41:冒険者ギルドでの一幕
「で、お前らは依頼?観光?」
「依頼です。水神様の奉納の儀で、巫女様の護衛です」
「あーあれかー。俺も前にやったぞ」
「そうなんですか?」
聞けば十年ほど前に、同様の依頼を受けたらしい。
昇格試験うんぬんじゃなさそうだけどな。
フェリクスさんは見た目が二十台半ばだから、十台半ばで受けたのかな?その時もソロで?
「良ければその時の依頼の事、教えて貰えませんか?予習がてらどんな依頼になるか聞いておきたいんです」
「おー勤勉だねー。後輩にものを教えるのも先輩のつとめ……って言いたいとこだけど、今回はダメだな。俺は俺で依頼中なんだわ」
「そうですか……。いえ、無理言ってすみません」
「それになにより、教えるのめんどくさい」
「「「「……」」」」
あー、この人『怠惰』だわ。
依頼中とかよりも面倒臭いほうのが上だわ、絶対。
「まー、今度会ったらよろしくなー」
そう言って、フェリクスさんはまたデイドの上に寝転がった。
ずっとビーツを凝視していたデイドは、のっしのっしと歩き出し、オレたちから離れて行った。
「あれがアダマンタイト級か。いろんな意味でスケールでかい人だな」
「見た目はふっつーのお兄さんなんだけどね、とても凄腕の剣士には見えないわ」
「剣士なの?フェリクスさん」
デイドが強いからアダマンタイト級ってわけじゃないのか。
ちゃんとフェリクスさんも強いんだな。
「大剣使いとして有名よ。マンティコア……デイドだったわね、あの従魔もめちゃくちゃ強いらしいけど」
「人馬一体というか、人獣一体ってやつらしいな」
「へぇ、でも剣なんか持ってなかったじゃん。かばんとかも持ってなかったし、完全に手ぶらだろ」
「それがマンティコアのすごい所なんですよ!」
意気揚々とビーツが会話に乗って来た。
なんでも、マンティコアには固有魔法で『インビジブル(透明化)』というものを持っているらしい。
基本はその魔法で自身の姿を消し、不意打ちに使用したりする。
従魔となったマンティコアはどうなのかと言うと、ビーツの予想でしかないが、デイドはおそらく自身だけでなく召喚士も透明化できるのではないか。さらに言えば、荷物や体の一部を指定して透明化できるのではないか、との事。
魔法使いのオレからすれば、なるほどと言わざるを得ない。
自身にかけるバフ系魔法を他人にかけるようなものだろう。ただ、荷物にバフ系魔法をかけるイメージが湧かないが……。
と言うか、わざわざ荷物を透明化する意味が分からん。
ま、あの人のことは深く考えるだけ無駄な気がする。
なんか短い出会いだったが、そう思わせるのに十分なインパクトがあった。
…
……
………
大通りを進み、冒険者ギルドへとやって来た。
大きさはサタデーナイトのギルドとさほど変わらない。
だが、夕方という事もあって、依頼完了の人で結構賑わっている。
奥にある酒場も盛況だ。
受付の列に並ぼうとした時、声が響いた。
「おいおい!ガキどもが何しに来たんだぁ!?」
振り返るとそこには赤ら顔で、にやけながら近づく男の姿があった。
かなり大柄な三十歳ほどの男性で、スキンヘッド。山賊にでもなりそうなチンピラ風の男だ。
「おっ!嬢ちゃんいい女じゃねーか!こっち来て酌しろよ!なんだったら俺様のパーティーに入れてやるぜ!はっはっは!」
突然のそのセリフにクロが逸早く反応した。
「来た!私の勝ちね!果実水おごりね!」
「いや!あれはサタデーナイトだけのやつだから!ノーカン!ノーカン!」
「ふざけんじゃないわよ!有効よ!約束よ!」
「なんでよりによって、そのセリフなんですか先輩。せめて『ガキの来るとこじゃねえ!』でしょう……」
「『酌しろよ』で止めておけば良かったのに……」
「おっさん、もう少しセリフ考えてから、からめよ!おかげで果実水おごるはめになったぞ!どうしてくれる!」
「えっ、お、おう……すまん……」
なんか酔いが覚めちまったみたいだ。
くそう。ここから「ごちゃごちゃうるせえんだよ!」と突っかかってくるのに対して、ねじ伏せる事も考えてたんだが、無駄になっちまった。
「はぁ。いやもういいや。おっさん、酒はほどほどにしておけよ?」
「お、おう……」
トボトボと酒場に戻るおっさんの背中に哀愁を感じる。
周りの人たちは「なんなんだ一体……」という目で見てくる。
まるでオレたちが悪いみたいじゃねーか、ちくしょう。
「あなたたち、すごかったですメェ」
列に並んだ先の受付嬢さんが開口一番にそう言った。
おそらく山羊の獣人だ。羊じゃないと思う。
「ヘキサポリスさんは新人に絡むのが多いんで、よく注意されてるんですメェ。でもあんな返され方されたのは初めてですメェ。いい薬ですメェ」
ヘキサポリスさんって言うのか、あのおっさん。めっちゃカッコいいじゃないか。
「で、冒険者登録ですかメェ?だったら右端のカウンターになりますメェ」
「あ、いえ。オレたち『魔獣の聖刀』というパーティーなんですが、依頼で王都から来まして、しばらく滞在する事になるんで、その連絡に」
そう言って、ギルドカードを出す。
「ぎ、銀級!?」
周りの視線が一気に向けられるのを感じる。
「うっそだろ」「まだガキじゃねーか」「俺より上!?」などなど騒がしいが、慣れているので無視だ。
ついでに王都のギルマスから預かった手紙を出す。
中身は巫女様の護衛の依頼を受けることについてだろう。
受付嬢さんは平静を取り戻すように手紙を受け取ると、中身を確認した。
「き、金級昇格!?」
おいおい、受付嬢さんが冒険者の個人情報を漏らすんじゃありません。
フェリクスさんに依頼内容とか言ったように、オレたちが自分の情報ばらすのはセーフ。ただ受付嬢、てめーはダメだ。
ほら見ろ。周りがさらに騒がしくなった。
「あー、依頼の内容がどんなもんか確認したいんですが」
「コホン、すみませんでしたメェ。取り乱しましたメェ。依頼の護衛は五日後となりますメェ。その前に顔見せと確認も兼ねて、ファンタスディスコ伯爵家へ二日前までに行ってくださいメェ。領主館は大通りを港まで行ってから左にまっすぐ行けばありますメェ」
「護衛の内容がどんな感じか分かりますか?」
「はい。毎年行われていますし、その内容も分かりますメェ。詳しくは領主様にお聞きする事になると思いますが、概要だけでもお話ししますメェ。『水神奉納の儀』は領主様のご息女である巫女様が、御一人で水神様とお会いし、お話しする事になりますメェ。場所は町の東の外れにある『水神の祠』という洞窟の奥ですメェ。護衛は巫女様を祠の奥まで、お連れする事が依頼内容となりますメェ」
「つまり『水神の祠』の道中には何かしらの危険があるって事ですか?」
「魔物が出ますメェ。『水神の祠』は『水神奉納の儀』以外で入る事は禁止されていますから、事前に間引く事も出来ませんメェ」
年に一度しか入れない洞窟に魔物がいるのか。
一年分溜まったやつを、倒しながら奥を目指せと。
「と言っても、出てくる魔物は銅級や、せいぜい銀級相当ですメェ。ブルースライム、ロッククラブ、ソールシェル、バイトタートルなどですメェ」
ちらりとビーツを見る。
うんうんと頷いている。大丈夫そうか。
いや、オレはそんな魔物知らないし。強さ分かんないし。そういうのはビーツの担当だし。
「分かりました。他に何か気を付けた方がいい事とかありますか?」
「祠の中は、濡れた岩盤のようなもので、あちこちに水溜りや小さな川がありますメェ。あなたのようなサンダルではなく、ちゃんとした靴を―――」
「分かりました。ありがとうございます」
無理矢理話しを断ち切って、お礼をし、その場を去る。
多少滑りやすいとかでも、オレはサンダルを変える気はない。
蒸れない事が第一なのだ。たとえそれが金級昇格の大事な依頼であってもだ。
「ぶれないなぁ、アレクは」
「臭くないわよ?気にしすぎじゃない?」
「黙れ。お前らにオレの気持ちは分かるまい。『神託の儀』で告げられ、タマモやオロチから『五メートル以内立ち入り禁止』と言われたオレの気持ちなどな!」
消臭魔法は、日々研究している。
それでも未だ審査員からOKは出ない。
この魔法が完成したら、スクロールにして売ろう。きっと同じ悩みを抱える人が救われるはずだ。
依頼カウンターの次は買い取りカウンターだ。
ここまでの道中で狩ってきた魔物の素材を一気に売る。
途中までサガリの馬車だったので、いつもは魔石と牙しか取らないウルフの毛皮とかも剥ぎ取りしてきたのだ。
『おおおっ!』
周りがまたざわつくが気にしない。
金額も相当だが、王都で白金貨とかの話しをしていたせいか、大金の感覚が麻痺しているような気がする。
とりあえず預けるまでもない金額と思って、全て受け取り、財務大臣にパスした。
「いや、お前らも少しは持てよ……」
大臣が何か言っているが、オレらはオレらでお小遣い持ってるし、パーティー資金はデュークに一任する。
冒険者ギルドでやる事を終えたオレたちは、人混みを抜け、早々に立ち去る。
さて、宿屋を探そうか。




