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第一章 ~『未来の家族』~


 窓から差し込む光で目を覚ます。瞼を擦り、周囲を見渡すと、そこは部屋の片隅に積み木などの玩具が置かれている見知らぬ場所だった。


「ここは子供部屋でしょうか?」


 『転生魔法』を発動したことまでは覚えているが、それ以降の記憶がない。手掛かりがないかと、部屋を漁っていると、姿鏡に自分が映った。


 鏡に映るのは見慣れた姿ではなく、五、六歳の幼女だった。外見は生前の彼女と似ており、透き通るような銀髪と澄んだ青い瞳をしている。


「『転生魔法』は成功していたのですね。それにしても生まれ変わっても銀髪ですか。ため息が零れてしまいますね」


 『転生魔法』は記憶を維持したまま次の人生を始めることができる。だが転生先の肉体は完全にランダムであり、自由に選ぶことができない。今回も銀髪であった悲運を悲しむ。


(転生先の記憶も徐々に戻ってきましたね。なるほど。この娘の名前はマリアンヌ・フォン・ルンベル。奇遇にも生前の私と似た名前ですね。それにまさか男爵家の令嬢に転生できるとは。幸先が良いですね)


 爵位は王族、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵と続くため、転生先の身分は貴族の中で最も低い地位である。だが衣食住が満たされている貴族に転生できたのだ。幸運であることは間違いない。


「ウィル様とキャロルもこの世界のどこかにいるはずですよね」


 『転生魔法』を発動する際に、二人を巻き込んでしまった。彼らもこの世界で暮らしているはずだ。


「二人には悪い事をしましたね」


 『転生魔法』発動のキッカケを生んだのは、ウィルとキャロルの裏切りだが、巻き込んでしまったことは事実だ。申し訳ないことをしたと肩を落としていると、扉がコンコンとノックされる。


「ローランドだ。部屋に入るよ」


 転生先の記憶を辿る。ローランドとはマリアンヌの兄の名前だ。第二の人生の大切な家族に、失礼のないようにしなければと、背筋を伸ばす。


「どうぞ、お入りください」


 扉をガチャリと開け、入室してきたのは、温和な雰囲気を放つ金髪の美男子だった。背は高く、血のように赤い瞳は吸い込まれるような魔性の魅力を秘めている。


「マリアンヌ、具合は良くなったかい?」

「私は風邪でもひいていたのですか?」

「ははは、自分の症状を忘れるなんて、どうやら体調は元に戻っていないようだね」


 ローランドは爽やかに笑うと、棚から本を取り出す。表紙には四人の魔法使いが描かれていた。


「さぁ、マリアンヌ。絵本を読んであげよう」


 ベッドの傍に置かれた椅子に腰かけたローランドは、ページを捲っていく。語られる絵本の内容は、転生前から有名な話だったため、記憶に残っていた。


 赤・青・黒・白の四人の魔法使いが、悪しき魔王を倒すまでの英雄譚である。


(懐かしいですね。私も好きな物語でした)


 ただ耳を傾けている中で、僅かな物語の変化に気づく。ストーリーの序盤で回復魔法を得意としていた白の魔法使いが消えたのである。


 聖女であるマリアも同じく回復魔法を得意としている。聞かずにはいられない疑問だった。


「あの、白の魔法使いはどこへ……」

「御伽噺だからね。僕にも分からない。ただ回復魔法なんてこの世に実在しないからね。作者が説明できずに邪魔だからと消したのかも」

「回復魔法が存在しないのですか!」

「怪我をしたら薬を塗るかポーションを呑んで治す。世界の常識だろ」


 転生先の未来では回復魔法の技術が潰えていた。かつて聖女と称されたマリアはそれを悲しく感じながらも、自分の力で人を救えるかもしれないと希望を抱く。


(この世界に転生したのは、私の回復魔法の力を役立たせるためかもしれませんね)


 転生先での人生に道筋が見えた気がした。ギュッと拳を握りしめる。


「マリアンヌはきっと立派な魔法使いになれる。僕も協力するから、一緒に頑張ろう」

「お兄様……」

「本当は素敵な嫁ぎ先を見つけられたら良かったけど……これは言っても仕方がないことだからね」


 銀髪が醜いと扱われているのは、この世界でも同じだ。だからこそ兄のローランドは、彼女が一人でも生きていけるように魔法使いとして育てていたのだ。


「もし僕が兄でなければ、君を妻にするんだが、運命は残酷だね」

「お兄様なら素敵な女性と結婚できますよ」

「ありがとう。そろそろご飯の時間だ。一緒に行こう」


 ローランドはマリアの手を握る。愛してくれる家族がいる。それだけで同じ銀髪でも幸せな人生だと、頬を緩めるのだった。



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