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新しい仲間

 

 アーニャ。女騎士。容姿もよくて、男女両方から好かれそうな美人。

 そして、Aランクの冒険者。Aランクと言えば、トップクラスの冒険者ということだ。


 そんな彼女だが、近頃は何か悩みを抱えていたようだ。

 その悩みというのが。


「誰も声をかけてくれないっ!!」


 眉を下げて、いかにも情けなさそうな表情で語ってくれた。


 ふむ。なかなか面白い冗談だ。

 Aランクのエリートで、こんな美人さんが誰にも声をかけてもらえない。


 ギャップ萌えを狙っているのだろう。

 それとも私のような新米が緊張しないように気を遣ってくれているのか。


 とりあえず、笑っておくことにした。


「はーはっはっはっは!」

「何がおかしいっ!」

「……え? ギャグじゃないの?」

「私は大まじめだ」


 なんでもアーニャは最近この町にやってきたのだが、ギルドで仲間を探そうにも誰にも誘ってもらえず、困っていたのだそうだ。


「自分から誘えばいいんじゃ……」

「Aランクの私がか?」


 たしかに誘われた方は焦るよな。

 Aランクが頭を下げて仲間にしてくれと頼んで来たら、私なら断る。


 ちなみに同じAランクはみんなパーティーを組んでおり、空きがないそうだ。

 まあ、彼女に仲間がいないというのは、私としては好都合なので、さっそく頼んでみる。


「私を仲間にしてください」


 すると、彼女の顔つきが明るくなった。かわいくて、やさしそう。

 ジェームさんの情報は間違っていなかったようだ。


 むしろ、なんで最初にあんな話しかけにくいオーラを出していたのか。

 あれがなければ仲間なんてすぐに出来そうなものなのに。


 もちろん、あっさり了承してもらえた。ついでにノロくんもメンバーの一人として加えてもらった。

 これで三人パーティーということになる。言うまでもなく、リーダーはアーニャ。そこで変に揉めるつもりはない。


 そして、自分がⅮランクであることと、新人であることも伝えた。


「それなら、まずは初心者クエストからだな」

「あっ、それはちょっと……めんどくさい」

「めんどくさい?」


 アーニャはしばらく考える様子を見せる。


「君は何か目的があって冒険者を始めたってことか?」

「そうなの。賞金首のハイウルフ。あのモンスターを倒したくて」

「ハイウルフ。それなら私も話を聞いた」

「お願い。一緒に倒すのを手伝って」

「いいだろう。だが、その前に君の実力が知りたい」


 彼女はきっと私のことを全くの戦闘の素人だと思っているのだろう。

 だが、これでも私は勇者パーティーに所属していたし、そこで数々の戦闘を経験してきたのだ。

 ほとんど勇者が一人で片づけていたけど。


「戦闘経験はあるよ」


 私は胸を張って答えた。


「そうか。では、見せてもらおうか」


 私たちはギルドの外に出て、近くの広場まで移動した。

 ここは冒険者たちがトレーニングに使うところ。


 周りでは冒険者たちが自己鍛錬に励んでいる。

 器具などはないので、トレーニングは素振りや組み手などが主なメニューとなっている。


 アーニャはここで実力テストをするようだ。

 内容は難しいものではなく、彼女に打ち込み、一太刀あびせるというもの。


「クルナ様。がんばってください」

「うん。任せて」


 ノロくんとの会話もそこそこに、私はアーニャの前に立った。


「武器は?」

「ごめん。持ってなくて……」

「では、これを貸そう」


 手渡されたのはナイフだ。

 どこの武器屋にも売っていそうな量産品。


 これなら使ったことがある。

 少し良いところを見せれば、アーニャを認めさせることも簡単そうだ。


「好きに打ち込んできていいぞ」


 対面に立つアーニャは、鎧は来ているがほぼ無防備状態。

 両手は後ろに隠している。攻撃はしないという意思表示なのだろう。


 私はナイフを構えて、距離を詰める。


「えいっ!」


 気合を入れて、ナイフを突き込んだ。


 狙いは胸元。下手に振り回して、顔に当たると危ないし、テストなのだから実力を見せられればいい。


 それに振り回していると、素人っぽいと思うからだ。


 しかし。


 私のナイフは外れた。アーニャが寸前でよけたからだ。


 あんな分厚い鎧を着てるわりに動きが素早い。


 私は前のめりに転倒してしまう。


「アーニャも動くの?」

「当たり前だ。止まってる的なんて実践ではありえない」


 意外とスパルタなの?

 そんな意地悪してたら仲間ができないよ?


 けど、私はめげない。すぐに立ち上がると、さらにナイフを突き込んだ。


 あっさり避けられた。


「……はあ……はあ」


 この段階ですでに、私の息は上がっていた。


 日頃の運動不足が響いたか。

 いつも遠くのものはノロくんが取りに行ってたから。


「えいっ! やあっ!」


 最終的にはナイフを必死に振り回していた。


 そして、もちろん当たらない。


 ついには転びすぎて、どろんこに。


 ……なんか私、素人っぽいな。


「ここまでだな」


 アーニャが切り上げたので、私はその場にへたり込んだ。


 結局、アーニャには一太刀もあびせられていない。でも、今はやっと終わってくれたという気持ちでいっぱいだった。

 早く帰ってベッドでひと眠りつきたい。


「まず、体力がなさすぎるな」


 息を切らした私を見て、アーニャはわざとらしく溜息をついた。


「足腰も弱い。もしも不測の事態が起きた場合、君はその足でどうやって逃げるつもりなんだ」


 私には返す言葉もない。まさにその通りだからだ。


「……20点だな」


 アーニャは私のナイフをかわしながら、採点もしていたようだ。

 小さな声で、点数を告げると、私の肩を叩いた。


「大丈夫。自分を大きく見せたいって誰もが思う普通のことだよ」

「……えっと、アーニャさん」

「賞金首って、ワクワクする。君は大物を倒してヒーローになりたかったんだ」

「……あ、いや」

「でも、小さなことをコツコツと積み重ねることって大事なことなんだ。君もいずれ分かるときがくる。素人って何も恥ずかしいことじゃないんだ。これから私と一緒にがんばって行こう」

「あうあう。違うよ。私は素人じゃ……」

「いいから。何も言わなくても、私は分かってるから」

「あうあう。違うのに」


 こうして、私はめでたくAランク冒険者アーニャの仲間になることができたのだった。


 *


 野生のスライムが現れた。


 青色の透明色で、その体は液状。体をぷるぷるさせて、私を威嚇している。


「クルナ。落ち着いて。ナイフをしっかり持つんだ」


 アーニャの言葉にしたがって、私はナイフの握りを確認した。


 私の手は少し湿っていた。この照り渡る太陽が原因だろう。


 滑りそうなので手を拭っておきたいが、モンスターは待ってはくれない。


 スライムは草むらから飛び出すと、私に向かって体当たりをしかけてきた。


「クルナ。避けるんだ」


 後ろに下がって、その攻撃を避ける。


 路上に出て来たので、見やすくなった。


 ナイフを頭上まで上げると、スライムに向かって振り下ろした。


 その刃がスライムの体に直撃した。彼らの防御力はたいしたことないので、あっけなく切断される。


 ぐちゃっと潰れたようになり、青色の液体が路上に散らばった。


 スライムは倒れた。


「うわあ。やったあ。スライムを倒したあ」


 それを確認したアーニャが、私のもとにやってきた。


「すごい。すごい。よくできたじゃないか。やっぱりクルナは出来る子なんだ。こんな短時間でここまで上達するなんて」

「ありがとう。アーニャ」

「さすがクルナだ。才能あるよ。もしかしたら、君は天才かもしれない」


 彼女はわりと褒め殺しタイプなんだろう。

 聞いたところでは、彼女がこの町に来る前のパーティーでは、彼女が一番の若輩者だったそうだ。


 だから、いつも人に教えてもらうがわで、誰かに教えるのは初めてだとか。

 初めての後輩が活躍して舞い上がってるのかな。


「それじゃあ、少し休憩したら、次のスライムのところへ行こうか」

「……またスライム」


 今日だけでもう30匹は狩っている。

 いいかげん飽きて来たんだけど。


「ねぇ。私って才能あるんだよね。天才なんだよね」

「ああ。クルナは天才だ。私が保証しよう」

「じゃあ、きっとハイウルフにも勝てるよね」

「ダメだっ!」

「なんで!?」

「才能があることと基本ができてることは違う。クルナはとにかく基本をしっかりしないと」

「でも、単純作業はイヤ」

「わがまま言ってると、強くなれないぞ」

「いやあっ!」


 でも、アーニャが私のためを思って言ってくれてるのはよく分かる。

 魔導士だって呪術師だって自分の身は自分で守れるようになるべきだ。


 いくらアーニャがAランクだからって、必ず私を守ってもらうわけにはいかない。

 仮にいつも守ってもらえるなら、それは仲間ではない。


 ただの足手まといだ。

 そして、今までの私はそういう足手まといだったのだろう。


 イリスや他の仲間たちは私のことを守ってくれていたのだ。


「……イリス。私って、やっぱり役立たずだったのかな……」


 そんなことを考えながら、私はスライム退治を続けていく。


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