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キョウシュウキ(郷愁鬼、凶集鬼) L 世界を保全せし意思と約束の果て  作者: 新宿ソナタ
第二章:新しき出会い、シスダール学院1学期編
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第2話 シスダール学院 (約21,000文字)

 翌日も界斗はルイバンやフィアリス、奈美恵と一緒に登校した。

 4階に上がるとすでに登校した生徒達が廊下で話していた。クラス替えでバラバラになってしまった仲の良い者同士なのだろう。

 楽しそうに廊下で話す生徒達がいる中、教室の扉の前に立った。

 界斗は緊張していた。昨日、班員とは勉強やお昼ご飯を一緒に食べたからある程度は仲良くなったと感じていたが、それ以外のクラスメートは未知の存在だ。

 自分を除いたクラス全員が顔見知りという状況で仲良くなれるかいくらか不安になっていた。


(さて……2日目だ。まずは挨拶をしっかりとしよう)


 界斗は一呼吸すると扉を開ける。

 教室を見渡すと、6人の生徒が登校していた。界斗が昨日と同じ時間に登校したにもかかわらず少ないのは初日という事で早めに登校してきたのだろう。


「ザンダールさん、おはようございます」

「真田君、おはようございます」


 界斗が教室に着くとマリアーネはすでに座席に座って読書をしていた。

 界斗はマリアーネに挨拶すると机に向かう。

 そして机の上に鞄を置こうとして紙切れが置いてある事に気付いた。


「何これ……」


 界斗が紙切れを手に取り裏返すとレディエスから職員室に来るようにとメモ書きが書いてあった。


「あ、真田君。担任のアハラノーフ先生が登校したらすぐに職員室に来てほしいってメモ書きを置いていきました」


 マリアーネが振り返り界斗に言伝をいう。


「いますぐ……。ザンダールさん、職員室ってどこにあるの?」

「真田君は編入してきたばかりだからまだ校舎について知らないよね」

「うん……できれば教えてほしいんですけど」

「本館は分かる?」

「それは正門の正面にあるから分かるけど……」

「そこの3階が職員室」


 マリアーネは界斗を見ながら少し小さな声で教えた。


「ありがとうございます、ザンダールさん」


 界斗はお礼を言うと教室を出た。


「やあ真田君、おはよう」


 界斗が階段を降りようとするとちょうどダニエルが他の男子生徒4人と話しながら登ってくるところだった。その内2人は界斗と同じクラスだ。


「佐伯君、おはよう。ちょっと職員室に行ってくるね」

「担任からの呼び出し?」

「そう、急ぎみたいでさ……」


 界斗は階段を2つ飛ばしで下りていく。

 そんな界斗をすれ違う生徒はおかしそうに見ている。

 シスダールの生徒でそんな真似をする者はいままでいなかったからだ。

そして下駄箱で靴を履き替え昇降口を出ると、ちょうどオルテシアが友達と2人で話しながら登校してきたところに出くわした。


「真田君、おはようございます」

「ソフィスティードさん、おはようございます」

「靴を履いて……忘れものですか?」


 オルテシアは立ち止まり界斗を見る。


「いえ、ちょっと職員室に……」


 界斗は小走りに走りだした。


「真田君、待ってください」


 走り出した界斗を見てオルテシアは慌てて呼び止めた。


「ソフィスティードさん、先に行ってるね」


 一緒に居たオルテシアの友達は1人で下駄箱に向かった。




 界斗はオルテシアに声を掛けられ立ち止まり振り返った。


「真田君、職員室には生徒は外履きでは行けませんよ」

「え?」

「上履きに履き替えてください。私が案内します」


 界斗はオルテシアに続いて下駄箱に戻ると言われた通り上履きに履き替えた。


「私に付いてきて来てください」


 上履きを履いたオルテシアは界斗を連れて高等部棟の端に向けて歩き出す。


 途中、他の生徒とすれ違いながら2人は歩いていく。


「校舎は離れていますが、主な所は上履きで行けるように全て渡り廊下で繋がっています。そして先生方も本館で上履きに履き替えていらっしゃいます。本館1階の端に先生方の下駄箱と来客用のスリッパがありますが生徒用のスリッパはありません。基本的に生徒は本館には上履きで行く決まりになっています」


 界斗はオルテシアに連れられ校舎の端に着く。ガラス張りの扉の向こうに渡り廊下と本館の扉が見えた。

 オルテシアは扉を引いて開けて渡り廊下に出る。


「高等部棟と本館を繋ぐ渡り廊下は各階で繋がっていますが、それ以外の棟同士の渡り廊下は1階にしかないので注意してください。それと1階の渡り廊下は横切れるように跳び石になってますので足元に注意してください」


 オルテシアは渡り廊下の入り口で立ち止まると地面を指さした。


「はい……」


 界斗は跳び石を踏み外さない様に渡った。

 そしてオルテシアの前に出ると本館の扉を開ける。


「ソフィスティードさんありがとうございます。ここは本館ですよね。もう1人で大丈夫なので……」


 界斗はオルテシアに最後まで案内してもらうのは気が引けた。


「まだ鐘の時間まで余裕がありますし、どのみち上には上がらないと教室に行けません。せっかくなので職員室まで一緒に行きましょう」


 そのように言われると断るのも気が引けた。


(大企業のお嬢様にいつまでも案内して貰うのも気が引けるんだけど……)


 断りたくても本人が案内すると言ってくれているのだ。これ以上界斗には断れなかった。

 界斗は仕方なくオルテシアと一緒に本館へ入った。

 そして階段を上がり3階に着く。

 廊下を見渡すと扉が幾つも並んでいる。


「高等部の先生方はあちら側の扉ですね。ちなみに奥の方に校長室があります」


 幾つか扉を通り過ぎるとオルテシアは立ち止まった。

 そしてノックをする。


「失礼いたします」


 オルテシアは扉を開けると軽くお辞儀をして入室する。

 そして室内を見渡した。


「失礼します」


 界斗も扉の所で、軽くお辞儀をする。

 そして室内を見て驚きに目を見開いた。


(えーーーー! 先生っていったい何人いるんだ?)


 広い職員室内にずらっと教職員用の机が並んでいる。


 全員が席についていないとは言え、教師が整然と100人近く並んでいる様子に界斗は面食らった。


「どの先生に用かしら?」


 出入口の側の座席に座っていた若い女性教師がオルテシアに声を掛けた。


「高等部1年6組のアハラノーフ先生です。いらっしゃいますでしょうか?」


 オルテシアが聞くと若い女性教師は窓の方を指した。


「あそこがアハラノーフ先生の席よ」


 教師が指し示した先で、レディエスはすでに席について居た。


「ありがとうございます。真田君、行きましょう」


 オルテシアは会釈をすると界斗を促して歩き出す。

 界斗も慌ててお辞儀するとオルテシアに続いた。


「アハラノーフ先生、おはようございます」


 オルテシアがコーヒーを飲みながらPCのモニターを眺めているレディエフに声をかけた。


「ソフィスティードさん……おはようございます。あなたが職員室に来るとは? どういった用件でしょう?」

「いえ、私では無く……」


 オルテシアはちらりと後ろに立っている界斗を見る。


「真田君を連れてきてくれたんですね。ごくろうさま……」


 レディエスは界斗を見る。


「アハラノーフ先生、おはようございます」


 界斗は軽くお辞儀をする。


「おはようございます、真田君。実はあなたに渡すものがあって受け取りのサインをお願いしたいの。付いてきて」


 レディエスは立ち上がると職員室の出入口へと向かう。

 界斗とオルテシアも後に続いた。

 レディエスは職員室を出ると渡り廊下の方へと歩いていく。

 庶務課と書かれた扉を開けると中に居た男性と話し始めた。


「真田界斗君を連れてきました。手続きをお願いします」


 男性がレディエスの後ろに立っている界斗を見る。


「君、中に入って」

「はい」


 界斗が庶務室に入ると男性が声を掛けてきた。


「君が真田界斗君だね。こっちへ来て」


 界斗は室内の奥へと通される。

 室内には10人程の男女が事務作業をしていた。

 通された室内の端は簡易的な写真スタジオになっていて、撮影用の椅子が置いてある。


「写真を撮るからそこの椅子に座ってくれるかな」


 界斗は言われた通り椅子に座る。


(そういえば解放者でもクラン証の写真を撮られたな……。あの時は髪を切ってなかったからクラン証の写真と今では雰囲気変わっちゃったけど、学校用は今で良かった)


 界斗は椅子に座りながら髪の毛を切った後だった事に安堵した。


「いや、在校生や新入生は3月に撮影するんだけどね。編入生の予定が組んでなくてね。急で申し訳ない」


 男性職員は話しながらカメラの準備をする。


「では撮影します。顎を引いてカメラを見てください」


 フラッシュが光、撮影が終了した。


「さて、学生証は帰りのホームルームで渡せるかな。それと認証ブレスレットを渡すからこっちに来て」


 男性職員はカメラを持つとデスクへと向かう。

 界斗もついていく。

 男性職員はデスクの上に置いてある3つの青色のブレスレットの一つを持ち界斗に渡した。


「このブレスレットは認証ブレスレットと言ってゼファレス認証システムが搭載されていて君を識別してシスダールの色々な所で使える。装着者のゼファレスの波を確認して本人認証するから、たとえ紛失しても君以外は使えない様になっているから安心して。ただ、このブレスレットや生徒証の再発行にはお金がかかるからなくさない様にしてね」

「はい」


 お金がかかると聞いて界斗は神妙に頷いた。ちなみにゼファレス認証システムとは直接的な手段では観測できないゼファレスの波だが、憐微石と呼ばれる石はゼファレスを通すと波に合わせて肉眼では確認できないほど微かに発光する。それを増幅させ光学センサーで読み取り実際の波形に変換して登録された波形と照らし合わせて確認する認証システムである。本人確認に使用される身分証もこのシステムを利用した物である。


「具体的には生徒証やブレスレットはデーターサーバーにアクセスして君の学生情報にアクセスすることが出来る。そして売店や食堂で利用するためのお金のチャージ、図書館での貸出、更衣室などのローカーの開け閉め、一部の特別な部屋への入室するための解錠などに使う。特別な部屋というのは例えば生徒会役員室とかだね。あの部屋は教師と生徒会役員以外は扉を開けれない認証システムになっているから。それではこの受け取り証にサインしてくれるかな?」


 界斗は渡された書類にサインした。


「ありがとう。もういっていいよ」

「はい、ありがとうございました」


 界斗はブレスレットをブレザーのポケットに入れると一礼して庶務室を出た。

 廊下にはオルテシアが待っていた。


「ソフィスティードさん、わざわざ待ってくれていたんですか……」

「いえ、お気になさらず。それでは教室に向かいましょう」


 界斗とオルテシアは階段に向かうと上り始めた。


「本館の職員室がある3階と繋がっている高等部棟の3階は2年生のフロアになるので1年生が歩くのはあまり良くありません。本館で4階に上がりましょう」


 4階に着くとオルテシアは奥の方を見て立ち止まる。


「本館の4階と5階は図書室になっています。たまに授業で使用することもあるので場所を覚えておいてください」

「図書室……? この階と5階全部?」

「はい」

「すごい。中学の図書室なんかよりも凄い広い」

「そうですか……。シスダールはそれなりに設備が良いので国立中学に比べると蔵書数も多い方なのかもしれません。では教室に行きましょうか」


 オルテシアと界斗は渡り廊下の扉を開けて教室に向かった。




 界斗とオルテシアが教室に入り席に着くとすぐに鐘が鳴った。


「真田君、無事に職員室に行けたかい?」

「ソフィスティードさんが案内してくれた」

「ソフィスティードさんが?」


 ダニエルはオルテシアを界斗越しに見る。


「いえ、昇降口から真田君が外履きを履いて出てきたもので、これは案内した方が良いと思ったのです」

「はは、そっか。真田君は来たばっかで校舎の事知らないもんな……」




 扉の開く音がしてレディエスとロランスが教室に入ってきた。


「みなさん、おはようございます」

「おはようございます」

「それではホームルームをはじめます」


 レディエスが教壇の上から生徒達を見回す。


「さて、毎年の事ですが始業式の次の日ですので1時限目は課題についての話し合いを通じて班員同士のコミュニケーションをとるための時間となります。2時間目は今年度の時間割について、3時間目は1学期の郊外学習の場所決め。お昼休みの後、4時間目は本館で健康診断になります」


 レディエスがロランスに目配せするとロランスは紙を配り始めた。


「皆さんは中学の時とやる事は変わりませんが、真田君が居るので説明をします。今から配る紙に各テーマに沿って班員で話し合って意見をまとめ記入してもらいます。高等部1年生のテーマは2つ。1つシスダールがより良い学校であるためには、2つ社会情勢に対するシスダールの生徒としての取り組み。これらについて話し合って纏めてください」

「先生、ちょっと良いですか?」


 ダニエルが手を上げる。


「何ですか、佐伯君?」

「真田君は校内について知りません。案内してあげる時間が必要だと思うのですが……」

「そうですね。確かに中等部は入学式の後、校内を巡る時間がありましたものね。高等部の編入生は例年どうしているのかしら? 毎年、職員会議で連絡がないので生徒が休み時間に案内してあげているのかと思っていましたが……」

「僕たちの班に時間をくれませんか?」

「そうですね……。けど課題を減らすというのは他の班に不公平です。それにソフィスティード班は優秀なので……。こうしましょう、あなた達が早くまとめ終わったら真田君の案内に行ってよろしいです。それから2時間目の始まりを少し遅らせましょう」

「どれくらいですか?」

「目安は10分です。まあ、20分までは良いとしましょう。つまり最低でも休み時間の20分と合わせて40分はあるわけです。あなたたちが課題の話し合いを早く終わらせれば……例えば30分で終わらせれば、授業時間は50分なので20分余ります。そうすれば案内には合計1時間使えるわけです」


「ありがとうございます。アハラノーフ先生」


 ダニエルは横いる界斗に目配せをする。

 どうやら界斗も礼を言う様に促しているみたいだ。


「僕の為に時間を変更してもらいありがとうございます」


 界斗が会釈をするとレディエスは頷いた。




 界斗達は早々に課題を終了し教室を出た。


「さて、どこから行こうか?」


 ダニエルは界斗に声をかける。


「そういわれてもどんな建物があるか知らないし……」

「1階に学校の案内図があったでしょ。まずは見に行かない?」


 困った界斗を見て琴絵が提案する。


「そうしよう」


 ダニエルが頷くと5人は歩き出した。





「シスダールって結構広いね」


 下駄箱近くの壁に張ってある案内図に界斗は見入っていた。


 どうやら1度で覚えようと頑張っているみたいだ。


「では、案内図を見ながら説明しますね」


 オルテシアが界斗の横に立ち案内図を指をさした。


「まずは朝に行きました本館がここにあります。本館には職員室や校長室、図書室の他、2階に生徒会室や放送室、地下1階に宿泊室、保健室、地下2階には滅多に使われないのですが、外部の方を招いての講義などに使われる多目的講義室があります」


 オルテシアが次に高等部棟を指す。


「これが私たちが居る高等部棟です。斜め上にあるのが中等部棟です」


 界斗はオルテシアの指の動きを追っていく。


「そして、体育館、集会堂とあります。真田君は昨日歩いて分かったと思いますがこれらの建物は渡り廊下で繋がっています」

「成程、集会堂の横にあった建物が体育館なんですね」


 界斗はオルテシアの説明に頷く。


「見ての通り体育館や集会堂に行くには中等部棟を通る必要がありますが、私たち高等部の学生は基本的には1階の通行が認められているだけです。生徒達が居る2階以上へは立ち入りが禁止されているので注意してください。又、中等部の学生が高等部棟の2階以上への立ち入りも禁止されていますので見かけたら注意するか先生に連絡してください」

「分かりました。気を付けます。ところで連絡したいことがあったらどうすれば良いのですか?」


 界斗はルイバンに緊急の連絡をする必要があったらどうしようかと考えた。


「基本的に学校時間内で連絡しなくては行けない緊急の要件は先生に連絡してください。もしくは携帯を持っていて番号を知っているならば休み時間であれば通話やメールは許可されています」


(転入してきたばかりなのに真田君は中等部に知り合いでもいるのでしょうか?)


 界斗が解放者でルイバンとルームメイトであるという事を知らないオルテシアは不可解に思い、目が少し訝し気に細められたがすぐに真顔に戻り話を続けた。


「さて、高等部棟の横には売店や食堂があり、その隣に実習棟があります。実習棟には家庭科室、技術室、美術室、音楽室が在りそれらの授業はそちらの教室で行われます。さらにその隣には特別棟があり、運動部や文化部の部室、シャワールームやサウナ、トレーニング室があります」


「色々あって憶えるのが大変かな……」


 界斗はため息をつく。


「まずは、家庭科、技術、美術、音楽の授業は実習棟に行くと覚えていれば大丈夫です。では最初にどこに行きましょうか?」


 オルテシアはダニエルに振り向く。


「そうだね。まずは売店でチャージして食堂かな? 真田君は今日の昼どうするのかな?」

「売店で買って教室で食べようかと……」


 界斗は中学の時と同じように皆が食堂に行って空いてる教室で1人で食べるつもりでいた。


「売店で買って食べるなら食堂で食べようぜ、真田君?」


 ダニエルは界斗を誘う。何かと界斗に気を遣うダニエルは面倒見が良いのだろうか。


「そうだね……せっかくだから食堂に行ってみようかな……」


 断るのもなんだか悪いと考えた界斗は食堂に行こうか迷い始めた。


「では、チャージをしに行って、食堂を確認しようか」


 ダニエルが渡り廊下に向けて歩き出した。界斗達4人が後に続く。


 渡り廊下に出るとダニエルは立ち止まる。


「ここを出て左が昨日集会堂に行くときに通った中等部棟。で、右手が売店入り口。そして売店の奥に食堂の入口がある」


 ダニエルは扉の前に行くと扉に手を掛けた。


「余程風の強い日じゃない限り、昼休みの間はこの扉は左右解放してあるから、開いているからといって閉めなくていいからね」


 ダニエルは左側の扉を開けて中に入る。最後に入ったマリアーネが扉を閉めた。

 入るとすぐ左手に2階への階段がある。そして右手に端末が並んでいた。

 さらに左前方にはガラス張りの室内の中にお菓子類やパン類が並んでいるのが見える。

 

「左前方が売店。1階はお菓子やパン類、飲料そして昼時には弁当とかが置いてあるかな。この階段を上がって2階に行くと文具とかの雑貨が置いてあるよ。そして右側に置いてあるのがチャージ機。食堂の食券機は混雑を避けるためチャージでしか払えないから余裕をみてチャージしといた方がいいよ。そして一番手前にある2台は払い戻し機。チャージした金額を戻せるから安心していい。ではチャージしてみようか」


 ダニエルに促され界斗はチャージ機の前に立つ。


 パネルには1000ゾルスから1万ゾルスまでの表示が並んでいた。


「チャージする金額を押してお金を入れるとブレスレットか生徒証をパネルの右側にある四角い所に当てる様に指示されるから、そしたらゼファレスを流せばチャージされるよ」


 界斗はパネルを見て悩む。


「食堂の定食はいくらぐらいするの?」


「基本的に500ゾルス前後かな。日替わりは500ゾルスだけど期間限定とかもあって400ゾルスから600ゾルスぐらいの間が多いかな。後はパスタやラーメンとかもあって400ゾルスぐらいだな」


「500ゾルス前後か……じゃあ、とりあえず1万ゾルス入れておこうかな」


界斗は1万ゾルスの金額を選択した。お札を入れるとパネルに【生徒証かブレスレットをゼファレスを流しながら右側の読み取りリーダーに当ててください】と表示された。

界斗はブレスレットをブレザーのポケットから取り出すとゼファレスを流しながらリーダーに押し当てた。

パネルに【1年6組、真田界斗、残高0ゾルス、入金10000ゾルス、残金10000ゾルス】と表示された。


「これでチャージできたね。けど真田君、ブレスレットは腕にした方がいいよ」

「みんなしてるの?」


 ダニエルが右袖を上げてブレスレットを見せる。


「このブレスレットのバングル素材は蒸れないから、夏でも大丈夫だよ。それに水洗いできるから汚れても大丈夫。バングルの締め付けも柔らかいのにフィットして体育で激しく腕を動かしてもずれないし……」


 界斗はダニエルに言われ、シャツの腕のボタンを外すとブレザーごとたくし上げる。そしてブレスレットを広げて装着した。


「たしかに締め付け感がなくて軽いから気にならないね」


 界斗は感心した様に腕につけたブレスレットを眺める。


「さて、チャージが終わったことだし、食堂の入り口に行きますか」


 ダニエルは奥へと歩いていく。

 界斗が続き、さらに女子3人が続く。

 食堂の入り口は直ぐ奥にあった。

 今は閉まっているが大きなガラス張りの扉から中が見える。

 出入り口の所は吹き抜けになっていて2階が見え、すぐ右手前方に2階への階段が見えた。左手奥には食券機が何列にもなって並んでいるのが見える。どうやら昼時に学生が押し掛けてもそんなに並ばないで済みそうな程台数が並んでいる。


「右側を見て」


ダニエルに促され界斗が入り口手前の右側の壁を見る。そこには大きなパネルがあった。


「今は何にも映って無いけど昼になるとここに本日のメニューが画像付きで表示されるんだ。けど教室にあるPCから学内イントラネットで食堂メニューが見れるから食堂にこなくても見ることが出来る。だからそれ程メニューパネル前は混雑してないかな」

「教室にPC?」

「窓際の後ろに置いてあるよ。ロッカーの横にある。後で使い方を教えてあげるよ」

「ありがとう。お願いするね」

「ここの食堂は11時から開くんだけど、生徒が利用していいのは勿論お昼休みになる12時からだからそれ以前に利用すると怒られるから注意してな」

「だれか授業を抜け出してくる生徒とかいるの?」

「分からない。というか毎年新入生の中には数人いるらしい。俺は周りの友達に抜け出した事のある奴がいないから分からないけど中1の時、噂では聞いたことがある」

「私のクラスに一人いたよ。お腹空いたとかいって3時間目の授業に出ないで食べに行った男子がいた。食堂から連絡が来てすごい怒られてたよ。だから真田君もそんな事しちゃダメだからね」


 琴絵が懐かしそうに話す。ちなみにシスダールの授業は午前3コマ、残りの1~3コマは午後である。


「次は実習棟に行こうか」


 5人は売店を出ると隣の実習棟へと向かった。


「実習棟は私が説明するね」


 実習等に入ると琴絵が説明を始めた。


「1階が家庭科室。第1から第4まで4つ家庭科室があるから注意してね。基本的には年間で使う教室は固定されてるから次の授業の時間割についての説明の時に発表されるよ。忘れない様にメモしておくといいと思う」

「中は入れないの?」


 界斗は扉を開けようとしたが開かなかった。


「多分授業が開始されたら開くと思う」

「そうですね。実習教室は毎朝最初に使う生徒か先生が鍵を開け、そして最後に使った生徒か先生が鍵を掛ける決まりになっています。そして鍵の持ち出しや返却には認証が必要です。鍵は職員室に置いてあるので機会がありましたら今度取りに行ってみましょう」


 琴絵の説明をオルテシアが補った。


「そして2階が技術室で3階が美術室、4階が音楽室で5階が視聴覚室とかになっているんだけど多分同じように鍵が掛かっているから見れないと思うんだよね。真田君、行ってみる?」

「鍵がかかって見れないんじゃ別に行かなくていいかな。場所が分かって授業に行ければそれで大丈夫」

「では次は特別棟だね」


 琴絵が渡り廊下に戻ろうとした。


「いや、待って特別棟は部活動関連だから……」


 ダニエルが声を掛ける。


「シャワー室やサウナ、トレーニングルームは部活に関係なく使えるでしょ?」

「確かにそうだな……真田君、どうする? 授業に関係ないけど行ってみる?」

「とりあえず良いかな」


(トレーニングは解放者でやればいいし……別にシャワーやサウナに入ってから帰ることは無いかな。部活に所属するつもりはないし……)


「真田君がいいなら、機会があったらにしようか。じゃあ、次はどこに行くの?」


 琴絵がダニエルを見る。


「そうだな。次は体育館に行こうか」

「けど開いてるのかな? 実習教室は開いてないんだし……」


 琴絵が首を傾げた。


「体育館は常に開いているそうです。緊急避難場所に指定されていますので、たしか鍵を掛けない決まりだと聞いたことがあります」

「そうなんですね。確かに緊急避難場所に鍵を掛けたらいざという時避難できないですよね。流石ソフィスティードさん、勉強以外にも色々と知っているんですね……」


 琴絵がオルテシアをキラキラとした瞳で見る。


「川峯さんそんなことありませよ。ただ私が中等部の時、生徒会役員だったから知っているというだけです……」


 オルテシアは琴絵の熱い視線にちょっと引いた。


「じゃあ体育館に行こう」


 ダニエルが歩き出し、界斗達4人は後に続いた。




「これが体育館……広いね」


 界斗は中学の時の体育館よりも広々とした空間に感心していた。


「そうなのかな? 確かにバスケットコート3面分あるからね。さらにステージもあるから広く感じるか。真田君の居た中学よりどれくらい広いのかな?」

「だいたい1.5倍くらい広いよ。それに2階のギャラリーも広そうだね」


 界斗は上を見ながらダニエルに声を掛ける。


「上がってみるかい?」

「そうだね。行ってみたい」

「じゃあついてきて」


 ダニエルはステージ横の扉をあける。そこにはステージに上がる階段と2階に上がる階段があった。2階に上がる階段は2人が余裕で並べる幅があった。


「ベンチも置いてあるんだね」


2階に上がるとまずはベンチが等間隔に横に並んでいるのが目についた。そしてギャラリーの横幅は大人が5人は並んで歩ける幅があった。


「この体育館は休日は貸し出されて大会に使われたりする事もあるから観客が見れるようになっているんだ」

「あれ? 窓が変わっているね。何で普通の窓と小さい窓が交互に並んでいるの?」


 1m四方の窓と30㎝四方の上下2段の小窓が交互に並んでいた。


「見てください」


 後から付いてきたオルテシアが普通の大きさの窓を開けた。

 網戸の向こうに頑丈な金属製の格子が並んでいる。


「この建物は緊急避難用に使われ、いざという時立て籠もれるようになっています。小窓はそこからゼファレス法術などで攻撃できるように狭間として作られたそうです」

「そうなんだ、色々考えて作られているんだね」


 界斗は腕を伸ばして窓から火球を撃つマネをしてみる。

 何度か頷くと窓から離れた。


「それでは地下に行きましょう」

「え? 地下もあるの?」

「はい、地下にもここと同じ広さと高さが確保されています」


 最も階段付近に居たマリアーネから階段を下りていく。

 そしてステージ裏に来た。

 そこには地下へと続く階段があった。さらに横には大きなエレベーターがある。


「エレベーターを使おうぜ」


 ダニエルがエレベーターのボタンを押した。


 そして扉が開いて乗り込む。5人が乗るとエレベーターは地下へと下降していった。

 少しするとエレベーターが止まった。


「あれ? 随分と降りてきたような……」


 界斗は首を傾げる。

 エレベータを降りると目の前には扉がありその横には通路があった。


「目の前にあるあの扉は倉庫の扉です。体育エリアの扉は通路の向こうにあります」


 オルテシアが先導して歩いていく。

 そして扉を開けるとそこは体育館と同じよう空間になっていた。


「本当に広いね。天井も高いし……」


 界斗は歩きながら隅々まで見渡した。


「あの扉の向こうは?」


 界斗は入ってきた体育エリアの扉の向かいにある扉を見つめた。


「そういえばあの扉の先を見たことないな」

「私も……」


 ダニエルや琴絵も知らないらしい。


「あの通路は食堂の地下倉庫と繋がっていて緊急避難口になっているんです」


 それも生徒会役員としての知識なのだろう。オルテシアが説明をした。


「なるほど、そうだったのか」


 ダニエルは何やら考えながらうなずいた。どうやら食堂との位置関係を頭で描いて確認しているみたいだ。

 両側の壁にもいくつも扉があった。


「あれらの扉は?」

「左手側には、シャワー室やトイレがあり、右手側には講義などが行える部屋と、魔骨石や体育館の空調や電力の制御室があります」

「シスダールって凄いね。体育館の設備も充実してるんですね」


 界斗は感心しながら辺りを見回した。


「シスダールの理事会がベリアンフィルドの事件を受け、生徒達が安心して学べるように整えたそうです。昔は体育館が二つ並んでいたのですが、一つは取り壊して広場に、こちらを地下に掘り下げて整えたられたのです」

「ああ、あの事件か。確かに衝撃的だったよな。俺が居た小学校でも色々な決まりごとが次々と作られていったよ。確かその後の2か月間ぐらいは親が必ず迎えに来ていたんだっけな」


 ダニエルが懐かしそうに天井を見上げた。


「そうだね。私の学校もそうだった。ほんとウクテルが平和でよかったって思ったよ」


 琴絵も懐かしそうだ。横に居たマリアーネも同じ意見なのか頷いている。


「ベリアンフィルドの事件……」


 そして界斗はいきなり故郷の話が出てくるとは思わず、顔を顰めてしまった。


「真田君……どうしたの?」


 マリアーネが心配そうに見てきた。


「いや、何でもないです……」


 界斗はごまかしたつもりだったが4人はあまりにも変化した界斗の顔つきに疑問を感じずにいられなった。

 その後、ぐるっと一周するように体育館の地下運動場を歩きながら見回すと一行は地上へと戻った。

 その間、界斗は表情を取り繕うので精一杯だった。





「プールやグランド、テニスコートやバスケットコートはどうしようか?」


 地上に戻り体育館を出ると次はどこに行くという事になった。

 体育館の向かいにある中等部棟が騒がしい。どうやら休み時間になり廊下で生徒達が話しているようだ。


「屋内プールは放課後水泳部が使うまでこの時期は開いていません。テニスやバスケットのコートは開いていますが……真田君はテニスやバスケットはやりますか?」

「中学の時体育の授業でやっただけかな……」


 少し考えた末、5人は教室に戻ることにした。グランドは別にわざわざ見に行くこともないと界斗が言ったからだった。実は界斗としてはベリアンフィルドの話題がでて、自分が孤児で生き残りだと知られたくなかったから早々に戻りたかったのだ

 自分の境遇とはあまりにも違うシスダールの生徒達に界斗は疎外感を感じた。


 教室に戻ると界斗はトイレに行くために教室を出た。そして視線を感じた。廊下にいた生徒達は界斗が編入生であるから見ていたのだが、界斗は自分が場違いな孤児だと思われているのではないかと錯覚して憂鬱になった。




 次の時限になりレディエスが配られた時間割表を説明している中、界斗はずっと俯いて聞いていた。

 そして次の時限になり机を向け合い皆で郊外学習について話し合いをしている中、界斗は無言でいると琴絵に注意された。


「真田君は校外学習はどこがいいと思うの? できれば意見を言って貰いたいんだけど?」

「ごめん……そうだね、季節がら山とか良いんじゃない?」


 ベリアンフィルドとその近くにあった山、そして事件の後に来たウクテル以外知らない界斗は山以外に答えようがなかった。


「山となるとこの高原ハイキングだね」


 話し合いといっても生徒が自由に決められるのではなく候補が5か所ありそこから班で行きたい場所を決め、さらに学年で集計し得点で決めるというシステムになっていた。

 そして得点とはこの時間で何故その場所を選んだのかという理由を班でまとめ、担任がそれを10段階で評価する事となっている。つまり自分たちが行きたいところに行くためには高得点を狙ってもっともな理由をまとめる必要があった。

 高原以外は、ウクテルから少し離れた都市にある絶叫系アトラクションが売りのテーマパーク、ウクテルから結構離れた所にある薬草園、隣の港湾都市ハバリスの水族館の見学と海の生き物についての勉強、最後の1つは地方にあるアスレチック系が楽しめる公園だった。

 しかし話を聞いていなかった界斗はいい加減に答える事しか出来なかった。

 山と答えて高原ハイキングがあったため助かったが……。


 界斗はこの日、昼を売店で買うと校内外れの木陰で1人で食べた。午後になり健康診断を受けると、用事があると言って補修を断り早々に寮へと戻った。


「……みんな、俺とは違うんじゃないか」


 界斗は訓練場の壁にポリエチレン球を創成してぶつけていた。いわゆる憂さ晴らしである。 他人事の様に呑気に滅ぼされた故郷を話題にされ苛立っていた。

 そして周りにいた何人かの職員はそれを何事かと見ていた。


「明日から授業開始か……」


界斗は学校に行くのが早々に憂鬱になった。


 次の日、界斗は解放者の食堂で朝ごはんを食べながらルイバンにシスダールについて聞いた。

 憂さ晴らしをしたからかよく眠れたことによって少し気が晴れていた。


「ルイ君、シスダールってどんなところ?」

「どんなところとは?」

「え~と、学校の人たちはどんな人たちが集まっているのかなと思ってさ」

「そうですね。シスダールが進学校なのは聞いていますか?」

「うん。それはガリウスさんから聞いた。みんな俺たちみたいな子供とは違うのかなって……」


 ルイバンは界斗が何を聞きたいのか何となくわかった。


「そうですね。基本的には中流ぐらいのお金持ちの子供たちから上流までいます。界斗さんの学年にいるソフィスティード先輩程のお金持ちの子供は多分他にはいないと思いますが、基本僕たちみたいな庶民は少数派ですね。学校で何かありました?」

「ルイ君は俺が孤児院に居たことは知っているよね……」

「それは勿論父から聞いて知っていますが、それを気にしているんですか?」

「そのさ、実はソフィスティードさんが同じ班でさ……」

「ああ、そういう事ですか。あの人は学院でも特別な存在の1人ですから気にしても仕方ないですよ。それに他の人たちも別にその様な事は気にしないと思いますが……」

「そうなのかな……」


 界斗はルイバンの言う通り気にしなくていいか分からなかった。

 学校に着くと昨日と同じくすでにマリアーネは登校していた。


「おはようございます。真田君」

「おはようございます……」


 マリアーネと挨拶すると界斗は席に着く。

 前にいるマリアーネをチラッと見る。別に人を見下すようには見えない。というか別に周りを意識せず自分の世界に没頭する性格なように思える。


「確かにルイ君の言う通りなのかな……」


 6組の生徒が次々と教室に入ってくる。


「真田君、ザンダールさん、おはようございます」


 オルテシアが席に鞄を置きながら界斗やマリアーネに声をかけた。


「おはようございます……」

「今日から授業がはじまりますね。分からない事があったらいつでも声をかけてください。その為の班ですから」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 界斗は会釈をした。そして席に着いたオルテシアの横顔をチラッとみる。


(確かにソフィスティードさんが人を出自で蔑むようには見えないけど……)


「みんな、おはよう」


 琴絵が登校してきた。


(河峯さんは明るそうだから、人を差別したりはしなさそうかな……)


「なんだ、今日は俺が最後か……。みんなおはよう」


 ダニエルがやって来た。


「真田君、昨日の昼はどうしたんだい? 今日は食堂に行こうぜ」


 席に座りながらダニエルは界斗を昼ご飯に誘う。


「ダニエル君、ベランダに行きませんか?」


 ダニエルの友人なのかクラスメートの1人がやって来た。


「ああいいよ、真田君もどうだい?」

「あ、うん……」


 界斗は乗り気ではなかったがベランダに出ることにした。


「どうですか真田君、学校に慣れましたか?」


 界斗がベランダに出て眼下に見えるガゼボを何となく眺めていると声をかけられた。


「あ、うん、まあ……え~と、君は確か……」


「いいですよ。僕はガザエ・セディウスです。同じクラスとしてこれからよろしくお願いします」

「あ、はい、こちらこそよろしくお願いします」


 界斗は礼儀正しいセディウスに合わせて丁寧な言葉をつかい会釈をした。


「こいつ礼儀正しいだろ。中1の頃から仲がいいんだけどいまだに俺に対しても敬語なんだよ。そんなんだから別に真田君が合わせて敬語にする必要はないぜ」

「ダニエル君の言う通りです。この話し方は僕の癖みたいなものなので真田君が僕に敬語を使う必要はありません。気にしないでください」


 界斗は苦笑いしながらもしかしたら色々と自分の気にしすぎかと思い始めていた。




 授業が始まった。シスダールでの初の授業は数学だった。だがそれよりも界斗にとってまずはクリアしなければならない問題があった。今まで通っていた国立中学とは違いシスダールの教科書は両面開きの2画面のタブレットだった。そしてこのタブレットは教卓や副担当の机に置かれた教師用の端末とリンクする必要があった。生徒は質問があるときは授業の流れを妨害するのを防ぐために、この端末を通して副担当を呼ぶことが出来た。さらに教師から選択制の質問が飛んでくることもありそれに対して返信をしなくてはいけなかった。


 界斗は端末の設定を早速ダニエルから教えてもらいながら設定した。ダニエルに聞いたのはオルテシアよりダニエルの方が機械に強そうだったからだ。

 授業がはじまるとベリアンフィルドで通っていた小学校やウクテルの国立中学校との違いに驚いた。教師がいきなり黒板を左右にスライドさせた。するとモニターが出てきたことだった。

 教師は事前に資料を準備していた。それを端末からこのモニターに映し出して授業をした。各クラスごとに黒板にわざわざ書かなくて済むので教師にとっても大変効率的だった。中には教科書の改訂が無い限り翌年もほとんどの内容を使いまわしている教師もいるぐらいだ。

 教師によっては説明を記述するときも端末に書き出してモニター映していた。中には黒板に書く教師もいたが……


 界斗にとってちょっと嬉しいことがあった。地理の女性教師は優しい先生でモニターの内容を生徒のタブレットに送付してくれたのだ。界斗はわざわざノートに取らなくてすむと喜んだが、横にいるオルテシアから注意された。

「真田君、ノートに取らないと記憶に定着しませんよ。しっかりと書いてください」

 界斗は横のダニエルを見るとしっかりとノートに取っていた。界斗の些細な喜びはぬか喜びに変わった。

 その後、授業が終わると両サイドの2名からノートに書く利点をあれこれいわれ界斗は凹んだ。


 技術の教科に界斗は興味を惹かれた。


「さて、まずは高等部1年度の年間スケジュールを発表する。1学期は冷却石の取り扱いと冷却石を組み込んだ機器の組み立てと修理練習、2学期は加熱石を、3学期は発電石を取り扱う。さてこれはゼファレスの授業で学ぶことでもあるのだが冷却石の利便性について分かる物はいるか?」

「……」


 静まり返る生徒達。


「ソフィスティードさんは分かるかな?」


 技術科教師であるラウリスティック・ブルージョフがオルテシアを指名した。


「申し訳ございません。ある程度の推測は出来るのですが……。多分私の答えでは先生が求められているのとは違うと思いますので……」

「構わない。述べて見なさい」

「はい。それでは……冷却石の方が氷を創成するよりも効率が良いからでしょうか?」

「確かに君の言う通りだな。その答えでは30%ぐらいの正解としか言えない。正解は氷の創成は難易度がものすごい高い。なぜなら大変な手間と慣れが必要だからだ。まずはゼファレスの原則からだ」

「ゼファレスの原則……そういうことですか。確かに難しいです」


 オルテシアはゼファレスの原則と聞いて納得したようだ。ダニエルも分かったのか頷いている。


「では、ソフィスティードさん答えてくれるかな」

「はい、ゼファレスは物質にエネルギーを与えることは出来ますが、エネルギーを奪う事は出来ません。冷却とは原子や分子の運動エネルギー、熱エネルギーを奪う事ですからゼファレスを流しただけでは冷やすことはできません」

「その通りだ。そこで冷蔵庫などに使われているコンプレッサーの原理である圧縮・放熱・圧力解放をゼファレス法術で再現する必要がある。実演しながら説明しよう」


ブルージョフはこぶし大の水球を創成した。


「この水球を凍らせることにしよう。まずは水球の周りにメタンガスを創成する。そしてそれを物体操作で圧縮していく。この時メタンガスや水は圧縮され温度が上昇するから火傷をしない様に注意しないといけない。メタンガスが液体になるだけで見た目に変化はあまりないからよく注意しなさい」


 確かに水がぼこぼこ沸騰しているようには見えない。


「圧縮が終了したら風を操作してこれを冷やす。冷えたら圧縮から解放してやると周囲のメタンガスが気化するとき水から熱を奪うから水が氷るという仕組みだ」


 水球が一瞬で凍り付いた。


「これの難しいのは凍らせる水の量に対して凍らせるのに必要十分なメタンガスなどの冷媒の量と圧縮力だ。冷媒の量や圧縮が足りないと凍らせることは出来ない。あの解放者の上級職員ですら氷の創成が出来るのはほんの一握りだけと言われている。つまり氷の創成ができる先生は解放者の上級職員になることも出来るというわけだ。どうだ、凄いだろう!」


 ブルージョフがいきなり胸を張って自慢してきた。


「……」


 静まり返る生徒達。6組の生徒にその様なノリが良い者はあまりいないというのに……。 

 そもそも解放者の上級職員は戦闘力が高いから上級職員なのでありゼファレスの扱いが全てではないのだがそのように考えるとは……残念な教師である。


「……ゴホン、ンッン」


 自ら咳ばらいをして白けた空気を紛らわすと教師は説明を再開した。


「つまり、ゼファレスで物体を冷やすのは大変難しい。氷を直接創成すればいいと思う者いるだろうがそれが出来れば苦労はしない。物質の創成は創成した瞬間から周囲の温度の影響をうける。つまり気温が氷点下以下でないと氷の直接創成は不可能なのだ。さらにゼファレス損失という現象も起こる」

「ゼファレス損失?」


 生徒達は初めて聞いた言葉に首を傾げる。もちろん界斗もである。


「ゼファレス損失とはゼファレスを使って物質を創成したり物体操作するとき、使用したゼファレス全てが目的に使用されるわけでは無いということだ。一部は大気中に霧散してしまい、一部は物質にエネルギーを与え温めてしまう。理論的には物質は創成される瞬間は絶対零度なはずだが、実際はそれよりもはるかに高い温度で創成される。研究者によっては創成時に物質がゼファレスを強制的に奪っているという者もいる。だから氷の創成は難しいのだ」


 生徒達は感心したように頷く。


「そこで物質を冷やすのに重宝されるのが冷却石である。冷却石は一定量のゼファレスを流すとスイッチが入ったかのように周囲の熱を吸収してゼファレスへと還元してため込む性質があるのだ。だが欠点があり石の容量を超えてまでゼファレスをため込むことは出来ない。ならばゼファレス供給源である魔骨石のように使えばいいと考えるであろうがそれも出来ない。熱を吸収しゼファレスをため込むとは内向きの力が働くという事だ。無理やりゼファレスを取り出す事も出来なくはないのだが、効率が非常に悪い。どれぐらい効率が悪いかというと損失が出るほど悪い。取り出すときに使用するゼファレス量より取り出せるゼファレス量の方が少ないのだ。だから冷却石は基本使い捨てだ。だが冷却石は非常に安価に販売されている。だから授業でミスをしても替えはいくらでも大丈夫なので安心して実習することができるぞ」


 教師が笑顔を生徒達に向けた。


「なるほど……」


 ダニエルが頷きオルテシアも教師に会釈した。そして界斗は教師が得意そうに笑ったため可笑しさをこらえるため苦笑していた。


(変えったら早速冷却石をどこで買えるか蔵林さんに聞いておこう。それから試しに氷の創成だ……)


 界斗は早速聞いた事を実践し、冷却石は念の為に購入しておくことにした。



 授業が終わり教室に戻ると、界斗はダニエルに肩をたたかれた。


「混む前に食堂にいこうぜ」

「あ……」


 界斗が返事を躊躇うとセディウスもやってきた。


「さあ、お2人とも食堂に行きましょう」


 界斗は断るのも悪いと思いとりあえずついていく事にした。




「ここがシスダールの食堂……」


 界斗は改めて食堂内を見回した。昨日来た時見た入り口からでは見えなかった全体を眺めていた。ほどよく観葉植物が配置され落ち着く雰囲気だった。

 3人は唐揚げ定食にすると2階に上がった。時間が早いからか2階は空いていた。階下で生徒達がどれにしようかなどと話し声が聞こえてくるなか3人は食べ始めた。


「おお、佐伯君、早速転入生とご飯ですか……」


 食べているとクラスの男子生徒2名がやってきた。


「お、フェネル君達も来たのか」


 そういうと別の班の班長であるフェネル・ホセルはダニエルの隣に座った。

 その後、食べているといつの間にかクラスの男子全員が10人掛けのテーブルについて居た。




 この日を境に日が経つにつれて界斗はクラスメートと親しくなっていった。中学の頃はアスラン以外の友達は居ないといってもいいほど休み時間の殆どを一人で過ごしていたが、シスダールでは毎日放課後1~2時間の補修を受けるうちに班員と仲良くなった。食堂でもダニエルに誘われご飯を一緒に食べてるうちにクラスの男子生徒と話すようになった。やがてクラスの女子達とも何かと人が寄ってくるオルテシアや明るい琴絵につられて何度か話す事ができ界斗はクラスに溶け込んでいった。

 時々、場違いかもと思う事はあったが徐々に気にならなくなっていった。


 授業の始まりは勉強と解放者での訓練の両立の日々の始まりだった。界斗はハンターだ。学校生活に勤しんでばかりではいられない。

 界斗は授業が終わり補修が終わると寮に戻り訓練場でゼファレスの訓練をした後、体力系のトレーニングをこなす。夕食は毎日8時過ぎだった。そして学校が始まって2週間後、4月中旬の土曜日に解放者本部に出勤すると新たな訓練が始まった。


「今日からカウンター訓練をする」


 界斗は訓練場でガリウスと向き合っていた。左手には1か月間使用してきた少し小さめの訓練用の長方形の盾を着けている。

 そしてガリウスの手には界斗が創成したポリエチレンの剣が握られていた。


「反撃に使う物質はポリエチレンの球体にしておこう。まずは右から切りかかるから盾で受け止めて私の腹に球体を当てる様に」

「はい、わかりました」

「では、いくぞ」


 ガリウスは言葉通りに右から上段で切りつけた。界斗は左腕の盾で受け止めると右掌をガリウスの脇腹に向ける。瞬時に直径10cmぐらいのポリエチレンの球体を創成すると押し当てた。ポリエチレンの球体が床に転がった。


「ふむ、よろしい。では次は俺の顔に当てる様に」


 再びガリウスが右から上段で切りかかる。界斗は先ほどと同じように左腕の盾で受け止めるとガリウスの頬に向けて右掌を向けてポリエチレンの球体を創成して隙間から軽く射出し頬に当てた。


「よし、次は足だ」


 ガリウスの3度目の右上段切りを受け止めると足に向けてポリエチレンの球体を放った。


「よし、次に左からの攻撃にも同じようにカウンターを行いそれを左右で1セットとする。つまり左右、顔胴体足へのカウンターをまずは練習する。しかし攻撃を受け止めた後の選択肢はこれだけではない。例えばバックステップで距離を取ってから攻撃する。空中に飛び上がり上から攻撃する。ゼファレス法術ならば物体操作して後ろから攻撃することもできるし、難易度は高いが時間差多段攻撃という選択もある。界斗君のアイデアとゼファレス法術次第でいくらでもカウンターのバリエーションができる」

「はい」


 界斗は頷く。

 左からのカウンター訓練も同じように行った。

 しばらくの間、左右のカウンター訓練をする。


「少し休憩にしよう」


 ガリウスから休憩を伝えられた。

 界斗とガリウスは観覧席に座りながら休息をとる。

 水分を補給しているとガリウスが界斗に声をかけた。


「前回と同じような話だが戦闘について話そう。具体的には再び小型の野犬型魔獣で考えてみよう。飛び掛かって来た。盾で顔面を打ち払った。さて、どうする?」

「この前と同じ状況ですか?」

「そうだな。傍に仲間がいるとしよう」

「そうすると……仲間に影響を及ぼすような攻撃は出来ないので小さな火球を連打します」

「確かにそれも一つの手だ。だが魔獣化が進んだ野犬は少しの炎で怯んだりはしないしメタノールの燃焼温度で大火傷を負うこともないかもしれない。どうする?」

「そうなると……どうするんでしょうか? そういうときの為にもっと威力の高い創成術を出来るようにする事しか思い浮かびませんが……」


「私が今思いつくだけでも、今の界斗君なら2つ取る方法がある。一つはポリエチレンで吹き飛ばす。そしてもう一つは粘着性の高いポリエチレンを創成して足などに付着させ機動力を奪う方法だ。これは小型の敵にはよく効く。機動力を失った小型の敵は単なる的に過ぎない。余程ゼファレスや筋力の強い敵でない限り小型の敵へは機動力を奪う攻撃は大変有効だ。さらに界斗君のゼファレスなら足が止まった所をポリエチレンまみれにして封じ込めてしまうこともできるだろう。止めはあせらずゆっくりと出来るわけだ。仲間に任せてもいい。覚えておくといい」


「すごい……流石です、ガリウスさん。全然思いつきませんでした」

「だが、大型で筋力が強い敵にはこの攻撃は効かないからな。それも忘れずに」

「確かに大型なら付着させても払い飛ばされるか、気にもかけませんよね。戦闘って奥が深いですね」

「そうだな。こればっかりは経験を積んで学んでいくしかない。大型には目つぶしという手があるが暴れまわり手が付けられなくなるという可能性もある。それに色々と教えようにも私はゼファレス法術師ではないからな。ゼファレス法術師は得意なゼファレス法術によって戦闘スタイルが独自になりやすい。自分のアイデアを積み重ねていく事が重要になるだろう」

「はい。頑張ります!」

「よろしい。では次は回避からのカウンターを訓練しようか」


 界斗とガリウスは昼休みまでカウンター訓練を繰り返した。


 午後になると趣向を変えて事前にガリウスが打ち込む場所を伝えない、実戦に近い形式も交える。

 訓練場では夕方までガリウスと訓練する界斗の姿があった。

 そして夕方になり訓練が終了した。


「ふぅ~」


 界斗は麦茶を飲みながら一息つく。

 ガリウスが近寄ってきた。


「私は今月の残りの土日は遠征に行かなくてはならない。次回からは今までと同じく別の職員がやってくるからしっかりと訓練しておくように」

「はい。分かりました」

「では、今日は帰っていいぞ」

「ありがとうございました」


 界斗は一礼をして訓練場を後にした。

 界斗は日々を学校での勉強と解放者での訓練にまじめに費やしていった。

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