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黒色火薬





       一週間後ーーー。




村の周りを囲む様にある木製の壁のその外側ー。




そこには二台の馬車と二百名の兵士と五十名の騎兵、のべ二百五十の軍勢の姿があった。

 その先頭には小太りの男ーーーバレヌギウスの姿があった。



「それで、一週間がたったぞ? お前の答えを聞こう」



バレヌギウスは目の前に相対するエルミールに問いかける。



「私は一週間考えた……」



エルミールはそう言い放ち、地面に膝をつき手を上げる。



「ほら、好きにすれば良い……腹は決まってる」


「ほう、中々に賢い判断だな、連れてけ」



バレヌギウスの背後にいた2人の兵士がエルミールの腕を掴み、馬車の中へと連れて行く。



「せいぜい大人しくしているんだな」



兵士達は手慣れた手付きで手錠と足枷をエルミールにはめる。

 兵士達はエルミールを乱雑に投げ捨てると扉の鍵を閉める。



「それでは行くぞ、もちろん兵士達は残しておけ」

「はっ」



バレヌギウスが馬車に乗り込むと三台の馬車は動き出した。

馬車の中にある豪勢なソファに座るといやらしい笑みを浮かべる。



「馬鹿な奴め……この俺を散々コケにして娘一つの身ではいそうですか。で引くわけねーだろに、皆殺しだ‼︎」



バレヌギウスの品のない笑い声が馬車の中に響き渡る。








馬車が去ってから暫くして、兵士達が去る様子は無い。

その光景を壁の隙間から見ていた村人達に不穏な空気が広がる。



「兵士達は動く気配は無さそうだな」


「よく見るとあいつら戦闘体系を取ってないか? 槍とか剣構えてるし、今にでも攻めてきそうな勢いだが……」


「あの自称魔王様曰く、あの領主の性格上私一つの身でただでは済ませないだろうって言ってたけどまさか本当になるとはな」


「にしてもこんなんで平気なのか?」



男は自分達の手に握られている、麻袋に目を向ける。

麻袋は導火線と中に黒い粉、石が詰められている、正直こんなのが大爆発を起こすとは思えない。



「まぁ信じるしかねぇよ、今の俺たちゃ、あのクソ魔族のせいでこのザマだよ……」

「おい、なんかあいつらしてねぇか?」



男は壁の隙間から向こうを覗くと兵士達が隊列をを整えているのがわかった。







「隊長、これからの作戦はどう致しますか?」


「こんなボロ壁、攻城鎚を使う必要もない、メイスか剣でこじ開けろ、後は全員殺せとの命令だ」


「了解しました、それでは攻撃の合図を兵士達に伝来してまいります」


「嗚呼、頼んだ……………こんなのはあんまし好きじゃねーんだけどなぁ」




バレヌギウス直轄の私兵部隊の隊長である、ラード・ディルダは深い溜息を吐く。




己の信じる騎士道とはなんなのか、何故自分は人間の屑のような男の言いなりになってるのか考えるほどにバカバカしくなってくる。





正直、罪のない民を殺すのは本望では無い、これが人間の村で行われていたのなら大問題になっていたであろう。

 しかし相手は獣人だ、この国において獣人は所詮家畜程度の価値すらないと法の下に定められており、何人虐殺しようがお咎め無しなのだ。



家族を人質に取られているとはいえ、こんな事を平気でやるような外道に従っている自分が恥ずかしくて仕方がない。




「全軍進め‼︎ 全員生かしておくな、皆殺しだ‼︎」




その怒号と共に部隊は前進を始める。

先頭に壁を粉砕するためにメイスを装備した者、その後方に突破後村人達を蹂躙するための兵士達。



更には村人達が逃げないよう村のまわりを囲むように騎兵部隊が散開していく。






そして、先頭の兵士達が壁とあと数メートルと言う距離にまで接近した時だった。




「んあ? なんだこれ……」



壁から何かが詰まった麻袋が大量に投げ込まれてきたのだった。




麻袋には紐のようなものがついており、火が紐の長さを縮めながらもジリジリと燃えていた。





その火の灯火が麻袋に繋がるな根本まで燃えゆく。





        その瞬間だった。




        ドォォォォン‼︎




凄まじい爆発音が鳴り響き、土煙を巻き上げる。

 その煙は後方にいた兵士達でさえ視界が遮られる程のものだ。



「一体に何が………ん?……ひいぃぃ⁉︎」



やがて、煙が晴れてくると兵士達は当たりの惨状を目の当たりにする。




陣形の先頭にいた兵士達は火薬の爆発や飛び立った石片により、肉塊になり果てていたのだった。




そうでない者も飛び立った石片が鎧ごと貫通し風穴を開けている者、四肢が吹き飛んでいる者などまともの状態の兵士達はほぼいなかった。





       10列ある隊列の前2列は壊滅。


       前4列までは半壊。



兵士達は余りにも出来事に咄嗟に今何が起きているのか理解が追いつかない。兵士達に動揺が走る。




「なんだからはぁはぁ⁈ お、俺の腕がぁぁぁ‼︎」

「あ、足がねえぇ‼︎ た、助けてくれ‼︎」

「ま、魔導士がいるなど聞いてないぞ‼︎」

「下がれ‼︎ 退避、退避だ‼︎ あ、あの攻撃がまた来たらどうする⁉︎ さ、下がれぇぇ⁉︎」





かろうじで生き残った兵士の叫び声。それが相まり兵士達に伝播するように恐怖とパニックが広がっていく。




もはや、ここまで来ると隊列などとっくに保ってなどおらず、敗走じみた後退が始まる。



「ま、待ってくれ‼︎ 俺をおいてかないでくれれぇ‼︎」



両足を失った兵士が泣きじゃくりながら五体満足で逃げようとする兵士の足を掴む。



「お願いだ‼︎ 俺を連れてってくれ‼︎ 頼む、なんでも言う事を聞く‼︎」


「ひえぇ、煩い‼︎ その手離せ‼︎ 早く逃げなければ俺までもが……!」


「い、嫌だ‼︎」



兵士は掴まれた腕を振り晴らそうとするが、なかなか振り解けない。

 半狂乱に陥った兵士は剣で男の首を斬りつけ、逃走を図る。




そこに生み出された光景はもはや地獄ともいえるものだった。




         火薬ーーー




9世紀、中国で製法が発見された不死の薬の副産物。死の粉にして三大発明の一柱が初めて異世界で猛威をふるった瞬間だった。

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