34:(約一名が)待望の刀鍛冶に行こう!
「いってらっしゃいニャー!」
オレたちは四人で宿を出る。
昨日はパベルさんたちと夕食がてらお祝いをされた。と言っても飲み明かすような宴会ではない。
風呂にも入りたかったし、長旅で疲れていたこともあって、ゆっくり眠りたかった。パベルさんたちはそれを汲んでくれた格好だ。
それで今日はどうするかと言うと、ギルドへは明日に行けばいいし、クロがうるさいので刀鍛冶屋に行くことにする。
ついでに『ンドラの鍛冶屋』にも行き、色々と装備面を考えようかと思っている。
王都は円形の作りをしており、十字に大通りが通っている。出口の門は東・西・南。北側は王城がある為、門はない。十字の北の突き当りが王城だ。
王城の周りは貴族区。王都の北側の三分の一ほどを占める。他は商業区や庶民の住宅区などが所狭しと並び、南東・南西の隅のほうにはスラムもあるらしい。
冒険者ギルドは大通りのほぼ中心にあり、『猫の安らぎ亭』は東側の大通りから一本入ったところにある。
で、お目当ての刀鍛冶屋は北側。貴族区と商業区の境あたりを入った路地にあるという。
オレたちは鉱山にいた管理人さん(ンウィードさんという。オレは言えない)に場所と紹介状を書いてもらっていたので迷わずに来れたが、普通はこんな所、見つけられないだろう。
オレはどうもドワーフの名前が言えない病気らしいので今回は全てクロに任せている。
「すいませーん!」
テンション高めのクロが元気いっぱいで店に入る。
そこには刀を磨いているひげもじゃのドワーフが居た。どうもドワーフの顔は見分けがつきにくい。
「なんじゃ子供たちか?ここは遊び場じゃないぞ?」
「これ、ンウィードさんからの紹介状なんですけど、刀を作って頂きたいと思って」
「ンウィード?刀をお前さんに作れだと?何をたわけた事を……」
そう言いつつも紹介状を手に取り、中身を確かめる。
「……ん?盗賊団を壊滅?嬢ちゃんに刀を?ンウィードのやつめ本気か?」
どうやら盗賊団のことも書いてくれていたようだ。
それにしても信じられないんだろうな。
「嬢ちゃん、ここには盗賊団を壊滅させたって書いてあるが本当か?」
「はい。昨日衛兵さんに引き渡しましたけどチアーゴ盗賊団って言うらしいです。でも私だけじゃなくて、みんなでですけど。あ、私たち一応銀級パーティーなんです」
そう言ってギルドカードを見せる。もちろんオレたちもだ。
「なんと!本当に銀級か!それにチアーゴ盗賊団だったのか!それはンウィードも「頼む」なんて書くわけじゃな。一応聞くが金はあるんじゃな?」
「はい。ミスリルゴーレムも倒したので自前のミスリルもあります」
「ミスリルゴーレム!?それも倒したのか!」
「あ、いえ、それは私じゃなくて仲間が、ですけど」
ミスリルと金についてはビーツから念を押されていた。
今回はパーティー活動時の取得品だし、パーティー資金にしましょうと。と言うかこんなにミスリルや金があっても正直困ると。
ただ、シュテンの武器くらいはミスリルで作らないか?と言って、ビーツもそれに乗り気だった。なので……
「あ、その仲間を呼びますね」
「えっ」
「シュテン!来て!」
召喚石から現れる鬼。炎のように赤い髪を垂らし、主に膝をつく姿勢がすでに洗練されている。背中には身の丈ほどの無骨な大剣だ。
「なななななんじゃあああ!!!」
「え、あの、僕の従魔のシュテンって言うんですけど、彼女にも刀を、と……」
慌てて刀を構える店主を宥め、やっとの事で冷静にさせる。
「ふぅ……なるほど、こりゃ確かにミスリルゴーレムも倒せるわな。しかし嬢ちゃんに刀を作るのはいいが、オーガ(?)に刀など作ったことがない。二人ともちょっと裏庭に来てくれるか?太刀筋を見せてくれ」
そりゃ従魔用の刀なんて作ったことないだろうさ。
店主に付いて、オレたちも裏庭へと行く。オレとデュークとビーツは完全に見物人だ。
裏庭は意外と広さがあった。普段も試し斬りなどするのだろう、人型の木人形や、木の板などが並ぶ。
「じゃあまずは嬢ちゃん、普段使ってるショートソードであの人形を斬ってくれ。本気でな」
「本気……分かりました」
人形までの距離は二十メートルほど。クロは居合の姿勢をとる。
魔力を高めているのが分かる。普段の戦闘でも見せないほどの高まりだ。
「烈風斬!」
剣先から斬撃という名の風魔法が飛ぶ。
出したと同時にダッシュ。ウィンドウォールを巧みに使い、背中と足裏を押し出すようにブーストをかける。
烈風斬が人形に横一文字の傷を付けた直後に、同じ場所にダッシュからの居合斬り。人形は上下二つに分かれそうになるが、まだ終わらない。
そこからジャンプし、またもウィンドウォールを足場のようにして二回ほどジャンプをし、人形の真上まで来ると上段に構える。
「烈地斬!」
落下に合わせ、背中と剣をウィンドウォールで押し付けての切落。
人形は完全に破壊された。
「はぁっ!はぁっ!」
クロが息荒くドヤ顔を決める。
いや、これは本当にすごいと思う。これだけ連続で風魔法の細かい制御は難しい。思わず拍手だ。
「はぁ~やりおるのお、嬢ちゃん。こりゃ驚いたわい」
そう言うわりにはさほど驚いた様子はない。王都に一人の刀匠。色々な達人を見てきているのだろう。
「風魔法……オリジナルじゃろう?斬撃を飛ばし、ものすごい速さで近づき、空中を蹴り上がり、切落もじゃな?」
「はい。私は火属性の強化が出来ないので、風ばかり使ってます」
「剣の師匠は?」
「お父さんが衛士だったので。それと『森林の聖風』のチュードさんと、そこのシュテンに稽古してもらいました」
「教えも剣じゃろうし、使ってるのもショートソードなのに、扱いは刀のそれじゃな」
「刀を使うのをずっと意識してたので」
「ふむ。分かった。大体の形は見えた。じゃあ次はオーガ(?)の嬢ちゃん(?)じゃな」
「あ、人形はさすがにマズイんで、アレクくん、お願いできる?」
「あいよ」
オレは人形の位置にストーンウォールで壁を出す。高さ二メートル、幅一メートル、厚みが一メートルくらい。もうこれ壁とは言えないな。
それに出来るだけ魔力を込めて強度を増す。
「こんなもんでどうだ?鉄くらいにはなったと思う」
「どう?シュテン」
「試し斬りならば問題ないかと」
「お、お前さん、いきなりすごいことやりおるのぉ……。確かに鉄の強度はあるわい。まさかこれを斬るつもりか?」
「危ないんで、下がってたほうがいいですよ」
ビーツが店主に注意を促す。店主は訝し気にオレたちの横まで戻って来た。
シュテンはいつもの大剣を軽々と背中から抜き、片手で肩に担ぎながら壁の前まで歩いていく。
そして自然な動作で構え―――目にも見えない速さで一閃。
ドカン!と、おおよそ『斬った』とは思えない音がしたと同時に壁は小さな破片となり、方々に散らばる。
壁だったものはほとんどなくなっていた。
「な……な……なんじゃ……こりゃ……」
声にならないらしい。
普段からシュテンのすごさを知ってるオレたちでさえ、ビーツ以外は苦笑いだしな。
ビーツはシュテンを褒めている。褒められたシュテンも「これくらい当然です」と満足気だ。
…
……
………
店内に戻って来たオレたちは改めて、どのような刀を作るか打ち合わせをする。
店主もどうにか立ち直った。
「まずお嬢ちゃん……クローディアと言ったか。なるべく軽く鋭さを重視したもんがいいじゃろう。斬り合いするより一撃の居合狙いが多そうじゃしな。それと風魔法を多用するから魔力を伝えやすいもの、やはりミスリルがいいじゃろう。心鉄にミスリル、皮鉄に合金がいいかの」
「はい!」
「で、サイズじゃが……」
「太刀で!」
いやいや、クロの体格で太刀は大きすぎだろ。打刀にすべきじゃないのか?
店主も同じように言うが、クロは断固として太刀を欲する。
「打刀ではロマンがないわ!太刀こそロマンよ!」
言いたいことは分かるけどね。自分の命を預けるものが使いづらかったらどうしようもないと思うんだが。
しかし、もうこうなったクロを説得など出来ない。店主もしぶしぶ納得してくれた。
「まぁクローディアの嬢ちゃんの方は一応それで作るとして、問題はオーガ……シュテンのほうじゃな。あれを見る限り大太刀でも短刀みたいなもんじゃろ。純粋な力に特化した刀……うーむ」
「斬るって言うより『叩っ斬る』って感じだよな。シュテンの場合」
「鋭さは捨てて、折れず曲がらず、ひたすら重くって感じかな」
「斬馬刀?」
「あぁ斬馬刀か」
「なんじゃそれ?」
斬馬刀にもいろいろあるが、単純に二メートルほどの分厚い日本刀をイメージしてもらった。
「なるほどのぉ。それは面白そうじゃが、わしも作ったことないから試行錯誤するぞ?強度を重視するからやはりミスリルかのぉ。アダマンタイトとかさすがにないじゃろ?ミスリルは余分にあるのか?」
さすがにアダマンタイトはないな。オレたちは持って来ていたミスリルゴーレムの腕を渡した。
「ほほう!腕一本か!これなら十分じゃな!余ったら買い取るから、その分値段は差し引きでいいかの?」
「大丈夫です。よろしくお願いします」
店主も気分がのったらしく、明後日には渡せるとの事。出来上がりが楽しみだ。
しかし日本刀の製造には数か月とか一年とか掛かると聞いていたが……。さすがファンタジーと言うのか、さすがドワーフと言うのか。
ちなみに店主の名前は『ンノーネル』さんと言う。オレが呼ぶこともないだろう。
…
……
………
『ンノーネルの鍛冶屋』を出て、冒険者ギルドにちょっと寄り、『ンドラの鍛冶屋』へと目指す。
が、迷子になった。『ンノーネルの鍛冶屋』が奥まった所にあるのが悪い。
「いや、地図を無視して近道しようとしたアレクが悪い」
デュークが何か言っているが無視だ。
おそらく貴族区の近くであろう場所を歩いていると、白く大きな建物が見えた。
その手前にはグラウンド。さらに手前には林があり、林から建物までの大きな敷地が柵で囲まれている形だ。
「学校か?」
「だろうな。貴族や商人の子供が通う学校……いや魔法学院か。確か王都にあったはずだ」
柵越しに林の向こう、グラウンドを見てみるが、誰もいない。まだ昼前だし座学の授業中なのか、それとも今日は休校日なのか。
そうして眺めていると、林の隅の少し開けた場所に人影が見えた。
通りからも完全に死角で、オレたちのような迷子でもない限り、人は立ち寄らないだろう場所。
見れば、一人で的に向かって魔法の訓練をしているようだ。
「おっ、自主練か?感心、感心。ちょっと見てみようぜ」
「あまり近づくなよ?俺たちは完全に部外者だからな」
「私もここで教えてる魔法のレベルって気になるわ」
「あ、あの、どうせなら木に隠れて行きましょうよ」
結構乗り気じゃないか、デューク以外。
そして、その人影に近づく。そして次第に出てくる違和感。
(ん……?)
まず、その生徒。制服を見る限りここの男子生徒で間違いないだろう。
しかしそんな事より先に目に入るものがある。
「中分の髪型で、右が真っ白、左が真っ黒……?」
「左目、眼帯してるわよ……?」
「左手見て下さいよ。包帯ぐるぐる巻きです……」
「あれは、まさか……」
そんな風貌をした男子生徒が、魔法を放つ。
「我、隻眼のエドの名において命じる!光よ我の力となりて敵を打ち砕けっ!『ライト・ボール』!」
ライト・ボールの詠唱が全然違う。つまり適当な詠唱をして無詠唱で出したという事だ。
出した光球は普通の光属性下位魔法『ライト・ボール』。威力も速度も詠唱込みと全く変わらない。
そして、隻眼のエドとやらは左腕を押さえ、しゃがみこんだ。
「くっ!やはり光魔法を使えば、闇の力が反発するか……!静まれ、我が左腕よっ……!」
うわぁ……。
こいつぁ末期じゃないか。
ジャーニ病の末期患者じゃないか。
ヤバイやつと出会っちまった。




