§56 二十万円分のお買い物
「その通りなのだ。遠慮せず買いまくるのだ!」
いつの間にかアン先輩が背後に立っていた。
そして手にはぎっしり薄い本が詰まったカゴを下げている。
なお薄い本とはこの国における漫画の別称である。
実際に薄い本がほとんどだから。
でも薄いけれど安いわけではない。
これで生活している人もいるのだから当然だ。
それがそれだけぎっしり入っているとすると……
「足りるんですか、そんなに買って」
「問題無い。これで正銀貨六枚分ちょうどなのだ」
偶然か俺と値段が同じだ。
「それより流石シルダ、カイドーに無い怪しい本があってとっても楽しいのだ。カイドーの図書館も結構揃っているのだがここはここで独自路線も多いのだ。これはいい買い物なのだ」
何となくカゴを見ると、同じ本が三冊ずつ入っていたりする。
「なんで同じ本が三冊ずつ入っているんですか」
「閲覧用と保存用と布教用なのだ!」
うん、これ以上突っ込むのはやめておこう。
「本当に掘り出し物が多くてなかなかウヒヒなのだ。特に野生のヒグマとの戦い、そして芽生えた愛情を描いた獣姦物なんてカイドーではあり得ないのだ。他にも様々な愛の形が豊富に出ていたのだ。まとめてキープさせて貰ったのだ」
「追及しませんから内容を広言しないで下さい」
恥ずかしい。
「よし、それなら僕も遠慮無く選ばせて貰おう」
おかげでアルも色々買う決心をしたようだ。
これでいいのか悪いのか。
「別にアルが買わないならそれでいいのだ。更に私が使うまでなのだ。だから遠慮しなくていいのだ。例えば北の漢達の愛情を描いた傑作『白い涙』シリーズ全二十五冊を布教用にあと二部ずつ買えばそれだけで金小貨一枚なのだ」
「いや、断固として僕自身のを選ばせて貰う!」
何だかな。
ただ、アン先輩なりのやり方でアルの背中を押したような気はしないでもない。
怪しい本その他を買う気満々なのもきっと確かだけれども。
この国は色々寛容すぎてどうも落ち着かない時がある。
何せあんな内容の本を一見小学生のアン先輩が手に取っても文句一つ言われない。
まあそれはともかくとして。
少し待った後。
アルもしっかり色々カゴに入れてきた。
どうやら買いたい本はそれなりにあったらしい。
そんな訳でお勘定。
「正金貨二枚になります。本当に宜しいですか」
何せ俺とアルとアン先輩。
誰が見ても中級学生以上に見えない組み合わせだ。
それが日本円換算で二十万円分の本を買うのだから店員さんもちょっと不審気。
「正金貨二枚、なら代わりにこれなのだ」
アン先輩が財布から金小貨を四枚取り出した。
「はい、確かに承りました。それでどうなさいますか。梱包されますか」
「カウフォードまで持って帰るので、小分けにして梱包を頼むのだ」
「かしこまりました」
店員さんが三人程やってきた。
別コーナーへ本を運んで梱包を開始する。
まず紙で包んで、少しくらい濡れても大丈夫なように防水紙でさらに包む。
型崩れしそうな薄い本は頑丈そうな紙箱へ入れた後、同じように防水紙で包んだ。
そして最後に布製の頑丈な袋三袋に入れて手渡される。
「ありがとうございました。あとサービスでシルダ図書館蔵書目録もつけさせていただきます。以降必要であればこの目録でご注文が可能です」
「ありがとうなのだ」
そんな訳で日本円にして二十万円分の本を購入。
手に持つとずしりと重い。
ちなみにアン先輩分はずしりと重いどころじゃない。
体力の無いアルの分も持っているので尚更だ。
「それにしても結局、アルが一番買ったのだ」
確かに計算するとそうなる。
俺が正銀貨六枚分、アン先輩が同じく正銀貨六枚分。
正金貨二枚分は正銀貨二十枚分だから、アルは正銀貨八枚分購入したことになる。
「すまん。ちょっと魔法の訓練についての本が欲しかったんだ。あと前から探していた事典もあったし、つい」
「でもいいんじゃないか、有効に使えればそれで」
そんな話をしながら宿へと帰る。




