パーティー
後ろを振り向くと、そこには顔も身長も雰囲気も全てが普通な青年が腰に手を当て笑いながら立っていた
――失格。
「で?普通こういう場合冒険者ギルドとかに行くんでしょ?場所はどこ?」
「おいおいおい!ガン無視かよ!」
青年は文句を言いながらミミに近付いてくる。
「何?あんたみたいな陰キャが私みたいな神に話しかけないでくれる?ピノ、さっさと案内して」
少し垂れた髪の毛を指でくるくる巻きながら、興味無さげに言うミミ。
そう、彼女は自分の事を最かわ神だと信じているのだ
「え、あ、うん…。じゃあ、またね」
ピノは促されるままに冒険者ギルドへと案内を始める
「お、おい・・・!」
青年はその光景を呆然と見ている事しか出来なかった。
✱✱✱
「ここが冒険者ギルドだよ。まずはここで手続きをして、正式な冒険者になろうか」
ミミ達が飛ばされた場所から歩いて5分の所にギルドはあった
幸いにも最初にいた場所は街の入口だったのだ
「ここの受付で登録すると冒険者としての最低限の装備やお金が貰える。そしてもしかしたら仲間も見つけられるかもしれないね」
「仲間ねぇ・・・」
ここでミミは俯きながら何かを考え始める
――せっかくなら衝撃的な出会いをして私という存在を皆に知らしめたいわね・・・
そしてはっとしたような顔をして、ニヤリと笑う
するとミミは突然ギルドの扉を思いっきりバァァンっと力強く蹴り開けた。
そして────
「私は飽田ミミ!さぁ、この超絶美少女の仲間になりたい美男美女はいる?!私と顔面偏差値80のパーティを作るわよ!」
・・・・・・
シーーン・・・
静寂。
しかし、ギルドにいる人々の目は確かにミミの方へと向いていた。
――やった!皆こっちを見てる!作戦成功ね!そして私の美貌に見とれている人間が多数存在!
確かに、人々はミミを見ていた。しかし、ミミの美貌に見とれていたのではななく視線は下半身だった
「ちょ、ちょっとミミ、足上げすぎ・・・。パンツ見えてるよ・・・」
「え?きゃあああああああああああ!」
「1人で何やってんの・・・」
急いで高く上げた足を下ろしスカートを押さえつけるミミ。
「あ、あんたら見たでしょ!この私のパ・・・パンツを!!」
「あぁ、見たぜ。穢れのない純白だったな。はは、いいもん見させてもらったぜ姉ちゃん。なんならお礼に俺がパーティーに入ってやろうか?」
見た目年齢53歳の薄汚れた防具を身にまとった、汚らしいおっさん冒険者がニヤニヤ笑いながら返答してくる
さらにこの男の発言により、他の冒険者達との間に爆笑が生まれる
――この男・・・!
「あんたみたいな奴が入ったら顔面偏差値マイナス9億よ、この童貞拗らせジジィ!もう仲間はいいわ!さっさと受付行くわよピノ!!」
「いたた・・・痛いよミミ・・・!」
ピノに八つ当たりをしているのか、ピノの耳を引っ張りながら受け付けらしき場所へと歩きだす
そこへ──
「ちょっと待ったーー!俺が入れば顔面偏差値爆上がり間違いないぜ、飽田ミミさんよぉ」
ギルドの入口を振り返ると、そこに立っていたのは今さっき街の入口であったなんの特徴もない青年だった
「ちょっとあんた!いくら私が可愛いからってストーカーしないでよね気持ち悪い!」
「まぁまぁいいから俺の話を聞けって、なぁ?」
諭すような言い方をしながら近付いてくる青年に対し、ミミは体を自分の両腕で抱きしめながら1歩下がる
「なんもしねぇよ。俺はただお前とパーティーが組みたいだけなんだよ。今お前は盛大にパーティーの勧誘をミスった所だろ?しかもだ、この街にいる男はほぼあいつらみたいなおっさんばっかだぞ?」
青年はさっきの童貞ジジィに指をやり、自分の頭に手をやる
「俺も同年代の奴とパーティーが組みたいんだよ。しかもだ、ここだけの話、俺らみたいな転生者の方が優秀な奴が多いらしいぞ。だから俺らが組めば最強パーティーの出来上がりって訳だ」
「そうなの、ピノ?」
この男はただ自分とパーティーが組みたいからでまかせを言っているのかもしれない。
そう思ったミミは案内人のピノに再度確認をする
「うん。その人の言う通りだよ。転生者はランダムに一つだけ、特殊能力を持ってこの世界に転生されるからね。この説明も本当はフォルトゥナがするはずだったんだけど・・・まぁ、いいか」
「そう。でも女の子ならあんたと同じ位の子がいるじゃない。あの子達は転生者じゃないの?」
「あれ、話ちゃんと聞いてないのか?大体この世界にいる女の子はこの世界の住人だぞ。ここは難易度EXの超激ムズ世界らしいから、女の子は大体生まれ変わりを選ぶらしい」
――え?ゲキムズ?ナニソレ?
「しかもこの世界で死ぬと魂が、ブラックホールみたいな真っ暗闇の中を一生彷徨うらしいぞ。言葉通り一生、生まれ変わる事も死ぬ事も出来ず」
「はぁあああぁぁああああああ!?!?」
――何それ何それ何それ!ヤバいじゃんヤバいじゃん!超やばいじゃん!?
全身からブワッと汗が吹き出す。
「ピノ!あんた何も説明し無さすぎでしょ!返して!私をさっきまでの場所に返して!」
ピノの首をぐわんぐわん揺らしながら涙目で訴えかけるミミ。
「む、無理だよ。1度この世界に来たらもう戻れないよ。大体、君がフォルトゥナに生意気な口を聞くから悪いんだろ・・・?」
「あああああぁあああああああああ!終わった・・・一生暗闇の中?え?ありえないんだけど、は?何コレ、笑えない」
ミミは顔を真っ青にしながら、膝を抱き抱えるようにしゃがみこむ。
一生暗闇の中。それはまさに生き地獄だ。
「だから俺とパーティーを組もうぜ!少しでもこの世界で生き残れるように!」
「無理。出たら死ぬもん。なら私この街から一生出ない。そんでここで汚いおっさんと結婚して子供を産んで、幸せに死ぬんだ・・・ははは」
完全に戦意喪失モード。
それを見かねたピノが、はぁっと一つため息をつき、ミミにある言葉をかける
「ねぇ、ミミ、一ついい?ほら、そこに女の子達が座ってるでしょ?その子達がね───」
その言葉はミミを奮い立たせるには十分な言葉だった。
「『白のパンツを履くのは処女だけだよね。あの子可愛いくせに絶対処女よ。処女に魔王が倒せるわけないわ』って言ってたよ」
ピクピク。
ミミの耳が動く。
そして──
「なんだって・・・?私はあんたらみたいなビッチと違って大切にしてんのよ!!どこにでも居るのよねぇ、顔は対して可愛くないけどヤリまくってる、相手はただの性処理相手としか見てないのに『私ってモテるぅ』みたいに勘違いするバカ女が!いい?処女が正義って事をあんたらに分からせてあげる!」
ビシッという音を立てて、 机を囲んで椅子に座っていた女の子達に指を向ける。
「おい、変なスイッチ押しただろ・・・」
「ミミの性格上、これが一番効くと思って。でも、あの子達には可哀想なことをしちゃったな・・・」
「え?あの子、私達に言ってる・・・?」
完全なとばっちりを食らった女の子達に申し訳ない気持ちを持ちながらも、ピノは完全にミミのやる気スイッチを押してみせた
「この際有利ならなんでもいいわ!しょうがないからパーティー組んであげるわよ。あんた、名前は?」
「おぉ・・・!俺の名前は前北トモルだ!しゃっあ!これからよろしくなミミ!一緒に魔王を倒そうぜ!」