした。


「しかし急にどうしたんだ? まさかこのような動きをするとは……」

「昨日考えたんです。ガリウスさんの意表を突くにはどうしようかと……それで後ろに回り込んだら寝ころんで視界から消えて不意打ちする方法を思いついたんです。先ほど攻撃を受けたときにダメもとで試してみようと決めたんです」

「いい心がけだ。色々な攻撃方法を試していけば多彩な戦い方が出来るようになるだろう」


 ガリウスは訓練場の端に置いてあった荷物を取りに行く。


「さて、居室に戻ろうか。今後の事を話そうとしよう」


(やった。これでハンターになれる!)


 界斗は右手を握りしめ、心の中でガッツポーズをする。

 界斗も自分の飲み物等が入ったバリュックサックを持つとガリウスに続いて訓練場を後にした。




 汚れた服を着替えた界斗は幹部居室に戻った。

 先に戻っていたガリウスは封筒とネックレスを手に持っていた。


「さて、まずはこのタグを渡そう。これは解放者の幹部である証のタグであり真田君専用だ。任務に赴く際は必ず身に着ける様に。次にこの封筒の中に国際治安維持協会への推薦状が入っている。推薦人は解放者の団長であるクラリティーナ様と実際に界斗君を試験した私の連名で書いてある。これをお昼を食べ終わったら協会に提出しハンター登録をしてくるように」

「お2人からの推薦……ありがとうございます! さっそく行ってきます」

「いや、そう焦るな。もう少しで昼だから午後からでいいぞ。昼ご飯を外で食べたいのなら行ってきてもいいが」

「……いえ、食堂で食べてからにします」

「そうか、食事は自由にするといい。さて、界斗君には今後簡単な任務から始めて経験を積んで貰うわけだが、1人で魔獣狩りをするわけではなくチームで行動することになる」

「チームですか……」


(正直、ルイ君以外に仲のいい人はいないんだけどな……)


 界斗は人付き合いが嫌いだし、あれこれ陰口を叩いてきた職員達に苦手意識を持っていたがそんな事は正直には言えなかった。


(はぁ……そういえばアスランがコミュニケーション力は重要とか言っていたな。

誰とでも簡単に仲良くできるアスランが羨ましいよ……)


 これからチームで仲良くしないといけないのかと思うと憂鬱な気分になったが顔には出さなかった。


「解放者は人が沢山いますけど、色々な人達とチームを組むことになるんですか?」

「任務によってはそうなる。界斗君は人付き合いが苦手そうだが、気に病む必要はないぞ。仕事だからな。もし仲良しごっこを求めるような輩がいたら注意していい。クランのプライベートに干渉しないという方針は好き嫌いにかかわらず社会人として協力できるという前提で成り立っている。仲良しで固まって嫌いな者の邪魔をするようならそのような者達は指導もしくは排斥するだけだからな。職員どうしで無理に仲良くする必要はない。界斗君は挨拶と任務に関する報連相をしっかりとすればいい。ここは働くための組織であって仲良しごっこの場では無いからな」

「はい……確かにそうですね」


 界斗はガリウスの物言いに面食らった。


(な、なるほどそういう考えもあるのか……けど、だからといって険悪な空気の中で戦うのも嫌だよな……そう考えるとやっぱり仲良くする方が良いのかな……)


「とはいっても、まず最初は固定のチームを組むがな」


 界斗があれこれ考えている中ガリウスの話は続く。


「固定ですか……」

「大掛かりな任務だと人員の調整のために固定のチームに関係なく招集するが、普段は固定のチームで働いてもらうことになる」

「つまりはその人達と協力して戦闘をこなせるようになる必要があるわけですね……」

「そうだな。だがこれから2週間ぐらいは連携訓練の時間を取るつもりだ。いきなり実戦などという事にはならない」

「成程、訓練の時間があるわけですね。安心しました」


 界斗はいきなりの実戦でなくて安心した。


(話しやすそうな人達だといいな……そうしたら話しかけることも出来るけど……)


「さて、界斗君は協会に登録しに行って戻ってくると何時ごろに戻ってこれる?」

「そうですね……片道一時間ぐらいでしょうか」

「そうだな。バスで中央ターミナルまで行くと少し遠回りになるからそれぐらいかかるか。だれかに車を出して貰うとするかな……」

 ガリウスが腕を組んで考え始めた。

「え? ……悪いですよ。皆さん忙しいだろうし……」

「確かにそうだな。バスで行っても4時ぐらいには戻ってこれるか……よし、4時半に2階の会議室で顔合わせとしよう。界斗君は携帯は持っているかな?」

「すみません、そのような物は持ってないです……」

「そうか……遅れるようなら協会で借りるか公衆電話で電話をしてくれ。俺の携帯の番号を教えておこう」


 界斗はガリウスの携帯番号が書かれたメモを受け取る。

 その時、お昼の鐘が鳴った。


「ちょうどいいな。食堂に行こう。ルイ! 昼ご飯に行くぞ」

「はい分かりました。すぐに行くので先に行っててください」

 少し離れた所からルイバンが返事をする。

「そうか。界斗君、私達は先に食堂に行ってるとしよう」


 ガリウスは何やらデスクで作業をしていたルイバンの返事を聞くと界斗を連れて食堂に向かった。




 午後になり界斗は昼ご飯を食べ終わると休憩を取らず、すぐに国際治安維持協会へと向かった。

 ガリウスは昼休み明けで良いと行ったが登録でどれくらい時間が分からないから界斗はすぐに向かった。

 そして1時半過ぎに界斗は国際治安維持協会の扉をくぐった。


「国際治安維持協会アラミード共和国本部にようこそ、本日のご用件はどのような事でしょうか?」


 美人の受付嬢が声を掛けてきた。前回来た時とは違い今日は1人しかいなかった。


(前に来た時も同じように声を掛けられたけど、そういう風に言うように言われているのかな?)


 営業スマイルを浮かべる受付嬢に界斗は会釈をする。


「あのう……ハ、ハンター登録に来ました」


 界斗は前回来た時の馬鹿にするようにあしらわれた記憶が蘇り、緊張し声がうわずった。


(落ち着け……今日は推薦状がある。前回とは違って登録できるはずだ)


 緊張で顔が引きつった界斗だが、受付嬢は気にすることなく左奥を指した。


「あちら左手の奥で新規登録の受付を行っています」


 前回来た時と同じ場所を指された。界斗は振り向いてカウンターが並んでいる方を見る。

 その瞬間、界斗はビクッとした。

 目の前の受付にあの時の男性職員が居て、カウンター越しにハンターだろうか剣を身に着けた男と話していた。

 界斗はカウンター上にある案内表示を確認する。【クラン担当窓口】と書かれていた。


(今日はあの人は新規登録の担当じゃないんだ……)


 界斗はどこかほっとしたが、目の前で推薦状を叩きつけて見返してやる事が出来ず残念にも思った。しかしあの時の職員ではないと分かると緊張は解れていった。

 新規登録者の受付の窓口に行くと50歳ぐらいのおばさんが居た。


「こんにちは、君は登録に来たのかしら?」

「はい……」


 おばさん職員に声を掛けられた。


「身分証のプレートを見せてくれるかしら?」


 界斗はリュックサックからプレートを出し見せる。


「ゼファレスを流してくれるかしら?」


 言われた通りプレートにゼファレスを流すと発光した。


「はい、ありがとうね。年齢も問題ないわね。どこかのクランの所属証明か推薦状か持ってるかしら」

「はい、あります」


 界斗はベストのポケットからクラン証を出し、さらにリュックサックから推薦状を取り出した。


「君は解放者の新人なの……凄いわね。これから頑張ってね」


 おばさん職員はクラン証を見ると界斗を褒める。

 そして推薦状の封を開け目を通す。


「まぁ……アウルフィード団長とデルクード副団長の推薦ね。これなら登録するのに申し分ないわ。それではこの書類に記入してくれるかしら?」


 界斗を驚きの目で見ると脇に置いてある書類の束から1枚手に取り界斗に渡す。

 名前や住所、生年月日、所属クランなどを書く用紙だった。

 界斗は記入すると書類を渡す。


「この右下の円にゼファレスを流してくれるかしら」


 界斗がゼファレスを流すと徽章が浮かび上がった。どうやらこれが国際治安維持協会の徽章らしい。

 おばさん職員は書類を受け取ると端末に入力を始めた。

 そして受付に置いてあるプレートを指さした。


「そこのプレートに掌を乗せて。そしていいと言うまで軽くゼファレスを流し続けてくれるかしら」


 界斗は言われた通り掌を乗せゼファレスを流す。


「もういいわ」


1 分ぐらい界斗はプレートにゼファレスを流した。そして掌を離す。


「あのう……今のは」

「これはね、君のゼファレスを登録したのよ。何かあった時の本人確認に使うのよ」

「そうですか」


(ここにもゼファレス認証システムが使われているのか……)


「さて、登録はこれで終了したわ。この後は規則講習を受けてもらうけど、ちょうど今日の14時と16時に行われるわ。どっちにする?」

「時間はどれくらいですか?」

「だいたい30分ぐらいかしら」

「後日でもいいんですか?」

「いいけど講習を受けない限り活動は認められないわよ」


(14時半に出れれば16時ぐらいには戻れるかな……)


「では、14時でお願いします」

「分かったわ。14時で受付しておくから」


 職員は端末を操作する。そして時計を見た。


「後10分ちょっとで始まるわね。場所は2階にある第3会議室よ」

「2階の第3会議室ですね。分かりました」


 職員は冊子を界斗に渡す。


「これが規則集よ。それから間違えて他の会議室に入らないでね。使用中だし誤解されてしまうわ」

「分かりました。ありがとうございます」


 界斗は冊子を受け取り会釈をすると2階に向かった。


(階段はどこだっけ? 入り口の所か……)


 界斗は階段を上り2階に着く。廊下を見渡すと扉が幾つも見えた。

 扉の上にある表示を確認しながら奥へと歩いていく。


「ふざけるな!!」


 急に聞こえてきた怒声に界斗はびくりとする。

 そして思わず立ち止まった。

 扉を見ると第1会議室と書かれていた。


「俺たち小規模クランに潰れろと言いたいのか!!」

「ですから説明しているように近年のウクテル近郊の落ち着いた状況を考えますとこちらとしては依頼を回せない訳でして……」

「だからって全部大型クランに回す必要はないだろ!」

「それだと今度は大型クランが存続できなくなるわけで……」

「だから小規模が犠牲になれと!」


 界斗はそっと歩き出した。


(最近はウクテル近郊の魔獣被害の話を聞かないけど……平和になるとこういうことになるのか……)


 界斗は何か社会の嫌な部分を見た気分になった。


 その後、第3会議室はすぐに見つかった。扉が開いていたので中に入るとすでに5人ぐらい居た。室内は50人以上座れるだろう。3人掛けのテーブルが3行、6列で並んでいた。

 界斗は中列の扉側のテーブルに座る。

 カイトが座っていると3人程来たが、その中の1人と目が合った。


「あれ? お前真田か?」

「君は中学の時の……カザレス君?」


「おう、俺もハンターになったぜ。とはいってもお前の所ほど大きなクランではないがそこそこの所に所属出来たぜ」


 そういうとカザレスは界斗の隣に座った。


「どうよ、解放者は?」

「まあまあかな。設備は整ってるし……けど訓練はきついけどね」

「解放者だもんな……だが、訓練してもらえるだけありがたいじゃないか。俺なんか先週いきなり先輩達に連れられて芋虫みたいな奴の退治をさせられたからな……」

「それは大変だね……」

「まったく酸みたいな液を吐くわ、臭いわで大変だったぞ。だいたい芋虫がどうやったら魔獣化するんだよ」

「中には交配しなくても卵に魔獣の遺伝子を注げる奴も居るっていうらしいし……」

「そうなのか……」


 話していると講師役の職員が入ってきた。

 そして挨拶を簡単に済ませると講習が始まった。


「最初に国際治安維持協会の説明からする。規則集の5ページを開くように」


 全員が開き終わるのを確認すると説明を始めた。


「まずは国際治安維持協会の正式名称からだ。皆は国際治安維持協会と呼んでいるが正式には特別公益国際財団 世界治安維持執行協会という。だがこんな長い正式名称は滅多に使わないから今後も国際治安維持協会でいいぞ。さて国際治安維持協会は人類の平和と秩序を司る議導会の下部組織である。議導会の下部組織には国際治安維持協会の他に、衛星管理局、通信管理局、教育制定局、天救教会等あるが平和維持を託されているのが国際治安維持協会だ。次は国際治安維持協会だが二つの職種に分かれる。正職員と準職員だ。正職員は事務員と防衛官に分かれる。準職員は君たちハンターだ。正職員は協会から支払われる給料がすべてだが君たちハンターの収入はクランや依頼人から給料や報酬等を貰うことで成り立っている。そしてクランには2種類ある。協会に認定されたクランとそうでないクランだ。認定されたクランは特別軍事国際法人の肩書が与えられ、国を超えて平和と秩序の為に武力を振るう許可が与えられる。ただし正当な理由なく武力を振るった場合はさすがに法律違反となるからな。さらに認定クランには協会から毎年支援金が支給される。これは国際治安維持協会は議導会の資金の他に世界各国の政府や企業の支援金で運営されているのだがこれの一部を認定クランに回しているのである。ここまでは良いかな?」


 講師役の職員が一同を見回した。


「逆に認定されていないクランや個人ハンターが他国で許可なく勝手に活動し、破壊行為や暴力行為を行うと法律違反になる。また認定クランには協会からそれぞれの実力と実績に応じたまとまった量の任務が与えられる。クランはそれを構成員に振り分けて解決させるわけだ。その責任は全てクランにあり任務の成否はクランの評価として反映される。次に認定されていないクランだが協会は小口の任務を斡旋している。そういった任務は認定されていないクランや個人ハンター達がこなしている。だが最近はウクテル近郊は落ち着いており協会での任務は減少傾向にある。できれば新人諸君には認定クランに所属してもらいたい」


(知らなかった、そんな決まりがあったんだ……よかった……あの時、自分で師匠を見つけてハンターになっていたら、まともな収入が得られなかったかも知れないんだ。アスラン、セリア、院長先生、副院長先生ありがとう……)


 界斗は説明を聞いて解放者を選んで良かったとつくづく感じた。背中を押してくれたアスランやセリア、孤児院長達に感謝した。


「次に協会ランクについて説明する。クランではクラン独自の人員采配が認められておりどんな高難度任務を新人に担当させようがそれはクランの自由だ。しかし協会で任務を受けるには適正ランクになっている必要がある。ランクは上はSから下はFまである。新人諸君はFからのスタートだ。ランクはどうすればあげられるかというと毎年12月に開催されるランク試験に合格すればよい。しかし試験をお遊びで受けられてもこちらも困るので受験料として挑戦ランクに応じた料金を払う必要がある。詳しくは規則集に載っているので確認してほしい」


 その後も担当職員はハンターとしての心構えなどを説明する。界斗達新人は30分後に解放された。

 協会を出て歩きながら界斗は渡された小さなハンター証を見ていた。面には名前や所属が書かれていて、裏にはFと大きく記載されている。となりを歩く同級生のカザレスも同じように眺めていた。


「よう真田、この後用事ある?」

「え? この後クランに戻ったら会議室に来るように言われてるんだよね」

「そうか……久しぶりだからどこかで話しでもと思ったがそれじゃ仕方ないか」


(は? 俺は中学の時、君とは碌に話したことも無いんだけど……卒業したいまさら話すことなんてないよ?)


 界斗は顔見知りでしかない元クラスメートといきなりどこかの店で話す気になどならなかった。


「ごめんね、また今度」

「気にするな。じゃあ、また今度な」


 界斗は軽く愛想笑いを浮かべるとカザレスと別れ、バスターミナルへと急いだ。

 界斗は4時ぐらいに解放者に戻ることが出来た。


「ただいま戻りました」


 界斗は幹部室のドアを開ける。

 ガリウスとルイバンはホワイトボードと向き合って話していた。

 何やら人の名前が並んでいる。

 ガリウスは腕を組んで考えていた。


「おかえりなさい、界斗さん」


 ルイバンが気付いて挨拶する。


「どうしたの? 何か大変そうな感じだけど」


 ガリウスが眉間に皺を寄せて考えているのを見て、界斗はルイバンに声をかけた。


「来週に隣国の山間部で魔獣の討伐戦が行われるんですがその人員選出です。30名ぐらい必要とするので調整が大変で・・・・・」


 界斗はホワイトボードに並んでいる名前を見る。

 そこに界斗の名前は無かった。


「何でしたら俺も行けますよ。無事にハンター登録出来ましたから」


 界斗は意気込んだ。


「ありがとう。しかし界斗君にはチームでの連携訓練を優先してもらいたい。それに入り組んだ地形での闘いになるだろうからそれなりに経験も必要だ。ゼファレス法術で殲滅とはいかないだろうからな」


 ガリウスが界斗に振り向いた。


「残念です。ところで会議室に行くのは4時半ですよね?」

「そうだな。後30分ぐらいか。それまで休んでていいぞ」

「ありがとうございます」


 ガリウスとルイバンは再び話し始めた。

 界斗は幹部室を出ると売店に向かった。




 界斗はデスクに座ってお菓子を食べながら休憩しているとガリウスに声を掛けられた。


「時間だ。界斗君行こうか」


 界斗はガリウスに連れられ2階の会議室に来た。

 扉の前に来ると中から話し声が聞こえる。

 女性の話している声が聞こえた。

 界斗は唾を飲みこむ。緊張していた。


(この先にチームのメンバーがいるのか。誰が居るんだろう……)


 界斗の緊張など余所に、ガリウスはノックもせず無造作に扉を開けた。


「全員揃っているようだな」


 ガリウスは室内を見回して頷く。

 室内には5人掛けの丸テーブルが5つほど置かれ、前面にはスクリーンと壇上が設置してあった。ガリウスに続いて界斗も室内に入る。

 界斗も室内を見渡した。右のテーブルには女性と男性が座っている。左のテーブルに女性が3人座っていた。


(右のテーブルの2人は知らない人だけど、左に居るのはヴァイゼフさんだ。良かった話した事のある人が居て……)


 界斗は奈美恵の顔を見ると少し安心した。

 奈美恵は依琳と藍香の3人でテーブルを囲っていた。テーブルの上にはジュースやら菓子が散乱している。


(ヴァイゼフさんと一緒にいる女子も見たことあるけど……誰だっけ?)


 界斗は依琳と藍香を見て何処で会ったか思い出そうとした。


「全員中央のテーブルに集まってくれ」


 ガリウスの一声で室内に居た5人は席を立ち上がり集まる。


「ヴァイゼフさんこんにちは」

「真田君、これからよろしくね」


 界斗は奈美恵に声を掛けた。


「すでにお互い知っている者同士いると思うがとりあえず全員自己紹介をしてくれ。まずは界斗君から」

「はい。皆さん始めまして、真田界斗です。シスダール学院高等部1年です。よろしくお願いします」


 界斗はぺこりとお辞儀をする。


「はぁ、界斗君……ここは趣味の集まりではなくハンターの集まりだ。自己紹介では戦闘スタイルを告げる様に」


 ガリウスはあきれてため息をついた。


「あ! すみません……俺はゼファレス法術特化です。後、盾を練習しているので俺の為に前衛は気にしなくて大丈夫です」


 界斗は慌ててもう一度お辞儀をした。


「では、次は俺の番かな」

 明るい茶髪で背が高めな優しそうな青年が声を上げ全員を見渡す。


「俺はディンク・ハミルト。上級職員でハンターを始めて10年近くになるかな。これからこの班の指導員としてチームにおける戦闘を指導していくからみんなよろしく。戦闘は剣による近接がメインだけど、弓や銃も扱えるから皆の動きや状況に合わせて臨機応変に立ち回りサポートする。だからミスを恐れず安心して戦ってほしい」


 ハミルトは自己紹介を終えると隣に居た女性に目配せした。

 落ち着いた大人な感じの女性は頷くと自己紹介を始めた。


「私は、ロペーツ・アンジェです。大学で衛生医療を学びました。戦闘医官として今年で3年目になります。このチームの医療支援員をします。医療だけでなく銃や杖道の訓練も積んでありますので基本的には戦えます。解放者では中級職員として所属しています」


 アンジェは全員を見回すと丁寧にお辞儀をした。

 奈美恵が手を上げた。


「次は私が自己紹介します。私はヴァイゼフ・奈美恵です。細身の剣を使うスピード型の剣士です。水捷流の道場に5歳の時から通っています。ハンターになったのは2年前ですが剣士としてはそれなりに自信があります。皆さんこれからよろしくお願いします」


 奈美恵はお辞儀をすると横にいる依琳に目配せした。


「は~……ついにこの時が来ちゃいましたよ。やだなぁ……」


 依琳は下を向きながらぶつぶつと呟き始めた。

 カイトやガリウス達が、何事かと依琳を見始める。


「依琳、ちゃんと挨拶した方が良いよ」


 横に居る藍香が依琳にささやいた


「藍香はいいよね……」


 依琳が藍香に非難がましい目を向ける。


「それについては話合ったじゃん……」


藍香がボソッと依琳に囁いた。


「私は納得してないから……そもそも奈美恵さんがあの時変な事言うから私たち3人纏めて入れられたんですよ」


 依琳が奈美恵をチラッと見る。


「皆さん、ごめんなさい。この子ちょっと神経質になっていて……依琳、とりあえず自己紹介だけはしようね」


 奈美恵は一同に頭を下げると依琳と向き合った。


「君は確か劉依琳だったな」


 その時、ガリウスの怒気交じりの声が響き依琳を睨んだ。


「はい、そうです……」


 依琳が一瞬びくとして返事をした。


「私は相手が中学生の女の子だからと言って甘くはないぞ。皆を前にしてその態度はなんだ? これからチームで命がけの戦いをしていくことになるというのに」

「すみません……」


 依琳が下を向いて口を噤んだ。


「わ、私が次自己紹介をします」


 藍香が手を挙げて自己紹介を始めた。


「鈴原藍香です。父が別クランの所属ですがハンターで小さいころから指導を受けてます。主に物体操作で戦います。普段からこのような円盤を持ち歩いています」


 藍香は小さな声で自信なさそうにしゃべった。恥ずかしがりやなようだ。

 そして腰のホルダーから直径10cm位の円盤鋸を取り出した。

 それをゼファレスで操作して宙に浮かべる。円盤が勢いよく回転を始めた。


「最大で5枚同時に操れますが普段は3枚で戦っています。円盤の回転は機械仕掛けなので回転をそこまで強くは出来ません。次は依琳だよ」


 藍香が依琳見た。


「はぁ~」


 依琳はため息をつくと自己紹介を始めた。


「劉依琳です。小剣や飛び道具を使います。小さいころから曲芸団で空中アクロバットを習っていますので立体的な動きには自信があります……」


 依琳は顔を上げることなく俯いたままぼそぼそと喋った。

 依琳の自己紹介が終わるとガリウスが全員を見渡しながら話し始めた。


「この6人で真田チームとする。本来は真田君がリーダーをするのだが、まだ経験が足りない。そこでディンク君が指導員としてしばらくは指揮をとるから皆彼に従う様に。さて今日から約2週間は親睦を深めたり連携訓練をしたりと使ってもらいたい。学生が4人いるわけだが放課後もできれば出勤して訓練してほしい。再来週の土曜日から巡視当番を担当してもらう予定だ」

「分かりました」


 全員頷いた。


「では、私はこれで失礼する」


 ガリウスが会議室から出ていく。


「さて、聞いた通り再来週からこのメンバーで任務が始まるわけだけど、それまでの予定を決めようか。俺やロペーツさんは正職員だからいいとして君たち学生はどれくらい来れるの?」


 ハミルトがその場を仕切り皆の予定を確認する。


「私は週2回月曜と水曜日に部活があるのでそれ以外でしたら来れます」


 依琳が最初に座っていた椅子に再び座りながら答えた。そしてテーブルの上のお菓子を食べ始める。


「はぁ……」


 そんな依琳の態度を見て奈美恵が頭に手を当てながらあきれたようにため息をつく。


「私も部活がありますがハンター活動を優先すると言ってありますので、皆さんの予定に合わせられます」


 藍香も依琳に連れられるように椅子に座りながら答えた。


「ヴァイゼフさん。さっきのあの子の言ってた事なんだけど……」


 界斗が奈美恵に声を掛けた。


「あっ、あれね……真田君は気にしなくて大丈夫よ」


 奈美恵はニコリと界斗に笑いかける。しかしその笑顔にはどこか圧がかかっていた。

 聞いて欲しくないらしい。

 界斗はそんな奈美恵の笑顔に気圧され、これ以上聞くのをためらった。


「僕も先ほどの会話は気になったんだけど、それよりも2人の予定を聞いても良いかな?」

「あ、すみません。俺は毎日でも大丈夫です」

「私も毎日でいいです」


 ハミルトに声を掛けられ慌てて答える界斗と奈美恵。


「分かった。では、真田君とヴァイゼフさんは毎日来て貰おうかな。中学生のあの2人が来たときは連携訓練をするという予定にしよう」

「分かりました」


 界斗が返事をすると奈美恵と藍香、アンジェも頷く。


「は~い、分かりました。今日はこれで解散ですか?」


 依琳が返事をして席を立った。


「そうだね。君たち中学生は次は火曜日に来てくれればいいよ」

「わかりました。藍香、帰ろ」

「え? うん……」


 依琳が藍香に声を掛けると会議室から出ていく。


「失礼します」


 藍香はお辞儀をすると慌てて依琳の後を追った。


「さて、ヴァイゼフさん、先ほどの彼女の事なんだけど?」


 2人が室内から出ていくのを確認するとハミルトが奈美恵を見る。


「そんな大層な事ではないんですが、本来彼女は春のチーム決めで別のチームに入る予定でしたが急に変更になったんです。それで……」

「まあ確かに急な変更でイラつくのはわかるけど、あそこまで怒る?」

「それが……」


 奈美恵が言いにくそうに眼を泳がせる。


「そういう事ね、思春期だものね……」


 アンジェが分かったように頷く。


「え? ……ロペーツさんは分かっちゃったんですか……本人には言わないでくださいよ」


 奈美恵がアンジェを見ながらお願いする。

 その横で界斗とハミルトは訳が分からなさそうに首を傾げる。


「つまり恋というわけよ」


 アンジェがはっきりと言った。


「あ~、成程。それは悪いことしたかな? って誰が悪いの、俺?」


 界斗が自分を指す。


「違うの……悪いのは私、はぁ……」


 奈美恵がため息をつきながら下を向く。


「え? なんでヴァイゼフさんが?」


 界斗が奈美恵を見ると奈美恵は界斗とクラリティーナの決闘後に待機室で起きた事を簡単に話した。


「ははは……そういえばあの日、下級の学生たちがこぞってメンバー編成について言いに来てたっけ。決めるのは幹部の人たちだから何騒いでるのかと思ってたけど。幹部の人達が下級のくだらない騒ぎを聞くことは無いと思うけど、ヴァイゼフさんやあの中学生2人が仲いいなら纏めてしまえという考えにはなったかもね」


 ハミルトが苦笑いをした。


「はぁ~、やっぱりそうですよね……」


 奈美恵はがっくりと肩を落とした。

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