プロローグ
つけまつ毛のせいで重たくなった瞼を上げるとそこはとても見た事のある、しかし一回も来たことが無い光景が広がっていた。
「なに、ここ・・・。めちゃめちゃ異世界転生アニメで見た事ある景色なんですけど」
「ようこそ死後の世界へ、飽田ミミさん。私は死人の案内人、女神フォルトゥナ。あなたは本日午後12時56分に亡くなりました。」
目の前には端麗な顔立ち、すらーっとしたモデルのような体躯、そして無駄に何故かキラキラしている女が杖を持って立っていた。
「まぁ、私の方が可愛いけど」
ボソリと、零す。
飽田ミミは超絶自信過剰だ。この世に自分より可愛い女は居ないと信じ込んでいる。故に事もあろうに女神より自分の方が可愛いと信じ込んでいる
「あ、あの・・・話を進めてもいいですか?」
「私、自分が認めた美女としか会話はしない主義だけどいいわ。特別に許可してあげる、さっさと用件を言って?」
女神フォルトゥナはイラッとした感情を心に押し込め、女神らしく華々しく語り出す
「あなたは死にました。そこであなたには2つの選択肢があります。まず1つ目、このまま死んだ事にして新たにどこかの国で赤ん坊として生まれ変わる。そして2つ目。魔王軍に支配されている世界を救う!このどちらかの選択肢を選んでいただきます」
「じゃあ2つ目の世界を救うの方で。」
ミミは爪をいじりながらさも当然のように言葉を吐き出した。
その発言にフォルトゥナは唖然とする
「そ、即決ですか。てっきり私は『私が死んだとか嘘つくなしー!』とか、『はぁぁ?なんでこの超絶美少女の私がそんな事しなくちゃいけないわけぇ?』とか言うと思ってました・・・」
フォルトゥナが驚くのも当然。大体ここに来る人間は、まだ自分が死んだ事に気付いていない事がほとんどだ
「ちょっと!女神ごときが私の真似しないでよね!」
「女神ごとき・・・!?ゴホンっ、ま、まぁいいです。しかし本当に2つ目の選択肢で良いのですか?」
しょせん相手は格下の人間。そう心の中でミミを見下し、フォルトゥナは最終確認をする
「二度も言わせないで!この私が死ぬなんて世界の損失!経済の破綻よ!それにまだ17歳!今が一番ちやほやされる時期なんだからもっとちやほやされたい!!」
ミミの頭には魔王討伐や世界を救う事などではなく、あるのはただ『ちやほやされたい』という欲求であった。
そして、この瞬間フォルトゥナは思った
───あぁ、こいつバカなんだと
「ま、まぁ動機はなんでもいいです、世界を救って頂けるなら!そして言い忘れていましたが、見事世界を救う事が出来た暁にはなんでも1つだけ願いを叶える事ができます」
「はぁ?!」
フォルトゥナが目標達成の報酬を言った瞬間、ミミは勢いよくフォルトゥナに掴みかかる
「何よそれ!そういう事は最初に言いなさいよ!顔も悪いくせに頭も悪いの?!救いようのないクズね!」
「こんの、小娘・・・!人が下手に出ていりゃ調子に乗りやがってぇぇ!」
「なっ?!」
さすがの女神でも堪忍袋の緒が切れたのか、フォルトゥナは天に向けて杖をかざし、そして続けざまに呪文の様な言葉を口にする
「開きなさい異なる世界の扉よ!この者を新たな住民と認め世界を救う勇者になる事を、この運命の女神、フォルトゥナが許可します!」
「ちょ、なんで急に中学2年生みたいな事言ってるの?!恥ずかしいからやめ───き、きゃあああああああああああああああああ!」
途端。頭上から光が降り注ぎ、その光に吸い込まれるかのようにミミの体が空中へと浮く。
「あなたとこれ以上会話をしたくないので、説明不足ですが異世界へと転生します!詳しい事は、ピノに聞きなさい!さぁ、貴方に神の御加護があらんことを!」
「きゃあぁぁあぁあ!あんた、パンツ見たら承知しないからねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
光の吸引力に耐えられなくなったミミはバランスを崩し、両足を広げ、パンツを見せびらかしながら光へと消え去った。
「いいんですかフォルトゥナ様。何にも説明せずに送り出してしまって」
「まぁ、大丈夫でしょう、貴方があの世界の担当ですし。お願いしますね、ピノ」
「任せて下さい。では、行ってきます」
こうして、ワガママで馬鹿で自信過剰で美少女なミミの物語が始まった────