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大魔導士「ベギ〇ゴンって何属性ですか?」  作者: 藤原キリオ
パーリーピーポー編
6/57

06:ゴブリンと戦う三歳児

 


「ゴブリン!?」

「えっ!あれが!?」

「たぶん……おとうさんが言ってた。もりにゴブリンがでるって……」



 クロの言葉にオレは驚く。初めて見る魔物ということもある。

 しかし、オレの想像していたゴブリンとは違う。

 身長が百七十センチ~百八十センチはある。痩せ形だが筋肉質。

 とても小鬼という表現は出来ない。



(マジかよ!この世界のゴブリンってこんな強そうなのか!)



 ゴブリン=序盤のザコキャラというオレの中の常識が一気に覆る。

 いや、もしかしたら外見はアレでもザコキャラ扱いなのかもしれない。

 分かっているのは、三歳児のオレらでは戦いにならないであろうという事。

 体格差が大人と子供だ。話にならない。



 そもそも村付近の森の魔物は、それこそクロの親父さんたちの手により、駆除されている。

 河川敷の周りも当然、巡回対象で、近づく魔物などこれまでいなかった。

 だからこそ、この訓練場を許可してもらったのだ。



「クロ、にげよう。むらの人たちにいそいで――」



 言い切れなかった。

 ゴブリンはオレたちを見つけると、ニヤリと笑い、崖の淵に手をかけ、ズダッと下りてきた。

 そのままこん棒を手に、オレたちに向かい歩を進める。醜悪な笑いはそのままだ。



「アレクはみんなにしらせて!わたしがとめるから!」



 木剣を中段に構えたクロがそう言った。



「はぁ!?」



 何言ってんの、お前!?って感じだった。

 確かにオレたちの逃げ足とゴブリンの体格から考えられる速度は、ゴブリンのほうが速いだろう。

 クロは衛士の子供として英才教育を受けているから、魔物という驚異から守るのに使命感もあるのかもしれない。


 でも、三歳の幼女だ。

 オレは元・三十六歳のおっさんだ。

 幼女に守られて逃げるおっさんがいてたまるか!



「いや!オレがじかんをかせぐから、クロがいけ!」

「なんでよ!アレクがいって!」



 こんな強情なクロは見たことがない。

 見れば冷や汗を流し、剣先も揺れている。

 怖いのにやせ我慢しているのだろう。


 もっとも怖いのはオレも同じだ。

 前世では三十六年間、喧嘩もしたことがない。

 近所の犬に飛びかかってこられても負けるだろう。


 心構えが出来ているはずもなく、命をおびやかす魔物を前に足が竦む。腰が引ける。

 正直、逃げたところで足がもつれ、転ぶ可能性大だ。

 そんな状態で時間稼ぎするなんて声を上げているのは、おっさんとしてのちんけな意地だ。



 ゴブリンは言い合っているオレたちを見ながら、どんどん近づく。

 もう川の真ん中あたりで、太股あたりまで水に浸かっている。



(オレにとっちゃ深い川だったんだけどな……。普通に歩ける深さかよ)



 川の深さ、流れに期待していた部分もあった。

 一度、泳ごうとして、足がつかなく、怖くてやめた経緯がある。

 が、どうやら成人男性くらいになると、ただの小川らしい。



 でも河川敷に上げるよりは足止めになるだろう。

 というより、こっち側の岸に上げたくない。怖い。

 クロもそう思ったのか、ゴブリンが岸に上がる前に切りかかった。



「よせっ!クロっ!」

「やあああああっ!」



 岸縁からジャンプし、上段から切り付ける。

 ゴブリンは笑みを絶やさない。

 右手のこん棒を横薙ぎに払い、クロを弾き飛ばす。



「っあっ!!!」

「クロっ!」



 三メートルほど転がったクロが、すぐに顔を上げる。



「いったぁ……」



 良かった。死んでない。

 しかし腹を抑え、苦悶の表情を浮かべる。もう動けないだろう。

 オレは急いでゴブリンに視線を戻す。


 岸まであと二歩ってところ。オレとの距離は十メートルもない。

 限界だ。やらなきゃやられる。

 体は竦むが、クロが戦ったんだ。三歳の幼女が。

 これでやらないワケにはいかんだろう!怖いけど!怖えんだよ、このバカが!



「ああああ!!!」



 両手にファイアーボールを作る。なるべく速く、なるべく多く魔力を込める。

 正直パニック状態で、まともに魔力操作できてる自信はない。

 でもそんなの関係ねえ!来る前に撃つしかねえんだ!



 ゴブリンの動きが止まる。ファイアーボールに驚いたらしくギョッとした表情だ。

 


「くるんじゃねえ!このやろうが!!!」



 両手の火球を投げつける。狙いも適当だが、距離が近いし当たらないわけがない。

 ボンッ!ボンッ!と火球がはじける。

 胸の付近に行った火球はこん棒に防がれたが、一発は腹に当たった。


 だが、オレにそんな事を確認する余裕はない。

 放ってすぐに、次の火球を作り始める。

 右手のが出来上がったらすぐに投げ、左手のが出来上がったらすぐに投げ。



「おらぁ!おらぁ!おらぁ!おらぁ!」



 次々に当たる火球によろけながらも、ゴブリンは倒れない。

 しかし、これまでではマズイと思ったのか、単純に怒ったのか、こん棒を振り上げ、オレに迫ろうとした。

 そこに火球が顔面直撃。

 こん棒を落とし、ゴブリンが後ろに倒れる。



 バシャーン!



 火球を受けながら徐々に下がっていたのだろう。

 川の中に沈んだゴブリンがゆっくりと下流に流される。



「はぁっ はぁっ はぁっ……」



 それを見てオレは尻もちをついた。

 相変わらず足が震え、汗が止めどなく流れる。



「アレク!」



 はっ!そうだ!

 さっと見やるとクロが腹を抑えたまま座っていた。



「クロ!だいじょうぶか!」

「いちち……だいじょうぶじゃないけど、アレクはだいじょうぶなの?」

「あぁ、オレはだいじょうぶ。ちょっとまってろ、ヒールかけるから」



 震える足を無理矢理立たせ、クロに近づく。

 痛むであろう腹に直接手をあて、魔力を手に集中させる。



「『癒しの力よ、光の力よ、我が願いを聞き届け給え。治療・修復・聖光。ヒール』」



 鈍い光がクロを一瞬包んだ。



「おー! すごい!いたみがないよ!」



 ふぅ、良かった……。ヒール習っておいて本当に良かった。おばばありがとう!

 まだ無詠唱も出来ないし、直接触れないと出来ないけど。



「よろこぶのはあとだ。あるけるなら、いそいでもどろう」

「うん、そうだね。まだほかにゴブリンいるかもだし」

「さっきのゴブリンだって、まだしんでないかも」

「えっ!たおしてたじゃん!」

「わからない。きをうしなっただけかも……」

「そっか……」



 川や森を警戒しながら、なるべく急いで村に戻る。

 しかし、その足取りは重かった。

 初めての戦闘っていうのもある。魔物が蔓延るこの世界で、戦いは日常茶飯事だと覚悟はしていたつもりだった。

 その割には不甲斐ない。パニックになる心。冷静になれない頭。安定しない魔力操作。倒せない威力。

 今にして思えば、そのどれもが不甲斐ない。



 でもそれはクロも同じようだった。



「アレク、ありがとうね。わたし、アレクをまもるつもりだったのに、けっきょくたすけられちゃって……」

「いや、オレもクロをたすけるつもりだったよ。でも、ぜんぜんダメだった」

「そんなことないよ!ファイアーボール、バンバンあててたじゃん!」

「なにもかんがえられずに、それしかできなかったんだ……」


「ヒールだってかけてくれたし!」

「ちゃんとつかえてたら、クロがくらったあと、すぐにヒールをとばせていたよ」

「う……それでも、アレクがいなかったらしんでたよ……」


「クロがさいしょにいったから、こころがまえができたんだ。オレひとりじゃたぶんしんでた」

「アレクのまりょくがたりなくても、ふたりともしんでたよね……」

「あぁ……。やすみおわったときでよかったよ、ほんと」



 話しているうちに命の危機だったって実感が出てきた。

 クロも顔色が悪い。オレもそうだろう。


 こうして三歳児による初戦闘は一応、終了した。

 課題は山のようだ。

 だが、とにかく今は村に早く報告しよう。

 オレたちは家路を急いだ。



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