Andante
列になってステージに上がる。逆光でお客さんの顔はほぼ見えない。
座る、譜面を開く。いつも通りのぐちゃぐちゃに書き込まれた楽譜だ。他人には読めない位に汚いのに、自分には読める。むしろ安心する。
前を向くと先生が指揮台に立って口パクで配置の調整の指示を出す。
また、ひとつ、息を吐く。
先生が棒を上げる。皆が構える。
棒に合わせて息を吸う。
棒が物理的には存在しない打点を確かにつくと、低音から音が駆け上ってくる。そこに自分の音が乗る。背筋がゾクゾクするこれこそ合奏の、本番の醍醐味だ。4回。同じ音型でも表情が違う。風が自分にあたり過ぎていく。ゾクゾク感がまさに全身で風を受けてるようだ。
クラリネットとアルトサックスのメロディーがアーフタクトで入る。視界に入るクラリネットのトップ奏者が合図を出しているのがわかる。その間指揮棒は止まっている。メロディーにあわせて、テンポが揺れるのがpopsとオリジナルの違いのひとつといえるだろう。
そのメロディーにホルンの、自分たちの音が乗り、ハーモニーとして流れる。メロディーを担う楽器が次々入れ替わっていくのが、風が同じ空気だけで構成されてないことを感じさせる。
同じ旋律でも、同じ音色のものは二度とでてこない。
全く同じ風は二度と吹かない。
ミュートをはめたトランペットが風を切る。冷たく、硬い、よく抜ける音だ。
また、柔らかくも雄大なテーマに戻る。流れながら、大きくなり、小さくなり、又、色を変えながら流れる。
大きな抵抗を受けながらかぜは大きくなる。大きく、大きく、みんなの音にも熱が、圧がかかる。一番大きくなったところで、先にでたトランペットのテーマだ。
大きくなった抵抗を切り、解放する。一気に風が流れる。速く、鋭く。
金管セクションのtuttiは大きなエネルギーを生む。
風は留まらない。流れる。ひとつの収束をする。