§19 俺の弱点その壱その弐
翌日放課後。
俺はラインマイン、ヘラ、アル、メルという面子と摂理実験室へ向かっていた。
「しかしホクトにも弱点があるんだね」
ラインマインにそう茶化される。
「誰だって苦手な物はある」
アルはそう言ってくれるけれど。
俺の苦手な物。
それは場所を覚える事だ。
言い方を変えよう。
俺はいわゆる方向音痴だ。
何せ昨日行った摂理実験室。
行きは飛ばされてわけのわからないまま到着した。
帰りは皆について食堂へ行っただけ。
しかも摂理実験室はまだ授業で使ったことが無いのだ。
俺の方向感覚では場所がわからない。
そんな訳でラインマインに道案内を頼んだ結果。
他の三人も一緒についてきてしまった訳だ。
「ホクトについて行くと面白い物を見る事が出来そうだからな」
「しかしホクトが作りたい物ですか。今度はどんなとんでもない物なんでしょうね」
「今度は電気とかそんな複雑なものじゃない。家庭の小物くらいの感じかな」
そう、ヘアブラシである。
「それに形は考えているけれど上手く作れるかは自信が無いんだ。手先の器用さは正直自信が無い」
これも僕の弱点だ。
知識はあるけれど実践が伴わない。
電磁石を作る為くぎにエナメル線を巻き付けるのだって、綺麗に出来ない位だ。
それくらい手先の不器用さの自覚がある。
「それならアン先輩は適任ですわ。手先も器用ですし腕力も使えますし、いざとなれば魔法で加工もできますから」
流石技術研究会会長。
見かけはお子様だがスペックは上等なようだ。
「しかし遠いな、摂理実験室」
「実験棟は武道場の先だしね。万が一に備えて他の建物から離しているから。造りも土蔵造りの防火建物だし」
確かに物理化学実験室と考えたら、木造で燃えやすいのは恐ろしいな。
「この距離を僕とメルで探したんだぞ、どれだけ疲れたことか」
「アルは体力が無い」
「しょうが無いだろ、体質だ」
そんな事を言いながら無事摂理実験室に到着。
ノックするまでもなく戸は開いている。
「どうした、入会希望なら大歓迎なのだ」
アン先輩、本名はアンブロシア先輩がちょこんと部屋の中央にいた。
しかし何回見ても小学生だよな、この人は。
「ちょっと思いついた物があるので、制作をお願いに」
「そういうお願いなら大歓迎なのだ」
紙とペンを持っていそいそという感じで机のところへ。
俺の分の椅子まですっと用意しておいでおいで状態だ。
「どれ、大体の構想を教えて欲しいのだ」
俺の方を無邪気っぽい目でみてそんな事を言う。
この人、こういう事が本当に好きなんだな。
そんな訳で俺はヘアブラシの説明をする。
頭の中にあったのは向こうの世界で使っていたヘアブラシ。
柄がプラスチックで、ブラシの元がゴム板についているタイプの物だ。
ただゴムは無さそうだから、布に綿を入れて張りを出すことにする。
そんな訳で五ミリ、ここの単位だと半指くらいずつ棒が出た感じの櫛十本を布で止め、内側を綿で張り木の柄に付けたようなイメージの絵を描く。
我ながら下手くそな図だけれど仕方無い。
わかればいいんだ、こんなもの。
「この棒の間隔は半指でいいのか、もっと細かくも出来るのだ」
「半指で大丈夫です」
「あとこの棒の先も丸めでいいのだな」
「そうです」
先輩はちょっと考えた後、頷いた。
「よし、微妙に納得はいかないがイメージはわかったのだ。任せておくのだ」
そう言って立ち上がり、用具庫の扉を開ける。
「棒というか櫛の歯の部分は柳系の木材でいいと思うのだ。しなやかで曲がっても折れにくいのだ。布部分は木綿の厚布。柄は加工しやすい桐でやってみるのだ」




