人形を作る
「えっと、なになに……」
本を開いてみる。
まずは1ページ目。
『ほにゃほにゃ。ほにゃほにゃ』
「って、こんなの読めないよ!」
「ノロ! ノロ!」
「そうだよ。ノロくん。この本、解読不能だよ。ほにゃほにゃしてるの」
「ノロ! ノロ!」
「だれだ。こんな駄文を書いた人は。もっと読者のことを考えて」
「ノロ! ノロ!」
と、まあ、茶番はこの辺りにしておこう。
正直に言うと、私には読める。
たしかに、魔法でプロテクトがかかっているようだし、私にはプロテクトは解けない。
しかし、これはもともと呪術の専門書であり、呪術師には読めるようになっている。
要するに、呪術師である私は、この本の対象に入っている。
で、1ページ目に何が書いてあるかというと。
復讐したい。大嫌いなあの人を酷い目に遭わせてやりたい。
そんな薄汚れた心を持った呪術師さんは要注目。
この本を読み終えるころには、誰でも簡単に、憎いあいつに復讐できちゃいます。
「うおお……」
少し軽めな文体が気にかかるが、どうやら期待できそうな内容である。
というか、私は少し運が良すぎないだろうか。
まさしく今の私の気持ちにぴったりの内容である。
続いて2ページ目。
復讐について。
人はなぜ復讐してしまうのか。
難しそうな内容が書かれている。
私はもっと実用的なことを知りたいのでページをめくっていく。
「……これかな」
呪いの人形の項目まで辿り着いた。
力の入った書き方がされているので、この本のメインはここのようだ。
見出しには『ざまぁ人形』と書かれている。
復讐できそうな感がひしひしと漂っている。
『ざまぁ人形』のここがすごい!
人形は半永久的に稼働する。
停止する条件は復讐が達成されるか、標的が死亡したとき。
それ以外は動き続ける。 もちろんあなたが死んでも動き続ける。
『イフイフシステム』に対応。
人形は外部環境を刺激として取り入れて、独自の成長を遂げる。
その種類は無限大。
君だけの最強ざまぁ人形を作り出せ。
ざまぁ人形の作り方
まず、あなたの魂の半分を用意します。
悪魔なら、魂一つ分が必要ですが、ざまぁ人形なら半分でOK。安全安心。
「え? 魂がいるの?」
怖いな。私は魂なんかあげたくないな。
おそるおそるページをめくると、そこには代案が書かれていた。
『え? 魂が必要なの?』と思ったそこのあなた。
心配ご無用。魔力で代用可能です。(要1万magi)
「魔力でいいんだ」
自慢じゃないが、私は魔力の数値だけは異常と呼べるぐらい高いのだ。
通常の人が1万前後だとして、かなりの才能がある魔導士で数百万。
対して、私は魔力の値が2億。これは歴史に名を残すような大賢者などに匹敵する数値であり、ちょっと異常である。
といっても、呪術師が魔力を使うことは、ほとんどない。
完全な宝の持ち腐れだけど。
ざまぁ人形の作成に必要なもの
一般的な呪いの人形では復讐者の身体の一部、たとえば髪の毛などが必要ですが、ざまぁ人形には不要です。
代わりにあなたの頭の中にある標的の記憶、または標的の思い出の品などが必要です。
魂の次は記憶ときたか。
いろいろと怖いことが書いてある。
でも、思い出の品でもいいようなので、そちらを使おう。
*
「うん。これでよし」
いろいろと難しいことが書いてあったけど。
まあ、作ってみないことには何も始まらない。
そんなわけで、本にあるレシピを元に材料を集めてみた。
といっても、そのほとんどは行きつけの呪い道具店に売っていた。
あとの細かい材料もすぐに揃えることができた。
「えっと……これはノミア草」
人形の大部分を占めるもので、人間で言えば、肉の部分。
緑色で細長い草である。加工済みなので、今は茶色で乾燥している。
「そして、これはシルカ石」
人間で言えば、骨の部分で、体を支える軸になる。
「……意外と簡単だな」
作り方も、とりたてて難しい技術が使われているわけではない。
ポイントとしては、魂、または魔力が必要なところと、復讐相手に関する情報が必要なところ。
それと完成するまで日光に当てないことと、気温を摂氏10℃以上に保っておくこと。
日光の方はたぶん体内時間の関係だと思う。
気温の方はおそらくノミア草が温暖な気候で生息する植物だからだ。
まあ、どれも達成できないほどの条件ではない。
「とりあえず、人形の数は100体だね」
材料も、100体分を作れるように用意してある。
「ノロ! ノロ!」
「……ん? どうしたの? ノロくん」
ノロが本を指し示しているので、読んでみる。
ざまぁ人形はとても扱いの難しいものです。
用法・容量を守って正しく使用しましょう。
最初は一体から始めた方がいいと思いますよ。
なるほど。ノロは作りすぎだと言いたいわけだ。
「大丈夫。これはあくまで目安の話だよ」
私の復讐心は一体じゃ満たされない。やられたら、百倍にして返さないと。
しかし、ノロはこれ以外にもまだ言いたいことがあるらしい。
「ノロ! ノロ!」
「……ノロくん。君はなんてことを……」
さすがの私も驚いてしまった。
なんとノロくんは自分をざまぁ人形にしてほしいと言い出したのだ。
復讐という目的のために、身体を改造って。
まるで悲劇のヒーローのようではないか。
「そんなことをしなくていいよ。ノロくんは私の相棒なんだから」
「ノロ! ノロ!」
私の袖に掴みかかるノロくん。
どうやら、その決意は岩よりも硬いようだ。
「私のために、そこまで体を張ってくれるなんて……」
騎士も裸足で逃げ出すような忠誠心である。
「わかったよ。それじゃあ、ノロくん。君はこれから改造されて、ざまぁ人形第一号になるんだ」
「ノロ!」
そして、私は作業に取り掛かることにする。
窓には暗幕。完成するまで陽の光を浴びせてはダメだからだ。
代わりにランプで部屋を明るくする。
部屋をびっしりと埋める材料を見ながら、私は決意を固めた。
「どうせなら、とびきり出来のいい人形を作らないとね」
そうじゃないと、人形もかわいそうだ。
私ははりきって作業を進める。骨格を作り、草を編み、魔力を注ぐ。
それから、イリスの思い出の品。
追放されるときにもらった手紙。復讐の気持ちを忘れないという意味では、ぴったりだと思った。
だから、これをちぎって使うことにする。
*
「……はあ……はあ」
さすがに100体は無謀だったかもしれない。
目がかすむ。そろそろ本格的にやばくなってきた。
「……調子悪い」
ふらつく身体で立ち上がると、机の上のポーションを手に取る。
疲労回復の特製ポーションだ。
「ゴクゴク……」
一気に飲み干すと、その場に座り込む。
これでだいぶ楽にはなったが、回復しても疲労だけだ。
実は今もっとも辛いのは魔力の消耗。これが私から予想外に体力と精神力を奪っていくのだ。
呪術では基本的に魔力を使用することはない。そのため、私は魔力を消耗した場合を想像できていなかった。
それに、本来なら1万magiで充分なのに、私は1体に100万magi以上の魔力を注いでいる。
どうせ人形を作るなら質の高いものを作りたいので、私は無理をしてしまった。
人形を半分ほど作製したあたりから、もうふらふらである。
「……休みたい」
今すぐベッドに入って、しばらく眠りたいが、あと三体。
あと三体を作ってしまえば、それで終了なのだ。
ここはなんとしてでも、完成させておきたい。
「……あと三体」
呟きながら、手を動かす。
「……あと二体……うぷっ」
ちょっと吐きそうになる。でも、我慢。
「……あと一体」
細かい作業が続く。ぷるぷると手が震える。だが、もうひと踏ん張り。
そして、ついに。
「……できた」
私は100体目を完成させたのだ。
「……やった。やったよ。ノロくん」
私は改造済みのノロくんの元に行き、その人形を抱き寄せた。
「……ノロくん」
完成したことで、気が抜けたのだろう。
目の前がかすんでくると、私はその場で意識を失った。