§57 会計担当者の怒り
夕食後。
俺達の部屋の明るい方で六人が卓を囲んでいる。
なお俺とアル、アン先輩は既に小さくなっている。
これから何が始まるかわかっているからだ。
「さて、ここで会計担当からお知らせとお願いです」
ヘラがそう言って計算機片手に話し始める。
「今回の旅行は交通費と宿代が無料という大変にありがたい旅行です。それに技術研究会は本年度一学期だけで正金貨五枚分の収入がありました。ですので確かにかなり贅沢な旅行が出来るのは間違いないです」
ヘラはそこで一度台詞を止め、俺達の方をじろっと見る。
いつもと違う冷たい目線が怖い。
「そして昨日、洋服代及び装備代として正銀貨五枚分程使いました。装備は全員で購入したし費用としての妥当性も確かなので良しとしましょう」
ヘラの口調もいつもと微妙に違う。
声もいつもより一オクターブ低いような。
「さて、これだけの収入はそう簡単に得られるものではありません。確かに儲けたからには使うのも美徳、でもそれには限度という物が存在すると思います。
そして本日、私とメル、ラインマインは洋服代で正銀貨二枚、銀半貨一枚使いました。確かに無駄遣いですけれど、これ位はまあいいでしょう。なお午後は食事をしながら小物を少々購入して、銀半貨一枚ほど使っています。
三人あわせて正銀貨三枚分です。
さてアン先輩、図書館組はいくら使いましたか」
アン先輩とアルがひくっ、と一瞬震えたのが見えた。
恐らく俺も同じなのだろう。
「金半貨四枚、なのだ……」
アン先輩が正直に答える。
「そうですね。正金貨にして二枚。普通の勤務をする大人の、一月分の給料手取りに相当する額ですわ」
まったくもってその通りだ。
ヘラの台詞に間違いは無い。
「御存知とは思いますがお金はそんなに簡単に稼げるものではありません。一学期のこの収入は泡みたいなものですわ。ですのでこれからの収入減と活動に備えてもう少し丁寧に使うべきであったと思います。違いますか」
口調は丁寧だがとっても怖い。
俺、アル、アン先輩三人はもう正座状態。
「違いません」
「その通りなのだ」
「ごもっともです」
俺を含めてこんな感じ。
「そんな訳で明日は分離行動は取りやめ、全員一緒に行動することに致します。なおアン先輩に預けた財布はこれで空になったので返却は結構です」
その通りだ。
全額を本に費やしてしまった。
一言もない。
「さて、この事に関しての異議は?」
ヘラ、じろりと俺達を見る。
「ありません」
「無いのだ」
「無いです」
ヘラ、怖い顔のまま小さく頷く。
「結構です。それでは明日は一緒にバザールと飲食街を歩きましょう。
会計担当からは以上です」
ふっと気分的な寒さが緩んだ気がした。
そしてヘラの口調と表情が一気に変わる。
「そういう訳で明日は私達のお洋服と小物を見まくって、美味しい物を食べまくりますわよ!いいですね」
「おーっ」
ラインマインとメルからパチパチと拍手。
でも俺達三人は固まったまままだ動けずにいた。
怖い状態のヘラって本当に怖い。
これからはお金を使う時は事前交渉をしておこう。
そう俺は硬く硬く決意したのだった。




