帰宅と妹
家へと帰り荷物を置きに優希が部屋へと入ると妹の有栖がベッドへと座って部屋にある漫画を読んでいる。
いつもの事なので大した驚きもなく部屋へと入り適当にカバンを置く。
「おかえりー」
「おう、ただいま」
「漫画借りちゃってるねー」
「うぃー」
そういいながら有栖はベッドに座っていた体制から寝っ転がる。
自分の部屋もあるんだからそっちで寛げば良いのに…と優希はいつも思うが直ぐに気にならなくなるのは慣れてしまったからなのか気にする頭が無いだけなのか微妙だ。
多少空きの出来たベッドに座って携帯で中学生からの友達から来たメールを適当に返す。
「今日、お母さんもお父さんもおうちにいないから二人でご飯食べてって」
「親父とアリサさんが…また二人でご飯でも行ってるのかな?仲良いね」
「いい事だよ……って!アリサさんじゃなくてお母さんでいいっていっつも言われてるじゃん」
「最初にアリサさんって呼んだのが抜けなくて…」
「お母さん、地味に気にしてるんだよ?」
「それは申し訳ないけど、もうなぁ…」
有栖と優希は兄妹だが二人の血が繋がっている訳ではなく、いわゆる義兄妹というやつである。
一応原作からの設定であり、ゲーム内の優希も転生してきた優希も有栖のことを本当の妹のように感じて可愛がっていることに変わりはない。
義兄妹は多くのギャルゲーでは主人公につくものなんじゃないか、と思われるかもしれないが主人公である圭介は母親が主人公を産んでからすぐに死んでしまって父親も仕事で忙しく海外を飛び回っているのですぐにおばあちゃん家で育てられて現在は一人暮らしをしている…という一人暮らしになる為のありがち設定があるので父親も母親が家にいないのに義理の妹がいるのはおかしいということでボツになってしまい、それならば優希に義理の妹いればいいんじゃないかと話が纏まったらしい。
ゲーム内では有栖の情報を聞くと「一応俺の妹だぞ…?いや、別に親友のお前の頼みだから教えるけどよぉ…」という他のヒロインの情報を聞く時には聞けない特別ボイスがでてきたりと細かいところで手が込んでたりもする。
「それでご飯どうする?」
「あー……外で食べるか買い物して家で作るかだけど、どっちがいい?」
「有栖は優希と一緒に外に食べに行きたい!」
「じゃあもうちょっとしてから行こうか」
「うん!」
「何食べるかはいつも通り歩きながら決める感じでいいでしょ?」
「いいよー」
有栖は日本人とアメリカ人のハーフだ。
優希の父親は一度離婚しておりその時の子が優希。
再婚して相手の連れ子だったのが有栖で、最初は優希にも中々心を開く事がなくとある出来事がきっかけで心を開いてくれるようになった。
出会ったのは小学校の頃だがその頃は多少日本語もおぼつかなく、稀に英語が出てしまったり分からない言葉があったりと母親にべったりとくっついて離れなかったが現在は日本語も大体はこなせる…それどころか勉強をしたお陰か普通の人より出来ているくらいかもしれない。
有栖の金髪は母親のアリサさんから受け継いだ天然の色であるが優希は純日本人なので染めた金髪である。
持ち前の身長の高さや二枚目な雰囲気も相まってなんとかおかしくない見てくれにはなっているが、はじめ有栖が優希にお揃いの金髪にしてとお願いした時には流石に躊躇していた。
…そのすぐ後に言った「優希が金髪にしてくれないなら、有栖が黒髪にすればお揃いだね!」という一言で優希はすぐさま髪の毛を染めることを決めたが。
優希は外食の前に洗濯物を取り込んだりや風呂掃除等の家事をぱぱっと済ませてしまおうとベッドから立ちあがる。
「あれっどこいくの?」
「いや、洗濯物とかそのまんまだろうし取り込むくらいはしとかないと」
「それ有栖がやっておいた!」
「本当?」
「うん!優希が帰ってくる前にやっといた方がいいかなーってことは全部!」
「ありがとうなー!!」
そう言ってベットの上の有栖をグリグリっと撫で回す。
デヘヘーというあまり乙女には似つかわしくない声が出てるような気もするが気にせず撫で回す。
これが優希と有栖の二人、兄妹間での約束事項のようなものになっており優希がまだ有栖と馴染めていなかった頃褒める時に撫でたのが始まりでそのままズルズルと褒める時には今もその慣習が続いている。
「それじゃあ…どうしようかな」
「いいじゃん、もうちょっとゆっくりすれば」
「まぁ、そうだな」
「入学式で全然動いたり出来なかっただろうし、疲れてるでしょ?」
「まあなー……」
優希がそう力なく返事すると有栖は起き上がり再びベッドへと腰掛けて膝をポンポンと叩く。
「……何アピール?」
「えっ?膝枕」
「いやいや兄妹で膝枕は無いだろ…」
「まあまあ」
そこから二人の膝枕をするか否かの攻防が始まるが、有栖がちろっと嘘泣きをした瞬間に優希は多少頭を抱えながらも了承した。
そこから外に出るまで二人仲睦まじく会話が絶えなかった。
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ご飯も済ませお風呂も入った。
リビングで二人でテレビを見ながらくつろいでいる。
最近はバラエティ番組も中々面白いのがやってない…適当なクイズ番組を流しているが優希も有栖も大して見ている訳では無い。
二人でぐだーっとソファの上で寛いでいる。
「ゆーき」
「なに」
「ねむい」
「いや寝ればいいだろ」
呆れたようにそう言う。
視線は携帯に向いていて有栖の方を見ない事に少しムッとしているようだ。
「抱っこ」
「えぇ…?」
「いいじゃん」
「春休みに甘やかしすぎたかー?ほれほれ」
そういいながら優希は有栖のほっぺたを伸ばしながらぐにぐにとこねくり回す。
あうあう言いながらも有栖もまた嬉しそうだ。
お互いシスコンでブラコンなのでこんなスキンシップは昼にもあった頭を撫でるのを始めとして多く、両親も両親で再婚ということもあって仲睦まじいのはいい事だと放っておいてる。
「はやくー」
「はいはい」
「うへへー」
仕方ないので抱っこして部屋まで運ぶ。
こんな甘えん坊な有栖だが家の外では当然だがここまでではなくどちらかと言ったら小学生の頃から控えめな性格でオドオドしていることの方が多いくらいだ。
優希も自分にここまで心を開いてくれているのは嬉しいがこれで圭介の事が好きになるのか本当に分からないのが多少不安ではあるが、この甘えん坊な感じが圭介にも出るだろうと何処か確信を持ちながらそれまでは存分に甘やかしていこうと心に決めている。
部屋まで連れてこれたのでベッドへと優しく下ろす。
「おやすみ」
「へへへー、おやすみなさーい」
嬉しそうな有栖の顔を見て優希も心温まり、自分も自分の部屋へと戻った。