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キョウシュウキ(郷愁鬼、凶集鬼) L 世界を保全せし意思と約束の果て  作者: 新宿ソナタ
第二章:新しき出会い、シスダール学院1学期編
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第3話 ご飯を食べに行こう (約10,000文字)

 界斗は日々の授業を両隣のオルテシアやダニエルに監督されながら真面目に聞いていた。いや、聞いていたという表現は少しおかしいだろう。なぜなら寝る事など出来ない。すこしでもうつらうつらしようものなら左右から肩を叩かれるからだ。半強制的に授業を真面目に聞かされていた。つまらない授業でもなんとか起きていることに慣れ始めたのは4月の下旬になるころだった。放課後の補修もなんとか消化していった。そして4月の末日、放課後の補修が終わるとダニエルが班員全員に声を掛けた。


「皆、この後予定ある?」


 ダニエルはタブレットを鞄にしまいながら界斗達を遊びに誘った。


「う~ん、とくには無いかな。帰って創成術の訓練するだけかな」

「さすが真田君、現役のハンターみたいな物言いだ」

「え? うん、まあね……」


 界斗は解放者に所属している事をまだ自分の口から言ってなかったが、奈美恵が登校初日に友達に話したことにより既に学年全体の知る所となっていた。当の界斗は皆に知られているという事を知らなかったが……


「私は勉強するぐらいかな」

「私も……」


 琴絵とマリアーネが返事をする。


「そうですね……今日は特にこれといった用事はありません。やはり勉強するぐらいでしょうか……」


 オルテシアも宙を見上げ考えながら答えた。


「どうしたの?」


 琴絵がダニエルを見る。


「いや、来月から部活が始まるじゃん。真田君の補修も週2回になるしさ。良かったら皆で夕飯でもと思ってさ」

「そうだね。俺は大丈夫だよ」


 界斗は即答する。即答できるほどずいぶんと親しくなっていた。


「さすがにソフィスティードさんを夜まで連れ歩くわけには行かないんじゃ……」


 琴絵がオルテシアを見ながら言う。


「確かに毎日の様に放課後遊ぶという事は出来ませんが、たまにならば……私も来月からは管弦楽部が始まりますし……」

「皆がいいなら私も大丈夫です」


 オルテシアが行く気になるとマリアーネも了承した。


「ところでどこに行くつもりなの? 女の子を変な所には誘わないでね」

「う……それを言われると言いづらいんだけど……」


 ダニエルの目が泳いだ。


「ちょっ、ちょっと、仮にも学年上位がそんなイケないお店で遊んでないでしょうね?」


 琴絵が切れ気味にダニエルに詰め寄った。


「まさかのまさか! 河峯さんこそ何を想像しているんだよ!」


 ダニエルが慌てて否定し琴絵を疑わしい目で見る。


「え~と……大人のお店というか……」


「河峯さん何を言ってるの? 佐伯君は特別奨学生なのよ。そんな真似するわけないでしょ!」


 琴絵がしどろもどろに答えるとめずらしくマリアーネが声を上げた。

 琴絵が普段とは違うマリアーネの迫力にびっくりして彼女を見つめる。


「というか、どこに行くの?」


 界斗のどこか空気を読まない発言がその場を和ませた。


「そ、そうですよ。佐伯君どこに行くのでしょうか?」

「え~と、噂の怪しい定食屋……」


 オルテシアがダニエルに聞くとバツが悪そうに答えた。


「……何だ定食屋か。それならそうと言ってよね!」


 琴絵が怒りだした。


「その言い方はないだろ……俺に切れるなよ……」

「佐伯君、どんまい……」


 界斗はうなだれるダニエルの肩を叩いた。


 界斗達5人は日が沈みだした夕方、住宅街を歩いていた。正門からかれこれ15分以上歩いている。


「まだつかないの~?」


 琴絵がゲッソリとしながら愚痴りだした。


「う~ん、ここら辺にある黒い建物らしいんだけどな?」

 

 ダニエルが携帯を見ながら首を傾げ辺りを見回す。地図でも見ているのだろう。


「もしかして来たことないの?」

「すまん初めて……」

「ちょっとぉ、もう日が暮れるし探してる時間なんて無いんだからね……」

「あそこの建物見てください」


 琴絵がダニエルに詰め寄っているとオルテシアが少し離れたところにある黒ずくめの建物を指さした。


「行ってみようぜ」


 ダニエルが走り出し、4人は後に続く。

 その建物はコンクリートや金属製の外壁住宅が並ぶ住宅街に異質な古めかしい黒ずくめの木造建築だった。扉には六芒星や記号が描かれ、扉の周りには奇妙なレリーフが施されている。そして左右には怪しい像が置かれていた。


「ほ、本当にここなの……」


 マリアーネが生唾を飲み込みながら呟く。


「どうみても定食屋じゃないんだけど……」


「そうですね。正直あやしい宗教の隠れ家と言った方が近いです……」


 琴絵とオルテシアも店の佇まいに引いていた。

 そんな女子達を気にせずダニエルは扉に手をかけた。


「ちょっと待って、秘密結社の家とかだったらどうするの? 私たち捕まってひどい目にあわされちゃうかもしれないのよ……」


 慌てて琴絵がダニエルの腕を掴んで扉から引き離そうとしながら小声で話す。


「は? 何言ってるの。ちゃんと定食って書いてあるじゃん」


 ダニエルが指をさす。

 怪しい像のさらに横には看板が置かれ確かに定食と書かれていた。


「え? こんな店構えで定食屋って……」


 琴絵がうんざりしながら呟いた。




「いらっしゃい。適当に座ってくれ」


 扉を開けると店の奥から声がした。


店内は小ぢんまりとしている。4人掛けのテーブルが3つとカウンターがあるだけだ。

そして奥の壁際には入り口と同じような像が幾つも並べてある。不気味な装飾も見受けられた。


「何の匂い、これ?」


 入った瞬間入り口で甘ったるい不思議な匂いがかすかに鼻に香った。


「これは香木……恍天でしょうか……」

「流石ソフィスティードさん!物知りですね」


 入り口横に置いてある籠のなかにある木片を見ながらオルテシアの呟きを琴絵が聞き褒める。


「学生が5人か……ちょっと待ってな」


 その時、カウンターからエプロンをした50歳ぐらいの髭を伸ばした男が顔をだした。

 カウンター横から出てくると椅子を1つ持ちテーブルの端に置いた。


「これで5人座れるだろ。注文が決まったら呼んでくれ」

「占いはやっているんですか?」


 カウンターの奥へと戻ろうとした男にダニエルが声を掛けた。


「ああ、待ってな。定食を頼んだら占いはサービスだ」


 そういうと男はカウンターの奥へと姿を消した。


「占いって? 聞いてないんだけど」


 琴絵がダニエルを肘でつっつく。


「いや、噂で聞いただけだからさ。期待させるのも悪いじゃん。しかも噂によると普通の占いでは無いらしい」


 ダニエルが席に座りながら小声で話す。


「普通じゃないってどんな?」


 界斗は端に置かれた席に座りながら聞いた。


「何でも不幸な事を中心に占うらしい……」

「ちょっ……なんて事を頼んでるの。私嫌だからね」

「河峯さんは占いを信じるの?」

「私だって嫌ですよ。信じるとかそういう問題ではないですよ……」

「だよね~」


マリアーネが斜め向かいの琴絵に賛同する。2人はテーブルの上で握手をした。


「確かに不幸の占いっていうのは聞きたくないですね。客観的には面白いのかもしれませんが……」


 オルテシアも乗る気にはならなかった。


「折角だしさ、皆で占ってもらおうぜ。真田君もいいだろ?」

「え……うん、まぁ……それよりもメニューを見ようよ」


 界斗の一言でテーブルの上に置いてあったメニューを見始めた。


「店構えは怪しいくせにメニューは普通なんだ……」


 琴絵があきれたようにため息をついた。

 そこにはハンバーグや空揚げ、タンシチュー、チキンソテー、ボンゴレやミートソースパスタ等20種類ぐらいが並んでいた。


「皆でシェアして食べれるものはサンドイッチしかないね」

「バラバラでいいじゃない」

「じゃあ私はボンゴレで」

「私はカルボナーラでお願いします」

「私もソフィスティードさんと同じくカルボナーラで」

「俺はチキンソテーかな、真田君はどうする?」

「じゃあ、ハンバーグで」


 琴絵がボンゴレにするとオルテシアとマリアーネはカルボナーラにし、ダニエルはチキンソテー、界斗はハンバーグに決めた。


「注文いいですか」

「ああ、今行く」


 ダニエルが声を掛けると男が水の入ったコップ持って出てきた。

 そして注文を確認すると再び奥へと消えていく。


「さて、とりあえず水だけど乾杯しますか」

「何に?」

「5人の出会いに?」

「なにそれ……」

「まあ、なんでもいいじゃん。では乾杯!」

「乾杯!」


ダニエルが音頭を取り5人はコップを掲げて乾杯すると飲み始める。


「皆は5月になったら何の部活に入るの」

「お、まさかの真田君から俺たちに質問が来るとは。まぁ、俺は陸上部だけどな」

「佐伯君、足速いもんね。中学の時は短距離のエースだっけ」


 琴絵が褒める。


「へー、そうなんだ」

「私はお話した通り管弦楽部が始まります。それと総会長から生徒会広報を依頼されましたので時々その活動もあります」

「結局生徒会もやるんだ。大変だねソフィスティードさん。河峯さんとザンダールさんは?」

「私とザンダールさんは一緒に美術部に入ろうと思っているの。そういう真田君は」

「え~と……」

「おいおい、俺たちに聞いといて自分だけ言わないのは無いぜ」


 界斗が言いにくそうにするとダニエルが突っ込んできた。


「実は俺はハンターなんだ……まだ登録してない見習いだけど、だから部活は入らないかな……」


 界斗が恥ずかしそうに言う。


「恥ずかしがることはないさ。すぐに登録して正式なハンターになれるんだろ?なにせ幹部様だもんな」


「え? 幹部? 真田君が? なんの……」


 琴絵が斜め向かいのダニエルの方を見る。オルテシアとマリアーネも初耳だったためダニエルを見つめた。


「え? 皆知らない? いっちゃまずかった?」


「何で佐伯君が知ってるの?……あ、そうかヴァイゼフさんか……」

 界斗がダニエルを見る。


「いや、違うけど……俺が知っているだけでもシスダールの生徒で解放者に所属しているの3人はいるから……その中の1人にこの前聞いた」

「成程、そうなんだ」


(確かに解放者の食堂でシスダールの制服着てる人は何人もいたな……)


 界斗は食堂での光景を思い出し納得した。


「ちょっと2人で話してないでさ。こっちにも教えてよ」


 琴絵が口をとがらす。


「真田君が解放者に所属しているという噂は聞いたことがありました。今の話だと真田君があの解放者の幹部という事になりますが……」


 オルテシアがびっくりした表情で界斗を見る。


「うん……実はそうなんだ……」


 界斗が恥ずかしそうに話し始めた時、界斗の頭上に影がさした。見上げると掌が見えた。そこには80を過ぎてそうなローブを纏った老婆が界斗の頭上に掌をかざしていた。オルテシア達4人も驚いて老婆を見る。


「こ、これは……可哀そうに……」


 老婆が頭上でぶつぶつと呟いている。


 界斗が驚きで固まっていると、老婆は手を下ろし杖を突きながら界斗の右手に座っているダニエルへと歩いていく。そして同じように頭上に手をかざした。


「ほうほう、素晴らしい……」


 次は1人で端に座っている琴絵の番だ。


「この娘も可哀そうに……」


 頭上で呟かれた琴絵は顔をしかめた。

 マリアーネの頭上に手をかざした老婆がマリアーネを見下ろしながらため息をついた。


「不吉な……」


 そして最後にオルテシアの頭上に手をかざした。


「おお……なんたる娘じゃ……」


 驚きの言葉を発するとカウンターの奥へ去っていった。


「なに?……今のお婆さん……」

「もしかして占いの人?」

「え? これだけ? 頭の上に手をかざされただけじゃん。そんなことでちゃんと占えるの? しかも何かつぶやいていたけど……」

「さぁ……私に言われても……」


 マリアーネが首を傾げる。琴絵はカウンターの奥を睨んだ。




「お待ちどうさま、ボンゴレだよ」


 しばらく先ほどの老婆について話していると30歳ぐらいの女性がボンゴレを持ってきた。

 湯気が立ち微かに匂っていた香木の香を押しのけボンゴレのあさりの香りが漂った。


「カルボナーラだよ」


直ぐにカルボナーラが運ばれてきた。


そしてキチンソテーとハンバーグも直ぐに来た。


「さて、食べようか」


 注文が揃ったところで皆で食べ始める。


「あれ? 何か紙が置いてあるよ?」


 琴絵は2口程ボンゴレを食べた後、トレーの上に置いてある紙きれを手に取った。

 4人も自分のトレーを確認して紙きれを見る。


「……は~あぁー! なにこれ! ふざけてるの! これが占い?」


 琴絵が叫んだ。

 オルテシアは顔を真っ赤にして俯いている。

 界斗はびっくりした表情になっていた。


「ちょっと河峯さん、お店の中なのよ」


 マリアーネが琴絵を宥める。マリアーネの表情も若干引きつっていたが……

 ダニエルは気にならないのかチキンソテーを食べている。


「なんでそんな冷静なの。ザンダールさん……」

「河峯さんこそなんでそんな怒っているの?」

「これ見てよ!」

「え……」


琴絵がマリアーネに紙きれを見せると押し黙った。


「そんなひどいこと書いてあった?」


 ダニエルがマリアーネに聞くとマリアーネは琴絵を見る。

 頷く琴絵。マリアーネは紙切れをダニエルの方へ差し出した。

 ダニエルが受け取って見る。


「げ……」


 そしてすぐに界斗に紙切れを渡した。


「うわぁー……ソフィスティードさんも見る?」

「人の占いを見るのは気が引けるのですが……私だけ見ないというのもなんだか……」


 オルテシアが答えると界斗は紙切れを渡した。


「これが河峯さんの占いですか……」


 オルテシアは口を押えて押し黙った。

 そこにはこう書かれていた。


恋愛:〇(良縁があるかもしれない)

健康:×(命に陰りが見える)

人生:△(いずれ好転するやもしれぬ)

地獄の使者が現れ汝は岐路に立たされるであろう。一つは黄泉、一つは陽光、惑いは黄泉への道、あるいは輝きへ通じるか、汝に幸福がもたらされんことを願う。


「ねえ、酷いでしょ。これじゃあまるで私が命の危機に瀕するみたいじゃない」

「まぁ占いだし……気にすることは無いんじゃないか。恋愛運は良いみたいだし……」

「だったらみんなで見せあいっこしようよ」


 琴絵が提案する。


「私は別に構わないけど……」


そういうとマリアーネは紙切れを見せた。


恋愛:△(陰りが見える。実らぬかも)

健康:〇(若干陰りが見える)

人生:△(不穏な影が見える)

汝を絡めし鎖に新たな鎖が加わろう。だがそれは単なる鎖にあらず。毒香の鎖は地獄の使者を招き汝も災いに見舞われるだろう。汝は孤独の淵に沈み嘆き悲しむであろう。汝に平穏がもたらされんことを願う。


「よくわからないけど……占いだし……」


マリアーネは気にしないらしい。


「……」


琴絵の表情が険しくなる。


「次は俺のを見せるよ」


ダニエルが紙切れを広げて置いた。


恋愛:〇(縁を大切にすること)

健康:◎(活力に満ちている)

人生:〇(努力を怠らなければ運命が開けるであろう)

地獄の使者が訪れ汝の目は悲劇に染まるであろう。汝が目にし光景は心に深く刻まれ進むべき道を定めるであろう。やがて世界を満たしし恩寵の幾何を得るであろう。その道は壁を越えいずれ万物を繋ぐ希望となろう


「正直よくわからないんだよな。だから気にしない」


 マリアーネの眉がわずかに動いた。


「全体的に運がいい……さすが佐伯君……」


 琴絵は羨ましそうにダニエルをみた。


「じゃあ、次は俺が見せるよ」


 界斗が紙切れを広げて見せた。


恋愛:△(良縁がありそうだが・・・・・・)

健康:×(闇の陰りが見える)

人生:×(険しい道のりになるであろう)

地獄の使者が訪れ汝の奥底に灯りし炎はいずれ嘆きとともに燃え盛り心を焼き焦がすであろう。汝を選びし優しき思いは炎を厭い遠ざかるであろう。地獄の使者の長たる凶者は歓喜し、空闊なる灰色の地に聳え立つ虚飾の社より聖裁の司者が訪れるであろう


「うわ~、嫌がらせかよこれ……」

「どうだろう……人生の運勢が悪いのは当たってる……」

「はぁ? 真田君、何言ってるの。私達こんなふざけた結果なのよ」


 琴絵は切れ気味だ。


「実はまだみんなに言ってないことがあるんだ」


 界斗はアスランを思い出した。


(アスランは孤児という事を気にしなかった。俺も見習って1歩を踏み出し自分から言おう……)


 界斗は拳を握りしめて、4人の顔を見渡した。


「実は……俺はベリアンフィルドの生き残りなんだ……」

「え? ……ベリアンフィルドって、あの……」


 マリアーネが呟くと驚いて界斗を見てそして押し黙った。


「黙っててごめん。自分が皆とは違う孤児だと思うと……なんだか言いづらくて」


 界斗は申し訳なさそうに言う。


「そんなこと……真田君が気にする必要はないだろ。むしろ別に言ってくれ無くても良かったのに……真田君は真田君だろ。孤児であるとか関係ないし……」


 ダニエルが界斗の肩に手を置きながら声を掛けた。


「そうですね。生き残った子供たちはウクテルの孤児院に預けられたと聞いていましたが、真田君がその1人だとは知りませんでした。しかし真田君が孤児だからといって私たちの態度が変わることはありません。これからもお互い助け合って頑張りましょう」


 オルテシアも界斗を見ながら言う。

 ダニエルがふと界斗を見据えた。


「そういえばごめん……以前体育館でまるで他人事の様に呑気に話して……無神経だった……」


 ダニエルは校舎を案内した時、体育館で気軽に話題にしてしまった事を思い出し界斗に頭を下げた。


「そういえば、私もだ……ごめん、真田君」


 琴絵も思い出し界斗に謝った。


「元はと言えば私が話題に出したのが原因です。私も謝らせてください」


 オルテシアも頭を下げた。


「そ、そんな……3人ともいいよ。知らなかったんだから……別に気にしてないし……」


 3人は顔を上げた。界斗が普段通りの表情をしている事がわかると安堵した。

 界斗はこの時ようやくシスダールに来て良かったと思えた。

 しんみりとした空気がながれ、全員が目の前の食べかけの料理を見つめそろそろ再び食べようかと思い始めた。


「ちょっと待って、これは未来の占いなんでしょ? 過去を見通したわけじゃないんじゃないの……」


 琴絵の呟きに全員が、はっとした。


「え? じゃあこれは……」

「そうなるとひでぇ占いだな。河峯さんのといい」


 再び沈黙が場を支配した。


「ところでソフィスティードさんはどんな感じだった?」


 ダニエルが暗くなった雰囲気を払うように、オルテシアに見せろと言わんばかりに手をだす。


「わ、私のは大した結果ではありませんから……」


 オルテシアは慌てて紙切れをしまった。


「冷静沈着なソフィスティードさんらしくないです」


 琴絵がオルテシアをジト目で見る。


「そうです。みんな見せました。ソフィスティードさんだけ見せないというのはずるいです」


 マリアーネが横を向いてオルテシアをじっと見つめた。


「控えめなザンダールさんまで……はぁ、わかりました。どうぞ……」


 オルテシアが渋々と紙切れを広げてテーブルに置いた。


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健康:◎(輝きに満ちている)

人生:◎(強き運命の輝きを感じる)

地獄の使者が訪れ汝に災いを振りまくだろう。凶者の狂態が汝の心を諦念に染めるであろう。だが淵讐を抱くものが凶者を振り払い光を取り戻すであろう。古き地にて汝は大いなる一歩を踏み出すであろう。それは始まりを告げやがて渦となりて万物の泰平へと至るであろう


「きゃ~、ソフィスティードさんも好きな人がいるんですね」


琴絵が騒ぐとオルテシアは顔を真っ赤にして俯いてしまう。


「相手がいる……まさかソフィスティードさんが好きなのは総会長?」


ダニエルの目が細められる。


「ち、違います! ……総会長は凄い方なので尊敬していますが、私にこれといったお相手は居ません。ましてその……す、好きな方も特にいないです。だからこのような占いで困惑しているのです」


 オルテシアが必死に否定するもダニエルや琴絵、マリアーネは疑いの目で見る。


「総会長ってモテるの?」


 そこに界斗がダニエルに聞いた。


「ああ。校内でハーレムを形成してるな、あの人」

「ハーレム……どれくらい?」

「以前、正確に確認されただけでも8人いる。同級生に2人、下級生に1人、上級生はもう卒業したから今は卒業生だけど2人、それに他校に3人」

「そ、そんなに」

「これは正確に確認されている人数なんだよな。噂だと10人以上らしい」

「まさかの10人越え・・・・」


(確かにモテそうだもんな、あの人)


界斗はハンバーガー店で会った総会長であるラファエフの爽やかな青年ぶりを思い出した。


「所で佐伯君はなんか嫌そうだね」

「嫌って程でもないけど、あのすかした態度でハーレム作ってるのがなぁ」

「そういう佐伯君もモテそうだけど?」

「俺? 他校に彼女が居るけど、決してハーレムなんか作ってないからな。俺の彼女に会ったとしても変な事吹き込まないでくれよ」

「そんな変な想像を話したりしないよ」

「そうだよな、真田君はそういう人だよな。信じているよ。そういう真田君はどうなんだい?」

「俺はいないよ……」

「そうか。そうだよな。初日に『可愛い女子多いね』なんて、言うぐらいだもんな。これから作ればいいのさ」


 ダニエルはニタニタと界斗を見る。


「ちょっとぉ、いつまでも恋愛ネタで盛り上がらないでよ。問題は私や真田君のひどい占い結果よ。それにみんなの所に共通して地獄の使者とか書いてあるし……あっ! まさかあのばばぁ、嫌がらせのつもり……」


 琴絵は叫ぼうとしたが入り口を見て固まった。


「どうしたの?」


 そんな琴絵みて界斗達4人も入り口を見た。

 そこには福担任の李・ロランスが立っていた。

 緊張で固まる5人。放課後に定食屋に来てはいけないなどという校則はないが、この様な異様な雰囲気の店で男女5人が騒いでいたら勘違いするかもと思い5人は焦り始めた。 とくにダニエルは奨学生として模範的な行動を要求される。


(もしかして放課後の見回りか? 勘違いして校長に変な報告され奨学金取り消しなんてされたら不味い! すぐに説明しないと)


ダニエルはいてもたってもいられず席を立ち上がる。


「李先生、ここは定……」


そしてロランスに声を掛けたが言い終わる前にロランスが声を掛けた。


「これはソフィスティード班、お揃いですね……」


 ロランスが界斗達を見渡す。


「……」


 ダニエルはロランスのちょっと暗い眼つきに見つめられ言葉をつづける事が出来なかった。


「……」


 静寂が支配した。

 ダニエルは立ち上がったまま動かず、界斗達もロランスを見たまま動かない。

 ロランスもそんな界斗達をじっと見つめていた。

 生唾を飲み込むダニエル。冷汗をかいていた。

 ダニエルの額から汗がしたたり落ちる。

 その時、カウンターの奥から物音がした。


「ロランス、お帰り。今日は早いじゃないか」

「ああ父さん、ただいま」


 ロランスがカウンターの奥から出てきた髭もじゃの男に声を掛けた。


「所で皆さんは碌に食べていないみたいですが、父の料理が口に会いませんでしたか?」


 ロランスが首をかしげながら界斗達に声を掛けた。


「え? 父親……そういう事か……なんだ……」


 固まっていたダニエルは呟くと、どさりと席について両手をだらりと下げた。


「ふぅ……驚いたぁ」


 琴絵も息を吐きだしボンゴレを再び食べ始めた。

 それにつられて4人も再び食事を再開する。


「なんだぁ? ロランスのクラスの子たちか?」

「そうなんですよ。生徒達にここの店の事は話した事無かったのに。学校から離れているのにわざわざここまで食べに来たんだ」


 ロランスとその父親が界斗達のテーブルにやってきた。


「ロランスのクラスの子たちなら今日はサービスだ! 気にしないで食べてくれ」

「そんなわけにはまいりません。お支払いはさせて頂きます」

「毎度というわけにはいかないが、今日は気にしないでくれ」

「……ありがとうございます。では、ご厚意に甘えさせていただきます」


 オルテシアは断りを入れたがロランスの父親が再度言うと折れた。


「御馳走になります」


 界斗達はお礼を言い食事を続ける。


「そういえば、だれか叫んでいたような……」

「あ、いえ……」


 ロランスが界斗達を見渡すと琴絵がバツが悪そうに下を向く。

 ロランスはテーブルの上に散らばっている紙切れを見た。


「成程、祖母の占いですか……気にしなくてもいいですよ。僕も去年シスダールに転職した時占ってもらったんですが、急に涙をながして人生の究極の選択が来るとか悔いのない様に1日を大切にしろとか言われたんですよ。けどほら、今でもこうしてピンピンしています」


ロランスは界斗達を見ながら笑った。


「はははは……はい」


 ダニエルと界斗も乾いた愛想笑いをする。

 オルテシアは微笑むと優雅に残りのカルボナーラを口に運ぶ。

 琴絵は黙ってボンゴレを食べ続けた。

 マリアーネはテーブルの下で空いている手を握りしめていた。

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