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101・神託


 僕はデヴィ王子の王太子就任については何も思わないが、なんで恩赦なんて言い出したのかは疑問だ。


しかも、国王である父親は何故、反対しなかったのか。


そこのところはイラッとしている。


 とにかく、この式典が早く終わらないかなあと、適当にヴィーと過ごしている。


「ヴィー、お友達がいたらそっちに」


行っても構わないんだけど。


「おりませんわ」


そういえば本当に他国からの客と高位貴族以上の家しかいないな。


 アーリーは相変わらずリリーと楽しそうに踊っていた。


ダンスが好きだからな。


いや、女の子に堂々と触れるからダンスが好きなんだっけ?。


まあどっちでもいい。




「アーリー様、今日は大人しい装いですなー」


なんか酔っ払いが話し掛けてきた。


確かに今日は王太子を目立たせる日なので、僕らの色合いは濃紺で揃えている。


アーリーたちは濃紫で、もう少し派手目な感じになっていた。


それでも酔っ払いの目から見れば同じかも知れない。


 まだ若い貴族のようだから、先日の王子の一行の一人だったのかな。


僕とアーリーを完全に見間違っている。


「いやあ、羨ましい、こんなっ綺麗なっ女性とっ」


馴れ馴れしくヴィーに触ろうとするので、ちょっと阻止しておく。


アーリーだったらぶん殴られてると思うよ。




 ちょうど良い。


気になることを聞いてみるか。


「それより、外国からの来賓って美人はいないの?」


相手に会わせた会話をする。


「いないねえ。 美人の男はいたけどなー」


「へえ」


「ほら。 この間行った、お前のところの領地の隣り?、キルス王国だっけ。 内乱で王様が替わったところー」


ほお、良い情報をありがとう。


「それ、どこにいるの?。 もしかしたら連れに美人がいるかも知れない」


「ああ。 それなら、さっき庭に下りてったかも」


庭?。 今、アーリーたちもそっちに行った気がする。


「ありがとう」


僕はヴィーの手を引いて庭へと向かった。




 ちょうどアーリーとリリーが庭に出ようとしている。


そして、庭の奥に気配を消した何かがいるのも分かった。


闇の精霊がかなり警戒している。


「アーリー、リリー、すまない。 しばらくヴィーを頼めるかい?」


「うん、いいよー」


アーリーが手を上げる。


「私たちも休憩しようと思ってたところよ」


リリーはそう言って、そのまま庭に向かおうとする。


「ごめんなさい、私、お腹が空いてしまって。 何か食べない?」


ヴィーは先ほどの会話を聞いていたようで、二人を誘導して室内に戻る。


「ありがとう」と小さくヴィーに囁き、僕は三人を見送ってから庭の奥へ向かう。


お祖父様やデヴィ殿下は客の対応に忙しくて、そもそもこちらを見ていない。


今のうちだ。




 一人の青年が庭に配置された椅子に腰掛けている。


僕は相手を驚かせないように、ちゃんと足音をさせて近付く。


「こんばんは、ようこそ我が国へ」


確かに人形のような白い肌に、はっきりとした目鼻立ち。


灰色の髪に黒い目と薄い唇も無表情の顔を際立せている。


 僕はその姿に見覚えがあった。


闇の精霊が見せた、あの画像の男に似ていると思う。


「こんばんは、良い夜ですね」


と返してくる。 言葉は通じるようだ。


「あの、キルス陛下でいらっしゃいますか?」


確かめてみる。


今までどこかぼんやりしていた視線が冷たくなった。


「どこの国であろうと、王族には最低限の敬意を表するべきであろう」


と言われ、僕は内心ほくそ笑み、顔は焦る表情を浮かべる。


「申し訳ございません、失礼いたしました。


私はラヴィーズン公爵家のイーブリスと申します」


片膝をついて、正式な最上級の礼を取る。


彼は頷き「キルスだ」と答えた。


隣国は国の名前がそのまま王の名前となると聞いている。




「ラヴィーズン公爵家といえば、我が国と国境を接している領地か」


そう言って、キルス陛下は何故か椅子から立ち上がった。


「はい、さようでございますが」


僕も立ち上がるが、成人男性と十三歳の子供では、やはり見上げることになってしまう。


「そちらに『赤毛』の少女が預けられているだろう。 彼女は、無事なのか?」


思わぬ強い口調で言われ、僕は首を傾げた。


「あ、ああ、失敬した。 声を荒げてすまぬ」


僕がまだ子供だと思って、つい叱るような言葉遣いになったようだ。


恐らくは、まだ国王という立場になって日も浅いから距離感が分からないっていうのもあるんじゃないかなと思う。




「私の国では『赤毛』の子供は神託により、全て保護されるのだ」


「保護、ですか?。 何故でしょう」


何らかの見えない脅威にでも晒されているのかな。


「何を言っている。 古来より『赤毛』は悪魔の子と言われ、迫害されてきた。


我が国では神殿が復活し、神がお戻りになっている。


神は『赤毛の子』は大切に保護せよと仰せになられているのだ」


僕は唖然とした。


それはいつの情報なんだろう。


国によって違うのかも知れないけど、少なくとも迫害なんて、この国では聞いたことがない。


「すみません、そのようなお話は初めて聞きました。


公爵領での『赤毛』のご令嬢は、恙なくご無事で、お健やかにお過ごしになっていらっしゃいます」


ビシバシと教育はさせてもらっているが。


「そうなのか?」


少し不審がられた。


「はい。 私がその領地で領主代理をしておりますので、間違いございません」


そう話した時の彼の顔は見ものだった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 秋の頃にキルス国王の元に隣国から書簡が届いた。


隣国の王族から王太子の祝賀会への招待状である。


以前、キルス国と国境を接する公爵家から来た書状にはまだ返事を返していない。


公爵領からの要望は『柵の補修のため、国境付近に立ち入る許可』である。


「作業員だけでなく、護衛も複数名含まれます」


公爵家のそれは当然の申し出であるが、キルス国にとっては都合が悪い。


 キルス王は『赤毛の令嬢』が公爵領に滞在していることを知っている。


そこで、公爵領での魔獣の被害を増やし、それをキルス国が援助、討伐という形で恩を売ろうとしていた。


そうすれば『赤毛の令嬢』のキルスに対する印象も良くなるだろう。


しかし。


「魔獣の数は増えているのに被害はそれほど出ていないだと?」


「はい、さようでございます」


部下からの報告は納得のいくものではなかった。




 この国には、他国に知られたくない秘密がある。


キルスの東の森で瘴気を発生させ、強化した魔獣を全て他国に押し付けているという事実が。


公爵領への返答は出来るだけ引き延ばし、隣国の公爵家のことを調べ、何とか弱みでも握ろうとした。


だが、その策は遅々として進んでいない。


「では、王太子の就任祝賀会に参列なさいますか?」


キルス国から放った目からの報告も、何故か途絶えていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 その昔、キルス国の中心にある神殿には神が降臨し、巡礼に訪れる他国の者も多かった。


皆、信心深く多くの人やお金が集まる。


代々の国王は長命で、何年も容姿がほとんど変わらないという奇跡を体現し、『現神人』や『聖人』と呼ばれていた。


「長寿の秘密を知りたい」と、多くの国から王侯貴族が訪れ、こぞって姫や王子と婚姻を結びたがった。


多額の寄付と引き換えに他国に渡る王族関係者が増える。


しかし、何故か国外に出た子孫には長命の者はいない。


そうして、ついには国内に残った王族さえ神を体現出来る者がいなくなった。


焦った王族は神託をきちんと読み取れず、神の怒りに触れ、『赤毛の子供』の火刑と共に神殿も崩壊させてしまったのである。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 現在のキルス王は、自分が歳を取らなくなったのは『赤毛』の少女を保護したからだと信じている。


「我々は、もう間違ってはならないのだ」


神に誓って『赤毛』の子供を助ける。


それがたとえ他国の令嬢であったとしても。



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