笹ななこ編
笹ななこの本に対する心情の変化をお楽しみください。この長編は立花ひかる編と笹ななこ編の2編だけです。
私も本には興味なかった。だから、ひかるの気持ちはわからないわけではない。
私は中学校の頃、あまりクラスに馴染めなかった。1人でいることにかなり緊張していた。書店に行くと、いつも手に取る本は、‘心が強くなる’とか‘悩みが消える’とか言う宣伝っぽい本に気が向いていた。心から自分のために強くなりたかったから。家庭も悪くないし、なに不自由ない生活だけど、私は辛かった。毎日強くなろうと努力していた。そんな日々が続いた。
ある日、少し異変が起きた。幻覚が見える気がする。幻聴も聞こえる。幻覚は、家具の陰とか家の襖の陰とかに見えて、そこから声が聞こえる気がする。そして、ずっとそこから監視されている気がするのだ。確認を何回もしても、何も誰も見えない。得体の知れない緊張に、恐ろしく怖くなった。
私は兄に相談することにした。兄は心理カウンセラーになるために、毎日ものすごい勢いで勉強をしているからだ。私のこの症状を、はっきりと見つけてくれる気がすると思ったのだ。はじめの頃は、話を聞いてくれた。
しかし、ある日のこと。
「俺は、まだ生徒だから、お前の症状ははっきりとわからないし、意見も対処法も言えない。だから、お前自身で心理学の勉強してみろ。自分でしっかり理解する方が、よっぽど良くなると思う。」
その言葉には、優しさと勉強が足りないという悔しさも混じっていた。私は、少し心寂しい気はしたが、その日から、図書館に行って、心理学の本を読みあさるようになった。自分の症状に似てることが書かれていたり、理解できない症状もたくさんあった。難しく書かれていて読むのは大変だが、読みがいがあったのだ。心理学の勉強は心から楽しいと思った。
たまに兄の部屋に行って、心理学の辞典を見ては、図書館で読んだ本にも同じ心理学者が載っていたものや、前に読んだ本よりも詳しく書かれている症状の例などがたくさん書かれていたので、毎日兄の部屋にいった。兄が辞書を手放せない時は、早く貸して欲しいとねだったものだ。
まだ症状が治らないものの、ある程度の自分の症状はわかって心の底から安心していた。
しかし、症状もはっきりしないし、兄からカウンセリングに誘われたので、精神外科にも行った。だが、幻覚と幻聴がある詳細の話をしても、そんなことあるわけないでしょう、と完全に否定された。そして、診断結果は統合失調症。統合失調症は、もてはやされているが、未だにはっきりと解明されていない病気なのだ。
今思えば、精神外科の先生は、カウンセリングがものすごく下手だと思った。患者の意見を否定し、未だに解明されていない症状を上げるところだ。何故下手だと気づかなかったのか。それは、私が教えてもらう立場だから、先生を信頼しようとしていた。先生の発言でかなり緊張したし、自分はやっぱりおかしいんだと自分を否定して、苦笑いするしかできなかった。
他の患者もその先生に受診しているのなら、やめておいた方がいいと訴えたい。
…ものすごく下手くその極みだから!
中学校を卒業して高校に入ると、ひかるが私によく話かけてくれる。なんでこんな活発な子が私に構ってくるのか理解できなかった。
本のジャンルは、心理学も読むのだが、小説にも手をつけ始めた。自分の症状が出るパターンがわかって、心の緊張がほぐれてきたからだ。小説は、筆者の体験や教訓も入っている本もあり、楽しいのだ。インターネットで‘悩んだ時の対処法’とか‘好きな人に好かれる秘訣’とかを調べるより、小説から学んだ方が断然いい。
…筆者の優しさもちゃんとこもってるからね。
私は将来、図書館の司書になりたいと思っている。司書は、利用者へ貸し出される資料を、全て司書が選ぶ。だから司書になると、この街の市民の読む本を選ぶのは私になるのだ。市民に悪影響を及ぼさないような本をきちんと確認したり、偏ったジャンルばかり選んではいけいないのだ。それに本は、人の意識を変えることができる。正しい本をジャンルが偏ることなく選ぶことが大切なので、ものすごく責任重大である。それに、司書が話しかけやすい雰囲気を保つことも、重要である。市民が気になる本を司書に尋ねたい時、話しかけやすい雰囲気を保つことは言うまでもない。子供の絵本の置く棚の高さを子供の見えやすいところに設置したりすることも大切である。案外、図書館の子供の絵本の棚が高すぎたり、ちゃんと調節されていない図書館もある。他にもたくさんの仕事は山ほどある。司書は案外大変な仕事なのだ。しかし、本に囲まれた職場で働きたいと思うほど、本が好きになっていた。
ひかるは本とか授業など、集中して取り掛かるものが苦手だとわかる。でも、物語が大好きみたいだ。本を読まなくても興味を持ってくれるだけで、大いに歓迎する。
それに、ひかるに本の説明をしていると、図書館の司書のような気持ちになれるから。本を読んでくれなくても、本に興味を持ってくれるところも嬉しいのだが、感想も真剣に聞いてくれるから、尚更嬉しくなる。
…それに、いずれ本を好きになってくれるように、たくさん本の話をするのは素敵なことじゃない?
「なんで私たちってこんなに対称的なのに、気があうんだろうね。」
ひかるがかわいい笑顔をこちらに向けながら質問をしてきた。
「ひかるが本の物語が気になるからでしょう?」
私は、ひかるに笑顔で返答する。
…これからずっと、ひかるに物語を教えるね。
ご愛読ありがとうございました。




