42:突撃!隣のファンタスディスコ伯爵邸!
ファンタスディスコはサレムキングダム王国の四大都市の一つと言われている。
港町という事もあり、買い付けの商人や冒険者が多い。当然、宿の数も多い。
そんな中、オレたちが選んだのは『猫の水遊び亭』という中級冒険者用の宿だった。
「いらっしゃいニャー」
受付嬢は案の定、猫の獣人(♀)。
サタデーナイトでも王都でも『猫の〇〇亭』という宿だった為、なんというか安心感を求めてしまったのだ。
今まで悪い宿には当たっていない。ならば今度も猫だろう、と。
結果を言えばやはり、猫にハズレなし。
夕食で出てきた魚の煮つけは、味付けがシンプルながらも美味く、スープも貝の出汁がよく出ている。
思えば海魚を食べたのは、転生してから初めてじゃなかろうか。
日本食とは味が全然違うのに、ふと日本の事を思い出すような、ほっとする味で、大満足だった。
部屋に帰ってからも四人で「あーうまかったなー」と感慨に耽っていた。
もうファンタスディスコに居る間は、ここの飯で決まりだな。さすがに昼間は外で食べるけど。
…
……
………
翌日、オレたち四人はファンタスディスコ伯爵の家、つまり領主館へと向かっていた。
本当は明後日までに伺えばいいので、それまで観光とかしてようかと思ったが、先に顔見せはしておこうという話になったわけだ。
宿の前の大通りを海方面へと歩き、突き当ればそこは港。右に曲がれば『水神の祠』方面。左に曲がれば領主館だったな。
歩くこと三十分ほどで大きな建物が見えてくる。豪邸だ。
立派な門の前には衛士が二人、槍を構えて立っていた。
「何者だ。ここはファンタスディスコ伯爵邸である」
「すみません、オレたち『魔獣の聖刀』という冒険者パーティーですが、依頼でやってきました」
そう言って、依頼票の写しを見せる。
「ふむ……なんと、お前らが巫女様の護衛を!?」
「何っ!まだ子供ではないか……!」
もう何度、こんな驚かれ方をされたのだろう。
オレたちは、いつも通りにギルドカードを見せ、一応の納得をしてもらう。
衛士の一人が「ちょっと待っていてくれ」と邸内に確認へと向かった。
しばらくすると、衛士の人が、メイドさんを連れて戻って来た。
「待たせたな。伯爵様が中でお話しになるようだ。こちらのメイドに付いて行ってくれ」
「はい。分かりました」
姿勢正しくお辞儀をするメイドさんに付いて、中庭を抜け、家に入る。
中庭には庭師の姿、家に入れば幾人ものメイドや執事が見受けられる。やはりこれだけの豪邸には使用人さんも大勢いるもんだな。
ふと、武器を携帯したままでいいのかと疑問に思ったが、言われたら預ける形でいいだろう。
そんな事を考えながら、オレたちは応接室へと案内された。
「そちらのソファーにお掛け下さい。只今飲み物をお持ちします」
いちいち丁寧な所作でそう促す。
オレたちは大きなソファーに四人並んで座り、出されたお茶には手をつけない。
貴族とこうして会うのは初めてだが、転生前の社会人としての記憶がある。面接や営業のような感じだな。
ちなみに王族にあったのはノーカウントです。ギルドのお偉いさんも貴族ではないだろうからノーカウントです。
「待たせてしまったかな」
しばらく待っていると、そう言ってダンディーヒゲのおじさまが入って来た。
四人で席を立ち、一礼する。
「いきなりの訪問で申し訳ありません。お忙しい所、恐れ入ります。我々は冒険者パーティー『魔獣の聖刀』と申します。よろしくお願いします」
「ほぉ、年端もいかぬ冒険者と聞いたが、なかなかどうして。私はこの町の領主、デカルト・ドル・ファンタスディスコだ」
伯爵に手でソファーに座るよう促され「失礼します」と席につく。
すぐにメイドが伯爵にお茶を用意し、それを一口。どうぞと手で言われ、冷めたお茶に口をつける。うん、冷めても美味い。
「依頼書の確認は済んでいる。君たちが王都ギルドで依頼を受けたという事でいいかね?」
「はい。ギルドマスターから金級冒険者への昇格試験も兼ねての依頼という事でお受けしました」
「ん?ユーヴェ殿から直々に、か?」
「……すみません、『ユーヴェ殿』というのが王都の冒険者ギルドマスターでしたら、その通りです」
「はっはっは。そうだ。王都の冒険者ギルドのギルドマスターが『ユーヴェ殿』だ。綺麗なエルフの御仁だったろう?」
しまった。自分の所属先の上司の名前を知らないとか……元社会人失格だわ、これ。
ちらりと横を見る。よし、三人とも知らないな。オレだけが悪いわけじゃない。
「しかし、ユーヴェ殿が直々に君たちに依頼をしたとはな。例年この依頼は金級冒険者に出すものとしている。一般依頼と同じく受付で依頼を受けて終わりだ。昇格がかかっていたとしても金級への昇格でギルドマスターが直々に依頼をするというのは聞かないな。それだけ入れ込まれているのか?」
「それはどうでしょう。王都へ行く前に、鉱山調査や盗賊団討伐とかがあったので、その流れでギルドマスターと話せたので」
「鉱山に盗賊団?ちょっと詳しく聞かせてくれ」
興味を持ったらしい。まあ、年齢相応に見られても損だしな、軽く説明しよう。
当然、従魔とか雷魔法で一網打尽とかは話さない。適当にぼやかして説明した。
「なんと!チアーゴ盗賊団が壊滅したのか!」
「ご存じなのですか?王都の南側の事なんですが……」
「この町は商人の流れが活発だからな。情報も入りやすい。さすがにそんな近々の情報はまだ入っておらんが……そうか、壊滅したとは。それはユーヴェ殿が金級に推すのも分かる」
「失礼ですが、例年この依頼は金級のものだと伺いました。我々はまだ銀級です。その……よろしいのでしょうか?」
「そうだな。それも気になって、こうして話しているわけだ。本当に我が娘を守れるのか、とな」
そりゃそうだろう。
娘を守る為に金級用の依頼を出したのに、銀級の十歳児が来たわけだからな。
「しかし、話しを聞くにそこら辺の金級より腕は確かなようだ。もっともユーヴェ殿に限って変な連中をよこすとは思えんしな。それに昇格試験とは言え、実質は銀級依頼となる。依頼料もその分安くなるしな。はっはっは」
金には困っていないだろうに、そう言って笑う。
こちらを安心させる為だろう。
貴族というのはもっと傲慢かと思っていたが、伯爵は随分といい人のようだ。
「ありがとうございます。精一杯がんばります」
「うむ。それで依頼の内容についてなのだが―――」
その時、コンコンと扉がノックされた。
伯爵がメイドに指示し、扉を開けさせる。
そこから出てきたのはオレたちと同い年くらいの少女だった。
巫女様か?そう思ってオレたちは再度立ち上がり、一礼する。
「来たか、セレナ。君たちも席に着きたまえ」
「お父様、こちらの方々は?」
「うむ。今年の『奉納の儀』の守役だ」
「初めまして。『魔獣の聖刀』と申します。よろしくお願いします」
「えっ……」
目を見開き、オレたちを眺めるセレナ。いや、セレナ様?巫女様?
「お、お父様!まだ子供ではないですか!それで私の護衛を!?」
「ああ、そうだ。聞けば彼らはお前と同じ、十歳だと言う。それでいて金級手前の銀級冒険者だ」
「なっ……!金級ではないのですか!この方々に私の命を預けると!?」
まあ、そう言うだろうな。
守られる本人からすれば不安だろう。
オレでもそう思う。
「ユーヴェ殿の推薦でもある。金級相応の力があると私は見ている」
「わ、私は信じられませんわ!そのような事!」
「ふむ……ならば、力の片鱗が見れれば納得するか?実際に自分の目で見てみるといい」
「わ、分かりましたわ」
「『魔獣の聖刀』の皆、悪いが中庭で模擬戦に付き合ってくれないか」
あー、そうなるか。
予想していた展開ではあったがな。
「わかりました」
「すまんな。もっとも、実力をこの目で見たいのは私も同じなのだがな」
伯爵はそう言って、ニヤッと笑った。
まったく貴族ってのは食えない人種だな。




