26:ギャラン山の報告
翌朝、オレたちは四人で冒険者ギルドへと向かった。
一昨日の会議室へと通されると、誰もいない。どうやらオレたちが一番早かったようだ。後輩らしくて良い。
ややあって『白銀の盾』『大地の守り』『業火の赤壁』『怒涛の波紋』が揃い、ギルドマスターも入室する。
今回の依頼の総指揮はフライヤさんにある。ギルドマスターへの報告を、フライヤさんが行う。
まずは森を調査・探索した三パーティーの報告を受けた。
どこも上位種を見かけて討伐したようだが、北側を担当した『業火の赤壁』のほうは少なく、南側を担当した『大地の守り』のほうが多かったらしい。
トロールの群れが、山の南寄りにいたことから、やはり逃げてきた魔物が多かったのだろう。
そしてオレたちが調査したギャラン山の報告となる。
『トロール・キング!?』
三パーティーとギルドマスターの声が重なる。
トロール・キング相手だと『怒涛の波紋』も手が出ないのは周知の事実だし、ここはビーツの従魔が相手をしたと言うことになっている。
但し、ギルドマスターはともかく、三パーティーはビーツの従魔が三体という事を知らない。ここはうまく誤魔化してくれ、とフライヤさんには言っておいた。
「あの狐の従魔か……そんな強かったのか……」
「しかも、トロール・キングだけが相手ではない。トロールが九体だ」
「各個撃破でも私たちには無理だ。さすが『怒涛の波紋』と『魔獣の聖刀』だな」
オレたちをバカにしてるのではない。心からそう思っている。そう感じた。
ギルドマスターは『ビーツの従魔が相手をした』と聞いてから、納得した表情だ。三体の種族も知っているから当然だろう。おそらく三体とも召喚したと確信しているはずだ。
「で、そのブローチのような魔石か?ちょっと見せてくれるか?」
ギルドマスターに言われたので、オレは布袋から拳大の魔石を取り出し、それを渡す。
「ふむ……確かにトロール・キングの魔石とは別物だな。トロール・キングの魔石はあるか?」
ビーツが布袋から出し、それを見せる。
「「「でかっ!」」」三パーティーが騒ぐ。
「おい、これ本当にトロール・キングの魔石か?私は実際に何度か見たことがあるが、ここまでの大きさじゃない」
「そうなの?私は見たのがこれが初めてだけど、でも本当にトロール・キングのものよ。私も確認したわ」
ギルドマスターの疑問にフライヤさんが答える。
オレたちが手に入れた魔石は直径二十センチくらい。ギルドマスター曰く、本来のトロール・キングの魔石はもう一回り小さいらしい。
「どうやら相当な大物だったようだな……。で、改めて見るが、この魔石とそっちの魔石では色合いからして全然違うな。なぜ別種の魔石が体に付いていたのか……。出来ればこれはこちらで調査に出したいな。提出して貰うことは出来るか?もちろん、この分は報酬に上乗せする」
オレはデューク・クロ・ビーツを見渡し、頷くのを確認した。
「分かりました。でも調査結果を教えてもらうことは出来ますか?」
「ああ、君たちには知る権利があるだろう。結果が出次第、連絡する」
「助かります。魔族のこともあって、気になっているので……」
『魔族!?』
フライヤさんが引き継ぐように報告を始める。
「――という事で返り討ちにしたんだけど、やつは『モーブルディッツ様に仕えし【四天王】の一角、バルトフェルト』と名乗っていたわ」
「『手塩にかけたトロール・キングを』とも言ってましたね」
「ふむ……これは王都の本部を経由して、国に報告することになるだろう。人相なども後で教えてくれ」
「分かったわ。で、名前とかに聞き覚えはない?」
「私には分からないな。というより国が持っている魔族の情報量が他国より少ないだろう」
「でしょうね」
少し、大陸の地理について説明する。
オレたちのいる大陸の中央には魔族の国がある。国土も広い。魔族の国はその周りをかなり高い山脈が囲っている。鳥でも飛べないような高さの山脈だ。
円形の山脈には、三か所の切れ目がある。時計に見立てた場合、二時・六時・十時の場所。ここが魔族の国と、周辺国との接点となり戦いが盛んらしい。
一方、オレたちの住む『サレムキングダム王国』は山脈の外北側、十一時から一時までを領土としている。なので魔族との接点もなく、治安も良いとの事。
だからこそ『魔族の情報量が他国より少ない』というわけだ。以上、デューク先生からの受け売りでした。
「国やギルド本部ならば魔族の軍勢についても情報があるかもしれん。これも分かったら……いや、言える範囲で連絡しよう」
国絡みの機密になってる可能性もあるのか。
「報告は以上だな。では報酬は受付で頼む。買い取りは別で、個々にしてくれ。『魔獣の聖刀』にはこの魔石分を上乗せするよう伝えておく」
『はい』
「それと『魔獣の聖刀』についてだが……フライヤ、どうだ?」
「問題なし。私としては金級をお勧めするわ」
何の話だ?オレは仲間たちと目を見合わせる。
「今回の調査依頼は『魔獣の聖刀』のランクアップ試験も兼ねていたのさ」
「「「「えっ」」」」
「本来ならば適正回数の依頼を重ね、鉄級から銅級、銀級といくわけだが、君たちには力がある。それはエア・ホークの件から分かっていた。ただ圧倒的に経験が足りない。だからこそ今回の依頼で『怒涛の波紋』と組み、フライヤたちに審査してもらったわけだ」
まじかよ。いや、金級パーティーと鉄級パーティーが組むなんておかしいとは思ってたけどさ。
「その結果は予想以上のようだ。フライヤは金級にしろと言っている」
「その力はあるわよ?」
「だが、金級となると、王都の本部での審査が必要だ。ここで出来るのは銀級まで。これでも特例中の特例だ」
「登録から……六日だっけ?」
「は、はい、そうです」
銀級だとしても、すごい事だ。『白銀の盾』を始め、三パーティーに追いついた格好となる。
「私の推薦も出しておくし、王都に行けば金級への審査を受けられるだろう」
「「「「ありがとうございます!」」」」
オレたち四人は頭を下げた。
「ただ、さっきも言ってたけど『圧倒的に経験が足りない』ってのは本当よ?このまま金級の審査を受けるのはどうかと思うの」
フライヤさんが言うが、それはその通りだ。経験不足は今回の一件でも身に染みている。
戦いでも探索でも、ちょっとした事が新人とベテランの大きな差になっていると感じた。
フライヤさんが続ける。
「だから提案があるのよ」
「提案?」
「ギルマス、ギャラン山の調査は終わったけどトロールや上位種の魔物の事後調査はするんでしょ?」
「ああ。逃げた上位種が山に戻るのか、森に居座るのか不明だしな。トロールの生き残りがいないとも限らん。依頼は出すつもりだ」
「でしょうね。そこで、その依頼を私たちと『魔獣の聖刀』で受けるわ」
「えっ」という声が重なる。オレたちや『怒涛の波紋』、ギルドマスターの声だ。
「本当は二~三日ゆっくりしたい所だけど、事後調査は必要だしね。そこで『魔獣の聖刀』の特訓をします!」
「特訓!?」
「そうよ!明日から七日間、森と山を調べ尽くすわ!そこまでやれば少なくとも『冒険初心者』じゃなくなるでしょ!どう!」
「いや、ギルドとしては助かるが、ゆっくりしなくていいのか?『魔獣の聖刀』は初の大仕事だったんだ。無理はしなくていいぞ?」
再び目を見合わせる。疲れているのは本音だが、こんな機会はないだろう。金級パーティーの家庭教師(屋外編)みたいなもんだ。
三人も頷く。やっぱ同じ考えか。
「「「「よろしくお願いします!」」」」
「分かった。では改めて、ギルドからの依頼としよう。期間は明日から七日間だ」
「明日はまた一の鐘で西門集合よ。さすがに今日はしっかり休んでおきなさい。いいわね」
「「「「はい」」」」
オレたちは会議室を出て、受付のメアリさんから依頼報酬を受け取る。魔石の分の含め、驚くような金額が手に入った。て言うか魔石が高い。ボーナスも込みかな?
さらに買い取りカウンターで魔物の魔石や部位を売る。トロールの群れは『怒涛の波紋』と半分こしようと提案したが却下された。
「私たちが狩ったのはトロール二体よ。それ以外はあなた達。当然でしょ?」
むしろオロチに探索してもらった分、こちらに回すと言い出したので、それはさすがに簡便してもらった。
なので、トロール七体とトロール・キングの部位をオレたちが売ることになった。トロール・キングの牙・爪・皮は装備品に使えそうなので、とりあえず保留。
こっそりシュテンを召喚してトロール・キングの大剣を受け取り、これは売る。
ちなみに従魔が倒した魔物の半分はパーティー資金、もう半分はビーツの懐に入る。ビーツが全額をパーティー資金にと言い出したが、これは約束通りだ。
「なにこの剣!でかっ!おもっ!」
買い取りカウンターの受付嬢さんも大慌てである。
おかげでギルド内から注目されたのは言うまでもない。
これで、この日の仕事は終わりにした。翌日からの七日分の食料を補充して、あとは各自で羽を伸ばす。
デュークは本屋に行ったらしい。本当は図書館が良かったが王都でないと図書館はないらしく、本屋で少量の本を買い、宿で読んでいた。
なんでもモンスターじいさんやチッタおばばの家のほうが専門書の蔵書は多いらしい。
しかし、そんなに本を持って荷物は大丈夫なのだろうか。重くて嵩張りそうなものだが。
クロは武器屋と防具屋を見て回った。さすがに刀はないらしいが「もしかしたら王都まで行けば……」という情報を得た。
刀という武器が認知されていると分かっただけでも有益だ。防具もトロール・キングの皮から軽装鎧を作れないかと思ったが、これも時間がかかるとの事。
やはり王都に行って、一気に揃えたほうがいいだろう。金級の件もあるし、早々に王都に行きたいものだ。
ビーツは宿に戻って手紙を出すらしい。ギルドで配達でも頼むのかと思ったら、鳥系の従魔を召喚して運ぶとの事。やっぱビーツさんはチートやで。
で、オレも便乗して手紙を運んでもらう事にした。トロール・キングの魔石の件が気になるので、チッタおばばに相談してみる。ついでに両親にも近況報告。
そんな事をしていたら結構時間がかかってしまった。今から外に出るのも面倒なので、部屋で魔法の試行錯誤をして、魔力を使い切ることにする。これも日課だ。
今は氷と風を融合させて、手のひらに小さな竜巻を作っている。
「アレクくん、すごいですね、それ」
「マヒ〇ドみたいだろ?」
「ですね!」
ビーツが興奮している。なんだかんだ言って、うちのパーティーはサブカル好きの中二病ばかりだ。オレもしかり。
話が合うし、気兼ねがない。いい関係性だと思う。
さて、明日も早いし、とっとと寝ることにしよう。
…
……
………
とある場所。
石造りで豪華な室内に大きな円卓があり、囲むように十一の椅子が並ぶ。
しかし半数近くが空席となっていた。
「ふふっ。バルトフェルトのやつがやられたか」
「やつは十魔将の中でも最弱のモーブルディッツの四天王の中でもさらに最弱」
「まさに魔軍の面汚しよ」
「本人の前で最弱って言うんじゃねーよ。俺が一番分かってるっつーの」
愉快そうに笑う数人を見て、モーブルディッツが頭を掻く。
「で、本当に死んだの?相手は人間?」
「分からん。ただあいつは死ぬほど馬鹿だけど報告だけはきっちりするやつだからなー。定期報告がないところを見ると死んだっぽいな」
「案外、育てたトロール・キングに殺されたんじゃないか?」
「うわっ!ありえる、それ!」
「まぁ何にせよ、四天王の補充はしておいて下さいよ、モーブルディッツ」
「へいへい」
老齢に見える魔族の忠言に、モーブルディッツは適当に返した。
「そう言えば、今日もあいつらは来ないのか?また戦場?」
「彼らは人間どもの足止めがありますからね。戦線維持は大変ですよ」
「やりすぎると人間どもは退いちまうからなぁ。なるべく長く戦線を保つとか、俺には無理だぜ。一気にやっちまいたくなる」
「適当な四天王を人間に殺させるのもいいですね。『将の首をとった』とか言って人間の士気も上がるでしょう」
「私の四天王はダメよ!こっちの仕事があるんだから!」
「分かってますよ。将を名乗ればいいんです。適当な者を見繕いましょう」
どこかでそんな会話がなされている事をアレクたちは知らない。
四天王が合計で四十人も居ることなど知らないのだ。




