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運命の日が訪れた。なんの前触れもなく、突然に。

 だが運命の日が訪れた。

 初めて持田さんにプライベートな予定で呼び出された。なんの前触れもなく、突然に。


 待ち合わせの場所に指定されたのは、出来立てホヤホヤという感じの綺麗な一軒家の前だった。現れた持田さんは、げっそりとしている。


「大丈夫ですか。なんか今にも死にそうな顔してますが」


「やばい。もしかしたら私、殺されるかもしれない」

「どういうことですか」


 この一軒家は、例の披露宴をやったバレー部の先輩が住んでいる新居らしい。招待されたのは良いが、訪問直前になって、先輩は急な仕事で出かけるという連絡があったそうだ。


「日を改めようって提案したのに、どうしても奥さんが今日会いたいから来てくれって。怖くないか。これ絶対に、私ヤバイだろ」


 つまり持田さんは奥さんと二人きりになるのが怖くて、僕を呼び出したということらしい。


「大丈夫ですって。そんな披露宴に雨が降ったぐらいのことで、殺されるわけないでしょ」


「披露宴の途中で出てきちゃったんだよ。晴れの舞台を台無しにした張本人が逃亡とか、そりゃ殺したいぐらい憎んでいても仕方あるまいよ」

「いやいやいや、そんな大げさな」


 僕がいくら説明しても、持田さんは怯えた表情のままだった。


「ここでずっとこうしてるわけにもいかないですし」


 仕方なく僕が代わりにインターホンを押した。




「この間の披露宴では途中で帰ってしまって、本当に申し訳ありませんでした」


 玄関に入ってすぐ、持田さんは頭を下げた。

 だが出迎えた奥さんらしき小柄な女性は、少々様子がおかしかった。


 お姫様のようなピンクのドレスを着ていて、髪の毛は金髪の縦ロール、頭の上にのっている大きなリボンもピンクだ。仮装大会でもしているのだろうか。


「悪いと思うのなら、まず、これに着替えてもらえますか」

「はい?」


 持田さんが手渡されたのは、中世の王子様のような衣装とマントだった。持田さんは怪訝な表情で奥さんを見ている。


「えーっと、これは一体どういう」

「お手洗いはそちらです。時間がありませんから。早く」


 持田さんは気圧されて、そのままトイレに入っていった。


 残された僕は、とても気まずかった。


 奥さんはじっと僕を見ている。僕の頭から足の先まで確認すると、ウォークインクローゼットに姿を消す。

 戻ってきた奥さんは、赤いドレスと金髪のゆるふわなカツラを手渡してきた。


「あなたはこれで。そちらの部屋で着替えてください」


 連帯責任というやつなのだろうか。断る隙は与えられなかった。

 ドレスに着替えながら、僕は思っていた。


 なんで僕はこんなことをしなければならないのだろうか。初めて持田さんにプライベートで誘ってもらえたと喜んでいたのが馬鹿みたいだ。


 小柄で童顔な僕は、小さい頃からよく女の子に間違われていた。鏡に映った自分は、完全に立派なお姫様だった。赤いドレスと金髪のカツラも無駄に似合うのが泣けてくる。


「あら、可愛らしい」


 僕の姿を見た奥さんはニコニコしている。喜んでもらえたのなら本望だと思うしかない。僕は愛想笑いを浮かべる。もうやけくそだった。


「あの、こんな感じでよろしいでしょうか」


 王子様の姿をした持田さんは素敵だった。宝塚にハマる女性の気持ちが少しわかったかもしれない。


「じゃあ撮影会始めましょうか」

「撮影会?」




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