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魔導書



エルミールは教会に帰宅し、ネイアと共に聖書の模写を行っていた。

 ネイアの話によれば分厚い聖書の模写を合計3冊行わなければいけないらしく、期間は僅か4ヶ月で書かなければいけない物が一冊しか書けておらず、後2ヶ月で残された猶予らしい。



エルミールは丁寧に一文字ずつ、白紙の分厚い聖書に模写していく、古代魔族語圏の文字の訛りが入っているが許容範囲だろう。



「そういえば、ヘルシアは魔族なのに聖書を写すのは大丈夫なんですか?」



ネイアは聖書を模写しつつ、エルミールに話しかけた。



「別に魔族だからと言い、神を毛嫌いしているわけでもないさ、信者だって魔族にも少なからずいる」

「それも、そうですよね……無神経な事を言ってしまいすいません……」

「別に気にする事でもなかろう……魔族と人間の間の溝は深すぎる……お互いの事を理解する余裕すら無いのも仕方があるまい」



魔族と人間は千年以上争い続ける犬猿の中である、これほど仲が悪い連中は他にはそうそう無いのであろう。



「にしても大分暗くなってきましたね……そろそろ文字を書くのは難しいですね……」

「そうか、ネイアは人間だったな、私は魔族故に夜目が効く……人は暗いところが見えないのだったな」

「そうですね、私達は暗闇を見通せません、ほんとっ、ヘルシアが羨ましいですよ」



羨ましいか、とエルミールは微笑を浮かべる。

エルミールは辺りを見渡すと、椅子の下に無造作さに分厚い本が置かれているのが分かる、エルミールは他の書物は棚に入れられているのにあの一冊だけが無造作に置かれているのを妙に思う。



「ネイア、一体あの本は……?」

「ああ、あの本ですか」



ネイアはそう言うとその場から立ち上がり、本を拾いエルミールに渡す。

 


「この本は私がこの村に来る前からこの教会に置いてあったものです、特に題名も何も書いてありませんし中身も白紙ですよ」

「そう……なのか」



エルミールは分厚く古びた本を開く、本は白紙で何一つとして文字が書かれていない。



「うっ……‼︎」



その瞬間、凄まじい頭痛がエルミールを襲った。



「ヘルシア⁉︎ だ、大丈夫ですか⁈」



ネイアは心配したのか、エルミールに駆け寄ってくる、しかし頭を割るような激痛は最初の数秒だけで直ぐに痛みは収まって行く。



「大丈夫……もう治った」



エルミールは再び、本に目を向けるとそこには先ほどまで書かれていなかった文字が浮かび上がってくる。



「なんだ……?」



エルミールは浮かび上がった文字を見る。

そこには複雑な図形やそれを詳しく説明する文が白紙を埋め尽くすように書かれていた。



エルミールは本のページをパラパラとめくるがどのページも同じように文字と図形が埋め尽くす様に書かれていた。



エルミールはそれを詳しく読み取ると、爆発性の粉を精製する方法、銃と呼ばれる火薬兵器の製作方法、そしてかつてエルミールが新堂真と言う人間だった頃の世界で飛行機と呼ばれていた飛行機械の仕組みやら設計やら原理が全て書き写されていた。



エルミールは即座にある事に気付いた。

この書物に記されているコレらは前世の自分がーーー新堂真が生きていた()()の技術全てが記録されているのでは無いかと。



「一体どうしたんです? そんな驚いた顔して」

「ネイア、この本には何か書いてあるように見えるか?」



エルミールはネイアに本を見させる。


「いや、何も……私にはいつも通り何も書いて無いように見えますけど」

「……そうか、変な事を言って悪かった、気にしないでくれ」



(ネイアには、この本の内容が見えていない……何故? これも目視するには特別な何か必要なのだろうか……或いは……)



エルミールは暫く考察を続けるが、今は考えても仕方が無いと考えるのを辞める。




しかしこの本をどうするかである。

エルミールはこの本をパラパラとざっと読み進めて見たが、ーーーギリシャの火、ローマ式バリスタ、初歩的な電球から高度なものまで、そして核兵器の製造方法すら、ありとあらゆる地球の叡智が記されていた。





流石にいきなり核や機関銃を作るのは不可能であろう、しかし火薬や複合弓はその気になれば作れるだろうし、マスケット銃や初歩的な電球くらいならドワーフの手でも借りれば作れるだろう。

それにこんなに事細かに作り方を書いてるのである、段階を踏んで時間をかければ核や機関銃ですら製造も不可能では無い。




要するに地球で人類が三千年以上かけて積み上げてきた叡智の結晶がこの分厚い本という事である。



エルミールは一体この古びた本にどれだけの軍事・経済・文化的利用価値があるのだろうかと考える。

もしもエルミールが今も魔王であるのならばこれほど欲しいものは他にないくらいだ。



「ネイア、この本を貰ってもよいか?」

「別に構いませんけど、何に使うんですか? 特に使い道は無いような気がしますけど」

「私の目には見えるんだよ……この本の内容が、私が魔族なのだからか、それとももっと別の何かがあるのかは知らないが、ネイアにはどの道見えないんだ、貰っても構わないよな?」

「はぁ……」



ネイアは何を言っているのかさっぱり、と言う顔だったがそれも仕方が無いだろう。



「とりあえず説明はおいおいしよう……」



エルミールはそう言い、本を大事に抱え上げる。

 今のところの使い道は特には無いが、これほど興味惹かれるものは無い、見てるだけでもエルミール的にはお腹がいっぱいになるくらいである。




「作業は終わりにしましょう……それよりも村の広場に行きましょう、そろそろ祭りの準備も出来てる頃でしょうし」

「そうだな……では行こう」



そうして2人は再び外に向かって行った。

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