55:ウンディーネパニック!
「……え……ウンディーネを従魔にって……可能なのか?……うそだろ?……」
ユーヴェさんは勢いよく席を立ち、執務室内をうろうろと早歩きしている。
手を頭に乗せ、ブツブツ言いながらだ。
しばらく混乱から治りそうもないので、オレたちは素直に待ち続ける。
そこへガチャッと、ノックもせずに執務室の扉が開いた。
「おーい!ビーツが来ておるらしいな!」
と現れたのは白い髭を伸ばし、ローブをまとい、鞭を腰に下げた老人の姿。
「博士!」「シュタインズさん!」「「モンスターじいさん!」」と、オレたちはそれぞれの反応を示す。
混乱していたユーヴェさんも「シュタインズ様!」と、まるで救いの神が来たかのような反応だ。
「博士!どうして王都に!?」
「いや、スライムを従魔にしたと聞いて居ても立ってもいられなくてのぉ。三日前には着いていたんじゃ。で、お前たちが来たら呼んで貰えるようにしておった」
フットワーク軽いな。モンスターじいさん。
そしてオレたちの対面のソファーに座り、ビーツと話し始める。
「で、本当なのか?スライムを従魔など――」
「ちょ、ちょっとお待ち下さい、シュタインズ様!」
「なんじゃユーヴェ。これは召喚士界の一大事――」
「い、いえ、分かっておりますが、すでに事態が先行しています!水神様を従魔にしたらしく……!」
そこで、また部屋の空気が固まる。
「……は?……水神様ってファンタスディスコの?……例のあの?」
「ええ、その水神様です!大精霊ウンディーネです!」
そうか。モンスターじいさんは先代のギルドマスターだから、ウンディーネの事は知っているのか。
「ゴクリ……ほ、本当か、ビーツよ」
「は、はい」
ビーツは苦笑いで頭を掻きながら答える。
「いやいやいや!ビーツの召喚士としての才能は知っておる!幼子の頃から見ておるしの!しかし!だ、大精霊!?精霊を従魔にした事例もないのに!?大精霊!?」
「ですよね!シュタインズ様もそう思いますよね!ありえませんよね!」
なんか師弟のテンションがヤバイ事になってる。
じいさんなんか血圧上がりすぎて死ぬんじゃないかな。
もうあれだ。手っ取り早く納得してもらう為に、クラビーとマモリを召喚した方がいいんじゃないか、と。クラビーはビーツのローブの中だけど。
オレたちは目を見合わせて、ビーツにGOサインを出す。
「マモリ、来て」と召喚石を出し、シュンと現れたのは青い髪の少女。
「ん?どうした我が主よ、昨晩ぶりじゃの」
「ごめんね、マモリ。マモリを従魔にした事を報告しないといけなくて」
「別に構わんぞ。どうせ暇じゃしな!」
と、和気あいあいとしている向こう側で、ギルドの重鎮二人が口を大きく開けたまま止まっている。
呼吸してるのかな?
それを無視するように、ビーツがマモリに二人を紹介している。
「博士は召喚士としての師匠なんだよ、で、ユーヴェさんは冒険者としての、えっと上司かな。召喚士としても先輩なんだ」
「そうか。わしはウンディーネのマモリじゃ。我が主の従魔となった。よろしく頼むぞ」
「…………はっ。わしはシュタインズと申します。まさか大精霊様とお会いできるとは……」
「…………はっ。わ、私はユーヴェと申します。我らエルフにとって大精霊様にお目通りできる事は何よりの誉れ……」
やっと息を吹き返した二人が自己紹介をする。
でもそうか、エルフってのは自然信仰って言うか、やっぱ精霊に対する気持ちが強いんだろうな。
「ははは、堅苦しくせんでよいわ。お前らは我が主の師匠と先達なんじゃろう?気楽に話してくれ」
「「は、はい」」
「ちなみに紅茶と茶菓子はあるかの?」
「はっ!た、ただいまお持ちしますっ!」
ユーヴェさんがダッシュで隣室へと向かった。その速さたるや、さすがは元アダマンタイト級である。
その後、重鎮二人とビーツとマモリの話しに華が咲く。
オレとクロとデュークは、完全にいらない子状態である。
これ、金級昇格試験の報告だって忘れていませんかねぇ。
「ん?ああ、昇格だ昇格。当たり前だろう。ただビーツ・ボーエンはやはりアダマンタイト――」
「じゃろう?やはりわしの見込んだ――」
「いやいや、金級で大丈夫――」
「このマフィンうまいのぉ――」
などなど、昇格などそっちのけで話が終わる様子がない。
ユーヴェさんの仕事が心配になってきた頃、さすがに長居しすぎたのかギルド職員が部屋を訪ね、泣く泣くお開きになった。
モンスターじいさんは建国祭まで王都に残るらしく、その間、なるべくビーツに会いたい旨を伝えており、従魔談義をするならとユーヴェさんも乗り気だった。
いや、ユーヴェさんは仕事しないとマズイだろう。
とりあえず、マモリを従魔にした事で、水神の祠の魔物は今後、減少するであろうという事。
今後、魔族が水神の巫女を狙いに来るかもしれないので注意が必要な事。
デカルト伯爵とスパーズさんには報告済みだが、スパーズさんにはウンディーネの事は伏せてある事。
これらをユーヴェさんに伝えておいた。
そして、受付にて依頼報酬の受け取りとギルドカードの更新を行う。
依頼報酬自体は昇格試験という事もあり、銀級の並み程度でしかない。
が、ギルドカードは金色に輝き、さすがにテンションが上がる。
「すごいわねー!これ」
「キラッキラだな」
「目立ちますねぇ」
そう話しながらギルドを出ると、もう完全に日は沈んでいた。
何時間話していたんだ、と。
ユーヴェさんの仕事は何時間止まったんだ、と。
こんな時間で、しかも建国祭の影響で人が多い。
宿はとれるのかと心配しながら、前回も泊まった『猫の安らぎ亭』を目指す。
『猫の安らぎ亭』はミスリル級パーティー『森林の聖風』の六人も使っている風呂付きの安宿。
ギルドから離れているが穴場の優良宿だ。
「いらっしゃいませにゃー!」
「四人ですけど空いてますか?」
「おお!ラスト一部屋が四人部屋だけど大丈夫かにゃ?」
「よかった!お願いします!」
ギリギリセーフだったらしい。
とりあえず食堂で夕食をもらい、部屋で休む。
さて、明日から何をするかな。




