黒色火薬ー2
「な、なんだ‼︎ 何が起こった⁉︎」
隊列の後方にいたラードは何が起きてるのか理解が出来なかった。
突然爆音が鳴り響き、辺りを土煙が覆った。
やがて、土煙が晴れると隊列の前面がほぼ壊滅していたのだった。兵士達はそれに混乱し、逃走を始める。
彼らが歴戦の戦士や正規軍ならこんなザマにはならなかっただろう。
しかし彼ら辺りの村々から徴収された農民達で所詮は一般人に毛が生えた程度だ。魔法による攻撃を経験した事も無ければ戦争にも行ったことが無い、更にはまともに剣すら握った事のない者が殆どだ、恐怖に対する耐性などまるでない。
パニック状態の彼等は上官であるラードの事など気にかけず、脱兎の如く逃げていく。
「お前達、待て‼︎ どこへいく、軍旗違反だぞ⁉︎」
「止めるな」
ラードの側近は逃げようとする兵士達を止めようとするが、それを辞めさせる。
「しかし……」
「構うな、こいつらは空きあれば逃げようと考えていた連中だ。無理もない、無理やり連れてこられてたんだからな、それに呼び止めたところでまともな戦力にならんだろう」
「ではどうするのですか?」
「散開している騎兵を集めろ、波状攻撃を仕掛ける」
この謎の爆発を考えるにおそらく敵側に、どういう事か極大級の魔導士が味方付いているようだ。とは言えあのような大魔法連発はできないはずである。ラードは、ならば騎兵を三部隊に分けて攻撃する以外はないだろうと考えた、それにある程度実戦の経験がある彼等ならば歩兵の様な様にはならない筈である。
ラードが考えた作戦はこうである。
まず三部隊に再編成した騎兵隊で、第一波を突撃される、彼らには死んでもらう必要がある。
次に第二波だ、彼らで壁に突破口となる穴を開ける。そしてそのまま村人達に対して殲滅戦を展開する。
そして第三波で敵の魔導士の位置を的確に把握し、確実に殺す。
この戦法は先の魔族との戦争で編み出され、優秀な魔導部隊を多く保有する魔族軍に対して大打撃を与えた。
高威力であればあるほど魔法は連発出来ないという特性から、何重もの波状攻撃を仕掛け撃滅すると言う戦法は、今まで魔導士が無敵の存在だった戦場そのものを変えてしまったのだ。勿論今日においても魔導士は脅威的な存在だ、しかしこの戦法により歩兵部隊でも対抗しうる可能性が生まれたのだ。
(ここではひけん、 家族のためにもひけんのだ……罪なき村人達よ、許してくれ……)
ラードは決意を固める。騎士道としては非道の行為だ、それを重んじたきた彼には余りにも苦しい事だ、しかし家族のためにはそのプライドすらも捨てる、それが彼の本心だった。