§31 これも俺の弱点だ
あれから二ヶ月。
俺の通帳も技術研究会の通帳も急速かつ確実に残高を増やしている。
そして成果も徐々に形になってきた。
例えばここカウフォードでは現在水力発電所を建設中だ。
公園の川の上流で水車を回して発電するシステム。
同じようなものはカイドーでもキョーナンでも作りはじめているらしい。
この電気は取り敢えず照明用として使われるそうだ。
使われる電球も少しずつ生産されていると聞いた。
一方で蒸気機関や内燃機関については動きを聞かない。
まあ、まだ知識を出してから二ヶ月。
そんなに早く成果が出る訳も無いか。
そう思ってはいるのだけれど。
そういう意味ではヘアブラシとかパンとかはわかりやすくていい。
既にヘアブラシはここカウフォードでも出回り始めている。
パンやプリンの方は新たな作業場を作って職人を育成しているとの事。
まあ商売繁盛でいい事だ。
こっちの懐も潤うし。
学校生活の方も極めて順調かつ快適だ。
授業そのものはペースが速いけれど無理なペースじゃ無い。
前の小学校みたいに私語とか授業中に騒ぐ奴とかいなくて快適だ。
これこそ授業の正しい姿だよなと言いたくなる。
以前俺のいた小学校なんてしょっちゅう授業崩壊していた。
もう動物園状態だっただけに俺は非常に嬉しい。
クラスの連中もちゃんと言葉と論理が通じる奴ばかりだ。
先生も国立の上位校だからか出来る人が揃っている。
若干研究馬鹿に近いのもいるけれど、それはそれで悪くない。
これでこそ学校だよな。
おかげで父母には悪いが帰りたいという気持ちにはあまりなれない。
こっちの方が俺にあっているんじゃ無いかという気さえする。
でもそれは元の世界の事が気にならないという事では無い。
俺が消えた後、きっと色々騒ぎが起きただろう。
俺が突発的に家出をするような奴じゃない事は皆さんわかっている筈。
だから事件か事故かで色々探している事だろう。
せめて元気にしていると伝えられれば少しはお互い安心できるのだろうけれど。
ただこの件で今の俺に出来る事は残念ながら何も無い。
だから極力気にしないようにしている。
気にしても何も出来ないから。
ただ順調だったりこれ以上何も出来ないなりのこの生活の中。
俺が未だにこの世界の慣習に慣れない部分がある。
そしてその弱点をたった今、ラインマインに突かれてしまった。
「ねえホクト。お風呂で声をかけた時、時々無視したり反応が遅かったりする時があるけれど、何かあるの?」
風呂から寮に帰る途中での事である。
思い切りぎくっ!とする。
RPGなら痛恨の一撃という奴だ。
どう答えようか本気で考える。
ただ、ラインマインはいい奴だ。
可愛いとか綺麗だとか好きだとかを別としても、
だからかなり恥ずかしいけれど、本当の事を答えよう。
そう思って言葉を考える。
「実は混浴とかそういうのに慣れていないんだ。前の世界は初級上位学校にあたるところから着替えるのも男女別。勿論風呂は小さい頃から男女別だしさ。意識しすぎとか気持ち悪いとか思われるかもしれないけれどさ」
言ってしまった。
どうだろう。
エロいとか助平とか気持ち悪いとか思われるかな。
怖いけれどラインマインの反応を待つ。
「うーん、私は気にならないけれどな。何なら私のを見て慣れる?なんてこんな強靱種の女の子じゃ意味ないかもしれないけれど」
それは違う!
「そんな事は無い。ラインマインは可愛いし綺麗だ」
つい勢いでそう言ってしまった。
まあ実際にそう思ってはいるのだけれど。
ラインマインの足取りが止まる。
しまった、まずい事を言ったかな。
そう思いつつ俺も足を止める。




