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キョウシュウキ(郷愁鬼、凶集鬼) L 世界を保全せし意思と約束の果て  作者: 新宿ソナタ
第二章:新しき出会い、シスダール学院1学期編
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第1話 未来へと続く新たなる始まり (約13,000文字)

 翌週の水曜日、界斗にとってシスダール初登校の日がやってきた。シスダールは中高一貫のため高等部の入学式が催されていなかった。極まれに来る編入者は新学期の始まりが初登校日となっていた。

 界斗は黒を基調として赤のストライプが入った真新しいお洒落なブレザーを着る。


「今日から高校生か、頑張んないと……」


 シスダールのお洒落な制服は野暮ったい自分にはどこか似合わないなと思いながらも玄関にある姿見に映った自分を見て頬が緩む。

 そこにルイバンも同じ制服を着てやってきた。シスダールは中等部と高等部で制服が同じだ。違うのは桜色と白色のストライプのネクタイにちりばめられた校章の色だ。ルイバンは緑、界斗は青だった。そしてフラワーホールについている徽章の色もそれぞれ緑と青色だった。ちなみに女子はネクタイではなくリボンである。


「行きましょうか、界斗さん」


 革靴を履き、中央にシスダールの校章が刺繍された3wayタイプの鞄を背負う。


「2人とも行ってらっしゃい」


 寮を出て解放者の通用口をくぐると、入り口に立っている警備の職員が声をかけてきた。


「行ってきます」


 界斗とルイバンは挨拶をすると学校へ向かった。

 シスダールの正門に面した大通りが見えてくると大勢の生徒達が歩いているのが見えてくる。そして交差点の角に女子生徒2人が立っていた。奈美恵とフィアリスだった。彼女達はウクテルに実家があり学校や解放者にはバスで通っていた。


「ルイ君、おはよ~」

「やあフィアリ~、おはよう」

「真田さんもおはようございます」

「おはよう、レイノールさん」


 界斗とルイバンが近づくとフィアリスが2人に挨拶をした。そしてルイバンと手を繋いで歩き始める。

 界斗が後ろを歩き始めると、もう1人いた女子生徒が声をかけた。


「おはよう、真田君」

「おはようございます、ヴァイゼフさん」


(レイノールさんはともかくなんでヴァイゼフさんが居るんだろう? 横に並ばれても3回ぐらい挨拶をしただけだから何話していいかわからないんだけど……)


 界斗は横を歩く奈美恵の顔をチラッとみる。そして何気に視線を動かしたときブレザーを緩やかに押し上げる奈美恵の膨らみが目に映ってしまいあわてて視線をそらした。

 横を歩く奈美恵は1昨日呼び出され、上司である上級職員に言われた事を思い出していた。




「ヴァイゼフ、お前を新人幹部の真田チームに入れても良いか?」


(嫌だなんて言えるわけないじゃない……。きっとあのとき待機室に居た誰かが私が話していたことを告げ口したのよ。悪い人じゃなさそうだけど、とっつきにくそうだし……。私うまくやれるのかなぁ……)


 奈美恵は界斗の横を歩きながら悩んでいた。

 界斗と奈美恵は正門まで終始無言で歩いた。

 何も知らない相手に何を話せばいいか界斗には分からなかった。

 界斗は正門につくと立ち止まり見上げる。国立中学とはあまりにも違った。大理石の円柱が両端に聳え立つ大きな正門、石畳の通路、通路の中央には噴水があり高さ3mも水を吹き上げている。左右に植えられた木々は赤や白い花を咲かせている。さらに奥にはレンガ作りの5階建ての校舎が見えた。

 立ち止まってその光景に驚いている界斗の横を学生たちが通り過ぎていく。


「真田君?」


 界斗が立ち止まった事に気づいた奈美恵が振り返る。


「どうしたの? 行きましょう」

「ああ、ごめん。あまりにも中学とは違ったから」

「国立中学だっけ?」

「そう」

「そうね、シスダールは他校に比べたらお洒落な学校かもね」


 今まで通っていた国立中学とはあまりにも違うシスダールの校舎を界斗は珍しそうに見回した。


「奈美恵、おはよ~」

「皆、おはよ~」


 そこに3人の女子生徒がやってきた。


「誰? この人……」


 1人の女子生徒が界斗の方を見て訝しがる。


「編入生」

「へ~、そうなんだ」

「というか、みんな知ってる人だけど」

「え~! 私知らないよ~」

「私も知らない」

「私も」


 3人の女子生徒は奈美恵に抗議する。


「この人、髪の毛切ったから」

「成程……。で、誰?」

「演習場の……」

「……え? この前の炎上の人?」

「そう……」

「えーーーーー! ぼさぼさ頭じゃないからわからなかった!」

「うちに来たんだ~」

「所で何で奈美恵と一緒に居るの?」

「成り行き……この人解放者に入ったから……」

「そうなんだ……。ということは、あのフィアリスちゃん達と来たってことか~」

「そう、あそこにいる」


 奈美恵は前方を歩くルイバンとフィアリスを見る。

 そして奈美恵は友達と歩き始めた。


「君は来ないの?」


 女子生徒の1人に声をかけられて界斗は慌てて後を追った。

 つかず離れずの距離を4人についていく。

 正面に見えた建物に着くと入り口の横に大きな電光掲示板があり生徒が群がっていた。


「ルイ君と一緒のクラスじゃない!」


 フィアリスが騒いでいるのが聞こえた。


「あそこにクラス分けが表示されているから見に行きましょう」


 奈美恵が人だかりをかき分けていく。

 その後に界斗と女子生徒3人が続いた。


「名前順に並んでいるわ。クラスは名前の横」


 界斗が自分の名前を探し始めると奈美恵が説明した。


「あった、6組だ」

「私は8組よ」

「やった~! 私も8組。奈美恵一緒だね」


 女子生徒の1人が奈美恵と同じクラスな事を喜び奈美恵に抱き着いた。


「私は違う~、1組」

「私は9組」

「皆確認したわね。じゃあ、教室に行きましょ」


 5人は掲示板を離れて歩き始める。


「あ~残念、せっかく仲良くなれたのに~」

「いやいや、私たちの友情はクラスを超えるよ」

「はいはい」

「奈美恵、廊下で会っても無視しないでね」

「私、そんな薄情な女じゃないから!」


 界斗はあれこれ騒ぎながら歩く4人の後についていく。


「生徒の教室はここ本館にはないのよ」


 本館を通り抜け4階建ての校舎に着いた。界斗は校舎前にある色とりどりの花に彩られた花壇やガゼボに驚いて見ていたが、奈美恵の説明で校舎を見上げた。


「これが高校生棟、あっちがルイ君たちがいる中学生棟ね」


 奈美恵が少し離れたところにある建物を指さす。


「1年は4階だから。さて校舎に入りましょ」


 奈美恵達に続いて昇降口に入った。


「下駄箱は一番左が1年、クラスごとに分かれていて名前が書いてあるわ」


 界斗が6組の札を見つけると並びの真ん中あたりに真田界斗と書いてあった。下駄箱の扉を開けると中は3段になって下段は長靴でも入れることができる高さがあった。上履き用のシューズを鞄から取り出し履き替え革靴をしまう。

 ラバーが敷かれた廊下や階段を上り4階に上がる。

 教室が並び生徒達であふれかえる廊下を歩いていく。


「6組はここ、じゃあ私は自分の教室に行くから」

「ヴァイゼフさん、ありがとう」


 界斗の案内を終えると奈美恵は友達と共に自分の教室へ歩いて行った。


「ここか……」

 

 中から声が聞こえる。もちろん界斗は誰1人知らない。


「どうしよう……一応挨拶はしておくかな」


 界斗は教室の扉を開けた。


「おはよう……」

「え?……おはよう……」


 界斗が扉を開けると同時に挨拶すると、扉の近くにいた女子生徒2名が戸惑いながらも挨拶を返してきた。


「誰? 見たことある?」

「編入せいじゃない?」

「あ、そっか」


 教室内の生徒達が一斉に界斗に注目する。1歩2歩と廊下と同じくラバー張りの教室内の床を生徒達の視線を気にしながら歩いていく。

 座席は広い教室に間をかなり空けて3列5行に並べられていた。どうやら15人クラスの様だ。注目された界斗はどこに座っていいのかわからなかった。


(適当なのかな?)


界斗が立ち止まって教室内の机を見ていると1人の男子生徒が近寄ってきた。


「座席だったら名前順だよ。机の右上に貼ってあるし、黒板にも書いてあるから」

「あ、ありがとう」


 早速界斗は黒板を確認する。真ん中の列の後ろから2番目に真田界斗と書いてあった。

 そしてそこには確かに真田界斗と書かれた紙が貼ってある机があった。


(中学校の時の机より大きいな……)


 通常の学校机よりも2回りは大きい机の右内側に、小さな引き出しが上下2段付いたキャビネットが付いている。背が低いため上に鞄を置けそうだ。

 界斗はとりあえず鞄を机の上に置くと椅子を引いた。

 その時、何かが動く音がした。

 椅子の下を見ると物が置けるように網棚が付いていてそこにヘルメットが置いてあった。

 界斗はヘルメットを手に取る。おでこが来る前面にシスダールの校章が入った白を基調として左右の側頭部に青と銀色のストライプが描かれたヘルメットだった。

 界斗はヘルメットを手に取り椅子に座る。


(普通のヘルメットよりもお洒落だな……。こんなヘルメットにもお金をかけるんだ……)


 界斗はまじまじとヘルメットを回しながら見る。

 中を見ると【真田界斗】と、後頭部の所に印字してあった。

 界斗はヘルメットを座席の網棚に戻し、鞄をキャビネットの上に置いた。

 キャビネットには横に転落防止の小さい柵が付いていてシスダールの鞄がゆったりと収まった。


 界斗は教室内を見回す。

 男子生徒は4人、女子生徒は7人いる。入り口付近にいる女子生徒2人以外の4人の女子生徒はさらりとした透明感のある薄い金髪を肩下まで伸ばしている女子生徒が座る座席の周りに集まり話している。人気があるのだろうか? それともこの学年の女生徒グループの女王的存在なのか。界斗は入学そうそう人間関係をこじらせない為に顔は確認しておきたいと思ったが、座っている女生徒は界斗の座席の左前にいるため顔は見えない。


(前後、左右はだれだろう?)


 とりあえずこの席順のまましばらく過ごすことになるのかと思うと周囲の生徒がどんな者なのか気になったがあいにくと誰も席に着いてはいなかった。


 界斗が後ろを向くとロッカーが見えた。

 結構な数が並んでいる事からクラスの人数分はありそうだ。

 窓の向こうにはベランダがあり男子生徒3人が階下を見ている。

 どうやら登校してくる生徒達を眺めているようだ。


「お~いサイラス、このクラスに演習場の人が来てるってよ」

「え? じゃあ彼が?」


 ふいに廊下から男子生徒が扉をあけ教室内に声をかけると、1人の男子生徒が反応した。 そして室内にいた全員が界斗を注目する。


「私たちってラッキー?」

「多分ね……」

「よっしゃ~、今年度の旅行は俺たちのものだな!」

「いや、いくら何でもそれは無理だろ。総会長がいるじゃん……。それに競技は他にもあるし、行事だって……」

「そうだよな……。結局3年生の優位は変わらないか……」


 生徒達が界斗を見ながらなにやら話し始めるが界斗はシスダールの事について何も知らない。

 注目され訳が分からず俯いてしまう。

 その時、チャイムが鳴った。

 ベランダにいた生徒は教室に戻り、皆席に着く。


「担任はどの先生なんだろう?」

「優しい先生がいいな~」


 一部の生徒が席が近いもの同士でこれから来る担任について話している。

 しばらくすると足音が聞こえ教室の扉の前に人影が出来たのが扉のすりガラス越しに見えた。

 扉が開かれる。40歳ぐらいの中年の女性教師と若い男性教師が入ってきた。女性は眼鏡をかけキリっとしている。厳しそうな教師だった。男性はおとなしくやさしそうだった。


「皆さん、おはようございます」

「おはようございます」


 女性教師の挨拶に生徒一同が声をそろえて挨拶する。界斗以外は……

 国立中学はこんな規律正しくなかった。担任がやってきて緩くホームルームが始まっていた。界斗は面食らった。


「今日からこの6組の担任を務めます、アハラノーフ・レディエスです」


 女性教師が眼鏡をくいっと直しながら自己紹介をする。


「副担任の李・ロランスです」


 男性教師が控えめに挨拶をする。


「それでは皆さん、名前だけで良いので席を立って自己紹介をしてください。順番は名前順でいいですね」


 生徒達が順々に立ち上がり自己紹介をしていく。

 界斗の番が来た。


「真田界斗です」

「君が編入生ね。どこの中学か教えてくれる?」

「国立第5中学です」

「そう、ありがとう。次の人続けて」


 界斗の後ろに座る女生徒の自己紹介が終わると次は4人が群がっていた女性徒の番だった。その女子徒は立ち上がるとクラス内を見回したためようやく界斗は顔を確認することが出来た。背はあまり高くないがどこか人とは違ったオーラがあり大変清楚な美少女だった。界斗はこの女生徒の持つ他とは違った雰囲気が印象に残った。

 その後も自己紹介は続き、生徒達15人の自己紹介が終わった。


「始業式は9時から集会堂で行われます。真田君は場所を知らないでしょうからみんなの後を付いていくように。始業式が終わったら今年の班分けを行います。皆さん、そのつもりでいてください」


 担任2人が教室を出て行った。


「ふ~、まさか女傑が担任とは……」

「怒らせない様にしないとな……」


 一部の男子生徒が残念そうに話していた。

 生徒達が立ち上がり教室を出始めた。

 界斗も付いていこうと立ち上がった。


「おい真田君、一緒に行こうぜ」


 界斗の席の前に座っていた金髪に近い茶髪の朗らかな男子生徒が振り返り声をかけた。

 この男子生徒は最初に座席を教えてくれた生徒だった。


「え~と、確か君は……」


「いいって、一度に15人も覚えられないだろ。入学した時は俺も覚えてないし……。俺は佐伯・ダニエル、よろしく」


 ダニエルはそういうと界斗の肩を叩く。


「こちらこそよろしく」

「さあ、行こうぜ」


 界斗はダニエルに連れられ教室を出た。

 階段を下りて色々と曲がったりしながら歩いていく

 界斗はダニエルに感謝した。

 色々建物が在り、ただ後を付いていくだけでは不安になっただろうなと思ったからだ。


 集会堂に着いた。中に入ると大きなホールだった。1000名以上は座れるであろう座席が並んでいる。


「すごい広いね……」

「真田君の中学にはなかった?」

「そうだね、集会は全て体育館だったし」

「まあ、国立だとそうか……さあ、座ろうぜ。ちなみに前側は中学生、高校生は後ろ、さらに1年は左だから。早くしないと俺たちバラバラに空いてるところに座ることになるぜ」


 界斗とダニエルは空いている席に並んで座った。後から次々と生徒がやってきて座席は埋まっていく。


「凄い人数だね。全部で何人いるの?」

「全校生徒数? 1学年150人ぐらいだから中学高校合わせて900人前後かな」

「そんなにいるんだ」

「まあね……けどもっといる学校はあるからなぁ」

「そうなんだ」

「ウクテルだけで50ぐらい高校があるからなぁ……。その中にはシスダールよりも生徒数が多い学校もあるし」

「50……そんなに高校が有るんだ……」

「ウクテルの人口は150万人を超えているから。港湾都市ハバリスもすぐ近くだし。ハバリスからウクテルの学校に来る人も結構いるみたいだし」


「真田君、もうお友達出来たんだ。以外すぎる……」


 界斗とダニエルが話していると奈美恵が女子生徒達とやってきた。そして界斗の隣に座る。


「ま、まあ……そういうヴァイゼフさんは友達多そうだね」


 今、奈美恵と一緒にいるのは登校時に一緒のクラスと喜んでいた女子生徒以外は登校時に見た女子生徒とは別の女子生徒達だった。


「3年間通っているからね、それなりによ。別に何十人も友達いるわけじゃないから」

「これは、ヴァイゼフさん、おはようございます」

「あら、誰かと思えば佐伯君だったのね」

「2人は友達?」

「いえ、違うわ。単なる存在を知っている仲よ」

「うん、そうだな」


 界斗にはその物言いが分からなかったが、奈美恵の横にいた女子生徒が説明してくれた。


「2人は常に学力テスト上位トップ10を争っているメンバーなのよ」

「中等部卒業時は俺が4位、ヴァイゼフさんは2位だったな」

「ちなみに上位10人は周知されるから誰が勉強できるのかはこの学校では皆知っている事なのよ」

「ははは、そうなんだ」

「けど6組ずるいわね。上位が2人いる」


 女子生徒が身を乗り出しダニエルを見る。


「2人?」


 界斗は誰なのか分からずダニエルを見た。


「1位のソフィスティードさん。ほら、クラスに1人オーラの違う女子がいるじゃん」


 界斗は先程の淡い金髪の美少女を思い出した。

 あまりの清楚で可憐な可愛さと他の生徒とはどこか違う雰囲気は界斗にとって鮮烈だった。そして界斗は彼女の周りに他の女生徒が群がっていた理由が学年首位だからかと納得がいった。


「ああ、あの人。確かに雰囲気が違ったね……」

「ヴァイゼフさんやソフィスティードさんはこの学年で最も人気のある女子だからな」

「な、何言ってるの佐伯君……。私はそんなんじゃないから。私をソフィスティードさんと並べるなんて彼女に失礼よ」

「いやいや奈美恵、いい加減自分を自覚してよ……」


 女子生徒の1人が奈美恵に言う。

 そして奈美恵に対し横にいた女子生徒がジト目を向ける。


「この学校、可愛い女子多いよね」


 その時、界斗がポツリと呟いた。


「え?……」


 奈美恵が驚いて界斗を見る。おかげで奈美恵は横に居る友達からジト目で見られていることに気づかないですんだ。


「はい?」


(そんな変な事言ったかな?)


 界斗が首をかしげる。


「いえ、ごめんなさい。真田君の口からそんな言葉が出るとは思わなかったから」


 奈美恵は慌てて言いつくろったが前を向いたその瞳は訝しがるように細められていた。




「みなさん、静粛に」


 その後も話していると教師が壇上に立ちマイクで話し始めた。どうやら始業式が始まるみたいだ。

 まずは恰幅の良い厳めしい顔つきの老年の校長が新年度の挨拶をし話し始める。

 そして中等部生徒会長、高等部生徒会長がそれぞれ中等部、高等部全体としての1年の抱負を述べた。


「では、最後に学院総会長ザンターク・ラファエフ」


 国主を若くしたような爽やかな生徒が出てきた。


「ザンタークってことは国主様の息子?」

「そうよ、あの人はこの前来てた国主様の長男」

「総会長って?」

「この学校は中等部、高等部の両生徒会長の上に総会長がいるのよ」


 界斗は隣の奈美恵にこっそりと話しかけ教えてもらった。




 始業式が終わり教室に戻る。すぐに両担任がやってきた。


「皆さん、席について」


 仲の良い者同士で話していた生徒達が席に着く。


「これより今年度の班分けを行います。ですがその前に真田君はわが校の校風を知りません。そうですね……ではソフィスティードさん、説明をお願いしてもいいですか?」

「はい先生、畏まりました」


 レディエスから指名されたソフィスティード・オルテシアは座席から立ち上がると凛とした意思の強い声で話し始めた。


「シスダール学院は全ての生徒を平等に扱います。生徒はわが校の生徒であることに誇りを持ち学院の価値を損ねない様日々研鑽します。生徒は助け合いの精神を持って日々過ごします。シスダール学院の方針に基づき、班とは苦楽を共にし助け合い研鑽しあい平等の観念を学ぶ為にあります」

 

 オルテシアは言い終わり一礼すると席に着く。


「ありがとうございます。さて、わが校は近年ゼファレス法術に力を入れておりますが、法術学校ではありません。あくまで皆さんのこれからの人生に役立つ知識を授ける場所です。全教科で一般の学校より高い水準を設けています。巷でシスダールに外れ無しと言われていますが、これは当校の班システムが大きく寄与しています。この班は助け合いの精神に基づき班員同士が助け合います。さらに当校には宿泊施設があり必要に応じて宿泊して研鑽を積むことができます。残念ながら真田君は入学時の学力試験で若干当校の基準に達していませんでした。よってソフィスティードさんを班長、佐伯君を副班長とする班に入れ、両名を中心として真田君の学力向上を図ってもらいます。宿泊が必要かどうかは班で判断してください。残りの2班の班長はフェネル君、マレハールさんにお願いします」


 界斗は顔が青ざめ俯いてしまう。


(はい? ……第五中学の試験よりも難しかったんだけど。みんなあれが出来るのか……。何で俺なんかが転入出来たんだろう?)


 界斗が劣等感に苛まれている間に生徒達が話合いながら次々と班のメンバーが決まっていく。

 驚くべきことに仲の良さではなくそれぞれ得意不得意教化を出し合い、偏らない様にメンバーが決まった。


「さて、決まりましたね。それではソフィスティード班は廊下側、フェネル班は中央、マレハール班は窓側に移動してください」


 生徒達が自分の座席を移動させ始める。

 界斗も自分の座席を廊下側へ移動させるために席を立った。

 そして机を動かそうとした。


「あれ?」


 下がラバーの為滑らなかった。

 他の生徒は引きずるように机を動かしている。


「真田君、キャスターの左右のロックを解除しないと」


 先に移動を終えたダニエルがやってきて机の脚を指した。


「あ、ありがとう」


 学校の机にキャスターが付いているとは思っていなかった界斗は恥ずかしそうにかがむとロックを解除する。


「あ、ごめんね」

「いや、ゆっくりで大丈夫だよ」


 界斗が身を起こすとすぐそばには中央に机を並べるフェネル班が待っていた。

 界斗は慌てて机を押して廊下側に移動する。

 そして椅子も移動させた。

 界斗の移動が終わるとオルテシアが席順の指示を始めた。


「さて、並び順ですが河峯さんとザンダールさんは前、後ろに私、真田君、佐伯君で並びます。真田君は私と佐伯君の間にお願いします」

「はい……」


 界斗はオルテシアに言われた通りに左をオルテシア、右をダニエルに挟まれる。


「これで両サイドから真田君に勉強を教えられますね」


 オルテシアが界斗に微笑んだ。


「……よろしくお願いします」


(学年上位に左右から勉強を監督されるなんて……。これじゃ楽できないじゃないか……)


 界斗は泣きたい気分になった。

 そして残りの2班を見渡すと前から2,2,1の並び順だった。どうやら本来は班長が最後尾の後ろに1人で位置するみたいだったが界斗の所だけは変則的な並びらしい。

 界斗はそのことに気が付くと顔を真っ赤にして俯いてしまう。


(なんだよこれは? 俺だけあきらかにおかしいじゃんか!)


 そんな界斗の様子をみてオルテシアはそっと囁いた。


「今だけ我慢してください。夏の試験の結果が良ければこの並び方は解消されます」

「……わかりました」


 界斗は返事をするのが精いっぱいだった。




「それでは本日はこれまでです。帰りの挨拶はソフィスティードさんお願いします」

「はい、承りました。それでは起立!」


 オルテシアの号令で生徒達が一斉に立ち上がる。


「気をつけ、礼、本日もありがとうございました」

「ありがとうございました!」

「誓約、学外でも弛まぬ努力を誓います」

「弛まぬ努力を誓います」

「はい皆さん、お疲れさまでした。明日から授業が始まります。予習を忘れずに行ってください。ではさようなら」

「さようなら」


 生徒達が帰り支度を始め、レディエスがオルテシアの所に来る。


「これが真田君の補修項目一覧です。これに基づいて教えてあげてください」

「はい、分かりました」


 数枚の補修表を渡すとレディエスは教室を出て行った。

 界斗も鞄を持ち席を立とうとする。


「真田君、どこに行くのでしょうか?」

「え?」

「今から補修です」

「そうだぞ、真田君」


 そして前の2人も振り返り界斗を見る。


「え? 中学校の頃の教科書なんて持ってないんだけど……」

「大丈夫です。私が憶えていますし、ノートに書いて教えられます」


 オルテシアが強い視線を界斗に向けるとダニエルも頷く。


「はい、分かりました……」


 界斗は鞄を机の上に置くと渋々と席に着いた。




「では、お昼休みにしましょう」

「ふ~、休憩か~」


 界斗は伸びをする。皆の教え方がうまいのか界斗は集中できた。


「真田君、君は理解が速いね。この分だと始めに考えた予定よりも早く終わりそうだよ」

「ほんとに! じゃあ宿泊とかしなくても大丈夫そう?」

「このペースで進めば大丈夫じゃないかな?」


 ダニエルに褒められ界斗はこの勉強地獄がそうそうに終わると喜んだ。


「ところで今日って学食開いてるの?」


 小柄な女子生徒、河峯琴絵が疑問を口にする。


「いや、多分明日からだな……。流石に始業式の日に開いてないだろう。う~ん、どうするか……」


 ダニエルが天井を見上げながら腕を組み考える。


「そうよね……。わざわざ補修の生徒の為に開けてるわけないものね」

「なんかごめんなさい」


 界斗は申し訳ない気持ちになった。


「真田君は気にしないで、お互い様だから」


 背が高いスレンダーで眼鏡をかけた女子生徒ザンダール・マリアーネが界斗を少し小さめな声で慰めた。どうやら彼女は少し内気なようだ。


「お互い様? いや、僕なんか……」

「そんなことありません。ゼファレスの授業では私たちが真田君にお世話になる事でしょうし。この班システムは何も勉強だけではなく1年間ほとんどの授業に関係してきます。今は私たちが勉強を教えているけど、そのうち私たちが真田君にお世話になる時がくるでしょう」

「はぁ……」


 オルテシアにそういわれると界斗は納得するしかない。

 再び昼食の話し合いが始まった。


「ところで本当にどうするの?」

「そうだな、外に行くしかないよな」

「この近くって何があったっけ?」

「ハンバーガー、ラーメン、ちょっとしたレストランぐらいかな、あとちょっと離れたところにあやしい定食屋があったような……」


 ダニエルの提案に琴絵が難色を示した。


「私たちはそれで良くても、ソフィスティードさんをそこらへんのお店に誘うなんて……」


 琴絵がオルテシアを申し訳なさそうにチラッと見る。


「私はどこでも大丈夫ですよ。むしろ普段入った事のないお店に行くのも楽しみです」


 オルテシアは両手を合わせニコリと微笑みながら言った。


「そうですか……。ではラーメンはちょっと制服で行くのは気が引けるし、生徒でレストランていうのもなんだか……。ハンバーガーでどうですか?……」


 マリアーネが自信なさそうに提案する。


「私はソフィスティードさんがいいなら……」


 琴絵がちらっとオルテシアを見た。


「学校のお友達とハンバーガー、いいですね。何か青春って感じします」

「よし! それならハンバーガーにしよう。真田君もそれでいいかな?」

「あ、うん、それでいいよ」


 界斗達5人は立ち上がるとハンバーガー店に向かった。




 お店は正門から歩いて5分ぐらいのところにあった。

 シスダールの周囲には会社がいくつもあり、お昼時だからか店内には結構な人がいる。


「学校の人もいるわね……」


 奥の座席にはシスダールの制服を着た生徒が10人ぐらい居た。


「あれ?」


 界斗はその内の2人が見たことがある顔だったから声を上げた。

 ダニエルも界斗の声で生徒達をまじまじと見た。


「げ、総会長と高等部生徒会長だな……。総会長もこの店利用するのか……」


 ダニエルはラファエフを嫌そうな顔で見た。

 界斗達は彼らとは少し離れた席に座った。


「さて、みんなの注文がそろった事だし、食べますか」


 それぞれ注文したハンバーガーが来たところで食べ始めた。

 界斗とダニエルはチーズ入りのダブルバーガーを注文した。女子3人はそろってアボガド入りを注文した。


「ソフィスティードさんと一緒にハンバーガー店でご飯を食べれるなんて!!」


 琴絵はうれしそうに食べている。


「私もみなさんと食べれて楽しいです……。初めてのハンバーガー店ですし……」


 オルテシアもうれしそうに食べている。

 界斗はその言葉に疑問が浮かんだ。


「中学もシスダールだったんでしょ。今まで班でご飯ぐらい何度も食べてたんじゃないの?」

「俺は、はじめてだな」

「私も」

「ええ、初めてです」

「私も初めてです」

「え……?」


 界斗が首をかしげると琴絵が説明した。


「助け合いと言っても、みんなそれぞれ自分で勉強するから殆ど必要ないのよ。毎年いても学年で5人前後がちょっと居残りを必要とするぐらい。ちょっとした疑問は休み時間に解決してしまから。放課後は部活だったり皆それぞれ用事があるから行かないし……。休みの日は遊びに行ったとしても友達同士だし」

「じゃあ俺って……」

「俺が知る限りではあの量の補修があるのは真田君が初めてだよ……」


 ダニエルは苦笑していた。


「え?……」


 そして界斗は気落ちした。


「お話し中、ちょっといいかな?」


 その時、男性の声がした。


 皆、声の方を見る。


 そこには総会長のザンターク・ラファエフが立っていた。


「これは総会長」


 オルテシアが立ち上がろうとする。


「いや、そのままでいいよ。君たちの邪魔をするつもりはないから。ソフィスティードさん、君は高等部でも生徒会に来てくれるのかな?」

「正式な打診ですか?」

「とりあえず人員の見通しを立てたくてね」

「それでしたら管弦楽部との兼任でしたらお受けいたします」

「そうか、中等部から引き続き管弦楽部に所属するんだね」

「はい、顧問の先生には伝えてあります」

「では、もしかしたら会計か広報あたりを打診するかも知れないからよろしくね」

「分かりました」

「これで僕は失礼するよ。みんな、邪魔してごめんね」


 ラファエフは手を挙げて界斗達5人を見回すと戻っていった。


「ソフィスティードさん、大変だね」

「いえいえ、生徒会と言っても時々ですもの。大丈夫です」

「それに管弦楽部って、……すごいね」

「真田君、ソフィスティードさんは国際コンクールの中学生部門で優勝したこともあるすごいヴァイオリニストなのよ!」


 琴絵が興奮気味に界斗に教えてきた。


「河峯さん、はずかしいです。そんな大声で言わないでください……」

「あ! ……ごめんなさい。私つい……」


(まじか……。俺なんかがソフィスティードさんに時間を割いてもらって勉強を教えて貰っていてもいいのかな?)


 界斗はオルテシアとの違いに劣等感を感じながら残りのハンバーガーを口に詰め込んだ。




 そして教室に戻り夕方まで勉強をすると正門を出た。

 日が沈み辺りはすでに暗くなりつつある。


「お嬢様、ご学友の皆さん、お勉強お疲れ様です」


 正門の脇に立っていたスーツを着た中年の女性が声をかけてきた。


「タニアさん、お疲れ様です。お迎えありがとうございます」

「いえ、お嬢様にこの様な日が沈んだ時間に外を歩いていただくわけにはまいりません。ここは治安が良いとはいえ万が一の可能性も考えなくてはなりません」

「皆さん、それでは失礼いたします」


 オルテシアは近くに止まっている高級な外装の車へと歩き始めたがふと振り返った。


「私のお家は中央の方なんですが、もしお家がそちらの方でしたらご一緒しませんか?」

 オルテシアが界斗達4人に声をかけた。


「いや、俺はバスで帰るから」

「私もバスで」

「私も……」

「真田君は?」


 界斗は呆けてオルテシアを見ていたが声をかけられハッとして答えた。


「歩いて帰れる距離だから……」

「そうですか……。では皆さん、また明日」

「そうね、また明日」

「また明日」


 オルテシアが車に乗ると、車は走り去っていった。


「ソフィスティードさんていったい?」


 界斗は走り去ってゆく車を見ながら疑問を口にする。


「え?……真田君、知らないの?」


 琴絵が首をかしげながら界斗に声をかける。


「……ごめん、知らない」

「ソフィスティードって聞いたことない?」


 そういわれ界斗は記憶をほじくり回す。


(あれ? 聞いたことがあるような?)


「TVのCMで聞いたことあるような……」

「そうそう、そのソフィスティードよ。彼女は世界に高級家具を中心とした事業を展開しているソフィスティードグループの御令嬢なのよ」

「けど、ソフィスティードの本社ってここウクテルじゃないよね」

「何でも実家を出て1人暮らしをしているらしいわ。とは言ってもさっきの人みたいなお付きの人は居るみたいだけど」

「そうなんだ……」


 界斗が驚きで固まっていると3人はバス停へと歩き始めた。


「お~い、置いてくぞ、真田君」


 界斗も慌てて後を追った。

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