24:トロールとの死闘
もう戦いまであまり時間がない。
最終確認をしなければいけない。
「念のため聞くけど、デューク、トロールの攻撃を盾受けって出来る?」
トロールの戦いはホブゴブリン戦で見た。殴りつけたこん棒は地面をえぐっていた。
並みの十歳児ならば確実にミンチだろう。
「……出来る」
出来るのかよ!
「ただ、数回受けるのが限界だ。さらに回復に回る余裕もない。完全な壁だな」
「一応、受ける心構えはしておいてくれ。おそらくオレは固定砲台になる。守りは頼む」
「あぁ分かった。クローディアとビーツも回復薬用意しておけよ?俺に期待するな」
「「うん」」
「クロとビーツは回避最優先な。一発くらったらアウトだから」
「分かってるわ」
「了解」
「狙うのは目、足、腕。クロは魔石狙ってもいいけど、多分あいつらの皮は貫けないだろう」
「やれそうなら狙ってみるわ」
「オレは最初に一発、足止めを狙う。その後は頭狙いで撃つから」
「「「了解」」」
時間だ。結局やつらがバラける事はなかった。
『怒涛の波紋』はすでに群れの横側で、いつでも行ける態勢をとっている。
三大妖はどこか上機嫌だ。「久々に大物だ」などとこっちの緊張感を分けてあげたいくらい。
そして戦いは唐突に始まった。タマモとオロチが本来の姿になったのだ。それくらいの相手という事だろう。
タマモは馬よりも大きく、五本の尻尾はその体よりさらに大きい。全長四メートルはありそうな金色の五尾の狐。
オロチは緑がかった漆黒の大蛇。その身を持ち上げればトロール・キングの上を楽に行くだろう。
そんな魔物が急に現れ、さらには小柄(と言っても人型女性としては大柄)な鬼が迫ってくる。
「グルアアアア!!!」
トロール・キングは唸り声を上げ、すぐに迎撃態勢に入った。周りのトロールも追従する。
三大妖に釘付けになっている群れの横から、矢と魔法が飛ぶ。キリルさんとリロさんだ。『怒涛の波紋』が姿を現す。
よくタマモとオロチの姿にビビらなかったもんだ。さすが金級と感心した。
群れの端にいた二匹が『怒涛の波紋』の方へ向かう。
よし、釣れた!これで、シュテンがトロール・キング、タマモとオロチがトロール五体。『怒涛の波紋』がトロール二体を相手することになる。
本格的な戦いが始まった。
フライヤさんとチロルさんが一体ずつ受け持ち、キリルさんとリロさんが援護。要所要所でツツデバさんが回復と補助魔法に入る。
息の合った、そして非常に勉強になる戦いぶりだ。ずっと見ていたいがそうもいかない。
タマモとオロチは、まさに縦横無尽。あの巨体ですばやく動き回り、タマモは魔法、オロチは針か鱗だか分からないが飛ばしている。
シュテンはトロール・キングと大剣の打ち合い。速さや技量はシュテンが上、だがトロール・キングの体力は無尽蔵のようで長引きそうだ。って、シュテンさん笑ってるじゃないっすか。
オレたちはタマモとオロチに巻き込まれないよう、後方で戦況を見つめる。
いつ敵に迫られてもいいように、ずっと構えっぱなしだ。
怖い気持ちもあるが、それにも増して集中力を要する。もう流れる汗も気にならない。
長いようで短い時間、そうしていた時に、ビーツが喋りだす。
「! オロチ!? ……えっ!分かった!みんなはこのままでお願い!僕らで何とかするから!大丈夫!みんな頑張って!」
おそらく念話だろう。従魔と主は『パスが繋がる』と聞いたことがある。
「ビーツ、どうした?」
「うん!後ろからトロールが二体来るって!」
「っ!これで全部じゃなかったのか!ちきしょう!」
「私たちで迎撃……でいいのよね!」
「ああ!この場は三大妖と『怒涛の波紋』に任せる!オレたちは後方だ!近づけさせるな!」
「「「了解!」」」
後方の森に入る。トロール・キングとは百メートルは離れただろう。トロール二体と戦うのは森の中にする。
森の中での戦いとなれば小回りのきくオレたちのほうが有利だ。
唯一の懸念はビーツの鞭だが、村での特訓はいつも森の中だったって言うし、問題ないだろう。
トロールを待ちかまえながら、手早く補助魔法をかける。
クロは武器の鋭さを上げる風属性中級魔法『シャープ・エッジ』を。ビーツは武器の硬度を上げる土属性中級魔法『ストーン・ウェポン』を、それぞれ詠唱込みで。
デュークは無詠唱でパーティー全体に、物理攻撃を緩和する水属性中級魔法『アクア・ベール』をした後、自らに詠唱しての常時回復を促す光属性上級魔法『リジェネイト』をかける。
オレたちのパーティーは補助魔法が苦手だ。オレも攻撃魔法ばかりだし。イメージがそもそも沸かないので、どうしても詠唱込みになってしまう。
その点、デュークは優秀だ。回復術士を名乗るだけあって、中級までの補助魔法ならば無詠唱で行使できる。今度、こつを教えてもらおう。
そうこうしているうちにトロール二体が視界に入る。
獲物を見つけたように、こん棒を振り上げ、木々をぬって走ってくる。が、その速度は遅い。
先に説明していた通りに、先制はオレの仕事だ。
両手に氷属性の魔力操作を行う。当然無詠唱で魔力を込める。
「はああああ! アイシクル・ガーデン!」
言うと同時に地面に両手をつける。前方に向かって氷の道が出来る。トロールにぶつかる直前に広がり、トロールの足元を瞬時に凍らせる。
二体それぞれの地面から足首にかけてを凍らせ、動きを阻害する氷属性中級魔法だ。再現魔法ではない。
「グラワアア!!」
突然、足元が凍ったトロールたちは慌てて、バリバリと無理矢理に足を引き上げる。
やはり時間稼ぎにしかならない。だが、その足は止まった。今はそれで十分だ。
クロがウィンド・ウォールのブーストをかけ、低い姿勢からの居合斬り。ザシュッ!と膝あたりを斬りつけ、即座に離脱。
「かったい!やっぱ無理ね……!」
クロがそう呟く。やはりトロールの皮は異常に硬いらしい。さらに体力もあるやっかいな敵だ。
続けてビーツの鞭がもう片方のトロールの目を狙う。
コンパクトに横薙ぎされた鞭はトロールの両目に命中した。
「よし!」
「安心するな、ビーツ!ヒットアンドウェイを続けろ!」
「う、うん!了解!」
目を潰されたトロールは当たりかまわず、こん棒を振り回す。近づくのは困難だろう。こっちはビーツに任せる。
もう片方のトロールは斬られたことに怒ったのか、クロに向かってこん棒を振り下ろす。
しかし、速さがウリのクロには当たらない。振りかぶった時にはすでに届かない位置に退避している。
オレも様子を見ているばかりじゃない。
アイシクル・ガーデンを撃った直後に、雷属性下級魔法『サンダー・ボール』をトロールの頭上に投げる。
それ自体は攻撃用ではない。次々にサンダー・ボールを作っては投げ、トロールたちの上に浮かび上がらせる。
今、頭上のサンダー・ボールは十個となった。
「クロ!ビーツ!退けっ!」
オレの言葉に反応して二人が離れる。
それを見届けると、十個のボールと繋いでいた『パス』を五本ずつトロールに投げつけ、一気に魔力を放出。
「これがオレ流のギガ〇インだああ!!!」
バリバリバリ!サンダー・ボールから十本の稲妻が落ちる。トロールの体の所々が焦げ付き、煙を上げる。
しかしまだ死んでいない。だと思ったよ!
と言っても、麻痺までいかなくとも痺れはあるはずだ。動きはさらに落ちるはず。
そう思って追撃の魔力を練ろうとしていた矢先、チャンスと見たのか、斬りかかったのはクロだった。
「はああああっ!!!」
いつもはウィンド・ウォールを応用して突進力にしているが、それを下から上に。つまりジャンプして風の壁で持ち上げ、さらにジャンプと空を駆け上がる。
さながら風属性上級魔法の浮遊魔法『エア・フロート』だ。
トロールの頭上まで行くと、上段の構えになる。今度は、ウィンド・ウォールを自分と剣にも押し当て、斬り下ろしの威力を高める。
先ほどのシャープ・エッジの効果もある。その威力は跳ね上がる。
ザシュッ!
トロールの首に吸い込まれたショートソードは、皮の硬さに阻まれることなく振り切られた。
首の半分以上が斬られ、血が吹き出す。
いくら体力に自信のあるトロールと言えど、首を斬られればお終いだ。
「よしっ!」
その声に安堵はない。もう一体のトロールに向き直る。
が、両目を潰されたトロールはすでに隣に居なかった。
オレが攻撃した時の声に反応したのか、こん棒を振り回しながら、こちらに向けて走ってくる。
「はあっ!」
トロールの背中からビーツが鞭をふるい、足の肉をえぐるが、それを気にする素振りもない。
「デューク!」
「おう!」
もう距離もない。あと一体の目の見えないトロール。これは一気呵成に攻めるしかない。
デュークは正しく壁役となる為に、前に出る。
「『金剛不壊』!!!」
デュークの体が光に包まれ、トロールを盾で受け止める。
こん棒が慌てて振り下ろされるが、これも盾で受ける。
金剛不壊はデュークの編み出した技らしい。後で聞いたのだが。
『アクア・ベール』での物理攻撃緩和、火属性中位魔法『ビルト・コート』での身体能力向上、さらに『リジェネイト』での常時回復を合わせたものだと言う。
なんでも特訓の時にシュテンの攻撃力が高すぎて、なんとかしようと試みている最中らしい。
いくらデュークでも、その状態がいつまでも続くとは思えない。
三人で一気に攻める。
「おりゃあ!」「はあっ!」「てりゃああ!!!」
ビーツの鞭がこん棒に巻き付き、オレの火球が顔面を焼き、クロが背中から斬りつけた。
クロはさすがに、さっきの攻撃を連発は出来ないらしい。
「ぐっ!」
「デューク!やばくなったら退け!オレも合わせて下がる!」
デュークの光が弱り始める。
しかし、結局デュークが退くことはなかった。
ドスンと大きな音をたて、トロールが倒れ込む。
「……勝った」
クロがそう呟いて、ペタンと女の子座りをした。
ビーツとデュークが大きく息を吐き出し、膝に手をついている。
オレは流れる汗をぬぐおうとし、手が震えていることに気付く。
そうか。こんなに怖かったのか。緊張感がどっと抜けた。




