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第一章 ~『過去の思い出』~


 光に包まれたマリアは夢を見ていた。走馬燈のように、過去の思い出が脳裏に浮かぶ。


 それはマリアが聖女と呼ばれる前の話。ウィルの看病をしていた頃の記憶だ。


 幼い頃の彼は流行り病を患っていた。両目が潰れ、寝たきりの生活だった彼は、王宮の外れにある隔離棟に幽閉されていた。


『ゴホッ、ゴホッ』


 ウィルは咳き込む。病に侵された彼は、身体が瘦せ細っていた。王族としての覇気はなく、ただただ縋るように、世話をしてくれる唯一の女性に目を向ける。


『ウィル様⁉』

『大丈夫だ。それよりマリアには世話をかけるな』

『気にしないでください。私はあなたの婚約者なのですから』


 マリアは病気のウィルを甲斐甲斐しく世話をする。身体を拭いてやり、汗で汚れた服を変えてやる。彼は申し訳なさそうに背中を丸めていた。


『たまには俺の看病を忘れて、遊びに出かけても良いのだぞ』

『外で遊ぶよりも、あなたの傍にいた方が楽しいですから』

『しかし……』

『それに私がいないとウィル様も寂しいでしょう?』

『それはまぁ』

『なら一緒にいましょう。ね♪』


 ウィルの病気は人から人へ感染する。だが回復魔法を得意とするマリアは、病気に対する耐性を持っていた。マリアだけが彼の唯一の話し相手だった。


『病気が治れば、迷惑をかけることもないのにな……』

『治りますよ。いいえ、私が回復魔法の腕を上げて、必ず治してみせます』

『マリア……』

『そのためにもご飯にしましょう。お腹いっぱいになれば、元気もでます』


 食堂から運んできた粥を掬い上げ、ウィルの口元に運ぶ。彼はゆっくりと口を開けて、粥を飲み込んだ。


 病によって目が見えず、両手両足も満足に動かすことのできない彼は、食事をするのもマリアの世話頼りだった。


 情けなさと申し訳なさで、目尻から涙が溢れる。


『……っ……す、すまない……』

『泣かないでください。ウィル様が謝る理由なんて、何一つないのですから』

『だ、だが、俺のせいで、王宮で腫れ物扱いされているのだろう?』


 理屈では回復魔法によって感染しないと知っていても、恐怖を完全には拭いきれない。王宮の者たちはマリアを恐れ、距離を取っていた。


『ウィル様のせいではありません。嫌われる理由は髪のせいですから』

『マリア……』

『でもウィル様は銀髪の私を受け入れてくれました……それだけで私は十分に報われたのです』


 マリアは銀髪を理由に両親からも嫌悪されて育った。碌に食事も与えられず、成人と同時に身売り同然に王家へと嫁ぐことになった。


 感染症で苦しむウィルとの婚約は周囲から見ると不幸かもしれない。だがマリアは初めて幸せを実感できた。ウィルから感謝される日々に生き甲斐を感じていたのだ。


『私はウィル様さえいてくれれば、他に何もいりませんから。だから、他の人からどれだけ嫌われても平気です』

『どうしてそんなにも俺のために尽くしてくれる?』

『愛していますから。尽くす理由なんて、そんなものですよ♪』


 利害抜きの献身に、ウィルの涙は止まらない。同時に彼は心に誓う。


『もし俺の病気が治れば、絶対に幸せにすると約束しよう!』

『ふふ、その日が来るのを楽しみにしていますね♪』


 二人が約束を結んでから、マリアは彼の病気を治すために魔法の腕を磨き始めた。大切な人を救うため、寝る間も惜しんでの修行。そこに彼女の天賦の才も加わり、三年の時を経た頃には、聖女の称号を獲得していた。


 そして運命を変える日がやってくる。聖女の力でウィルの病を治す時が来たのだ。


『これでウィル様の病気は治るはずです』


 マリアの声には不安が混じっていた。病が癒えれば、視力も回復する。彼女の銀髪を嫌悪し、彼に捨てられるのではないかと恐ろしくなったのだ。


 そんな彼女の不安を和らげるように、ウィルは手を握る。


『安心しろ。俺は絶対に裏切らない』

『そうですよね……私、ウィル様を信じます!』


 覚悟を決めたマリアは回復魔法でウィルの目を治す。淡い輝きに包まれた彼は、ボロボロだった体を元通りに回復させる。瞳にも光が戻った。


『眼が元通りに……マリアの顔も見えるぞ!』


 ウィルはマリアの銀髪を見た上で、それでも力強く抱きしめてくれる。


『誓いは守る。絶対に幸せにしてみせるから』

『はい、私、幸せです♪』


 二人は愛を誓いあう。だがウィルの言葉は嘘だった。それを知ることになるのは、それから数年後の話であった。



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