50:伯爵に報告しよう!
「なんか去年の数倍疲れましたわ……」
そう言って岩場に座りながらつぶやくセレナ嬢。
頭をコテンと隣のクロの肩に乗せている。クロも「はは……」と苦笑いだ。
オレたちはマモリと少し会話をした後に、洞窟へと戻った。
結界扉を再び施した所で、さすがにドッと疲労が出たセレナ嬢を見るに見かね、休憩となったのである。
そして、そんなセレナ嬢はクロに任せ、「よし!時間あるな!」とばかりに倒しまくった魔物の解体を始めた。
クロ以外は総出である。
つまり、三大妖とセレナに見られたジョロも再び召喚し、オレ・デューク・ビーツと共に解体に加わってもらった。
やはりマモリの住処でなければ顕現しても影響は少ないらしい。オロチ曰く「なんとなくヤは感じはするけど、アレクの足の臭さに比べれば楽勝」というレベル。うるさいよ!ほっとけ!
あまりに量がありすぎる為、魔石とめぼしい部位以外は破棄する事にしたが、コーラルトレントの死骸は根元から切り倒したから状態が良く、高値で売れそうとの事でなるべく確保したい。
そこで活躍したのが今回初登場のジョロである。
指先から出された糸がみるみるうちに編み込まれ、巨大な袋となる。
それに目いっぱいまで珊瑚を入れ、担げばまるでサンタさんだ。
このまま全員で担ぎつつ、洞窟を抜け、衛兵団の所まで行くとまた騒ぎになる為、洞窟の入口で三大妖とジョロを送還。
鉄の扉の内鍵を開け、ギギギと扉を開けると、バルデスさんがすぐに気が付く。
「おおっ!お嬢様!よくぞお戻り……えええっ!な、なんですかその荷物!」
当然そうなる。
大事な『奉納の儀』を終えたと思ったら、土産とばかりに巨大な袋を十個も並べれば、当然そうなる。
「バルデス、ご苦労さま。魔物が大量発生していましたので、一部を回収してきましたの」
「大量発生ですと!?ご無事だったのですか!?そ、そう言えば先ほど祠のほうから地鳴りが……」
「ええ、『魔獣の聖刀』の皆さまのおかげです。地鳴りについてもお父様にご報告せねばなりません」
「わ、分かりました。直ちに出立の準備をいたします!」
そう言ってバルデスさんが衛兵たちをまとめ始める。
荷物についてはギルドに持ち込む前に、領主館に報告しなければならない。
護衛は家に送るまでが護衛だからね。
王都でも見せたことだし、スレイプニルのサガリを召喚してオレの風呂馬車で運ぶか、という話をしていたが、バルデスさんが衛兵団の幌馬車を一台空けてくれた。
元々乗って来ていた衛兵には並走させるらしい。なんかすまん。オレたちのお土産の為に。
…
……
………
「魔物の大量発生……魔族……洞窟の崩落……水神様が従魔に……え、なにこれ……頭いたい……」
報告を受けたデカルト伯爵である。
頭を抱えたまま、ぶつぶつと何か呟き、しばらく起き上がる気配がない。
心中お察し致す。
「お気持ちはわかりますわ、お父様。私も何度気絶しそうになったか分かりませんもの。魔族など死を意識しましたわ」
「セレナ……」
「しかし、今回はお姉さま方が護衛について頂き、本当に良かったと思っております。魔族はフェリクス様にお助け頂きましたが、守って下さったのは皆さんです。崩落の阻止も。
そして水神様を従魔になさる事で、魔物の大量発生も根本的に解決して頂きました。どれも『魔獣の聖刀』の皆さんでなければ為しえなかった事です」
って言うか、ビーツ無双だったけどね。
ビーツがいなければ為しえなかった事です。
「……うむ。その通りだな。改めて今回の護衛依頼の件、感謝する」
「いえ、セレナ様を危険に晒してしまった事には変わりありませんので。申し訳なく思っています」
「皆さまでなければ、もっと危険な事態になっていましたわ。私からも改めて感謝いたします」
とりあえず護衛依頼自体はこれで終わりだな。
依頼完遂のサインを依頼書に書いてもらう。
あとは、今後の危険性について言っておかなくてはなるまい。
「それで、来年以降の『奉納の儀』ですが、少し考えたほうがいいかと思います。魔物は少なくなるそうですが、崖側から侵入されやすいというのと、崩落の危険性を見れば何かしら手を打たないといけないかと」
「うむ、そうだな。洞窟内の崖側を塞ぐか、洞窟自体を崩落防止の為に補強するか……」
「土魔法の使い手を大勢動員すれば大丈夫ですかね」
「いっそのこと、ルートを変えて、洞窟内を通らずに水神様の住処に行けるようになれば……」
いくつか案が出されたが、決定稿は出ない。
まぁこれは領主家の問題だからやたら首を突っ込まないほうがいいだろう。
どうせなら、この場にマモリを呼び出して話し合えばいいんじゃね?とも思ったが、こちらから「当の水神様がうちの従魔だから出そうか?」などと言えるはずもなく。
もし話し合いたかったなら、自分たちで住処に行ってもらおう。聞けば世間で言われている事とは違い、一年に一回しか行っちゃいけないってわけでもなさそうだし。
結局、問題はお任せして、オレたちはお暇する事にした。
ギルドへ報告しないといけないしね。
そして帰り際
「どうだろう、『魔獣の聖刀』の皆、我が家の専属にならないか?」
と、言われてしまった。
クロへの懐きっぷりを見るに、何となく予想はしてたけど。
「ありがたいお申し出ですが、まだ冒険者として歩み始めたばかりですので」
「そうか……」
オレたちは世界を巡らないといけないからね。
主にビーツとデュークの意思だけど、オレも一緒に行きたいし。
「あ、クロはどうする?オレたちはお断りするしかないが、お前は……」
「もちろん一緒に行くわよ!当たり前じゃない!って言うかわざわざ確認しないでよ!」
「だそうです。セレナ嬢、申し訳ありません」
「そうですか……残念ですわ。でもまた是非いらして下さい!お姉さま!」
「ええ、その時はよろしくね、セレナ」
そんな別れ際の抱擁があったわけで、それは美少女同士のなんとも絵になるものだった。
しかし、何度も言うようにオレたちはクロの中身がおっさんだと知っているので「事案だな」としか思わない。
クロは苦笑いで「私はロリコンじゃないのよ……」と再度言っていたが、やはりスルーした。
…
……
………
領主館から冒険者ギルドまで、お土産を入れた幌馬車を借りたまま、バルデスさんたちが運んでくれた。
結局、伯爵への報告の時も見張りをしていてもらったりで、何から何まで申し訳ない。
「ありがとうございます、バルデスさん。助かりました」
「いえ、こちらこそお嬢様をお助け頂き、ありがとうございました」
ギルドの前に袋を並べ、別れを告げる。
袋の見張りをクロとビーツに任せ、オレとデュークで、買い取りカウンターへと向かった。
依頼報告は王都でするから、ここではしない。
時刻は夕方近く。
依頼に出た冒険者が帰ってくる頃合いなので、ギルド内も結構賑わっている。
カウンターが空いた所を見計らって、声をかけた。
「すみません、魔石と魔物の部位の買い取りをお願いします」
「はいはい~、じゃあ出して下さい」
気のいいおばちゃん受付嬢にそう言われ、とりあえずリュックサックから魔石の袋を出す。
ドスンドスンドスンと三袋。
弱い魔物なので魔石は小さいが、ちりも積もれば何とやら。合計二百個近い魔石である。
「えっ、こ、これ全部魔石かい!」
「あと、ギルドの表に魔物の部位がいっぱいあるので、倉庫があれば、そっちに移動させたいんですが」
「はぁ!?」
おばちゃんの声に反応した周りの冒険者がざわざわと騒ぎ始める。
「うそだろ?全部魔石とか」「ガキじゃねえか」「表の袋の山はなんだよ、邪魔なんだが」「あいつらこないだの……」「ああ、ヘキサポリスさん凹ました奴らだ」「確か金級に昇格とか言ってたぞ」「はぁ!?あの年でか!?」「俺は王都で見た。スレイプニル連れてたぞ」「噂じゃチアーゴ盗賊団も壊滅させたとか」
ヤバ気な雰囲気になってきたな。
さっさと用事を済ませよう。
「とりあえず魔石も倉庫に運びますので、案内お願いします」
「あ、あぁ分かったよ。こっちだ」
ギルド裏手にある解体倉庫に案内され、そこに表の袋を持ち運んだ。
解体作業をしていた倉庫内の作業員が何人も集まってくる。
「おいおい、なんだこの荷物は」
「これ全部、この子たちの?」
「そうらしいね。さっさと集計しないといけないから、手の空いてるのは手伝っておくれ」
そう言って何人かが袋に手を付ける。
「えっ、これ全部魔石!?すげー量だぞ!」
「珊瑚……コーラルトレントか!とんでもない量だぞ!」
「しかも見ろ!こんな状態の良いコーラルトレントなんか珍しい!」
「大抵、矢か魔法で砕かれるからな。こりゃただの子供じゃねーな」
結局、コーラルトレントは八袋、残りの二袋は蟹・貝・亀などの部位だ。
査定は作業員に任せて、受付のおばちゃんがこちらに来る。
「いや、あんだけの量はあたしも初めてだね。ギルドとしては嬉しい限りだよ」
「それは何よりです」
「さすがにすぐに査定額は出ないね。明日の朝にでも顔出してくれるかい?私じゃなくても買い取りカウンターでこの紙を見せてくれたら話が通るようにしておくよ」
「分かりました。じゃあ明日に来ます。あ、袋は回収しますんで、明日渡して下さい」
言っておかないと袋ごと買い取られそうだしね。
いくら珊瑚が高く売れたところで、どう見てもジョロの袋のほうが高いだろう。
アラクネの糸で織った袋とか……ねぇ。




