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やっぱり持田さんは雨女のようだ。

 案内されたリビングには、同じようなドレスを着た女性や男装をしている人がたくさん集まっていた。


「ほらこちらに座って」


 促されるがままに僕と持田さんはソファーに座る。スマートフォンで撮影している人だけでなく、一眼レフまで持ち出して本格的に写真を撮っている人までいるようだ。


「そこのお二人。お姫様抱っこをしていただけますか」

「はい?」

「お願いできますか」


 奥さんがニッコリと威圧的な笑顔を振りまいている。

 持田さんが耳元で僕に囁いた。


「なぁ神崎、私は今、猛烈に帰りたくてしょうがないのだが」

「僕もです。でも殺されるよりはマシじゃないですか。なんとか嵐が過ぎ去るまで、頑張りましょう」


 持田さんはしぶしぶ僕の体を持ち上げ、お姫様抱っこを披露した。軽々持ち上げる持田さんも持田さんだし、持ち上げられてしまう僕も僕だった。


 恥ずかしくて顔が沸騰しそうだったが、どうにでもなーれという気分になってきた。こんなことで持田さんが許されるのなら、我慢するしかない。


 持田さんは僕の体をじっと見ている。


「神崎の腕、ツルツルだな。もしかして今時の男子ってやつは、きちんと処理してるのか」

「してませんよ。生まれつき体毛薄いんです」


「羨ましい。私、毛濃いんだよね。剃っても剃ってもゴマ粒みたいになるレベルに」

「それはそれで大変そうですね。でもちょっと羨ましいです。脇とか胸毛とかがっつり生えてるほうが男らしい感じがして」


「ごめん。さすがに胸毛は生えてない」

「あ、はい」


 ようやくお姫様抱っこから解放されると、また別のポーズを要求される。


 王子様姿の持田さんに、優しくエスコートされているうちに、身も心もお姫様になってしまいそうな感覚に襲われた。自分の性別が何度もゲシュタルト崩壊しそうになる。


 僕は小声で耳打ちする。


「先輩、ちょっとイケメンすぎやしませんか」

「そういう神崎だって、反則すぎるぐらいに可愛いだろ。ほんと逆だったら良かったのに」

「そうですね」


「やっぱさ、男と女だけの分類っておかしいんだよ。見た目も性格も男っぽい人は男男で、女っぽい人は女女で、私みたいに男っぽいところが多い女は女男で、神崎みたいに女っぽいところが多い男は男女とか。たぶんもっと何種類でも好きに選べる性別にしといたほうがいい気がする」

「なるほど」


「明らかに同じ分類じゃないのをひとくくりにするから、いろいろややこしいことになるんだよ。犬だって、チワワとシベリアンハスキーを同じ犬ってくくりにするのおかしいだろ」


「それは僕に言われても困ります」

「そりゃそうだ」


 持田さんは苦笑した。


「でもややこしいから面白いんじゃないですか。僕たちみたいに」

「それもそうだな」


 そう言って笑う持田さんは、やっぱりイケメンだった。




 一通り撮影が終わって、休憩ということで紅茶とケーキが用意される。

 持田さんのスマートフォンに着信があった。元バレー部の先輩からメッセージが届いたようだ。


『うちのは根っからの宝塚ファンでな。持田を披露宴で見た時から、どうしてもお前を王子様にして撮影会がやりたいって聞かなくて。男の俺ではどうも理想の王子様とやらにならないらしいんだ。すまん。生贄になってくれ』


 それを見た持田さんの目は、氷のように冷たかった。


「あの野郎。ハメやがったな」


 小さく呟いた声は、僕だけにしか聞こえてないようだ。奥さんがうっとりとした様子で持田さんを見ている。


「あら持田さん、そのクールな表情、勇者様みたいで素敵。ぜひこの聖剣を構えていただいて」


 模造品の大剣を持たされた持田さんは、されるがままにポーズを決められている。持田さんもやけくそみたいだ。だが確かに勇者みたいで格好良いのは事実だった。




 夕方近くまで撮影会は続き、ようやく解放された頃には、徐々に雲行きが悪くなっていた。道端の野良猫は顔を洗っている。


「そこの猫、私の前で顔を洗うんじゃない」

「そんな理不尽な」


 どうやら持田さんはご機嫌斜めなようだ。


「いろいろとすまなかったな。巻き込んで」

「いえ。なかなか貴重な体験ができましたし」

「それじゃあ、また会社でな」


 お互いに反対の道に別れて歩いて行く。持田さんの行く方向に雨が降り出した。


 やっぱり持田さんは雨女のようだ。だがもしかすると、持田さんと離れたくない僕が、この雨を呼んだのかもしれない。


 僕は持田さんを追いかけた。

 腕を掴んで雨から逃げるように、僕たちは逆方向に走った。


 どこまで雨から逃げられるかはわからない。

 それでも僕は持田さんと一緒に走り続けた。




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