44:【聖典】とは何ぞや
気を持ち直した伯爵と、目覚めたセレナを連れて応接室へと帰って来た。
ソファーにオレ、デューク、ビーツと並び、向かいには伯爵、セレナとなぜかクロがそちら側に居る。
どうやらセレナが離してくれないらしい。
「ふぅ、なかなか驚かされたが、さすがはユーヴェ殿の推薦だと感心したよ。これならば護衛も問題あるまい。な、セレナ」
「はいっ!クローディアお姉さまならば安心ですわ!」
「ははは……」
クロが相変わらず乾いた笑いを見せる。
「あの失礼ですが、どうしてバルデスさんたちが護衛ではいけないのでしょうか。クロとの戦いを見てもバルデスさんが劣るようには見えませんでした。なぜ冒険者、しかも王都ギルドの冒険者に護衛依頼をするんですか?」
「ふむ。これは当家の恥部なのだがな……」
聞けば、数代前の巫女の護衛は、自前の衛士だったらしい。しかし『奉納の儀』の最中に謀反を起こした。
欲に目がくらみ、水神に手を出そうとしたのだ。
「『水神の祠』の最深部には大扉があり、そこは巫女の力でしか開けることは出来ない。その先は水神様の住処だ。その者は当時の巫女が大扉を開けると、巫女に攻撃を仕掛け、水神様の住処へと入って行った。まぁその者は当の水神様に倒されたわけだが……」
水神様は攻撃された事について特に問題視はしていないらしいが、唯一交信できる巫女に危害を加えた事に対してご立腹だったとか。
そこから当時懇意にしていた王都の冒険者ギルドマスターへと話しが行き、それ以来、毎年の巫女の護衛は王都のギルドで管理しているとの事。
何代も前の巫女って事だから、当時のギルマスもモンスターじいさんより前なんだろうな。
「そういったわけで基本的には王都ギルドの金級冒険者に頼んでいる。セレナも昨年から巫女として『奉納の儀』に赴いているのだが、魔物を間近で見たのも、それが初めてでな。相当に怖がったらしく、護衛の冒険者も苦労したらしい」
「も、もう大丈夫ですわ!あのような失態はありません!」
「まぁそれもあって、君たちの実力が見たかったというわけだ」
なるほど。セレナがオレたちを信用しなかったのは、単に年齢とかだけじゃないんだな。
怖いから安心したかったのか。
ま、安心させるのはクロに任せよう。
「分かりました。それでは当日は護衛任務に就かせて頂くという事で……四日後に来ればよろしいですか?」
「そうだな。二の鐘(朝九時)頃に来てくれ」
「承知しました。よろしくお願いします」
それから領主館を後にした。
クロにくっついていたセレナを剥がすのに苦労した。
巫女様の将来が心配です。
…
……
………
「四日後か。それまでどうする?」
領主館を出て歩きながら相談する。
「下手に依頼を受けるわけにはいかないな。一応昇格試験なんだから」
「私は訓練したいわね。実戦あるのみよ。適当に魔物狩ってお金稼げば一石二鳥だし。ビーツも海の魔物がどうこう言ってたじゃない」
「はい!出来れば海岸線とか海辺で魔物探索したいです!」
「いいんじゃないか?『水神の祠』に蟹・貝・亀の魔物とか出るって言ってたし、予習は必要だろう」
結果、午前中は四人で海岸線の魔物狩り。午後は個人で適当に、となった。
この日は港町を散策し、港や海岸を様子見、屋台の海鮮焼きに舌鼓を打った。エビが美味い。
午後ともなると市場も静かなものだ。今度、来れるようなら朝方に来よう。
早々と宿に戻ったオレたちは、部屋で思い思いに過ごす。
オレは魔力操作しながら魔力を消費する日課の作業。
クロは庭で素振りをした後に、刀の手入れをしながらうっとりしている。まぁ花鳥風月はカッコイイから気持ちは分かる。
デュークとビーツは何やら書き物。手紙でも書いているのかと思ったら違うらしい。
「モンスター図鑑を更新しないといけないんです」
そう言えばビーツは村から出る時にモンスターじいさんに魔物図鑑を完成させるよう頼まれていたらしいな。
国内の魔物はモンスターじいさんがすでに図鑑登録していたはずだが、聞けば微妙な変化があるらしい。何年も前のデータだから生態が変化でもしているのだろうか。
海の魔物とかどうやって調べたのか分からんが、まだ未発見の魔物とか居そうだな。
で、デュークは何を書いているのかと言うと
「聖典だよ」
ちょっと意味が分からないですね。
いつから正式に神官様になったんですかね。
「言っておくが、この世界に『聖典』なんてものはない。だから神聖国とか宗教とかは関係ない。俺が書いたものを『聖典』と言うだけだ」
「聖書とか宗教論本とかじゃないって事?んじゃ何書いてんのさ」
「ラノベ」
えっ
ラノベ(聖典)?
ビーツもクロも「何言ってんだこいつ」みたいな目で見てる。
「えっとな、そもそもこの世界で一番のベストセラーって何だ?」
「本でって事か?……魔法書?」
「有名人の手記とかじゃないですか?」
「吟遊詩人とかが歌うような物語じゃない?」
「ビーツとクローディアが正解。いわゆる冒険譚、英雄譚だな」
お~っと喜ぶ二人。ちくしょう。
「でもさ、著者が冒険者本人の場合、冒険譚って言ってもただの日記だったり書き留めた資料みたいなもんなんだよ。それを吟遊詩人が歌いやすく物語化したのが英雄譚って感じでさ。なんて言うか地球で読んでた物語じゃなくて、それこそ聖書みたいな感じなんだよな。それはそれで面白いんだけど」
「そんで、ラノベっぽく書きたいと?」
「そうそう」
「聖典ってのは何よ、いや二つ名にした時から意味不明だったけど」
「この世界にライトどころかノベル……小説ってものがないだろう?だから別の言い回しにしなきゃいけないと思ったんだが、俺は将来的に神殿に関わりそうな気がしてるんだ。神殿組織に入りたいわけじゃないけど、実家が教会なわけだしね」
デュークの父親は村で唯一の神官さんだった。
今にして思えば辺境最前線のパーリーピーポー村で神官をやるくらいだからお偉いさんだったのかもしれない。
「んで、神殿経由での出版もありうるだろう?そんな冒険譚・英雄譚があれば、それこそ『聖書』『聖典』って言えるんじゃないかと」
「……ん?つまり五歳の二つ名決めた時点でラノベ作家を狙ってたって事か?」
「そうそう」
まじかこいつ。
『聖典のデューク』って、『ラノベ作家のデューク』ってことだったの!?
「神殿に勧誘されてたから、逃げる為に冒険者になったんじゃないの?」
「それは本当だよ。世界中の冒険譚を見たいってのもあったし、でも実際に冒険しながら冒険譚書いたほうがいいだろう?なんせ事実なんだから」
えっちょっとまって。
「まさかオレたちの冒険をラノベ化してんのか!?」
「そりゃそうだろう。六属性魔法使いのアレクに、チートテイマーのビーツがいるんだぞ?冒険すれば英雄譚になりそうじゃないか」
「「ちょっ!」」
「えっ、私、主人公じゃないの!?」
何か一人おかしいのがいるが、まじか!?
自分たちがラノベの題材にされるのか!?ますます目立つじゃないか!
いやまて。まだ慌てる時間じゃない。こいつは趣味で書いてるだけだ。何も出版されるわけじゃない。これが人目につく事なんて――
「王都の図書館で聞いてな、出版に関しても取り付けて来たんだ。商業ギルドでな。いやぁ異例の速さで昇格してる銀級冒険者でチアーゴ盗賊団も壊滅させたとか、すでに噂になっててな。話が早いのなんのって」
慌てる時間だった!
「おいデューク!考え直せ!絶対に売れないからそれは破棄しろ!もしくはオレの存在を小説から消せ!」
「そ、そうですよ!デュークくん!せめて僕の存在をモブAに!」
「なんで私が主人公じゃないのよ!あ、どうせなら超絶美少女の侍ガールとして『ござる口調』にしようかしら……」
それから三人(二人)であれこれ粘ったが、デュークの意思は固かった。
うちの財務大臣兼外務大臣を甘く見ていた。
実際に売り出すまでに相当時間かかるみたいだし、その頃には他国にいる事を期待しよう。




