§26 まずはヘアブラシ第一弾
まずは授業開始前の教室だった。
「アル、メル」
ヘラが二人を呼び、ラインマインと俺の席の間に集合させる。
「何だ何だ、何事だ」
「実家から手紙が届きました」
そう言ってヘラは五人にだけ見えるようにちらっと封筒から何かを出した。
正銀貨が、十枚だ。
「どうしたんだ」
そうい言って俺は気づく。
そうか、あのヘアブラシか。
「もう言っていいんですわ。あのヘアブラシ、即日完売したそうです。
そんな訳で今回の権利者取り分がこれだそうですわ」
正銀貨は一枚で一万円。
この世界で平均的な日雇い労働者の一日分の収入だ。
それが十枚か。
「結構な大金だな」
「凄い、ホクト、どうしよう」
「取り敢えずアン先輩も含めて全員で協議しましょう」
案を出した俺だけの権利じゃ無い。
形にしたアン先輩の貢献も大きいのだ。
「なお次回販売分を現在職人さん達に作らせているらしいですわ。当分は作るそばから売れていくだろうと父はみているようです」
つまりこの収入はある程度継続的に続くと。
いいのかこんなに簡単に。
俺としては戸惑いというか罪悪感すら感じてしまう。
そんな訳で授業中も気がそぞろのまま放課後を迎えた。
何故かいつも先に到着しているアン先輩にこの件を話す。
「私は別に取り分はいらん。面白いものを作れたので満足なのだ」
おっと。
職人気質というか欲が無いというか。
「でもアン先輩が形にしてくれたからこその結果なんですよ」
「それはそれ、これはこれ。私は面白いものが作れればそれが報酬なのだ」
うーん、これは埒があかないぞ。
俺も貯金は結構あるしこの生活ではあまりお金を使わないしな。
総取りというの何だし、変に分けるのも何か気を使うし。
それならば、いっそこうかな。
「ならその正銀貨十枚はこのメンバーの活動費という事で貯めておこう。俺一人の手柄じゃないしさ。アン先輩の他にもヘラがいたからこそ商品化なんて出来たんだ」
「うーん、私とかは全く関わっていないけれどなあ」
「僕もだ。それでは申し訳無い」
メルも頷いている。
けれど。
「それが一番なのだ。こういう面白いものはただ知っているだけでは生み出せない。それなりの環境なり気づきなりが必要なのだ。だからその環境に投資するというのは間違いでは無いのだ」
アン先輩が真っ先に賛成した。
「そう言えばこのヘアブラシの事を思いついたのは風呂でラインマインと髪を洗う話をした時だったしな」
そうだった。
でもそう言ってから思わずちょっと赤面しそうになる。
ついラインマインの裸を思い浮かべてしまったのだ。
皆は気づいていないようだけれども。
「最大の権利者二人がそう言うならしょうがないですね。ならこの正銀貨十枚は私が責任を持って預からせていただきます。
とりあえず金庫に預けに行きますわ」
この場合の金庫とは元の世界で言う銀行のことだ。
そう言ってヘラが立ち上がった時だった。




