図書室へ
放課後、咲は再び優希へと話しかけて二人で教室をあとにする。
「図書室ってどこ?」
「えっ、一回も行ってないの?」
「うん、未だに校内の部屋覚えてない……広くない?ここの学校」
「それは確かに……」
高校のくせにやたらと広いこの学校。
行ったことのない教室が多すぎて未だに場所は把握することが出来ない。
ゲームでも全体像は出てきたものの覚えることは無かった。
特別版に付いてきたポスターにマップが合っただけでゲーム内では調べることは出来なかったし、そういう特典は綺麗に保存しておきたいタイプのこちらからしたら見ずに袋に入れてグッズをしまってるスペースにまとめてしまった。
優希が必死に前世での記憶を思い出していると、横にいる咲は面白くないのか腰をつんつんとつつく。
「わっひょい!?な、なに!?」
「わ、わっひょいって………」
プルプルと震えながら笑う咲に優希はなんだか恥ずかしくなってきた。
なんだよーと咲の体を揺らすと笑いながらだが話を続ける。
「私達の教室からはちょっと距離あるかもしれないけど、毎週行かなきゃいけないから覚えておいた方がいいよ?って」
「あ、あぁ、まぁそうだよねー……」
「私たちが嫌でも覚えなきゃいけないけどね……」
「それもそうだ。そのうち覚えるでしょ」
適当な会話をしながら歩く。
改めて構内を歩いていて思うのは設備の良さだ。
色々な教室の前を通る度にその設備の良さを実感し、話は段々学校の話になっていく。
「この学校って私立だけどさ、なんか学費はそんなでもないじゃん」
「そうらしいね」
「だからって設備が悪いわけじゃないじゃん」
「ね、図書室も一回行ったけど結構広かったよ」
「まじ?やっぱこの学校すごくね?」
「きゅ、急に語彙が貧弱になったね」
「いや、それ以外思いつかなかったから」
「たしかにすごいよね……なんでなんだろ」
トイレには手を乾かせるハンドドライヤーが置いてあったり、公立高校でよくあるエアコンを勝手につけたり温度を低くしたりしてはいけないという謎のルールがない。
結構自由だ。
改めて謎な学校である。
頭良い人は東大なんかは軽々と受けれるレベルであるのに、バカは大学に行けるのかわからないほどのやつもいる。
勿論自分はバカ寄りなので助かっているといえば助かっているのだが。
「ていうか学校の入試でさ、校長先生との面談あったじゃん」
「あーあったけど、あれいい思い出ないんだよね……」
「そうなの?なんで?」
「だって校長先生が全然喋んないんだもん、ちょっと不気味じゃない?」
「あー……」
この高校は校長先生が大の変わり者である。
入学式で全く喋らなかったが、入学前の面談ではあの人に見初められると成績が悪くても入れるらしい。
その面談でも喋ったのは全受験生を通して数回だという。
「俺ん時も一言も喋んなかったなー」
「どうやって乗りきったの?」
「普通になんか色々喋ってたら時間が終わった」
「よく喋れたね、私なんてしどろもどろになってたら時間終わっちゃったから絶対だめと思った」
「どんな判断基準なのか分かんないよなー」
「面談といえばなんだけど、あの噂って知ってる?」
「どんなの?」
「無口な校長先生が喋りかけた人がいる……っていうやつ」
「知ってるよ」
「誰なんだろうね、あのウワサ」
「あれ圭介だぞ」
「えっ!?」
「今みたいな話になった時に言ってた」
「なんて言ったって?」
「一言だけ『よろしく』って言われたらしい」
受験の帰り道で不安になったため圭介へと面談の話を振った時に、圭介は返事があったと言っていたため優希は確実に落ちたことを確信した。
結局学校に入れているので杞憂だったものの、未だになぜ圭介に声をかけたのかは校長先生自身しか知らない。
「へぇー……嘘だと思ってた」
「すごいよな、俺もビビったもん」
「声とかカッコよさそうだよね」
「わかる、見た目が結構厳ついもんね」
「あの身長と筋肉で喋らないから、余計に怖く感じるんだよね」
「それなー……おっ、ここ?」
「そう」
会話していたらいつの間にか到着していた。
たしかに遠いが毎週来るとなるとすぐに覚えられるだろう。
彼女が入っていった後に続いて図書室へと入った。