54:まずはユーヴェさんに報告だ!
王都に近づく前に、サガリを送還し、風呂馬車を消す。
ここからは歩きで王都の東門から入るとしよう。
王都は港町ファンタスディスコの真南に位置するから、北門があればいいんだけど、王都の北側は王城だからな。さすがに一般用の門はない。
「ぎ、銀級冒険者!?」
と、いつものように衛兵さんに驚かれながら王都入場を果たす。
ふふふ。もうじき金級ですよ、とは言えない。まだ確定してないし。
しかし人が多い。
入場の時にも思ったが、王都を出る時よりも多く感じる。
大通りを歩いても人の流れがすごいし、露店の数も多い。
「建国祭っていつからだっけ」
「多分、八日後だな」
「今からこんな盛り上がって、当日は大丈夫なのかしら」
「人に酔いそうですね……」
そうこう言いながら王都中央部、大通りが交差する一等地にある冒険者ギルドへと着いた。
今さらだけど、この立地はすごいな。買うとするとおいくらくらいなのか気になる。
当然のごとく人の流れも、馬車の行き交いも激しい。
ギルドに入ると夕方間近という事もあり、仕事を終えた冒険者が多い。
広々とした飲食スペースではすでに酒盛りが始まっており、受注カウンターも買い取りカウンターもいっぱいだ。
オレたちはギルマスのユーヴェさんに直に報告する必要がある為、空いている登録カウンターの受付嬢に声をかけた。
「すみません、『魔獣の聖刀』ですが、ギルドマスターに報告がありまして、取り次いで頂きたいのですが」
「ギルドマスターにですか?ちょっとカードを拝見します……はい。少々お待ち下さい」
待つことしばし。二階の執務室に向かってくれとの事で、オレたちは四人で向かう。
執務室の扉をノックすると、中から「入れ」との声があった。
中ではユーヴェさんが机に向かってペンを走らせている。
白いローブを着た、金髪のエルフだ。
「待ってたぞ。もうちょっと掛かるから座って待っていてくれ」
と、こちらに顔を向けずに話しかける。
オレたちは前回と同じ位置取りでソファーに座った。
どうやらかなり忙しいみたいだ。少しすると顔を上げ、オレたちの対面に座る。
「ふぅ。また色々と動いたらしいな。この建国祭の時期に魔族と遭遇とは」
どうやら忙しかった原因の一端はオレたちらしい。
ファンタスディスコのスパーズさんから連絡が来てるって事だよな。
「はい。その件も含めて、護衛依頼の報告をしに来ました」
「ああ、聞こうか」
そして、今回の護衛任務について話し始める。
領主館に行き、顔合わせ、バルデスさんとの力試しから始まり、水神の祠へと。
「水神の祠は、セレナ嬢に聞いたところ、去年に比べ魔物が多かったらしいです。出て来た魔物はブルースライム、ロッククラブ、ソールシェル、バイトタートル、シャドウスネーク、コーラルトレントです。特にコーラルトレントが異常繁殖していました」
「ほう、それは珍しいな。当然、うちにもいくつか持ってきたんだろうな?」
「……すいません。全部ファンタスディスコに買い取ってもらいました」
「はぁ……いやまぁしょうがないか。ただ海の魔物は王都で買い取りした方が高くなるぞ。覚えておけ」
そうか。そこまで気にしなかったな。
王都周辺じゃ見ない魔物だし、そもそも物価が違うのか。
それから話は、結界扉の前での魔族戦となる。
「話は聞いていたが、十魔将【最硬】のガルゴルドねぇ。間違いなく魔族側の幹部だろうな。ちなみにフェリクスからの報告はまだ来ていない。未だに追跡しているのか報告をお前らに任せてさぼっているのかは分からんがな」
後者の可能性が高い……なぜかそう思ってしまう。
と言うか、やはりフェリクスさんは王都の依頼で魔族を追っていたんだな。
「そのタイミングで来たとなると、やはり狙いは水神様か」
「それなんですが、ギルドマスターは『水神様』がどういった存在なのか、ご存じですか?」
「……ん?どういう意味だ?」
「オレたちは縁あって、水神様の正体を知ることが出来ました。でもギルドマスターが知らなければお話しする事が限られます」
水神様=ウンディーネという事を知っているのか。
大精霊という伝説的存在を認知しているのか。
もしかしたら『水神様』は人なのか神なのか魔物なのか、と判断ついていないのかもしれない。
やたらな報告をして、ウンディーネの件をばらす訳にもいかないのだ。
そう思って切り出したが、途端にユーヴェさんの顔が険しくなった。
「正体を知った、だと?」
「はい。もしギルドマスターがご存じならば、全ての報告が出来ます。ご存じでなければ中途半端な報告になります」
「はぁ……そこまで警戒するってことは本当に知ったみたいだな」
ユーヴェさんがやれやれと頭を振る。
「安心しろ。正体を知っているのは、王族のごく一部、ファンタスディスコ家の領主と水神の巫女、王都のギルドマスター、つまり私だけだ。まぁそこにお前ら四人が加わったわけだが、いいか?絶対に口外するんじゃないぞ。下手すると王家から処罰が下る」
おおう。こりゃファンタスディスコのスパーズさんに言わなくて正解だったわ。
うっかりで王家反逆罪とかなったら洒落にならん。
「了解です。で、魔族の狙いなんですが、水神様の魔石だそうです。いや、正確には霊石と言うらしいですが、魔族は『魔石が狙い』だと言っていました」
これはマモリと会った時に確認した。
そもそも精霊に魔石ってあるの?と思ったからだ。結果、魔石と似たような性質を持つ霊石というのを精霊は持っているらしい。
「まぁ、魔石も霊石も同じようなもんじゃからな」とはマモリの談である。
「つまり魔族は水神様が大精霊とは知らず、魔物だろうと思って狙いに来た……というわけか」
「はい。他にも、事前にセレナ嬢を攫わずに、あのタイミングで仕掛けて来た事から、しっかりした情報は持たずに行動に移しているんじゃないかと」
「ふむ、それもそうだな」
魔族は水神の巫女が一年に一度しか結界扉を開けないと思っている。実際には開けられるし、ただの慣習として年に一回としていただけだ。そして水神様の正体を把握していない。
ここまではほぼ決定だろう。
「ギャラン山で会ったバルトフェルトは、トロールキングの魔石を肥大化させていた。今回のガルゴルドは水神様の魔石を欲していた。やはり強力な魔石が狙いなのか、それとも……いや、これは国に報告すべき案件だな。ここで結論付けるわけにもいくまい。それで魔族はフェリクスに追い払われたわけか」
ガルゴルドは逃げる際に「水神様の魔石は諦める」と、洞窟を殴りつけ、崩壊させようとした。
それをオレとアラクネのジョロが土魔法でなんとか崩落を食い止めた。その事を話した。
ジョロに関しては、ユーヴェさんに内密に言ってあるので、従魔にしているのは知っている。
「魔族の接近に気付けなかったこともですけど、護衛対象のセレナ嬢を随分と危険な目に合わせてしまいました。結果、感謝はされましたが申し訳なく思っています」
だからこそ、魔力探知の練習を頑張っているのだから。
それに強さももっと必要だと痛感している。
「馬鹿言え。結果として護衛できてるんだから、それは依頼成功だよ」
「ですけど……」
「あのな。それで失敗だったら、商人の護衛で盗賊や魔物と出会ったら、仮に撃退しても護衛失敗ってなるぞ?馬車が轍にはまった衝撃で商人が怪我したらそれも失敗だと。そんなわけないだろうが。アクシデントがあった時に護衛対象を守り切るのが護衛任務だ」
な、なるほど。極論だけど、それもそうか。
「はぁ、お前らの金級昇格試験を護衛任務にして正解だったな。護衛というのがどういうものか、守るというのがどういうものか、次もよく考えながらやる事だな。まぁ悔やんでいるようなら、さっさと強くなれって話だ」
ごもっともで。
「話を戻すぞ。魔族を追い払って、洞窟の崩落を阻止。巫女様は水神様に会いに結界扉の先に行った。で、いいか?」
「ええ、それでですね……」
「……ビーツがウンディーネを従魔にしました」
「…………は?」
執務室の空気が止まった。




