56:王都の休日~アレク&ビーツ~
……side:A
今日は一日、自由行動だ。
昇格試験直後という事もあるし、モンスターじいさんが建国祭まで残るらしいから、ビーツもそれに合わせて居たいらしい。
とは言え、建国祭は七日後。それまでずっと自由行動という事はせず、明日は何か依頼を受けようかと話している。金級初任務ってわけだな。
何はともあれ、今日一日は一人で行動。
ずっと特訓しててもオレは飽きないんだが、とりあえず魔法ギルドに行ってみようと思う。
以前に魔法ギルドにスクロール登録した風呂魔法の売れ行きが気になる。
それともう一つ魔法を売ろうかと考えているのだ。
魔法ギルドは冒険者ギルドより西よりの大通り沿いにある。
やっぱりギルドってもんは立地の良い所にあるもんなんだな。
ギルドに入ると、冒険者ギルドとは雰囲気が全然違う。
暗めの照明と静謐な空気、棚や壁にはスクロールや魔道具、杖などが並び、さながら大規模な古美術商といった装いだ。
建国祭前だとは言え、決して客足の多くない店内で、受付のローブを着た女性に声をかける。
「カードを拝見します……アレキサンダー・アルツ様ですね。少々お待ち下さい」
そう言って、オレの売った風呂魔法の売り上げを教えてもらう。
売り上げの三割がオレの口座に入るのだ。
「十二本売れていますね、口座から引き出しますか?」
おおっ!まだ十日くらいしか経ってないのに!
しかもスクロールを用意したりするのは全部ギルドにお任せだ。なのにもう十二本!
「いえ、引き出しは結構です。思いの外売れてますね」
「ええ、冒険者の女性もそうですが、商人のほうが売れています。行商での野営で使用するのかもしれません」
なるほど。それはちょっと予想してなかったわ。商人ね。
「実は今日はもう一つ魔法を売ろうかと思ってるのですが」
「そうでしたか。では買い取りと査定担当をお呼びしますので、少しお待ち下さい」
「分かりました」
「ちなみに、どのような魔法でしょうか」
「足の消臭魔法です!」(ドヤ顔)
「は、はぁ」(困惑)
…side:B
今日は休養日という事で、冒険者のお仕事はお休みだ。明日は仕事のつもりだけど。
せっかく博士が来てくれているので、今日は一日、博士と魔物談義を楽しみたいと思っている。
本当はユーヴェさんも誘いたいところだけど、さすがにギルドマスターをお喋りに誘うわけにもいかないしね。
なんかクロさんがシュテンを貸して欲しいって事だったので、召喚してクロさんに預けておいた。
二人で特訓でもするのかな。
召喚士なしで従魔が王都の中を歩いてもいいのか、とも思ったけど、シュテンが誰かに迷惑かけるわけもないし、クロさんも前世では僕たちの中で最年長のしっかり者だからね。まず問題ないでしょう。いざとなれば念話があるし。
で、昨日博士に聞いた宿に来てみた。
王都の北区画。貴族街だね、ここ。目の前に見えるのが、博士が泊まっている宿らしいんだけど……でかい。
五階建ての宿なんてこの世界で初めて見たよ。もう完全にホテルだ。
とは言え、僕も前世では社会人だったわけで、ホテルなんていくらでも泊まった事はある。
臆することなく入り、開放されたエントランスを眺め、受付のお姉さんに声をかける。
念のためギルドカードの提示も忘れない。
「あ、あの、シュタインズ・ベルクトリアと約束してます、ビーツ・ボーエンと言いますが……」
「(き、金級!?こんな子供が!?)只今確認して参りますので、あちらのソファーにてお待ち下さい」
「は、はい。ありがとうございます」
やっぱり驚かれない。王都だから金級冒険者なんていっぱい居るだろうし、門の衛兵さんが大げさなんだよね。
ふかふかのソファーで待っていると、やがて博士がやって来た。
「ビーツ、待たせたの。あっちにラウンジがあるから茶でも飲みながら話そうか」
「はい!」
ラウンジとかあるのか、やっぱホテルだね、ここ。
そのラウンジに向かう途中、いかにも大商人といった風体のおじさんや、貴族っぽいおじさんから博士は声をかけられていた。
「これはこれはシュタインズ様。お久しぶりでございます」
「その節はお世話になりました」
「お元気そうで何よりでございます」
などなど。やっぱり博士は有名人らしい。なんとなく僕も嬉しくなる。
それから、ラウンジ内の半個室のような所で、色々と話した。
村を出てからどんな魔物と出会ったか。どのように従魔にしたか。その従魔の性能など。
やっぱり博士が気になるのはスライムのクラビーと、ウンディーネのマモリだった。
「クラビーは普段何をしておるんじゃ?何を食べておるんじゃ?何を思い、何を話しているんじゃ?他のスライムの事も分かるのか?」
スライムは見向きもされない最弱の魔物だから、分からない事が多すぎる。
僕はなるべく自分の知った知識をモンスター図鑑に落とし込むつもりだけど、ちゃんとした論文や発表は博士に任せよう。
きっと召喚士界――いや、世界が驚く事になると思う。
あらかた話した所で、博士に相談する。
僕としては、これがメインイベントだ。
「相談?なんじゃ、改まって」
「えっと、召喚石のことなんですけど」
召喚石は、従魔と契約し、従魔を呼び出す媒体。
もとは召喚紙と言って、魔法陣が描かれた紙だったものを、博士が持ち運びしやすく、咄嗟に召喚できるようソフトボールのような石にしたものだ。
それを僕が、魔法陣の文字に漢字を使う事で、ピンポン玉サイズにまで落とした。
でも、今僕が持っている召喚石は二十五個もある。
いくらピンポン玉サイズとは言え嵩張るし、今後の事も考えると、非常に使いづらい。
「今後の事って……本気で百体を従魔にするつもりか」
「はい!だから【百鬼夜行】にしたわけですし」
僕はほぼ毎晩、従魔のみんなと遊んでいる。
もしも誰かに見られるような事があれば、暗闇の中、魔物の大群と遊んでいる少年という構図になるはずだ。
そしていずれは百体の魔物と夜と行く。それはまさしく【百鬼夜行】じゃないかと。
「こないだ、急にジョロを呼び出さなくちゃいけない時があって、少し手間取ったんです。シュテンやタマモはすぐに出せるようにしてますけど、他の従魔は咄嗟には出せない。だから召喚石じゃなくて、他の形にしようかと」
「ふむ。確かに百個の石から、呼び出したい従魔を探すとなると一苦労じゃのう。ま、そんな悩みはビーツ以外に持てんじゃろうが」
「で、カードにしようかと思うんです」
「カード?」
冒険者カード規格のもので、召喚用魔法陣と、名前、従魔の絵とかも描ければ、咄嗟の時に呼び出したい従魔を探しやすい。
言わばトレーディングカードのようなものだ。
普段はデッキ状にしてホルダーに入れておく。
よく呼ぶ従魔はデッキの上のほうにしておけばいいし、他の従魔を探す時も、トランプの中からスペードのエースを探すようにパパパッと探せばいい。
「なるほど、よく考えるもんじゃのう!それは面白い!」
「問題はどうやって魔石をカード化するかって事なんですよ。何か案ないですかね。極小の魔法陣なら描けるからサイズ的には問題ないんですけど」
「ふむ。それならば問題ない。わしにいい案がある」
「ほんとですか!」
話しはトントン拍子で進んだ。
やっぱ博士はすごいなぁ。話して正解だった。




