23:ギャラン山異変の原因
村でもそうだったが、街でも時間を知らせる鐘が鳴る。おそらく全国共通なのだろう。
目安としては朝の六時に『一の鐘』、それから三時間ごとに鳴り、夜の九時の『六の鐘』で終わり。
オレたちはギャラン山調査の依頼の為、西門に集まった。『一の鐘』が鳴る頃には全員すでに集合している。
『怒涛の波紋』の五人。『白銀の盾』の五人、『大地の守り』の六人、『業火の赤壁』の四人、そしてオレたち『魔獣の聖刀』の四人(+ビーツの影にオロチ)だ。
「時間が惜しいわ。森に向かいながら話しましょう」
フライヤさんがそう言うと、早歩きで先頭に立つ。
他のパーティーも追随する形だ。
「森に近づき次第、散会する。『大地の守り』は北側から。『業火の赤壁』は南側から森に入ってちょうだい。『白銀の盾』は私たちと同じく中央からよ。
森に入ったら、広く調べつつ、山の麓までを目安に進んでもらうけど、無理は禁物。先日のような群れがいないとも限らない。逃げる手を持ちつつ、探索は念入りに行ってちょうだい」
『了解』
「私たちと『魔獣の聖刀』は中央から入り、真っすぐに山を目指すわ。温存する意味でも時間的な意味でも、極力戦闘は避ける。さすがに異変の起こってる山の中で夜を越すわけにもいかないからね」
『了解』
「よし、重ねて言うけど無理は禁物。調査・報告が最優先。討伐は次点よ。いいわね!」
『了解!』
さらに速度を上げ、一気に森を目指す。途中で遭遇し、道をふさぐ形になった魔物は数の暴力で駆逐した。
ゴブリン・コボルト・ブルーウルフなどが居たが、中には少数ではあるがやはり上位種も混じっていた。
『大地の守り』『業火の赤壁』の面々と別れ、森へ突入。ここで『白銀の盾』とも別れる。
オレたちと『怒涛の波紋』はなるべく速度を落とさずに、ギャラン山へと向かう。
先頭を行くのはエルフの狩人、キリルさんだ。途中で木に登り、枝から枝へと飛び移り、それでもオレたちより速度が出ている。
模擬戦ではクロのほうが速かったが、森の中で立体的な動きとなればエルフの本領発揮という所だろう。
キリルさんの指示に従い、途中で迂回したり、立ち止まったりしながらも山を目指した。
森に入って二時間を過ぎた頃には、山の麓へと到着する。ここで小休止をとる。山に入って休めるとは限らないからだ。
水分補給と携帯食料をとり、昨日の話にあったように、ビーツの従魔を紹介しておく。
「勝てるわけないでしょ、こんなの……」
「模擬戦で一人でも召喚されてたら、確実に負けてましたね。だから召喚なしって言ってたのか……」
「なんで人型なの……」
と、驚きやら悲壮感やら疑問やら様々である。
三大妖のほうはと言うと―――
「貴様か、我が主を殴り飛ばしたというのは」
「そう、このモヒカン」
「ほぉ、楽に死ねるとは思わんでくんなんし」
「すんませんでしたあああ!!!」
チロルさんの見事なジャンピング土下座が決まった。
ビーツがあたふたしながら、従魔をなだめる。
「あ、そうだ。出てきたついでだけどさ、オロチ、山の調査って言うか探索のメドはつく?」
「了解、マスター。ちょっと待ってて」
ビーツがそう言うと、オロチが山を眺め始める。
しばらく見渡した後、左前方の山の中腹を指さす。
「あっち。気配がまとまってる」
「まとまってる?複数いるという事かしら?」
フライヤさんが尋ねる。
「あ゛?気安く話かけるな、この脳筋女」
「ちょ!ちょっと!オロチ!失礼なこと言わないで!ごめんなさい、フライヤさん!」
「あ、あぁ気にしないで……」
「了解、マスター」
フライヤさん、すっげー気落ちしてるけども……この先大丈夫なんだろうか。
「この山自体、なかなか強そうな魔物が多い。あちこちに散らばってる。でもあそこは、さらに強そうな気配が固まってる上に、周りにちらほらしか魔物の気配がない」
「その『強そうな気配』から逃げてるのかな?他の魔物が……」
「たぶんそう」
「そこに行くまでに、なるべく魔物に会いたくないんだけど、ルートはある?」
「うーん。こっち、右側から回るほうがいいかも」
「そっか。ありがとうオロチ。みんなもまた呼ぶかもしれないから、その時はよろしくね」
「はっ!いつでもお呼び下さい!」
「ほんに待ってますえ?ご主人」
「道が分からなくなったら、また呼んで」
ビーツが「送還」というと、タマモとシュテンが消え、オロチは影に戻った。
「と、いう事らしいんですけど……フライヤさん?」
「……ん?あ、あぁ、いや、おかげで探索が楽になったわ。助かったよビーツ」
フライヤさん、引きずってるじゃないっすか。
キリルさんも「僕の立場が……」とか言ってるし。
そりゃ、いくらエルフでもオロチと比べちゃだめだよ。あの子、探索とか暗殺とか専門みたいなもんだからね。
それからオレたちは、そんなキリルさんを先頭に山を進む。
魔物の数は少ないと言っていたが、居ないはずがなく、何度か戦闘をする事となった。
一番強かったのがフォレスト・ベア。これも数の暴力で対処した。
ちなみに討伐した魔物は、討伐証明の部位と、簡単に剥ぎ取れる買い取り用部位だけとっている。さすがに毛皮の剥ぎ取りをする余裕はない。
途中で影の中にいるオロチに聞きながら、先ほど言った、山の中腹あたりまで着いた。
『グアアワアアアオオ!!』『ギャッ!ギャウウアア!』
魔物の声が近い。
オレたちは息を潜め、木に隠れるように、様子を伺う。
(!? トロール……!)
(トロールがホブゴブリンを狩ってるのか……?)
そこにはホブゴブリン五体にこん棒を振るう、二体のトロールが居た。
その周囲にはすでに死んでいるゴブリンも数体いる。
フライヤさんが『ちょっと下がるぞ』とハンドサインを出している。オレたちは音を出さないように五十メートルほど下がった。
キリルさんは見張りに残るらしい。
「ビーツ、顔色が悪いぞ?どうした」
デュークがビーツに小声で話しかける。
「……フライヤさん、ギャラン山にトロールの討伐依頼って今まであったんですか?」
「……えぇ、ここ一年では五件だと思うわ。いずれも一匹ずつ。やっかいね」
フライヤさんを始め、『怒涛の波紋』の面々は皆、険しい表情だ。
「ビーツ、どういう事だ?」
オレはビーツに問いかけた。
「……トロールは食欲旺盛で速度も遅いため、縄張りが狭く、他者の存在を許しません。ですので基本は単独行動です」
「つまり二匹いたのがマズイってことか?」
「複数のトロールが居る場合は、出産直前の番か、もしくは……」
そこでキリルさんがやって来た。
「やつら、ゴブリンを抱えて山の奥に向かったぞ」
「はぁ……確定ね」
フライヤさんが頭を抱える。
ビーツがオレたちに説明を続ける。
「獲物をその場で食べないってことは、番ではありません。となると、複数のトロールがいる可能性は一つです」
「……それは?」
「…………トロール・キングが率いているって事でしょう。多分」
「でしょうね」
ビーツの出した結論に、フライヤさんたちが頷く。
「さて、どうするか。いずれにせよ、あの二体のトロールを追って、トロール・キングの存在を確認しなければ話にならないわ。やつらの足は遅いし、逃げるだけなら簡単よ。いい?アレク」
「了解です」
「よし、キリル、先頭を頼むわ。近づきすぎず、風上に立たないように注意してちょうだい」
「えぇ分かりました」
このまま帰れば調査を達成したとも言えないだろう。
『おそらくトロール・キングがいる』としか言えないのだから。
そして、二十分ほど後を追ったところで、キリルさんが止まる。
ハンドサインで『低くして見てみろ』と言う。
トロールは醜悪な顔で肥えた体つきの魔物だ。身長は二メートルを超える。汚い腰布に、こん棒を持っている。
トロール・キングは黒なのか灰色なのか分からない肌色をしており、身長は三メートルほどと、トロールより一回り大きい。ボロのマントのようなものを羽織り、手には大剣。
オレたちが見た先、森を抜けたそこには、そのトロール・キングを囲むようにして、トロールが七体もいた。
そしてオレは気付く。トロール・キングの左胸にブローチのようなものが付いている。マントにではない。素肌にだ。
拳大の魔石の淵に、蔦が巻き付いたようなデザインだ。
(あれ、何?魔石?)と周りに聞いてみるが、首をひねる。
フライヤさんが小声で話し出す。
「調査はほんとど完了したと言っていいでしょうね。普通ならこのまますぐに帰還する」
「だなぁ。目の前の光景が悪夢にしか見えねぇや」
チロルさんが言うのはもっともだ。オレたちだって冷や汗が止まらない。
ちなみにビーツに確認したところ、トロール一体に対し、銀級パーティー一組で五分。トロール・キングは金級パーティー一組では勝てないと言われているらしい。
つまり、目の前の群れに対しては、金級パーティーが何組も必要というわけだ。四組くらいでも厳しいだろう。
「でも、こいつらを討伐するには、サタデーナイトの冒険者だけでは無理よ。王都からの応援がいるわ。帰ってから王都に依頼、援軍を待つ……それまでの間に街まで来ないという保障がないわ」
「えっ!? ここで討伐するってことかぁ!?」
「普通ならそんなことしないわ。でも―――」
そう言って、ビーツを見る。
「情けない話だけど、お願いできる?」
「はい。そのつもりです」
ビーツは真剣な面持ちで頷いた。召喚石を取り出し、タマモ・シュテンを召喚する。オロチは合わせて影から出てくる。
「みんな、相手はトロール・キングとトロール七匹だけど協力してくれる?」
「はっ!もちろんです!」とシュテン。
「当たり前ですぇ」とタマモ。
「わたしたちだけで相手するでいいの?」とオロチ。
「いや、悪いけど、私たちもやらせてもらうわ。頼んでばっかじゃ面子が立たないもの。キングはお願いするしかないけど、トロール何体かは私たちに任せてもらえないかしら」
フライヤさんが、そう言った。
金級パーティーからすれば、鉄級のビーツの従魔に全て任せるのも癪なのだろう。
オレとしても従魔に全て任せるのは反対だ。
「ビーツ、オレたちも戦いたい。だめか?」
「う、うん。どうかな?みんな」
三大妖は、オレたちの参戦には反対した。従魔としてビーツを危険な目に合わせるわけにはいかないからだ。
説得の末、どうにか多少の参戦が認められる。
作戦としては、三大妖が正面から、トロール・キングに突貫。シュテンがキングの相手をし、タマモとオロチは取り巻きのトロールの排除を最優先とする。
同時に横から『怒涛の波紋』が仕掛け、トロール(出来れば三体くらい)を釣る。
オレたちは三大妖の後方に位置し、抜けてきたトロールや、弾き飛ばされたトロールがいれば相手をする。
正直、オレたちが戦えない可能性のほうが高いが、いつでも戦う心構えだけはしていなければいけない。
「シュテンにお願いがあるんだけどいいか?」
「私に?どうした、アレク」
「トロール・キングの胸元に魔石みたいのあるの分かるか?」
「あぁ、さっき見た。あれは何だ?」
「分からない。アクセサリーなのか、まさか本人の魔石が露出してるって事はないと思う」
「だろうな。そうだったら弱点をさらけ出している事になる」
「だろ?だから、あれを傷つけないように戦ってもらえないか?……って言うか、それは可能なのか?」
「可能だが、倒すのに時間がかかるぞ?トロールの連中はオーガより体力はあるからな」
気になったから、シュテンに頼んでおいた。
聞いていたみんなも「俺も気になっていた」とか言ってるし、ここはシュテンに任せよう。
話も一区切りしたところで、フライヤさんが皆に告げる。
「暗くなる前に終わらせて、麓の森を抜けたいわ。あと少しだけ様子見して、もしやつらがバラけたら各個撃破を狙う。バラけなければ先ほど言ったとおりにいきましょう」
全員が頷いた。




