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離れた心はもどらない。女の子なめてると痛い目見るぞ!(3)

 美佳子は喫茶店のドアをあけた。時計はまだ六時前であったが、美樹を見つけた。長い髪の美樹はひときわ目を引いた。美佳子は静かに美樹に近づいたが、隣同士を仕切る壁に立ったとき美樹の向かいに誰かいるのを感じた。それと同時に美樹も美佳子の存在に気付いた。

「あら、美佳子さん。いらっしゃい」

 美樹の声に向かいの人物が美佳子の方に振り向いた。

(オトコ・・・・・・!)

 美佳子は驚いた。その男は濃紺のジャケットに襟にはKを型どった金色の襟章をつけていた。さら一目見た美佳子が思わずワッと思うほど顔立ちもよかった。

「あの、美樹先輩。私、出直してきます」

 美佳子は自分の場の悪さを恥じながら頭を下げた。

「いいのよ。もう、話はすんだの」

 美樹がそう言うなり男は席を立った。男は一度美佳子を見ると、再び美樹に顔を向けた。

「未練がましいが、僕は・・・・・・」

 男がそう言いかけたとき、美樹はそれを制止するかのように男を見つめた。男は言葉をのむと悲しそうな笑みを浮かべてそのまま店を出ていった。

「美樹先輩、いっ、いまの男の人、あの制服は確か景皇帝学園のでしょう。景皇帝といったら、授業に帝王学を取り入れた会社の社長とか企業の役員なんかの御曹子の学校じゃないですか。清新精華や英華学園の男子版!」

 美佳子は興奮した様子で言った。

「そうみたいね・・・・・・別にあの学校に入ったからといって偉いとは限らないわよ」

 美樹は関心のないそぶりで言うと、さっき男を見ていた目とはうってかわって優しい目で美佳子を見た。


 美佳子はできればさっきの男子のことをききたかったが、さすがにそれはできる雰囲気ではなかった。

 美樹はウェイターを呼んでテーブルを片づけてもらうと美佳子の肩を叩いて言った。

「なにか飲む?」

「はい。もう、喉がカラカラで、え~と、美樹先輩はなににするんですか?」

「わたし?わたしはオレンジジュースよ」

「美樹先輩はオレンジジュースが好きなんですね~」

 美佳子の言葉に美樹は笑顔でうなずいた。


「じゃあ、私も・・・・・・あっすみません。オレンジジュース二つ」

 美佳子はいつもの元気声で遠くにいたウェイターに注文した。

「美樹先輩、この前はどうもお世話になりました」

「えっ。いえ、あのときは私変なことを言って余計にあなたを苦しめたのじゃないですか」

「とんでもないです」

 美佳子は飛び上がらんばかりに驚いて言った。


「私、おかげで吹っ切れました。陸上に懸けることにしたんです。おかげで・・・・・・ふられちゃいましたっけど」 

 美佳子は少し語気を弱めて言ったが、その顔は満足そうに笑っていた。


「でも、真希乃の話じゃまたなにかあったみたいね」 

「はい・・・・・・美樹先輩、私どうしたらいいのでしょう。もう三ヶ月にもなるんですよ。私、陸上に打ち込んでいたんです。あれからずっと。噂でも聞きました。彼があたらしい子と付き合っているって。別に私、ショックは受けませんでした。覚悟してましたから・・・・・・でもひどいです。彼、今頃になってもう一度『付き合って欲しい』て言うのです。私、噂のこと彼に言いました。そしたら彼『噂は本当だ。彼女とはキミを忘れるために付き合いだした。でも、だめだった』そう言ったんです。今さら無茶苦茶です」

「それで、返事はしたの?」

 美樹の問いに美佳子は首を左右に振った。

「私、わからないんです。どうしたらいいのか、自分がどうしたいのか」

 美樹はうなだれる美佳子を見ながらオレンジジュースを一口飲んだ。

「そう。それで、美佳子さんはその彼のこと好きなの?」

「わかりません」

 美佳子はうなだれたまま首を振った。


 美樹はうつむいたままの美佳子を慰めるように覗き込んだ。

「美佳子さん」

「はい」

 美佳子は美樹のあまりにも優しい声に思わず素直に返事をした。

「美佳子さん、いま私がどんな意見を言ってもそれは無駄なことだと思うの。だってそれは美佳子さん、あなたが決めることなのよ。私の意見を聞いてもしょうがないことよ。だから、私があなたの気持ちを勝手に決めることはできないの」

「そうですか・・・・・・」

 美佳子は愕然としてうつむいてしまった。

「でもね」美樹は美佳子に語りかけるように言った。「一つのお話ならしてあげられるわ」

「お話?」

「そう。きいてみる?」

「はっはい。ぜひお願いします」  

美佳子は身をのりだしてウンウンとうなずいた。

 美樹は美佳子の仕草にクスリと笑うと一呼吸おいて話しをはじめた。


「女の子がいたの。女の子には付き合っている男の子がいました。お互いにそれなりに好きあっていました。そしてその男の子は女の子を求めました。ごく自然にね・・・・・・でも、女の子はそれを拒みました。女の子にはそのときにやるべきことがありました。そう、ちょうど美佳子さん。あなたのように懸けたいものがありました。どうしても譲れないものがありました。それで女の子は拒み続けました。やがて、男の子は女の子に別れを告げました。そして女の子はそれを受けました。女の子は悲しみながらも一つのことに懸けました。それからどれくらいか時がたちました。女の子のまえに再び男の子が現れたとき、となりには可愛い別の女の子がいました。二人はとても仲が良く幸せそうでした。そして、次に男の子が女の子のまえに現れたときこう言いました。『どうしてもあなたが忘れられません・・・・・・もう一度』そう言って女の子の返事を待ちました」

 美樹はそこで話しをきり、少し首をかしげて美佳子を見た。

「それで、女の子はどう返事をしたのですか?」 


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