表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/33

71・擬態

第三章となりますので、サブタイトルは外伝を含めた通し番号にしました。

お付き合いのほど、よろしくお願いします。

今回はあらすじを含むため少し長めです。


ウオォォーン


今日も元気な狼の遠吠えが聞こえる、ここは王国の北の端ラヴィーズン公爵領だ。


僕の名前はイーブリス。


公爵家当主の孫で、濃い金髪に鮮やかな青い目をしている。


国境の山と、魔獣の棲む森、小さな町が二つしかないこの公爵領で領主代理になって六年が経つ。


隣のブリュッスン男爵領と契約して、農業の改革を始めて三年目。


領民を養うための食糧がようやく安定し始めた。




 僕も今年で十三歳。


だけどそれは人間での年齢で、実は僕はシェイプシフターという魔物だ。


産まれた時に目の前にいた人間の赤ん坊に擬態し、そのまま双子ということになり、その成長に合わせて擬態を続けている。


その赤ん坊が公爵家の孫だったというわけだ。


 色々あって、配下である魔獣ダイヤーウルフのローズとの間に三体の子狼を儲けた。


シェイプシフターは生体情報さえあれば何でも擬態可能なので、僕は狼型魔獣であるローズのために、同じ狼型のフェンリルに擬態して番になった。


ローズは今、子狼のうちの一体のグルカと一緒に、隣の国から流れて来たダイヤーウルフたちと新しい群れを作って森で生活している。


魔獣の森を管理してくれているデキル女だ。


ウオォォーン


「あれはグルカか、また振られたな」


【とーさま、グルカはグルカでがんばってるんだから】


僕は、子狼のうち雌のリルーだけは事情により手元に置いている。


「ああ、分かってるさ。 だけどダイヤーウルフの雌には振られっぱなしじゃないか」


うちの子狼たちも成体、つまりオトナになった。


早く番の相手が見つかるといいんだけど、我が息子グルカはなかなか見つけられずにいる。


親としては情けない限りだ。


「逆にリルーは求婚相手が多くて心配だけどな」


リルーはフェンリルの影響が強く出ている真っ白なダイヤーウルフだ。


【うふんっ、おかーさんに似て綺麗だって言われるものー】


「はいはい」と美しい毛並みを撫でる。


リルーは、公爵家所有を示す銀色のメダルをチェーンで首に掛けていた。


そのメダルは聖獣フェンリルの浄化の能力が覚醒しないように魔力を封じているのだ。


もう一体いる灰色の子狼シーザーは現在、王都の公爵家本邸でお祖父様を守っている。


すっかり都会っ子になってるよ。




 今日は西の開拓地に建設中の温泉施設の様子を見に来た。


「これはイーブリス様、ご視察お疲れ様でございます」


馬鹿丁寧な挨拶をするのは王都から来ている技術者だ。


何せ僕は未成年だけど公爵家の孫で、この領地の領主代理だからね。


「ご苦労、調子はどうだ」


「はい。 夏のお披露目には間に合いそうです」


ニコリと笑った技術者と一緒に建物が並ぶ現場を見回す。


今はまだ春。 次の夏には完成披露が出来そうだ。




 リルーと一緒に馬車で開拓地を離れる。


そのまま元歓楽街のあった南の町に入った。


今、ここは町ごと工事関係者用になっている。


資材運びの荷馬車などの厩舎、工事関係者用の宿や食堂などで賑わう町だ。


王都から基礎調査に来て既に三年間も工事に携わっている技術者たちもいるので、彼らを飽きさせないように工夫している。


大小様々な宿泊施設があり、自分で好きな規模の宿を選んでもらい、余裕があれば何日かごとに宿を替えることも可能だ。


裏通りには、ちゃんと公爵家が経営する娼館や秘密の賭博場もあるしね。




 僕たちはその町を通り過ぎて領都に戻った。


領都といっても、六年前に初めて来た時は二百から三百名程度の町だったが今は倍くらいの人間が住んでいる。


馬車は町の中心を走り、小高い丘の上にある領主館へと向かう。


「お帰りなさいませ、イーブリス様」


迎えに出て来たのはこの領地の子供たちだ。


 僕は領主館の一部である元使用人寮を改装し、領地内の子供たちを教育する施設にしている。


そこで読み書き計算などの基本的な勉強から、馬車の扱いや護衛などを体験させて、町で働けるよう仕事の斡旋もしていた。


町から通っている者もいれば、親の家が目の前にあってもこの寮に住み込んでいる者もいる。


まあ、ここではちゃんと食事が出たり、デカい風呂があったりするからな。


親たちから苦情さえ来なければ勝手にやってろ。




 御者席から僕の専属執事兼護衛であるスミスさんが降りて来て、子供たちに指示を出す。


リルーの足をメイド修行中の女の子に拭いてもらい、僕たちは館の中に入った。


「視察、お疲れ様でした。 お帰りなさい、あなた」


スミスさんと執務室に戻ると、スミスさんの奥さんで領主代理秘書、現在は身重のジーンさんが迎えてくれる。


「ただいま戻りました。 ジーン、無理をしていませんか」


秋には出産予定の妻をスミスさんが労わる。


「あ、お帰りなさい!、ませ、イーブリス様。 お声を掛けて下さればいいのに」


代わりに煩いのがいるけどな。


「お前に用はない」


ジーンさんに報告書の準備を頼んで僕はリルーと寝室に向かう。


「私がお風呂の準備をいたしますー、きゃっ」


「こっちに来るな。 お前はメイドじゃなく、ただの秘書見習いだろうが」


バタンと扉を閉める。




 ブリュッスン男爵領から人質として預かっている二人の令嬢のうち、姉のミーセリナは成人になり、今は自分の仕事探しをしている。


農業の盛んな領地出身だけあって、農業指導者の青年と一緒にいるのをよく見かけた。


妹のリナマーナの方には、出産が近いジーンさんの補助をしてもらっている。


どうやら僕が生気を貰う行為で手を握ったり、軽く抱き締めたりしたのを勘違いされたっぽい。


やたらと馴れ馴れしくなったんだよな、はあ。




 浴室から出るとスミスさんが着替えを持って待っていた。


この後の予定を確認する。


「今夜、ヴィオラ様をお迎えに行っていただきます」


「ああ」


そうだった。


僕は今夜、婚約者であるロジヴィ伯爵家ヴィオラ嬢をこの領地に招待することになっている。


 先日、冬のダンスパーティーで王都へ行った時にヴィーの妹のリリーに捕まって、


「婚約者なのに年に一度しか会わないってどういうことですか!」


と、怒られた。


でも僕は忙しい。 なんせ、領主代理だからな。


それでも、貴族の義務とやらで婚約者に逃げられないように捕まえておかないといけないらしい。


だいたい僕とヴィーは恋愛関係でもないし、主従関係でもないのに。


僕とヴィーは『魔物と生贄』の関係なのである。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ローズは公爵領の北の森で生まれたダイヤーウルフだ。


まだ幼いうちに母親も仲間も人間たちに殺されてしまった。


そして、自身も猟師の罠に掛かり怪我をしたのをきっかけに捕獲されてしまう。


連れて来られた大きな家でイーブリスと出会った。


「ねえ、僕の手下にならない?。 可愛がってあげる」


瘴気の量、魔力の濃さが違う。 恐ろしい魔物だと思った。


だけどもう仲間も親もいないのだ、死ぬことさえどうでもいい。


だから「番になって仲間を増やすこと」を条件にした。


そうしたら、『ローズ』という名と人間の所有物であることを示すメダル付きの首輪を与えられたのである。




 主となったイーブリスは人間に擬態している魔物だが、ローズには気に入らないことがあった。


イーブリスはローズだけの番ではないということだ。


ヴィーという人間の女が主の婚約者になった。


【婚約者とはなんだ?】


「ん-、お前と同じだよ。 将来『番』となることを約束した相手のことさ」


イーブリスが決めたことだ。 ローズには拒否することは出来ない。


番となり、子狼も産まれた今でもそのモヤモヤは続く。




 公爵領の北の森、今は山を越えて来た群れと合流している。


元はこの群れの頭であった、他の個体より大きな身体を持つ雄のダイヤーウルフがいた。


一時期ローズを追い回していたが、イーブリスの姿を見て、すぐに敵わない相手だと気付きおとなしくなる。


今では頼もしい仲間だ。


(しかし、アレはすごかった)


先日、イーブリスが姿を写している聖獣フェンリル本体が森に現れたのである。




 やはり本物だ。


魔物のシェイプシフターであるイーブリスとは違う。


中身の違う二体のフェンリル。 同じ姿でありながら、やはり聖獣は聖獣なのだ。


真っ白な光に包まれた清らかな魔獣。


あれから気持ちがザワリとする。


それが何かということはローズには分からなかった。


そうして、何故か自分の子狼たちを見て、この子たちの父親はどっちなのかが気になり始めた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ