09:絶対に笑ってはいけない『神託の儀』
「知ってるかもしれないが、『神託の儀』はその者の魔法素養を見極めるのが、目的の一つ。そして、将来の道を見出し、助言とするのがもう一つ。
全ては神官の元、神託によって行われる。本年の受儀者は四名。
しかも四名とも同じ日に産まれた子たちだ」
「「「えっ!?」」」
「……なんだお前ら知らなかったのか?」
デュークだけ知ってたらしい。
後ろの両親をチラ見すると「えっ、知らなかったの?」って顔してる。
なんでだよ!こんなレアな事、四人中、三人知らないとか、この村の伝達レベルを疑うわ!
「ゴホン。神託は王都よりお越しいただいた司祭長ドットラス殿にお願いする。
そして、これから行う『神託の儀』の結果は、他言無用とさせて頂く。本来、このような事はしないが、これはシュタインズ殿とチッタ殿の要請でもある。
皆の者、よろしいか?……うむ。司祭長殿もよろしいか?」
司祭長さんがしぶしぶ頷いている。モンスターじいさんとおばばが睨んでるからな。
どうやら二人は権力者っぽい。村長以上のラスボスかもしれない。
パーリーピーポー村のラスボス……うん、怖くないな。
チッタおばばが絡んでて『他言無用』ってのは多分オレの六属性の事か。なんか圧力かける的な事言ってたし。
多分、後ろの父母たちや村民たちも知らない人がいるんだろう。というより、知ってる人のが少ないはず。
騒ぎになるのか?はぁ……気が重い……。
「うむ。では早速始めよう。司祭長殿よろしくお願いいたします」
「コホン、よし、ではこれより『神託の儀』を始めます。まずは四名の子供たちが五歳まで健やかに育てられた事に祝福を――」
なんか司祭長さんがかわいそうになってきた。
ちゃんとやんなきゃって気合入れなおしてんじゃねーか。
「では、まずはデューク・ドラグライト。前へ」
「はい」
「この羊皮紙に手を乗せなさい」
羊皮紙に乗せたデュークの手を包むように、司祭長さんの両手をかざす。
そして『神託』の詠唱。……三十秒くらいかかるのか?長い詠唱魔法だな!
司祭長さんの両手から出た光は、デュークの手に移り、羊皮紙を輝かせる。
どうやら文字が出てくるらしい。これが『神託』か。
「神託が出ました。
『火:★★★☆☆ 水:★★☆☆☆ 風:☆☆☆☆☆
土:☆☆☆☆☆ 光:★★★★★ 闇:☆☆☆☆☆』」
「「「おおおっ!!!」」」
後ろから歓声が上がる。「三属性!?」「しかも光レベル五!?」「神童だ!」などなど。
神童とか言われてデュークも若干、苦笑いである。
しかし三属性でも珍しいのか……さらに気が重くなってきた。
「神託の内容を続ける。
『救う者、守る者。それは多く、境を越える。
道は幾百、幾千ともなり、心と体を要するだろう。
ラッキーカラーは黄色』」
「「「「ブーッ!」」」」
子供四人とも吹き出した。ラッキーカラーいらねえよ!
しかし、周りの大人たちは全く笑わない。神託の内容に頷いている。慣れか!
神官の息子で、光レベル五で、救う者となれば、そりゃ『神童』っぽく見えるか。
デュークがげんなりした様子で戻ってきた。
元気だせよ、イエロー。カレーでも食え。
「次、ビーツ・ボーエン。前へ」
「は、はいっ!」
ビーツが緊張した面持ちで、羊皮紙に手を乗せる。
同じように、司祭長さんが『神託』の魔法をかけた。
「神託が出ました。
『火:☆☆☆☆☆ 水:★★☆☆☆ 風:☆☆☆☆☆
土:★☆☆☆☆ 光:☆☆☆☆☆ 闇:★★★★☆』」
また周りがざわつく。「また三属性!?」「闇もすげえな!」などなど。
モンスターじいさんがうんうんと頷いている。
ビーツの師匠的なポジションなのか?
「神託の内容を続ける。
『多くの力。多くの心。その中心に立つ者。率いる者。
暗き底にて光を見出し、魂を地に刻め。
ラッキーカラーは青』」
もういいよ!ラッキーカラー!
しかし意味深な神託だな。王様っぽい。ビクビクした小動物みたいなのにな、ビーツ。
モンスターじいさんはプルプル震えている。どうした、小便近いのか?
「次、クローディア・チャイリプス。前へ」
「はい!」
クロは元気に祭壇に向かった。
同じく、羊皮紙に手を乗せ、『神託』の魔法を受ける。
「神託が出ました。
『火:☆☆☆☆☆ 水:☆☆☆☆☆ 風:★★★★☆
土:★★★★☆ 光:☆☆☆☆☆ 闇:☆☆☆☆☆』」
またまたざわつく。「レベル四が二つ!?」「どうなってるんだ、今年は……」などなど。
クロは「やっぱ火がないかー」と落ち込み気味。
まぁオレと遊んでる時に生活魔法をいろいろ試したから分かってたけどね。
剣士のクロは、肉体強化しやすい火属性が欲しかったらしい。
「神託の内容を続ける。
『悩む必要はなし。今の魂を受け入れよ。
心は剣と共にあり。まずは北を目指せ。
ラッキーカラーは赤。』」
ラッキーカラーは放っておいて、随分と具体的な神託だな。
剣士として北……つまり王都か?を目指せと。
具体的な分、将来の選択肢が狭いように感じる。
戻ってきたクロは「うーん」と渋い表情である。
そんな悪くないと思うんだけどな。
で、いよいよオレの番か。はぁ……気が重い。
もういっその事、六属性全部レベル五とかで、ドヤ顔してやるか!
「最後にアレキサンダー・アルツ。前へ」
「「「ブーッ!」」」
子供三人が吹き出した。
「お前ら……」(小声)
「アレクってアレキサンダーっていうの!?」(小声)
「い、いや、かっこいいと思います……」(小声)
「俺もアレク・アルツだと思ってた。すまん、アレキサンダー。クククッ」(小声)
「うっさいよ!お前だって公爵竜みたいじゃねーか!」(小声)
デューク・ドラグライトだからね。公爵竜って感じだよね。
ちなみに父母組は笑っていない。「どうしたんだ?」って顔してる。
「コホン、前へ!」
「あ、はい!」
慌てて祭壇に向かった。
今までと同じように羊皮紙に手を乗せ、『神託』の魔法を受ける。
光がオレの手と羊皮紙を包む。さぁ来い!
「神託が出ました。
『火:★☆☆☆☆ 水:★☆☆☆☆ 風:★★☆☆☆
土:★☆☆☆☆ 光:★☆☆☆☆ 闇:★★☆☆☆』」
「低っ!」
思わず声に出してしまった。
マズイと思い、後ろをちょっと見ると、オレとクロの両親以外が固まっている。
壇上の人たちやクロは、当然知っていたから苦笑いだ。
そして、静寂の後、「うおおおお!!!」と大騒ぎだ。「ろ、六属性!?」「初めて見た!」「当たり前だろ!」などなど。
オレの両親も周りの村民に祝福を受けている。
ビーツとデュークは口を開けている。オレの名前を笑ったバツだ。してやったり。
「静粛に!神託の内容を続ける!」
徐々に静まる場内。しかし興奮はしている雰囲気がある。
「では改めて……
『死ぬかもしれんが自由に生きろ。どうにかなる。「えっ」
あと、将来的に足の臭いに悩むから気を付けろ。「おいっ!」
ラッキーカラーは特になし「ないのかよ!」』」
思わず途中で突っ込んでしまった。なんでオレだけ適当なんだ!足の臭いって神託で言われることか!?嫌がらせか!
案の定、村民は笑っている。父ちゃんまで笑っている。母ちゃんは恥ずかしそう。
デュークとクロは大爆笑。ビーツは肩を震わせている。
ともかく、こうして『神託の儀』が終わった。
どうしてこうなった……。