36:ジャーニ病は放っておいて装備を整えよう!
「ビーツ、それはないだろ」
「せめて『俺』にしなさいよ」
「今夜は反省会だな」
「うぅぅ……ごめん」
「マスターは悪くない」
「そうです!主殿、我々が不甲斐ないばかりに……!」
「ご主人は十分にかっこいいでありんす」
三大妖がなぐさめつつ、オレたちから檄が飛ぶ。ビーツは反省しきりである。まあ今回はビーツが悪い。だってこの流れでかっこよくないんだもの。反省してもらおう。
「あ、あの……師匠?これは一体……」
「ああ、すまんな。えっと―――」
一人ついて来られないエドに説明する。オレたちは冒険者パーティーで、たまたま付近にやってきたらエドの魔法練習を見かけて、声をかけたと。
「なるほど、師匠たち四人が冒険者で、そちらの御三方が従魔ですか……。人型の従魔というのは初めて見ましたが……」
「エドはここの生徒なんだろ?授業は出ないのか?」
「いえ、今年から主席で入学したのはいいのですが、座学も知っていることばかり、魔法も周りのレベルが低く、こうしてたまに自主練をしているのです。師匠たちのようなレベルの生徒が他にも居れば良かったのですが……」
この年で無詠唱のライト・ボール撃ってたからな。いわゆる天才だろう。
天才故の孤独ってやつか。この学院は貴族や商人の子供ばかりと聞いているからな。そりゃ冒険者のオレたちのほうが魔法とかのレベルは高いだろう。
しかも今年から入学ってことは同い年か?さっきデュークから聞いた情報だと、確か十歳から三年間の教育だったはずだ。
「そりゃオレたちはこれで飯食ってるんだしな。エドは貴族様なんだろ?多分。それでその力量はすごいと思うぞ?」
「いえ、師匠の足元にも及びません。あ、申し遅れました。私は『エドワーズ・デル・サレム・シェケナベイベー』と申します」
「「「「……」」」」
シェ、シェケナベイベーって言った?あれ?王都の名前だよね?って事は何、エドって王族?うっそだろ!こんな末期患者が!?
ちらりとデュークを見る。口の動きで『第一王子だ』と言っている。三人とも顔色が悪い。オレもそうだろう。
まじかよ!第一王子に『まあ見ていろ』とか言っちまったのか!クロだって剣抜いちまったぞ!ビーツなんか従魔けしかけた格好だ!
これ普通に不敬罪とか死罪とかあるんじゃねえか!?まずいまずい……(ここまで二秒)
「あ、あの……殿下とお呼びしても?」
「何を仰います師匠!どうか私のことはエドもしくは『隻眼のエド』と!」
「あ、ああ、じゃあエド。ごめん、オレたち王都に来たばっかで王子だとは知らなかったんだ」
エドに謝ったが逆に今まで通りにして欲しいと懇願されてしまった。
なんでも周りの生徒は常に敬語で媚びてくる奴もいるし、同年代で横柄な態度をとる人間などいないから、それが新鮮で楽しいらしい。
それにエドの魔法の腕はやはり天才級らしく、周りにエド以上の腕前の奴はいない。同年代でエド以上の腕前のあるオレたちを師匠と呼ぶのは当然だと。
おまけに趣味(ジャーニ病)も合うとなると、周りにいるはずもなかっただろう。天才の孤独を紛らわせるくらいならいいかもしれないな。
「分かった。じゃあ改めてよろしく、エド。オレたちは銀級パーティーの『魔獣の聖刀』だ」
「はい!こちらこそお願いします!今度ぜひ稽古をつけて下さい!」
「王族としての依頼は嫌だぞ?友達としてならな」
「はいっ!」
長々と話し込んでしまったが、授業中だろうし退散するとしよう。
しかし、稽古をつけるって言ってもなぁ。ここに忍び込むくらいしか会う方法なさそうだし、みつかったら問題だろうしなぁ。ま、気が向いたら来てみよう。
そんなことを考えながら、オレたちは学院を後にした。
…
……
………
「いやー、さすがに肝が冷えたわね」
「デュークが教えててくれればなー」
「何でもは知らないと言っただろう。エドワーズ殿下の名前は知ってるが容姿は知らん」
「あの容姿の情報があれば一発でしたね。他にいないでしょうし」
昼飯代わりに屋台の串焼きをほおばりながら大通りを歩く。
とりあえずギルドでミスリルを少し受け取ってから、『ンドラの鍛冶屋』を目指すつもりだ。
持ってたミスリルは全て『ンノーネルの鍛冶屋』に渡してしまったからな。
冒険者ギルドの前まで行くと、中から一人のドワーフが出てきた。
「おっ、ン・ドラさん」
「ん?おお、坊主たちか!ちょうど良かった。今、護衛依頼の報告をしたところじゃ。中で受け取れるはずじゃぞ」
「ああ、ありがとうございます。ちょうど良かったのはオレたちも同じで、今からン・ドラさんのトコに行こうと思ってたんですよ」
「わしの店にか?じゃあ一緒に行くか。坊主たちはンフィールの恩人じゃからな。何でも作るぞ」
ひとまずギルドの中に入り、受付で護衛依頼の報酬の受け取り、そしてミスリルの受け取り(持てる分だけ)とミスリルゴーレムの解体を差し引いた買い取り額を受け取った。
鉱山の調査依頼の報酬と、チアーゴ盗賊団の報酬はまだのようだ。
金級冒険者への試験については、また明日にギルドマスターを訪れる予定なので、今日はパス。今日は王都散策と買い物の日なのだ。
『ンドラの鍛冶屋』に到着した。
店に入ると、隅の方で正座しているンフィールが目に入る。
「ぅぅぅぅ……」
「……あの、ンドラさん。ンフィールが……」
「気にするな。お仕置き中じゃ」
ンフィールが助けてくれオーラを目から出しているが、無視しよう。ンフィールはお仕置きされるべきだ。よく命があったものだと思う。
少なくとも突っ走って鉱山まで一人で行くような馬鹿な真似は今後しないでもらいたい。
「で、わしに何を作らせるつもりじゃ?武器か、防具か、日用品か」
ミスリルの使い道として話し合っていたのは、クロの刀、シュテンの刀、四人それぞれの防具だ。
ついでにトロール・キングの素材もある。皮や牙などだ。
これもンドラさんに渡す。
「おおっ!トロール・キングか!こりゃまた滅多に見れないもんを軽々と出すのお!」
ミスリルとトロール・キングの素材は手持ちから、足りないのはンドラさんに補ってもらおう。
クロの防具は速度重視で重い金属鎧は着けられない。足甲か篭手で、動きの邪魔にならないものが出来れば……という所。
ビーツは鞭とローブがモンスターじいさんからのお下がりで、かなりの業物なので、こちらも足甲か篭手。
デュークはメイスと盾を買ったばかりなので、重すぎない鎧。
これらを順々にオーダーしていく。
「で、アレクはどうするんだ?もったいぶってたが」
「ふっふっふ、オレは……杖だ!」
「杖!?アレクってば杖持ったことないでしょ!」
「『杖を持たないのがオレのポリシーだ』って言ってましたよ!?」
そう。オレは魔法使いでありながら、今まで杖を持ったことがない。村を出る時に、おばばから餞別で杖をくれるという話だったがローブにしてもらった。
理由は『オレが両手から無詠唱で魔法を連発する』というスタイルなのが一つ。
もう一つは『杖持ってベギ〇ゴン撃てないじゃん』というものである。
余談だが『ドラ〇ゴンクエスト・ダ〇の大冒険』では極大呪文は両手を使うというルールがある。
ベギ〇ゴン、イオ〇ズン、バギ〇ロスが両手。メラ〇ーマとマヒ〇ドは極大呪文ではないので、それを合わせたメド〇ーアが極大呪文として両手に該当する。
そのルールに準じて、オレは両手での魔法にこだわっているわけだ。
「杖ではミスリルは使わんな。普通の素材になるがそれでも構わんか?」
「ええ、素材は普通でいいんですが、形状を変えて欲しいんです」
「ん?杖の形状?」
「はい。腕輪にして欲しいんです」
「……は?杖じゃろ?腕輪?」
ンドラさんも他の三人も、お仕置き中のンフィールまでもが「何言ってんだこいつ」的な目で見てくる。
しょうがない、説明してやるか。
「うーんと、そもそも杖ってなんで棒状なんだ?木材の棒に、魔石や水晶とかを先端に付けるってのがほとんどだろ?」
「そりゃまぁ『杖』だからな」
「木材の部分で魔力操作を安定化させ、魔法を制御しやすくする。魔石や水晶は、魔法効果の増幅や命中補正をかける。役割はこんなとこだろ?だったら棒状じゃなくてもいいじゃん」
「うーん、言われてみれば……」
「いや、近接に持ち込まれたら、殴ったり防いだりするでしょう。『棍』のようにも使えるから棒状なんじゃない?」
クロがいい所をついてくる。
だが、答えは決まっている。
「近接は考えないから問題ない」
「……あっそ」
「問題しかないと思うが」
「その時はデュークに頼む」
「はぁ……」
接近戦なんてやらないという強い意思だ、これは。
第一、この面子でオレが接近戦をするシチュエーションになるとは思えない。
万が一なったとして、それでも咄嗟に『殴る』や『防ぐ』という動作の前に『魔法を撃つ』が出ると思う。近接だろうが何だろうが、結局オレは魔法なのだ。
「というわけで、ン・ドラさん、腕輪状の杖を二つお願いします」
「ふーむ、面白いこと考えるもんじゃのう。両手にはめるつもりか。杖の素材として優秀なトレントの木材がある。それに魔石をはめて、完全に装飾品のような見た目になるがいいか?」
「あ、魔石に掘る魔法陣はこっちでやるんで、はめるだけにして下さい」
杖の先端に付ける魔石や水晶には魔法陣が刻んであり、それによって魔法威力の増幅などを行っている。
トロール・キングの魔石も売らずに持っておけばと後悔したが、あれは魔石肥大化の調査として売ったからしょうがない。
ンドラさんの持っている魔石を付けてもらおう。
「いいのか?杖につけるもんと違って腕輪だと小さいからな。魔法陣を描くのも大変だと思っておったんじゃ。なんなら魔道具屋にでも相談しようかとな。知り合いの魔道具屋でもいるのか?」
「ええ、こいつです」
「えっ、僕!?」
ビーツは魔法陣に漢字を使うことで、モンスターじいさんの作った召喚石をさらに縮小させた、召喚士界の革命児である。
オレの杖にも漢字の魔法陣を描いて欲しいのだ。
それによって大きい魔石や水晶がついた杖と遜色ないくらいの魔法が使えると思っている。半分、希望的観測だが。
大丈夫大丈夫!絶対やれるって!あきらめんなよ!とビーツを説得し、しぶしぶ了承させる。
そんなこんなでンドラさんへの発注は終わった。ミスリルを渡し、みんなのサイズを測る。オレもついでに測ってもらった。
「しかし『装飾品のような杖』か……。これは売れるかもしれん!さっそく作るぞ!ンフィール、手伝え!」
「やった!」
正座から解放されたンフィールが飛び跳ねる。お前足しびれてないのか。お仕置きされ過ぎて慣れちまってるのか……。
やる気のみなぎったンドラさんは明後日までに仕上げると言う。
やはりさすがファンタジーと言うのか、さすがドワーフと言うのか。
その日は、それから少し特訓して終わりとなった。
剣を抜いたクロは、煤けた剣を見てうなだれていた。
そりゃ、魔法であれだけ焼けばそうなるよ。
オレに罪悪感はない。クロが『やれ』って目で言ったからやった。オレは悪くない。




