49:港町の守り神
短いけどしょうがないね。
四大精霊の一つ、水のウンディーネ。
精霊自体の存在は知られているものの、精霊をその目で見たという者は少ない。
不可視の存在なのか、人の居ない場所に住んでいるのか、聞く話は憶測ばかりである。
ましてや大精霊ともなれば伝説の存在であり、神格化され信仰の対象となるのも頷ける話である。
水の大精霊としては、おそらくは世界で唯一の存在であろう。
「いや、別にウンディーネはわし一人ってわけじゃないぞ?」
などと、菓子を頬張りながら言われても説得力がない。
って言うか大精霊って何人もいるの?
オレの中の精霊観が崩れていくんだが。
「はぁ……改めて聞くけど、ビーツ。お前分かってたのか?」
「う、うん。洞窟に入ってからなんとなく呼ばれてたし。でも他の魔物かなーとも思ってたんだけど、奥に行くにつれてはっきりしてきたから……けど、町の守り神様でしょ?それを従魔にって……その……」
ビーツが困ってたのはこれか。召喚士にとっての従魔は言ってしまえば手駒のようなものだ。
町を守護する水神様、ウンディーネを従魔にするのは、町から奪うに等しい。
「す、水神様!あああ主って!」
やっと正気になったセレナ嬢が問いかける。そりゃ巫女としては必至にもなろう。
しかし、当のウンディーネは「ああ、わし、従魔になる!」といい笑顔でサムズアップしている。
サムズアップの文化あったのかよ。初めて知ったわ。
「心配するでない、セレナよ。何も住処をなくすつもりはないから、領海の守護は問題ない。もともとここから溢れた魔力を海に垂れ流してるだけじゃからの。従魔になったからとて港一帯に強めの魔物は近づけんじゃろ」
「そ、そうですか」
ほっと一安心するセレナ嬢。
でも弱めの魔物は近づけるんだな。普通逆だと思うんだけど。大精霊の魔力に弱い魔物が逃げて、強い魔物は耐えられる、とか。
しかし話しを聞くにどうやら逆らしい。ウンディーネの魔力を強者は嫌がるのか。
「それに言っておったじゃろ。コーラルトレントが大発生していた、と」
セレナ嬢が今日のことを説明していたのかな?
「どうやらここの魔力が海側だけでなく陸側……つまり洞窟にまで溢れてるようじゃ。海はまだ問題なさそうじゃが陸はわしの領域ではないからの。強い魔物はともかく、逆に弱い魔物が増えやすい環境が出来つつある。まぁ毎年気にしていたことではあるが、さすがに何百年ともなれば結界も限界のようじゃな」
洞窟にあれほどの魔物が居たのは、ウンディーネの魔力の問題だったのか。
しかし弱い魔物が増えやすい環境ってのは、領主の娘であるセレナにとっても由々しき事態だろう。
「で、わしが従魔になればここに籠る事はなく、時々外に出ることになるじゃろう。その分、ここの魔力は減るし、今のように過剰に溢れることもなかろう」
「そ、そうですか……水神様がそう仰るなら……」
セレナに是非の判断はつかない。しかし水神であるウンディーネに意見するわけにもいかないのだろう。
「そういうわけで我が主よ。契約するか」
そう、ビーツを見て嬉しそうに笑うウンディーネ。
ビーツは未だに少し困った表情だ。
「えっと、確認するけど、従魔になってもこの町の海は守られるんだよね?」
「うむ、問題ない」
「で、洞窟の魔物が増えることもない、と」
「むしろ来年以降は減るじゃろうな」
「セレナさん……巫女様との関係は変わらない?奉納の儀は毎年行って大丈夫?」
「それはこちらからお願いしたいくらいじゃな。甘味が楽しみじゃし」
やっぱ甘味目当てじゃねーか。
なんかセレナがかわいそうになってきたわ。
毎年、命からがら甘味を届けにくるとか。
「あの、セレナさん、そういうわけなんだけど、従魔にしていいかな?」
「えっ……私ですか」
「うん、やっぱセレナさんにとってウンディーネは神様なわけだし、僕が勝手に従魔にしちゃうのも……」
問いかけられたセレナ嬢は少し思案する。
やはり信仰すべき神が、一冒険者の従魔になるのは抵抗があるのだろう。
「従魔として呼び出される利点は、先ほど水神様が仰ってました。しかし外に出るというのは、それだけ危険に晒されるという事。先ほどの魔族も水神様を狙っていましたし……その大丈夫でしょうか。万が一、水神様になにかあれば町は……」
当然の懸念だな。町の守護者がいなくなれば危うくなるのでは、と。
それを受けてウンディーネが答える。
「問題あるまい。先も言ったが住処は残すし、わしも基本はここにおる。それに魔族が襲ってきたとしても話を聞く限り、わしの相手ではないな」
まじかよ。
いや、大精霊なんだから強いんだろうけど、あの魔族相手に余裕なのか?
「心配なら我が主の影に居る蛇にでも聞いてみればよかろう」
「そっか、オロチ、出てきて」
オロチがビーツの影に隠れてるのが分かるのか。
そして影からニュルンと出てくるオロチ。
相変わらずの無表情だが、若干しかめっ面である。
「マスター、ここの魔力はきつい。はやく出ることをおすすめする」
あー、オロチも強い魔物だからか。
ウンディーネの魔力は強い魔物を避けるってのは本当なんだな。
「あ、ごめん。あの、ウンディーネがさっきの魔族より強いって本当?」
「……うん。たぶん余裕。あいしょう的にタマモにも勝てる。シュテンもやばい。わたしも水辺はきけん」
「「「えええええ!!!」」」
驚いたのはオレとデュークとクロだ。三大妖とはちょくちょく自主練で戦ってるけど高すぎるハードルに上を見るのを諦めている現状である。
三大妖より上の存在とか信じられない。いや、水辺じゃなけりゃオロチやシュテンが勝つのか?
それにしたって同格ってことだろ。さすが大精霊だな。
「セレナ、大丈夫よ。ウンディーネが異次元の強さってのはよく分かったわ」
クロはそう言ってセレナの肩を叩く。
「そんなに……お姉さまがそこまで言うなんて……」とセレナは感心するが、三大妖の強さが分かっていないので、クロを基準にしているのだろう。
ちなみにオロチはすぐに影に潜んだ。影に中のほうがまだマシらしい。
「分かりました。水神様、ではこれからもよろしくお願いいたします」
「うむ。では我が主よ、契約しようかの」
「うん、召喚石出すね」
「いや~何百年か千年か、生きてきて初めての従魔じゃからの!嬉しいもんじゃの!」
テンションが高い。そしてスケールがでかい。
契約自体はすぐに終わった。召喚石に魔物の魔力を登録するだけだからね。
「おおー!繋がっておるわ!これが従魔の絆か!すごいもんじゃの!」
「ビーツ、名前どうするの?」
「おおっ!わしの名前か!そうか!従魔には名前がつくんじゃったな!よろしく頼むぞ!」
「うーん」
海の妖怪?水の妖怪?
「海座頭?」「船幽霊?」「濡れ女?」「唐傘お化け?」「河童?」とビーツを無視して、三人で予想するが、どれもいまいちだな。
「住処をもって町を守護し、繁栄させるから―――座敷童か。マモリでどうかな」
お守り様か。いいね。いいけど水関係ねえじゃん。
「うむ!マモリじゃな!よし!わしの名はマモリじゃ!」
「うん、よろしくね、マモリ」
「こちらこそな!我が主よ!」
こうしてウンディーネのマモリが、ビーツの従魔となった。
ビーツ、二十五体目の従魔である。




