38:王都ぶらぶらショッピング
「それとおまえらには伝えておかなければならない事がある」
「なんです?」
「トロール・キングの魔石と魔族の件だ」
ギャラン山でトロール・キングを討伐した際、トロール・キングの左胸にはブローチのような魔石がついていた。
それは蔦によって縁取られ、その蔦はトロール・キング自身の魔石まで伸びていた。そしてトロール・キングの魔石は通常のものより肥大化していたらしい。
さらにそのトロール・キングを『育てていた』という『四天王バルトフェルト』という魔族。
これらはセルティックさんから王都のギルドに問い合わせていて、何か分かれば連絡する……という事だった。
この場でその話しが出るという事は何か分かったのか?
「この件は国にも報告済みだ。魔法ギルドの連中にもな。モンスターの権威や魔法の権威の意見も聞きながら議論した」
国にも行ってるのか。
それもそうか。トロールはともかく、魔族が絡んできているんだからな。
「トロール・キングの胸に付いていた魔石だが、おそらくマンイーターかそれに類似した魔物のものである可能性が高いと分かった。要は食人植物系だな。それに魔族特有の魔法が施されており、その内容はほとんど解析できない。唯一分かったのは、おそらく『魔力を吸収する』魔法だという事だ」
マンイーターは人間を食べてそれを養分とする魔物。
『魔力の吸収』というのは、それに似通ったものだろう。
吸収したいが為にマンイーターの魔石にした……とも考えられる。
「大気魔力から吸収したのか、倒した魔物から吸収したのかは分からん。しかしそれによってトロール・キングの魔石は肥大化した。そして、それを行ったのが魔族だという見解だ」
じゃあなぜ魔族はトロール・キングの魔石を肥大化させたのか、という疑問が出る。
「考えられるのは二つ。トロール・キングを強くして人間を襲わせる。闇魔法のチャームや従魔にして従わせる事も出来るしな。強い魔物が魔族の手駒になるわけだ」
魔族の召喚士ならば従魔にする事も出来るかもしれない。
ビーツ級の召喚士がもし居れば、大変な事態も考えられる。
チャームは一時的に魅了し従わせる事が出来る。時間制限があるが、これも有用だろう。
まぁあの強いトロール・キングを操るのは至難の業だと思うが。
ビーツ級の闇魔法の素養レベルをもってしても、チャームは難しいと聞いたことがある。
「もう一つは、トロール・キングどうこうではなく、単純に肥大化した魔石を欲していたか、だ」
「肥大化した魔石を欲しがる?強い魔物の魔石が欲しいから、わざわざ魔物を強くするって事ですか?」
「人間を襲わせる手駒が欲しければ、肥大化させずとも力のある魔物を狙えばいい。そこまで強くなくとも数で補うという選択もある。それをせず魔石の肥大化をするからには、理由があるはずだ」
肥大化させる理由が、魔物を強くする為でなく、ただ大きい魔石が欲しいだけ……か。
そんな事しなくても強力な魔物を倒せばいいじゃないか。
わざわざ育てるメリットがあるのか?うーん、分からん。あとでデューク先生の意見も聞こう。
「お前らがトロール・キングを倒してから今日まで。短い期間ではあるが、魔族を発見したとの情報も出ている。倒した事例はお前らのだけだがな。魔族側で活発になる何かしらの動きがあるのかもしれん。これは国も動いているし、ギルドとしても注意を促すつもりだ。お前らも十分気を付けてくれ」
「はい、分かりました」
「まったく、建国祭で忙しい時期に面倒なことになったもんだ」
建国祭?
何それ、と三人を見てみると「お前また知らないのかよ」的な目をされた。
どうやら知らないのはオレだけらしい。有名だったのか、建国祭。
執務室を出て、受付で報酬を受け取る。と言っても大金過ぎるので、多くはギルド預かりにしてもらう。
その後、ギルドを出ると、相変わらず人通りが多い。
オレはこれが普通で「やっぱ王都はすげーな」と思っていたが、建国祭の影響もあるのか。
「建国祭っていつから?」
「二十日後だったと思うぞ。依頼が無事終われば間に合うな」
依頼が十日後からだったから、それから帰れば確かに十分間に合うな。
「一番の目玉は魔法大会らしいわよ?」
「魔法大会?」
「サレムキングダムは騎士もそうだが、魔法の方に力を入れているからな。だから魔法学院なんてものがある」
「アレクくん出ないんですか?」
「えっ」
何言ってんのビーツってば。
「出るって、オレが大会に?」
「魔法使い同士の対戦ですからね。アレクくんなら優勝狙えますよ!」
「毎年、エントリーする冒険者も多いらしいぞ」
「殺し合いってわけじゃないしね」
聞けば、『魔法に力を入れている我が王国には、こんな魔法を使える連中がいますよ』とアピールする為の、発表会みたいなものらしい。
でも対戦相手に向けて撃つし、ダメージも負わせる。
勝敗をきっちりつけて、優勝者には賞品が出るとか。
「やだ。オレは出ないぞ」
「「「えー」」」
新人で銀級、スレイプニルにミスリルゴーレムに盗賊団壊滅、ただでさえ目立っているのだ。
これで六属性魔法使いだと知られれば、さらに目立つだろう。
そうでなくても、オレの魔法は両手から融合した属性の魔法を撃つ。こんなやつが目立たないはずがない。
賞品がなんだか知らないが、リスクが大きすぎるのだ。
「まあ、建国祭はともかく、予定はどうする?とりあえず明日は装備品を受け取るんだけど」
「ファンタスディスコまではサガリの馬車にするのか?徒歩なら五日は見るべきだが」
あー、サガリの馬車って選択も出来たのか。
今までずっと徒歩移動だったからな。
自作の風呂を荷台にする発想もこないだ出来たばかりだったし。
「ビーツ、どうだ?」
「僕は全然大丈夫です。サガリだったら多分喜んで引っ張ってくれますよ」
「じゃあサガリに頼むとするか。そうなると移動時間は短縮だな。早めにファンタスディスコに行くという手もあるが……」
「それでいいんじゃない?どうせ昇格試験の依頼を受けたから、他の依頼も受けづらいし。港町を満喫してた方がいいと思うわ」
それもそうか。王都でのんびりしてるよりも、たまにしか行けないだろう港町を散策したりする方がいいだろう。
ビーツも海の魔物に会いたがっていたし。
いや、海の魔物にどう出会うのかは知らんけど。
「じゃあ、今日は出発に向けての買い出し。明日、装備品を受け取って、昼過ぎに出発しちまうか」
「そうだな。それで行こう」
了承も得られたところで、今日の予定は買い出しに決まる。
大通り沿いにある雑貨屋で食料の補充をし、途中にあった魔道具屋でウィンドウショッピングするつもりだったが、ビーツが真剣に物色し始めた。
「シュテンに刀を買ってあげたから、オロチとタマモにも買ってあげようかと」
すると、シュバッと影からオロチが出てきた。
「マスターありがとう。やっぱりマスターは最高のマスター」
「い、いや、いつもお世話になってるしね」
こんなグイグイ来るオロチは珍しい。よほど嬉しかったのだろう。
しかしこんな熱々カップル的なものは受け付けておりません。余所でやってくれませんかねえ。
結局オロチには魔力操作を補助する為の、極太のチョーカーを。タマモには魔法の威力を多少上げる、獣人用のイヤリングを買っていた。
余談だが、タマモの人型は上位狐系魔物の固有魔法『変化』によるものだが、オロチの人型は上位蛇系魔物の固有魔法『幻影』によるものだ。
つまりオロチの人型は見せかけだけという事になる。実際は巨大な蛇だ。人型で攻撃しているように見せても、実際は大蛇が何か飛ばしてるだけだったりする。
何が言いたいかと言うと、人型用のアクセサリーは着けられないので、大蛇用である必要があるという事だ。
もちろん大蛇用など売っているわけがないので、とりあえず一番サイズの大きい魔道具のベルトを、チョーカーに見立てているというわけだ。
ついでにクロにアクセサリーを買うことにした。
「えっ、いいの!」
「クロはメインアタッカーだからな。速さと攻撃力の上がるものは着けるべきかと」
と言うことで、指輪を二つ購入した。
こう聞くと女の子へのプレゼントに思えるが、オレたちはクロを女とは見ていないのでセーフである。
淡々とパーティー資金から購入した。
一通り買い出しが終わったところで、別行動となる。
デュークは図書館へ。ビーツは宿に戻ってモンスターじいさんに手紙を書くらしい。
オレは魔法ギルドに行ってみようと思う、と言ったらクロが付いてきた。
「魔法ギルドなんて何しに行くのよ。スクロールでも買うの?」
スクロールとは使いたい魔法の魔法陣と詠唱呪文が書いてあり、魔法陣に手を当てて詠唱すると、その魔法が使えるというものである。
おばばの家にあった魔導書の簡易版かつ最新版と言える。新しい魔法はスクロールで配布され、やがて魔導書に入るわけだな。
魔法陣越しに魔法を使うことで、その魔力操作を覚えることが出来る。
実戦で使うにはスクロールをわざわざ広げるわけもなく、反復練習は必要だが、とっかかりとしては簡易なので使いたい魔法を学ぶ初期段階としては重宝されると聞いた。
まあオレの場合はイメージ優先で好き勝手に魔法を作るから、全く必要がないわけだが。
「買うんじゃなくて売る側になれないかな、と」
「えっ、魔法使いが自分の魔法を売るのって、自分の武器をばらまくようなものじゃない」
そう。実際、スクロールを作るのは研究家や引退した冒険者に多い。
現役の魔法使いは、自分だけの魔法があってもそれをバラすような真似はしないのだ。
「別に攻撃魔法を売るつもりはないよ。オレの魔法なんて売ったらとんでもないことになる」
属性を融合させた魔法なんて、飛ぶように売れるだろうが、注目度が半端じゃないだろう。
オレはそこまで目立つつもりはない。少なくとも冒険者として大成するまでは。
だから小遣い稼ぎのような感覚で、ちょっとした魔法が売れれば、という程度だ。
「風呂魔法を売ろうかとな」
「あー、なるほど」
最近よく使う風呂魔法。アース・ウォールで四方を囲み、強度を持たせ、旅先でも有用な風呂に変える。
水は別に出す必要があるが、パーティーに一人くらい水属性の適正持ちはいるだろうし、風呂じゃなくても水瓶や物入れにも使える。
使うのは土属性だけなので単純なのに今までにない魔法だ。
「確かに売れるかもしれないわね。女性冒険者なら飛びつきそうだわ」
「だろ?まぁ売れなくても試しで売ってみたいってだけだけどな」
「ちなみに詠唱とか魔法陣は?」
「それっぽいのをビーツと相談済みだ。実際に試してもみたけど、ちゃんと発動したよ」
「魔法の名前は?」
「ふっふっふ、風呂への浪漫を込めて―――『バ〇ロマン』だ!」
「……訴えられるわよ?ア〇ス製薬に」




